人望の研究 (NON SELECT)

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396500993

感想・レビュー・書評

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  • 帯に曰く、「ダメだな、あの人は人望がないから」。日本社会では、この一言でその人の前途が断たれる。その人がいかに有能であったもダメ。では、この「人望の条件」とは何なのか。それを探求したのが本書である。

    山本七平氏の儒教的、キリスト教的視点から、日本的な人望を分析したものであると言い換えることができる。人徳のみならず、迷える集団を導き、統制することができる能力を「人望」と称していると理解した。

    気になったことは以下です。

    ・平等社会では、「人気」と「人望」が混同されるケースは、けっして少なくない。だが、人気と人望はまったく違う。
    ・無礼、粗暴、尊大で率直でないというタイプがまさに人望なきタイプなのである。
    ・人望を失った指導者は失脚して当然である。そして、人望のある者がそれに代わって指導者になって当然である。
    ・「人徳」という言葉は、おそらく「仁徳」からきたのであろう。しかし、日本人の「人徳」は、中国人の「仁徳」と同じではない。
    ・忘れてはならないのが、現在が平等社会であること。「オレがオレが」をすれば、必ず、自ら壁をつくる。ではどうすればいいのか。その原則が、「克己復礼」すなわち、「己に克ちて礼に復る」である。
    ・詐欺の被害者は相手にだまされるのでなく、自らの欲にだまされる。その証拠に詐欺師が絶対に歯が立たない人がいる。それは、無欲な人で、無欲な人は詐欺にかからない。
    ・(朱子学のテキストである)近思録もまた、「信じる」ことが、それを行い、かつ継続していける道だとしていることである。

    ・人徳・人望のかたまりのようになるためには、まず「九徳」を目指すことであろう。
      寛大だが、しまりがある
      柔和だが、事を処理できる
      まじめだが、ていねいで、つっけんどんでない
      事を治める能力があるが、慎み深い
      おとなしいが、内が強い
      正直・率直だが、温和
      大まかだが、しっかりしている
      剛健だが、内も充実
      強勇だが、ただしい

    ・知に働いて中庸でなくなるから、角が立つと考えてよい

    ・意地にならぬ、執着しない、かたくなにならない、我を張らない。

    ・常識という言葉は、もともと日本語にはないのです。英語のコモン・センスという言葉を訳したものだ。
    ・常識という言葉こそなかったが、「常識」を意味したのが、「中庸」であった。
    ・中庸を得た、といった言葉はけっして、足して二で割る、まんなかを取るといった無原則な妥協的な意味ではなく、偏頗なき動かざる中心を持つといった感じである。

    ・七情【喜、怒、哀、懼(おそれ)、愛、悪(にくしみ)、欲】のない人間はいない。これが全部なくなってしまって、全く無反応な土偶のような人間がいたら、それは人間でなく、バケモノであって、到底、人望の対象ではありえない。

    ・すぐにカッとなる者は自己統御のできない「愚者」なのである。
    ・「怒りを遅くする者は勇士にまさり、自分の心を治める者は城を攻めとる者にまさる」、いわば「自分の心を治めること」ができるのが、「知恵ある者」である証拠である。

    ・孟子の言葉、「飽食暖衣、逸居して教なければ即ち禽獣に近し」、食べたいだけ食べ、着たいだけ着て、ぶらぶらし、ただそれだけで教育がないとなれば、その人間は獣に等しいものであるという意味である。

    ・教えとは、知育、体育、徳育の3つをいう。いうが近年は徳育が行われていない。筆者はだから、日本の子供たちは、禽獣に近しといっている。皮肉。

    ・日本には、一芸一能に秀でるために修業した「道」は「人徳」に通ずる道だという考え方が古くからある。

    ・人柄はよいし、人徳があるのだろうね。だが、... ということがままある。人徳だけあっても、実力がなければ、日本では大成しない。

    ・人は納得して行動するのと、納得しないで行動するのとでは、積極性が全く変わってくる。
    ・目的達成のための方法論の明示が肝要。いうまでもなく、処置には、作戦がいる。そして作戦は、相手の最弱点、もしくは死角を突くことである。

    ・上層部の決心が撤退、存続と絶えずグラグラしていては、部下はやりきれない。

    ・中庸に 「事あらかじめすれば即ち立ち、あらかじめせざれば即ち廃す」という言葉がある。意味は、何事も、前もって、準備していけば、必ずそのことは成就する。これに反して、前もって準備する考えがなければ、必ず失敗する。

    ・絜矩(けっく)の道とは、ものさしで計って法則を得る。すなわち、常に一定して変わらぬ法則に照らして物事を行うという道をいう。
     上の人についてこのましくないと考える行いは、自分も下の人につかわない。下の人について好ましくないと考える行いは、上の人につかえず。

    ・朱子学は、人望は修練すれば誰にでも得られると説く。

    目次

    はじめに

    1章 「人望」こそ、人間評価最大の条件
    2章 「人望のある人」とは、どんな人か
    3章 不可欠の条件 「九徳」とは何か
    4章 人間的魅力と「常識」との関係
    5章 儒教の「徳」とキリスト教の「徳」
    6章 「教えなければ禽獣に近し」
    7章 機能集団における指揮者の能力とは
    8章 現代人が学ぶべき「人望」の条件

    おわりに

    ISBN:9784396500993
    出版社:祥伝社
    判型:新書
    ページ数:264ページ
    定価:952円(本体)
    発行年月日:2009年01月
    発売日:2009年01月29日
    国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JB

  • 現在社会で人望のある人とはどのような人なのかも考察しつつ、古典で示されてきた教えになぞって人望について検証していく。
    朱子の『近思録』で示される「九徳最も好し」の九徳を備えている人、
    『大学』の『絜矩の道』、『中庸』、『論語』といった中国の哲学書からの言葉、
    西洋の教えである『聖書』との比較もして人望について探求していく。

    本書で、印象に残った言葉は、『小学』にある孟子の言葉
    「飽食暖衣、逸居して教なければ則ち禽獣に近し」
    (食べたいだけ食べ、着たいだけ着て、ぶらぶら暮らし、ただそれだけで教育がないとすれば、その人間は禽獣に等しいものである)

    中国の哲学書に興味をそそられた。

  • 名著「日本人とユダヤ人」「日本はなぜ敗れるのか」等の作者が「人望」について真正面から論じたのが本書です。
    「ダメだなあ、あの男は人望が無いから」
    「アイツは人望はあっても、仕事が・・」
    本業以外に評価のものさしとなる「人望」というものは一体何なのか?古今東西の文化比較も交えながら、「人望」の正体に迫ります。

    著者:1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
    著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

  • 読み終わった

  • 再読しましたが、ほとほと味わいの深い本だと思う。人望とはなんぞやということを掘り下げるために、日本人の特性、文化的な共通認識をグイグイと掘り下げる。江戸、明治、戦前、現代との推移、儒教とのかかわり、そして西洋ここではイスラエル(ユダヤ)と比較する。山本七平氏の引用は縦横無尽。古今東西を問わずとはこのこと。初回は追いかけるのやっとだっただが、二度目に読んでやっと腰を落ち着けて読むことができたと思う。

  • 人望とは何か?を古典や他の文化を引用しつつ、問い詰めて行った本。つまらなプライドを捨て去り、七つの感情を中庸に即して制御し、「近思録」のいう9つの徳をいつも頭に思い浮かべながら、身に着けるべく日々努力する、というとてもシンプルな結論に。個人的には、人気と人望は違うってところにグサッと来ました。自分はどちらを目指すのか?? そして9徳がいう一見矛盾と見える教えをそのまま受け入れ身につけるべく努力する、というところもいい。中庸ってあんまり考えて来なかったけど、深い教えかも。

  • 九徳を頑張って暗唱できるようになりました。

  • 何冊目かしらん。

  • 人望の条件、九徳とは

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著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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