東京抒情

著者 :
  • 春秋社
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本棚登録 : 29
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393444160

作品紹介・あらすじ

荷風が歩いた荒川放水路、乱歩が暮らした池袋、アドバルーンきらめく銀座。開発と市井の生活が混在する、懐かしいあの東京は消えてしまったのだろうか? 青年時代の思い出、心揺さぶられた映画・文学や町歩きをとおして、その残影をよみがえらせる。

感想・レビュー・書評

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  • 荷風や白秋、林芙美子などの評伝をものしている川本三郎のことだから、本を書くためには作家が住んでいた町を訪ねることは仕事のうちだったろうけれど、もともと歩くことが好きなようで、川があれば川沿いに、電車が走っていれば線路沿いに歩きはじめる。

    東京という街は、震災と空襲で、これまで二度壊滅している。そして二度までも復活を成し遂げた、世界的にも稀な都市である。東京生まれの人にとって、二度も焼け落ち,その度によみがえった東京は、自分の記憶にある故郷とはまったく姿を変えてしまった別の町のように見えるのかもしれない。川本は、そういう東京を「ノスタルジー都市」と命名している。

    荷風その他の文学者が変貌してゆく東京の町を書きとめた文章を頼りに、自分の足で巡り歩いた時の印象を記した文章が中心となる。この作家の特質である優しさ、特に敗者や弱者に寄り添った目線で風景を読んでゆくスタイルは変わらない。

    旅先なら朝から飲んでもいいだろう、と駅前の食堂でありふれたおかずをあてにビールを飲んでいる作家の孤独な姿が、以前より飄々としてきたように思う。愛妻に先立たれた悲しみは薄れることはないだろうが、時が少しはやわらげてくれたのかもしれない。

    東京の話が主で、地方に住む人間にはいまひとつ実感が伴わないうらみがあるのはしようがないが、いつものことながら、複数の雑誌に書いた文章を編集したものであるから、重複が多いのが気になった。少々手を入れて、重複する箇所は削除するなり、別の文章と差し替えるなりしてもよかったのではないか。

  • 歩く東京、思い出の東京、描かれた東京、三つの東京がある。ノスタルジーとは愛しさと失った痛みの感情。今見ている風景のうしろに、もうひとつの風景が。町は文学や映画、絵画に描かれることにより強く印象づけられる。ありふれた町が特別な町になる。川本三郎 著「東京抒情」、2015.12発行。「ノスタルジー都市 東京」、「残影をさがして」、「文学、映画、ここにあり」の3つの章立てです。晴海通り、中央通りには、電柱、ガードレール、歩道橋がない。小じんまりした人間味あふれるローカルな空間、東京の比類ない魅力は居酒屋にある。

  • 東京の様々な土地についての明治以降の文学、映画その他藝術などをからめた情緒あふれる文章。東京は1964年の五輪を境に大きく変わったという。そして都会から都市へ。魅力的な場所へ。それは映画などの取り上げ方のも見られるという。銀座が昭和20年代までは川に囲まれた島だったが故に、橋という地名が多くあること、江東区深川など、「川」の街を象徴するような場所。そして東京の各地の説明がその地を知っていると面白い。神田、板橋、中野、日比谷、日暮里、大塚、三鷹…。関東大震災と大空襲の2度のカタストロフィを経験した街は物語を含んで魅力を増しているように感じる。そこには永井荷風の意外な家族思いの姿も。

  • 残堀川の存在自体を全く知らなかった。

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著者プロフィール

川本 三郎(かわもと・さぶろう):1944年東京生まれ。「週刊朝日」「朝日ジャーナル」記者を経て、評論活動に入る。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』、著書に『映画の木漏れ日』『ひとり遊びぞ我はまされる』などがある。

「2024年 『ザ・ロード アメリカ放浪記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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