「覇権」で読み解けば世界史がわかる (祥伝社黄金文庫)

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  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396317843

感想・レビュー・書評

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  • 「歴史は科学か」という問いがあるが、単なる叙述のままでは歴史から学ぶことは難しく、何らかの概念化(法則化)を行うことにより、教訓として活かすことが可能になる。一般的に歴史学者はこのような考え方には賛同しないのだろうが、著者は学者ではない。本書では世界史を動かしてきた「歴史法則」を38個に纏め上げ、これからの時代を紐解こうとしている。このような手法を展開できるのは予備校講師ならではであり、歴史学者はまずやらないだろう。よって、著者の主観が結構入り込んでいるし学術的ではないのだが、読み物としては面白い。著者によれば、国家の寿命は200年程度らしく、アメリカも限界に近付いているらしい。21世紀に入り、米中の覇権争いで対立が激しくなっているが、そういった昨今の世界情勢を考える上で参考になる一冊ではある。

  • 世界史に登場した覇権国家の誕生と盛隆、そして衰退までを振り返ることで、その時代時代で成功した理由や衰退していった原因などを分かりやすく解説してくれています。
    受験の時には、どうしても詳細の記憶に意識を割かれますが、大人になってからそういう視点を抜きにして読み込むと頭の整理として役立つと思います。
    歴史に関する本なので、諸説や異論もあると思いますが、教養としての世界史を身に着けるなら、本書のようなアプローチもありだと思います。

  •  私大文系に特化するカリキュラムが用意された高校に通い、楽をしたばっかりに世界史を勉強しないまま高校を卒業し、これまで相当後悔してきました。この本の購入もそうしたことが起因しています。

     その観点から言うと、この本は世界史を概観する上で非常に有用な本であると感じました。

     というのも、先ずもって分かりやすい。微に入り細を穿つようなテキストではなく、覇権の流れを端緒から終焉まで見届け、そこに見出されるパターンを確認する形を各章とっているため。その意味では、世界史の初学者のみならず、既修者が頭の整理のために読んでも役に立つのではと感じました。

     また、最終章の米国についての記述も非常に印象的でした。モンロー主義を打ち捨てた後の数々の「挑発」「因縁」「誘導」「捏造」は他に多くの書籍で語られているところではありますが、つくづく米国とは恐ろしい国だと感じずにはいられません。それでも米国ファンが消えないのはマスコミの力でしょうか。

     こうした覇権争いとその栄枯盛衰を横目に、日本はどう対処すればよいのかという疑問は容易に思いつくところです。
    筆者の意見は非常に明快で「けっして頂点に立たない」(P.350)こと、としています。
    栄えるから衰えるとすれば、程ほどの成功で我慢しておけば下落もそもまで急にならない、という事なのでしょう。いみじくもかつて某政治家が官庁の事業仕分けの時に「2番じゃいけないんですか?2番じゃ?」と怪気炎をあげていましたが、まさに2番でいいんだ、という答えになります。この結論は個人的には非常に感銘を受けました。

    ・・・

     まとめますと、非常にわかりやすい世界史読み物だと思います。私のような世界史初学者にはもちろんのこと、政治や外交を学びたい方にとっても世界のパワーバランスのうねりを理解する上で有用な書籍だと感じました。

  • この本は令和2年、コロナ禍の夏に読んだもので、5つの帝国(ローマ、中華、イスラム、大英、アメリカ)の歴史について書かれています。驕れるものは久からず、とは言いますが、栄枯盛衰は長い歴史において確認されていることです。

    次に覇権を握るのはどの国でしょうか、中国では習近平が独裁態勢をとる足固めをしています、アメリカは明日に大統領選挙が行われますが、果たした現職トランプ大統領が再選するのでしょうか。

    多くの本を読んでいると、次の大統領の選挙の任期が終了する2024年あたりが本当の大変化が起きている予測されていますが、私自身も大きな環境変化にさらされていると思います。それでも歴史から学ぶ姿勢は続けていきたいです。

    以下は気になったポイントです。

    ・企業の平均はおよそ30年、国家の平均寿命は200年、300年続けば長期政権、500年以上続く政権(オスマン帝国)は数えるほどしかない。歴史はただの懐古趣味を満たす道具ではない、過去を学ぶことで未来を知ることが可能になる(P5)

    ・ラテン民族(ローマ帝国)の優れていたところは、それほどまでに民主政を重んじる気風がありながら、きちんと民主政の限界を自覚し、独裁政の利点を理解できていた点である。民主政は平時にはうまく機能するが、非常時になるとたちまち機能停止するという致命的欠陥がある、なのでローマ帝国は非常時にには独裁官という非常官を設置する(P23、24)

    ・ローマ帝国は拡大したが、新たに手に入った領土(属州)は貴族たちによって独占される、そこに大農経営を敷き安価な奴隷を大量に投入することで、小農経営で細々と生計を立てていた平民の生活は破綻した、現代に例えれば小農経営が主体の日本に大規模農業機械を導入したアメリカの安い農産物が無関税・無制限に輸入されたようなもの(P34)

    ・ローマ軍は反乱を鎮圧しようにも、そのための軍(没落した平民や無産市民)が崩壊しているので、軍制改革に迫られたローマは富裕層が没落民を雇い入れる傭兵軍団を創設していった(P38)

    ・カエサル、織田信長、秦朝も短期政権であった、これを目の当たりにした後継者はいかにして彼ら抵抗勢力を丸め込むのか、妥協するのかを模索するようになる、オクタビアヌスは皇帝と名乗らず、形式的には元老院を奉り、自らは最高軍司令官として旧秩序の擁護者という演出をした。元老院は彼に「アウグストゥス=尊厳者」としたが彼はこれを固辞した(P46)

    ・膨張が止まるということは、それまで膨張を前提として成立してきた社会システムのすべてが悲鳴を上げ始め崩壊が始まること(P54)

    ・封建制は功臣の一族に領地を与えて統治を代行させて、これを世襲させるであったが、秦が全国統一するとあまりに領土が広くなりすぎて、このシステムではうまく統治できない、辺境の領主には独立されてしまう。そこで、始皇帝の宰相・李斯により、中央から官僚を覇権して地方長官とする統治システム(郡県製)が採用された(P66)漢は新旧融合として、郡県制が根付いていた帝国西部はそのまま、東部(旧6国)は昔ながらの封建制とした(P72)開幕当時200万石だった天領は、最大450万石にまで膨れ上がり、封建制でありながら中央政権に近いものになっていた(P74)

    ・長い戦乱時代→短期政権→長期政権というパターンは、ローマでは「内乱の1世紀→カエサル→帝政」日本では「戦国時代→織豊政権→徳川幕府」となる(P93)洋の東西、古今を問わず、混迷の時代には英雄が輩出するのに、平和の時代には卑劣で無能な人間が幅をきかせる。すぐれた人物が実績をあげる機会がないので(P116)

    ・ウマイヤ朝は信者には軽い税のみ、異教徒には税金をとるシステムにしたが、改宗者が増えて税収が減ってきたので改宗者からも税金をとるシステムにしたので猛反発を受けた、こうして生まれたのがシーア派、この対立を利用してウマイヤ朝を滅ぼしたのがアッバース家である(P153)

    ・いつの時代もどこの国も社会の腐敗は平和の中で醸成されるので平和が長く続けばつづくほど、腐敗は社会の隅々まで行き渡り、一旦平和が破れた時つぎにくる混乱の時代は長く悲惨なものになる(P177)

    ・銃火器の仕様が一般化すると旧来の「密集戦術」では損害が大きくなるので、近代戦では「散兵戦術」の方が有利になる。これを可能にするには身分制度を廃し近代的な意味での国民を創設し、彼らに権利と義務を与え、教育を施し愛国心に燃え、みずから考え自立して動くことのできる士気の高い国民軍を創設する必要がある(P182)

    ・1609年、オランダが日本の平戸に商館を設けた、ここから輸入された緑茶が欧州にもたらされたのが欧州の飲茶ブームの火付け役となった、緑茶はインド洋を何週間もかけて輸送しているうちに自然発酵し、欧州に着いた頃には紅茶になっていた。彼らはこれに砂糖をいれて味を整えたので砂糖の大量消費が進んだ(P200)

    ・西アフリカでは欧州から手に入れた銃火器を使って奴隷狩りが行われ、この黒人奴隷を代金代わりに支払う、欧州は積荷(在庫処分品の銃火器)を降ろした船に黒人奴隷を満載し、カリブ海に運んで砂糖プランテーションの奴隷をして酷使、そして砂糖に積み替えて欧州へ戻ってくる。これが大西洋三角貿易(P202)大西洋三角貿易によって黒人奴隷の屍を築き上げて始められた産業革命は、インド洋三角貿易(中国で売れない綿織物をインドへ、インドでアヘンを製造して対価として受け取り、これを清朝へ密輸し正規貿易の赤字を回収)の中国人の犠牲(麻薬中毒)によって維持された(P214)

    ・人間が生まれてから数百万年、人類は狩猟・採集・漁労といった「獲得経済」だったが、1万年前になって農業をはじめた、これを生産革命というが、産業革命は、第二次生産革命と言って良いほどの画期的な出来事(手作業から機械生産)であった(P207)

    ・イギリスは機械の輸出と技術者の海外渡航を禁止(1774)したが段階的に禁止令を解禁(1825、43)したことで、1830年代から、ベルギー、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカへと産業革命が広がっていく(P215)

    ・イギリスは断トツの独走状態であったが、世界で初めて第二次産業革命を興したのは、もっとも産業革命から立ち遅れていた、アメリカとドイツ。第一次産業構造が社会に根を張っていなかったから(P221)

    ・20世紀に入ると世論が力を持ち始め、武力をはるかに凌駕するようになった。これを欧州が悟ったのはスエズ戦争(1956)であった(P244)

    ・2009年リスボン条約でEUが改組され、ECを解消し、経済的共有(EC=第一の柱)と司法・内政(第三の柱)が統合され、残りは外交(第二の柱)となった(P246)

    ・アメリカの憲法はイギリス本国との交戦中に制定されたもので中央政府の権力が弱い憲法になっている、独立、主権、自由、徴税権、常備軍も13州に与えられた(P258)

    ・アメリカは1803年ミシシッピ以西のルイジアナを二束三文で手に入れて領土は二倍になる、ナポレオンは対英決戦を決意していて、そうなればルイジアナを失うことは目に見えていたので安くても売った方がましと考えた(P266)

    ・アメリカの北部と南部の対立が深刻化する中、熾烈な新州争奪戦が繰り広げられる中で、1854年南部憎し!の議員たちが結集して生まれたのが共和党である。南部議員は民主党を権力基盤として対抗していた。1860年の大統領戦で共和党の候補(リンカーン)が当選すると、南部は61年に内乱を起こす、これが南北戦争である、南部はアメリカ連合国として独立宣言をした(P274)

    ・第一次世界大戦中に日本がドイツから勝ち取った太平洋諸島(マリアナ諸島、マーシャル諸島、カロリン諸島、パラオ諸島)を日本領として認める代わりに、日本にも米英仏の太平洋植民地を認めさせる、これにより日本の太平洋における発展性を失うことになる(P305)

    ・戦争の勝敗は戦争目的を達したか否か、北ベトナムの戦争目的は「アメリカ侵略軍の撃退」アメリカの戦争目的は「北ベトナムの抹殺」北ベトナムは目的を達成しアメリカはできなかったので、アメリカの完敗である(P333)

    2020年11月3日作成

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著者プロフィール

河合塾世界史講師。世界史ドットコム主宰。ネットゼミ世界史編集顧問。ブロードバンド予備校世界史講師。歴史エヴァンジェリスト。
1965 年、名古屋生まれ。出産時、超難産だったため、分娩麻痺を発症、生まれつき右腕が動かない。剛柔流空手初段、日本拳法弐段。立命館大学文学部史学科卒。
教壇では、いつも「スキンヘッド」「サングラス」「口髭」「黒スーツ」「金ネクタイ」という出で立ちに、「神野オリジナル扇子」を振るいながらの講義、というスタイル。
既存のどんな学習法よりも「たのしくて」「最小の努力で」「絶大な効果」のある学習法の開発を永年にわたって研究し、開発された『神野式世界史教授法』は、毎年、受講生から「歴史が“見える”という感覚が開眼する!」と、絶賛と感動を巻き起こす。
「歴史エヴァンジェリスト」として、TV出演、講演、雑誌取材、ゲーム監修など、多彩にこなす。「世界史劇場」シリーズ(ベレ出版)をはじめとして、『最強の成功哲学書 世界史』(ダイヤモンド社)、『暗記がいらない世界史の教科書』(PHP研究所)、『ゲームチェンジの世界史』(日本経済新聞出版)など、著書多数。

「2023年 『世界史劇場 オスマン帝国の滅亡と翻弄されるイスラーム世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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