- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784394301462
作品紹介・あらすじ
探偵小説作家の「私」は、愛読者である美貌の人妻・小山田静子から奇妙な相談を受ける。文壇を騒がす謎の探偵小説作家・大江春泥の正体が静子の元恋人・平田一郎であり、かつて静子に恋破れた彼が復讐のため小山田家の周囲を徘徊しているというのだ…その真相をさぐる主人公の前に展開していった驚嘆すべき真相とは?昭和3年発表の傑作中篇『陰獣』、しゃれた味わいの短編『盗難』、不気味なミステリー『踊る一寸法師』『覆面の舞踏者』、初期の名作4編を収録。
感想・レビュー・書評
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探偵小説家の寒川は、美術館で偶然出会い、親しくなった若く美貌の人妻・小山田静子から相談を受ける。静子がかつて振った元カレ・平田一郎が、今は探偵小説家の大江春泥となっており、静子に復讐するためにストーカー化、脅迫状を送りつけてきたというのだ。同業者としてライバルでもある寒川と春泥だが会ったことはなく、現在執筆を中止して行方をくらましているという春泥の情報を寒川は調べ始めるも、静子の夫である六郎の遺体が発見され・・・。
陰獣たるところの犯人・大江春泥の正体をめぐって、推理は二転三転、一度は正解と思われた結果がまた覆され、なかなかにスリリング。それでいて、犯人がわかってすっきり謎が解けるというわけではなく、なんとも文学的な余韻を残すあたり、かなり完成度の高い中編でした。春泥の作品というのが、乱歩自身の作品のパロディになっているのも楽しい。語り手である寒川と、春泥、どちらも乱歩自身の分身のようでもある。(乱歩本人は、春泥は自分だが寒川のモデルは甲賀三郎だと言っていたらしい)
そして「陰獣」というとなんだかエロティックな響きに感じるが「淫獣」ではなく「陰獣」なので、陰険、陰湿などのほうの意味だとのこと。いまどきの若い子がいう「陰キャラ」に近い意味ですね。
同時収録の短編いくつかの中では「踊る一寸法師」が不気味さでは圧巻。ポーの跳び蛙っぽいなーと思いながら読んでいたのだけど、解説によるとやっぱり乱歩自身もあれをイメージして書いたらしい。
※収録
陰獣/盗難/踊る一寸法師/覆面の舞踏者詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
陰獣楽しすぎた。
陰獣
盗難
踊る一寸法師
覆面の舞踏者 -
『陰獣』『盗難』『踊る一寸法師』『覆面の舞踏者』収録。
『陰獣』-読み進めると、人間関係がドンドン変わる(SとMの関係が特に)。以前存在していたAmazon.co.jpのレビューのカスタマーさんの言葉を借りると、本当に《「論理的には全て謎が解けるが、それは推理の上の話であって実態は結局断定できない」という不安が最後に描かれているのが興味深く思います。》。SM関係は勿論、不倫やストーカーなども妖美に描かれている。
『盗難』-ユーモア短編小説の佳作。エログロのイメージが強い江戸川乱歩だが、こういうお笑い路線ももっと評価されても良いのではないだろうか?
『踊る一寸法師』-読み終えると吐き気や悪寒がしそう。
『覆面の舞踏者』-耽美的な世界が印象的。
多賀新氏の装画による不気味でレトロなカバーは、江戸川乱歩の世界を一番表現していると思えるので、一見の価値有り。 -
江戸川乱歩はまだ数作しか読んでないとはいえ…男男同士の後ろ暗いどっちつかずの怪しい感情のジョイントとして女を使うのがうますぎる……
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「陰獣」はトリックが何重にもなっていて、
途中で「なるほど、一本取られた!」と思うのだけど、
まさか更に全てをひっくり返す展開が待っているとは…。
私生活を覗かれている…という不気味さ、
徐々に忍び寄る魔の手…精神的に消耗させられる…という展開が、ジメジメしていてとても乱歩っぽいです。
仕事も期末でただでさえ忙しいのに、この本のせいで(面白くて)眠れなくなって大変でした(褒めてる)。 -
陰獣…当時の社会常識やモラルからするとかなり踏み込んだストーリー展開であることはわかるのだが、主人公の女性の心理状態から何故そのような行動に至るのか、という必然性の観点で、どうしても納得がいかなかった。
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ものすごい迫力