コミュニケ-ションのア-キテクチャを設計する: 藤村龍至×山崎亮対談集 (建築文化シナジー)

  • 彰国社
3.97
  • (8)
  • (17)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 201
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784395241118

作品紹介・あらすじ

「建築家」も「ランドスケープデザイナー」も、役割が問われる時代。しかし教育現場の多くは旧態を引きずっている。転換期に生きる、悩める学生たちへのメッセージ。「設計」のスキルを生かして、社会問題を解決する「ソーシャル・アーキテクト」になれ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • コミュニティデザイナー・山崎亮さんと建築家・藤村龍二さんの対談で構成される本である。
    お二人とも建築業界の方なのだが読み進めるほど福祉の視点から学ぶことがたくさんあり、今回はそれを簡単にまとめる

    ●多様な要素を統合してビジョンを描く
     ものをつくれば売れた時代は終わり、今は「作る」「造る」のではなく「創る」時代。そんな時代に前者を専門としてきた建築家(アーキテクト)は何ができるのか。山崎さんはこう述べる

    テクネ―に、設備や法規や予算を代入して、それらを一つに美しく統合(アーク)していく職能が建築家だと言われてきました。アーキテクトだと言われてきました。しかし、これからはものが建たない時代になる。そうであれば、テクネーの部分に「八百屋のおばちゃんの意見」や「漁師のおっちゃんの意見」「行政の意見」など、ばらばらな意見を代入し、それらを美しく統合してビジョンを示すのも、アークテクトの役割じゃないかなと思うんです。
    いろんな要素を活かしてビジョンを示す。
    それってソーシャルワークそのものじゃないか!

    ミクロソーシャルワークではクライエントの経済・心身・生活状況・ニーズ・社会資源を統合して、クライエントがエンパワメントされるような長期・短期目標を提示する。
    メゾソーシャルワークでは多様な価値観や立場、特性から生み出されるコミュニティのビジョンを描く。
    マクロソーシャルワークではインクルーシブな社会の姿を具体的に社会に訴え、社会変革を起こしていく。

    授業で「ビジョンを描くことの重要性」を言われたことはなくいつもプロセス重視だけど、プロセスをよりよいものにするためにも福祉には「美しくてわくわくするビジョン」が必須だし、ビジョンを描くスキルを身に着けていかなくてはならないんだ。あらゆる要素を統合してビジョンを描くスキルは、建築から学べるのかもしれない。

    ●福祉はもっとクリエイティブに
    むしろ、人のつながりが弱くなってきたために顕在化した問題、教育や福祉の問題にこそ、クリエイティブな発想を取り入れていかないと、「前例に沿って」「制度に従って」という対応策では、教育も福祉も課題を突破できません
    p172

    なんだか耳が痛い(笑)
    ソーシャルワークは長年対人援助が中心で、社会福祉士という国家資格は既存の制度への理解度を図るものでしかないから、福祉分野は今でも「前例に沿って」「制度に沿って」ということが多いと思う

    でも今、社会問題がたくさんあるのだから、今にすがったって根本的な解決にはまったく至らない。
    メゾ・マクロソーシャルワークにおいてはもっとクリエイティブに、ソーシャルワーカーはクリエイティブな発想をもてるようにならなきゃなんだ



    ●クリエイターと力をあわせよう
    じゃあどうしたらクリエイティブな発想をもてるようになるのか
    それは社会課題に取り組むクリエイター、デザイナーの活動を知ることから始まる

    「ものをつくれば売れた時代」ではなくなった今、建築やジュエリーやファッションでもなんでも、社会課題の解決に繋げて専門性を発揮しようとしているのだとこの本から学ぶことができた。社会課題を解決しようとする波が広がっているならば、社会課題に取り組むクリエイター、デザイナーは私が想像するより多いし増えていくのだろう

    障害者アートは昨今の福祉のトレンドでもある気がするが、それでもまだ福祉とクリエイターの間には距離がある気がする

    ソーシャルワーカーはクリエイティビティを学ぶために、クリエイターやデザイナーも含めた多職種連携を図っていくことが必要不可欠だ

  • 藤村さんと山崎さんの違いに興味を持ちましたが、本書ではそれほど深く追求されてはいません。広義の目標は共通でも、方法論やスタイルにおいて違う点があると感じますし、その違いを中心に今後もお二人の活動に関心を持ち続けていきたいと思います。

  • studio-L山崎さんの対談本。政治とアーキテクトの取り組んでいる課題は、共通点もある割にアウトプットの美しさが異なってしまうという点は、実はIT業界でもアウトプットへのこだわりという部分では近いものがあるかなと思いました。あと、お金は関係性を切ってしまうという点も共感したところで、確かに「これは貸しだからね」「こないだの借りを返すよ」っていうやりとりはお金を介在させないからこそ楽しくなる部分もあるなぁと思いました。自分の伝え方、コミュニケーションの質についてはまだまだケアするべき点がありますね。

  • 【読書メモ】
    アンリ・ルフェーブル『日常生活批判』
    →生活スタジオ

    ハンス・ホライン「すべては建築である」
    →「すべてはコミュニティである」

    磯崎新フリークの山崎さん
    「見えない都市」「プロセス・プランニング論」あたりが好き。

    ピーター・アイゼンマンまでは、まずコンセプトありきだった。レム・コールハース以降は「コンセプトはどうでもいいんだ。プロジェクトごとに異なるコンテクストがあって、政治的状況も違えば、環境的な条件の違いもあるから、その違いにただ応えていけばいい」という考え方になった。

    一般意志を可視化する=コミュニティの構成員の様々な意見をワークショップで引き出して、それを匿名化させてキーワードを抽出する。

  • 始めに 私たちは「ソーシャル・アーキテクト」
    第一講 建築家とコミュニティデザイナーの共通点とは
    第二講 建築のノウハウを使って、コミュニケーションの設計にチャレンジしよう!
    第三講 建築家はアーキテクチャについてもっと語ろう!
    第四講 一人一人の価値をエデュケートしよう!
    終わりに 建築的思考の可能性

  • 何冊か読んでいるうちに、考え方の流れがわかってきた。

  • 近年建築業界で大きな注目を集めている藤村龍至さんの本です。彼は今までの建築思想にはなかった思想を次々と発表しており、次世代の建築思想を知りたい、と思っている方には非常にお勧めできます。情報化社会と絡めたその思想は、もはや建築だけでなく他分野に働きかけていくでしょう。多学科の人にもお勧めな一冊です!
    (北九大 建築デザインコース Y.O.さん)

  • 【一:定義・これからのあり方】
      アーキ・テクト→ものごとを統合していく仕事。
      物質的に恵まれた今後の日本においては
      隣人とのつながりを生むための方法を、ものをつくることに限らず創出していくことが必要。
    【二:これまでの経緯】
    【三:現在の方法】
      話を拡散も収束もでき、かつ収束させるべきタイミングで話を固めて、決定を積み重ねていける能力が必要。
    【四:これからの教育】
      目的のために、手段を使う。
      思考的ジャンプと技術力の両方が必要。
      エデュケート→人々の中に本来ある価値を引き出す。

  • 最近ちょっと注目している藤村龍至とコミュニティデザインでおなじみの山崎亮の対談なので、面白そうだと思って読んでみた。

    ハードものを作らなくても、地域の課題を乗り越えていく手助けを仕事にしている山崎さんが、「つくる仕事」を知らないと「つくらない仕事」はできない、「つくらない」といってもフィジカルなものは作らないというだけで、クリエイティブという意味ではたくさん創っていると語っていたのが印象深かった。

    また、「住民参加」のスキルは相当上がってきているのに、行政側の公共事業への参加の仕方が20世紀型。あたかも公共事業は全部行政ができるかのようにふるまってきた。行政が全部公共的な事業を抱えるというのはほとんど不可能なんなだから、住民にも支えてもらわなければいけない、というのは耳が痛いがその通りだと思う。もっと現場の担当者に裁量を与えて、臨機応変に対応すべきなんだと思うし、そういう方向に向かいつつあるが、長年しみ込んだ組織マインドはなかなか変わらないというのが実感。

    それに、建築設計に携わった人は、いったん決めたことは後戻りしないということが染みついているから、住民のワークショップでも、ひとつひとつフィックスさせていって議論を積み重ねて結論を引き出すっていうのは、大事なこと。心しなければならない点だと感じた。

    これまでの山崎さんや藤村さんの言っていることと重なっている部分も多々あり、とりわけ目新しい発言をしているわけではないが、それらを再確認するという意味でも面白い対談集でした。

  • 今求められているアーキテクトの役割。
    それは、物理的なモノを作っていくのではなく、
    新しい状況・価値を創っていくこと。
    そして人をつなげていく。

    2人の主張にはとても共感しました。
    しかし、わたし自身建築に関わっていないので竣工・利益・事務所の話などがさっぱりでした。

    その道の学生向けの本だと思います。

全19件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

藤村龍至:建築家。東京藝術大学准教授。RFA主宰。アーバンデザインセンター大宮(UDCO)副センター長。主な建築作品に「すばる保育園」(2018)「鶴ヶ島中央交流センター」(2018)「OM TERRACE」(2017)など。主な著書に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。

「2018年 『BIOCITY ビオシティ 74号 エコロジカル・デモクラシーのデザイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤村龍至の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×