また、桜の国で (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (606ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396345891

感想・レビュー・書評

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  • 「あまりに残酷な出来事は、人はフィクションのように捉えて現実味を感じない。(本書より要約)」

    かわいい子どもと心中する親の気持ちは私にはわかりませんが、極限状態でおかしくなるとそうなってしまうのか‥。
    史実を含む物語ですが、戦争という出来事が遠い国かつ昔のこと過ぎて、フィクションの要素をより強く感じてしまいます。

    本書の中で、ワルシャワの市街戦時に、ラジオから市長の演説とショパンの「英雄のポロネーズ」や「革命のエチュード」が流れるという描写がありました。戦争とピアノの優雅な響きがなんともミスマッチですが、音色が市民を少しでも癒やしていたのかと思うと切なかったです。

    ちなみに、ショパンはポーランド人。
    ポーランドは3度も国を失っており、3度目の1830年(11月蜂起)に、ロシアがワルシャワを制圧します。パリにいたショパンは、反乱に参加できない苛立ちと敗北の怒りから「革命のエチュード」を作曲したそうです。
    ポーランド人にとってショパンは情熱をかき立てるものらしく、ドイツ軍が市街戦で占領した時に、真っ先にショパン像を壊したそうです。その国の文化を根絶やしにして征服するのが、恐ろしいです。

    私は以前、動画でホロヴィッツの「英雄のポロネーズ」のピアノコンサートを見たことがあり、観客が静かに涙するシーンが印象に残っています。
    演奏の素晴らしさに感動したのだと思いますが、もしかしたら過去の戦争を思い出して涙していたのかもしれないと、本書を読んで勝手に想像してしまいました。

    「外交とは人を信じるところから始まる。誰かに与えた無償の愛は必ず倍になって帰ってくる。(本書より抜粋)」
    優れた外交力で対話し、戦わずに平和な生活を過ごせるのが、幸せな事と感じる一冊でした。

  • この小説を読み終えたときに、浮かんできた光景があります。ラストシーンの後、主人公の実家の庭に植えられるであろう桜の樹。
    それが満開の花を咲かせ、それを感慨深そうに見る登場人物たちの姿です。そのシーンを思い浮かべるだけで、胸がいっぱいになるような気がします。

    舞台は第二次世界大戦間近のポーランド。日本人とロシア人のハーフである外交官の棚倉慎。彼はドイツとポーランドの戦争回避のため、様々な機関や組織に働きかけるのですが……

    ポーランドという国。自分の場合は国名や占領されたり独立したりといった歴史的なことを、なんとなくは知っている程度。しかしこの本の著者の須賀しのぶさんは、歴史的な側面はもちろんのこと、その歴史ゆえの国のアイデンティティも描きます。

    歴史的な側面からは日本とポーランドの関係性に感嘆し、国としてのアイデンティティの描き方に、大国に振り回されつつも自国の誇りを捨てない国の強さが見えてくる。
    小説なので美化されてるところもあるとは思いますが、それでもこの一冊だけでポーランドという国が好きになってくる自分がいます。

    慎たち外交官の努力も空しく、徐々に迫ってくるナチスドイツの影。それはポーランドという国の自由や尊厳も奪います。

    ポーランドはユダヤ系の人が多く住んでいて、また差別も格段目立つものはなかったらしいのですが、ナチスの占領によりユダヤ系とそれ以外に明確に区別されます。それは市民の中にも徐々に影響を現し……。

    ユダヤ人を助ければ自分たちにも危害が及ぶかもしれない。その思考が汚いと分かっていても、どうすることもできない人々。戦争とは個人の善意や良識も奪われることを、痛感させられる場面です。

    ポーランド語の禁止、理不尽な拘束と処刑、ユダヤ人街に建設される壁、戦争が覆う影はますます濃くなり、そして日本の第二次世界大戦参戦で、慎は失意を抱えながらポーランドを去ることに……

    小説を読んでいると時折、物語や登場人物たちの姿を通して、自分の中の矜持を問われているような気持ちになることがあります。この小説もまさにそんな小説で、後半の慎たち登場人物の選択は、心を揺さぶられるだけでなく、自分の中の矜持や正義はなんなのかと呼びかけられるような、そんな気持ちになるのです。

    日本人とロシア人のハーフとして、ずっと自身のアイデンティティに悩んできた慎。そんな彼が紛れもない日本人でいれた土地は、皮肉にも日本ではない異国の土地での、異国の人々の信頼によるものでした。
    そんな微妙な感情を、丁寧に丁寧に少しずつ物語に織り交ぜ、彼の決断のシーンで一気に描きこむ。この決断のシーンの熱さは、言葉では言い尽くせません。

    そして物語はクライマックスへ。手に汗握るような迫真の展開が続き、誇りを背負い、そして未来へ希望と物語を繋ごうとする人々の姿にまた胸が熱くなり、そして迎える結末。

    日本人とロシア人のハーフのため、子どもの頃から自身が何者か悩んできた慎、世界から迫害され続けるユダヤ人。占領で故国の実感を持てないポーランド人。彼らの心のどこかにある大きな空白。

    そして戦争や差別、国や外交、軍など強大な力が、良識や善意でのつながりすらも許さない中、人は最後に何を拠り所として行動するのか。その答えの一端を熱く熱く描き切ったのが、この小説だと思います。

    国家観、歴史観、戦争観、アイデンティティ、そうした大きなテーマを全て組み込み生まれた物語。不穏さを増す現在の世界ですが、いつか平和の桜が世界中に咲き誇ることを、そして登場人物たちの願いと想いがカタチになることを、祈らずにはいられなくなる一冊でした。

  • 舞台はポーランド。大使館書記生の棚倉の目を通して、第二次世界大戦の始まりから終戦を迎えるまでが描かれています。
    ロシアのウクライナ侵攻が続く現在、本書を読んで改めていろんな事を考えさせられた。

    ポーランドがかつて地図から消えていた歴史、ワルシャワ蜂起、シベリア孤児…知らないことがたくさん。
    ポーランドの人たちが想像を絶する苛酷な状況でナチス・ドイツに立ち向かい、祖国のために戦い抜く姿に畏怖を感じた。
    信念や愛国心で人ってここまで強くなれるものなのか、と驚く。

    そして棚倉の真摯な生き方には胸を打たれました。
    大使館書記生、ジャーナリスト、ポーランドの抵抗組織員。それぞれの進む険しい道の先に「平和」があると信じたい。
    かなり読み応えがあり、終盤は涙なしには読めませんでした。
    人間の愚かさ、真実を伝えることの難しさ、そして表題の言葉の重みをひしひしと感じた。


    『人が、人としての良心や信念に従ってしたことは、必ず相手の中に残って、倍になって戻ってくる。
    弱き者を助ける、それは人として当たり前のことだからだ』

    『人が歩んだ歴史は一つだが、その姿は見る者の数だけ存在する』

  • 文庫化されて、随分時間が経つのに『革命前夜』は相変わらず平積みされてますねー。
    そんな中、待望の今作が文庫化されたわけですが、分厚い!そして内容も重い!
    内容のネタバレはしていませんが、やや踏み込んでレビューしているので、何も知りたくない方は注意。



    今回の主軸はポーランド。
    ジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』ではフィンランドについて語られていたのですが、強国に挟まれた国の悲劇というのは、日本という島国にいる私には分からない部分があるように思います。

    ドイツの進攻に抵抗するも、イギリス・フランスに裏切られ。また、再興の機を伺うも、ソ連に裏切られ。そうであるのに、ポーランド国民である矜恃を忘れないシベリア難民のイエジ達。

    そして、ともすれば「疎外される側」ともなる、スラブ系ハーフの日本人、慎。また、ポーランドに住むユダヤ人であるヤン。
    ルーツが意味する危うさを身をもって知りながら、二人もまた、何かのために戦うことを選んでいく。

    ナチスドイツのような奪うための戦いは、悪として断罪しやすい。
    けれど、イエジ達の取る、引くに引けない、いわば守るための戦いにコメントが付けられずにいます。

    主人公である慎は、この小説において奪われる側にはいません。
    だから、ポーランドがドイツに占領された後も、慎自身が飢えや暴力に晒されることはない。
    究極の場面において和平の選択肢さえ、提示することが出来るのです。

    そういう慎に対して、当事者になりきれてない感がずっとあって。
    主人公を慎にしたことはストーリーとしてどうなのかなと思って、読み進めていました。

    ラストシーンに至って、慎は当事者になります。
    でも、それこそ必然ではなかったように思ったのでした。
    そう感じる私が、国という枠組みの呪縛に囚われているのかもしれません。

    今も、国、民族、宗教といった共同体に自分の命を賭けた戦いは続いています。
    だからこそ、第三者の目って必要なんじゃないかと思います。
    そういう意味で、慎は当事者にならないで欲しかった(勝手ですが、笑)主人公なのでした。

  • ポーランドと言われて思い浮かぶことは、前回のワールドカップで対戦したこと位しかありません。
    しかしこの本を読み、何度も国が無くなった中で、それでも負けず不屈の心で立ち上がってきた国なのだと分かりました。

    敗者への想像力を働かせるとこに大きな意味があること、「愛国心」とは植え付けられ乱用するものではなく様々な経験や外部からの刺激から自然と芽生えてくるものだと感じます。

    今の状況下で、絶対にロシアに好きなようにさせてはいけない、また、安易な考えですが私に何か出来ることがないかを考える必要があります。


  • 「革命前夜」で須賀さんの書く文章に魅了され、もっとこの著者の本を読みたいっていう衝動から「また、桜の国で」を読むことを決めたんだけど、今回も本当にページをめくる手が止まらんかった。

    感想を書こうとすると私が感じた感情を上手く言葉に表現出来なくてもどかしいけど、こんなに歴史的事実とストーリーを絶妙に掛け合わせることのできる人ってそうそういないと思う。

    今回であれば、ドイツとソ連の間に位置しその地理的要因から翻弄され、一度は国すら失ってしまったポーランドが舞台であり、第二次世界大戦中にポーランドに起きた歴史的事実が細かく描かれている(ワルシャワ蜂起が印象的)。その事実に、明日突然自分の国を失ったり、アイデンティティが殺されるかもしれない人々の感情や奮闘を上手く絡め、ストーリー性もたらしている。
    日本人外交官の慎目線の話だから、私も日本人として、同じようなことを考えながら読んでた。シベリア孤児を救った日本に対して深い信仰心を抱いてくれているポーランドの人たちが、突然日本とドイツが同盟を組んで敵になったと知った時、もしその場に自分がいたらどう振る舞うんだろうとか、、、


    普通だったら、退屈してしまう可能性のある内容なのにとことん読者をこの世界に引き込むのは本当にすごいなって思う。私にとって、というよりもこの本を読んだ人にとって、ただの世界史で習った内容でしかなかったことが、現実に変わったんじゃないかな。

    あとがきで、この本を読む前までは「ドイツがポーランドに侵攻した。」「ドイツがユダヤ人を迫害した」というようにドイツが主語だったのに対し、これを読んでからは「ポーランドがドイツに侵攻された。」「ユダヤ人がドイツに迫害された」というように主語が変わるだろうって書いてて、まさにその通りだった笑

    電車で読み終わったんだけど本当しばらく放心状態だった。題名の「また、桜の国で」がこんなに切なく感じるなんて。。。

    長くなりすぎた!!

  • NHK ラジオドラマの青春アドベンチャーで放送した本書を読了。
    本書を読むまで、ポーランドの事は何も知らなかった。
    「ゲットーの壁」「ゲットー蜂起」「カティンの森」「ワルシャワ 蜂起」
    本書を読んでいて、これらの単語は、どこかで聞いたことがあるような、ないような?
    ぐらいの感じだった。
    「革命のエチュード」も知らなかったので、YouTubeで聞いたら、聞いた事がある曲だった。これらの単語をネットで検索して、大変、勉強になった。

     以下、主人公の棚倉慎が、ポーランドに来て感じたこと。
    『国を愛する心は、上から 植え付けられるものでは断じてない。
    まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない。
    人が持つ あらゆる善き感情 と同じように、思いやることから始まるのだ。そして、信頼と尊敬で、培われていくものなのだ』
    とあるが、そうは思わない人々もいる。世界に戦争は絶えない。
     本書を読んで、深く考えさせられる内容だった。

  • ポーランドという国のことを私はあまりにも知らなかった。
    なんとなく美しい国というイメージしかなかった。
    そしてこんなにも何度も国をなくす過酷な歴史があったなんて!
    今ウクライナでもきっと同じようなことが起きているのかもと思うと何度も涙しながら読んだ。

    日本に住んでいると、島国のおかげで国境が変わることなんてなかったけど、大陸だと国境はすぐに変わってしまうんだなあ。
    国とはなにか、人種とは何か、そんなものが本当に必要なのか?
    同じ人間同士なのに、国家のために殺し合うことがなぜできるのか?

    歴史書は勝者で作られていることが多いから、敗者の国で真実は何が起きているのか、知ることは2度と悲劇を繰り返さないために必要だと思った。
    いつ自分たちも国と国の戦争に巻き込まれてしまうかもしれないんだから。

    世界が平和になることを祈らずにいられない。

    それにしても「革命前夜」も圧巻だったが、須賀しのぶさん、凄い作家だ!

  • もはやこのような日本人はこの国では絶滅してしまっただろう。アフガニスタンやミャンマーでのこの国の対応、総裁選最中の自民党の国家観を見聞きするだけで日本国民として恥ずかしく、情けなくなる。野党には国家間など存在しないが。

  • 日本人にほとんど縁のないポーランド、ワルシャワ蜂起の物語。
    分厚い本でしたが一気に読めました。
    革命前夜の方が良かったので★4つ。
    ですが、こちらもなかなかいいです。
    この本のBGMはショパンの革命のエチュードですね。

    今度ヨーロッパに行ったときにはポーランドに足を延ばしてみたい、と思いました。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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