その年、わたしは嘘をおぼえた

  • さ・え・ら書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784378015262

作品紹介・あらすじ

2つの世界大戦が暗い影を落とす1943年、「オオカミ谷」と呼ばれる丘陵地で静かなくらしを送るわたしの前に、黒い心を持つ少女が現れた。わたしを、わたしの大事な人たちを、傷つけ、わなにかけ、おとしいれていく。わたしは闘うことにした。けれども、ことは、それだけですまなかった――
嘘は真実をよそおい、11歳の少女を迷わせる。せつない決心は、予期せぬ結末へ……2017年ニューベリー賞オナー受賞作。ローレン・ウォーク、輝きのデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • 1943年、第二次世界大戦中の秋。11歳のアナベルは、転校してきた年上の少女ベティに、彼女や彼女の弟に危害を加えられたくなければ、誰にも言わずに何か持ってこいと脅された。彼女は、ベティを怒らせないために、しばらく秘密にして様子を見ようと考える。翌日1セント硬貨を持って行ったところ、ベティはそれを放り投げ、彼女に向かって枝を振り下ろした。お尻は大きな痣になったが、夕方、近くの燻製小屋に住み着いた放浪者のトビーから、その1セントが返される。
    その後しばらくして、ベティが彼女の目の前でうずらを絞め殺し、それを彼女に向かって投げつけた。逃げようとした彼女を、トビーが飛び出て助けてくれたが、ベティは毒草のツタウルシの中に倒れ込んだため、全身にひどいかぶれができてしまった。ベティの祖母の依頼で、彼女と母は、治療ためにアカボシツリフネソウを煎じて持っていく。
    翌々日、ベティは学校に戻ってきたが、ベティの意地悪な態度は続いていた。
    その日の休み時間、彼女が親友のルースと、通りかかった馬車と一緒に歩いていたところ、飛んできた石がルースの目に当たり、ルースは片目を失ってしまう。
    その翌日、学校帰りに彼女の弟の一人が、木の間に張られた針金で額を切る怪我をした。彼女はそこで、自分たちを見つめるベティを見た。

    降りかかる災難の中、自分と自分の大切な人たちを守ろうと奮闘する少女と家族の姿を描く。






    *******ここからはネタバレ*******

    ベティが"矯正不可能"過ぎて絶望的。
    何があったのか書かれていないけれど、まだ14歳なのに、一緒に暮らす祖父母や周りの人を騙し、助けてもらってもお礼を言わないばかりか、更に悪行を繰り返す。
    主人公のベティが、自分の中の悪に気づき自責の念を持つのと対象的だ。
    そして、人間らしい心を示さないうちに亡くなってしまう。
    子どもの心が悪のまま終わりになるなんて、児童書にしては珍しい。驚きだ。

    そして、放浪者ゆえに誤解されがちながら、善しか行わなかったトビーにも疑問が残る。
    ルースに石を投げたとか、ベティを井戸に突き落とした等の嫌疑をかけられたとき、どうして諦めてしまったのか?過去の戦争での呵責から、諦めたいと思ったのか?
    それは、彼を助けたいとがんばったアナベルや彼女の家族への想いよりも強かったのか?
    どうして議会名誉勲章を、借りたジャケットの裏地に留めて行ったのか?もう捨てたいと思ったからなのか?

    被害にしか遭わなかったルースもそう。片目が失明した挙げ句、転校させられることになったため、その後物語には登場しない。希望を持って生きていくところを描いてほしかった。


    こんな悲しい状況だけれど、アナベルの母がとてもトビーに優しく接し、彼もきちんと礼儀を返している場面には心温まる。

    彼女と母親が、トビーが「変」がどうかと話し合う場面があるが、「変」の基準は人それぞれだ。ただ、母親は、娘が身元のわからない"男性"といるのが不安なのではないか?
    ただ、母親はとても賢い。アナベルが彼女に向かって自説をぶちまけているとき、冷静に「アナベル、寝間着のままそこに立って、言いたいだけいろいろ宣言してもいいけれど、もうできることがないのよ」とさらっと言っている。

    噂好きな電話交換手に聞かせるために、彼女がアンディに"電話"し、彼の自白を促した方法はとても賢い。


    原題は「Wolf Hollow」。邦題のほうが人目を引きそうです。


    主人公は11歳だけれど、小学生にはオススメしにくい。
    しっかりした中学生以上か、高校生の方がいいかも知れない。

    • ロニコさん
      図書館あきよしうたさん、こんばんは^_^

      「スピニー通り…」にコメントを頂き、ありがとうございます。
      今年の一年生は、割と本を借りてくれる...
      図書館あきよしうたさん、こんばんは^_^

      「スピニー通り…」にコメントを頂き、ありがとうございます。
      今年の一年生は、割と本を借りてくれるのですが、ラノベ系が多くて、もう一歩進んでほしいな…と思いながら打つべき手を考えております。

      この「その年、わたしは嘘をおぼえた」は、昨年度図書委員が選んで図書館に購入した本ですが、私はまだ読んでおりません。
      今年度中に読みたいのですが、ちょっと重そうですね…(;_;)

      2020/12/01
    • 図書館あきよしうたさん
      ロニコさん、こんにちは。

      またまたコメントありがとうございます。

      そうなんです。加害者少女が死んじゃって、冤罪のおじさんも殺され...
      ロニコさん、こんにちは。

      またまたコメントありがとうございます。

      そうなんです。加害者少女が死んじゃって、冤罪のおじさんも殺されちゃって、なんとも児童書らしからぬ???お話です。
      かと言って、あんまりどんより重い印象も持たなかったのが不思議なところなんですけどね。
      とにかくちょっとびっくりしたお話でしたよ。

      ロニコさんの感想も聞かせてくださいねー。
      2020/12/02
  • 『その年、わたしは嘘をおぼえた』の感想、レビュー(かもめ通信さんの書評)【本が好き!】
    https://www.honzuki.jp/book/270911/review/217218/?md=info

    10/30発売!装画・挿絵担当しました。 「その年、わたしは嘘をおぼえた」 原題は「Wolf... - GOUDA SATOMI Illustration
    https://g-satomi.tumblr.com/post/186633150187/1030%E7%99%BA%E5%A3%B2%E8%A3%85%E7%94%BB%E6%8C%BF%E7%B5%B5%E6%8B%85%E5%BD%93%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F-%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%B9%B4%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%AF%E5%98%98%E3%82%92%E3%81%8A%E3%81%BC%E3%81%88%E3%81%9F-%E5%8E%9F%E9%A1%8C%E3%81%AFwolf

    Lauren E. Wolk
    Author, Poet, Artist, Arts Administrator
    http://www.laurenwolk.com/

    「その年、わたしは嘘をおぼえた」 さえら書房
    https://www.saela.co.jp/isbn/ISBN978-4-378-01526-2.htm

  • 児童書とはいえ、その骨太な深い内容に読後ひととき呆然としてしまった。
    「嘘~」という、題名もインパクト大だったけれどサイコパス的な友人を持つ葛藤や疑惑を持たれる異邦人との交流など、児童書のコーナーで見つけた本だけどこれは子どもでは手に負えない内容なのでは。
    それともこのような本を読みこなせるほど今の小学生は実は深く物事をとらえられるの?

    ローティーンの子どもを持つ親にこそお勧めしたい本でした。
    この本の中の救いは、父親、母親が理解して包容力のある人に書かれていたこと。
    やはり、子どもたちにもぜひともお勧めしたい。

  • 主人公のアナベルは12歳になるその年、
    ある事件を体験する。

    舞台は1943年アメリカ。

    穏やかな暮らしの中にやってきた少女ベティ。
    強制不能と言われ、
    祖父母の家に越してきた彼女は14歳。

    ベティはアナベルを待ち構え、
    「明日、何か持ってこないとひっぱたく。」
    という。

    アナベルははじめ、このことを抱えていたが、
    嫌がらせは次第にひどくなり、
    事態はだんだん思わぬ方向へ…。

    はじめから不穏な空気。
    どうなるの、とページをめぐる手が止まらない。
    伏線回収、ストーリー展開が
    読み手を惹きつけ離さない。

    アナベルが理不尽さと戦う姿。
    知恵を働かせ、時に絶望し、
    奮い立たせ、勇敢に、成長していく姿に
    感情移入して読み進めた。

    静かな怖さや不穏さが
    終始あり
    ミステリーを読んでいる感覚。

    けれど、家族が温かく救われた。

    また、納屋の描写、季節の空気感、
    情景描写が美しく、
    生きる喜びが感じられた。

    アナベルの心理描写に何度も胸が熱くなった。
    ベティの不幸を願ったことが悪いことだと思わなかったという瞬間。
    ビーツの硬さと中の甘さという物事の秩序に憧れていたという描写。

    「どれだけいっしょうけんめいわかろうとしたところで、けっしてわからないことがあると、思うことにしたのだ。わかろうとがんばってはみるけれど。」

    色々なベティの言葉が
    目まぐるしく動く事態の中で光る。
    迷いながら、強く、進むベティ。

    祈りながら読み進める。

    ベティのトビーへの思い。
    正しさ、感謝。
    事態を受け止めようと消化していく。

    でも、そこで物語が終わらない。
    全てを吹き飛ばす風。

    「私が言ったということが大切で、
    誰が聞いたかは、どうでもいいというように。」
    「そして、私はそれでよかった」

    清々しいラストに
    今までにない満足感、感情で読み終えた。

  • 真っ黒なベティの内面が多少なり解きあかされるのかと思ったけど、最後まで黒いまま悲惨な死をとげるという……。
    死なずにずっとアナベルをいじめていたらどうなっていたんだ。いじめっこが死ぬという展開で初めて守られるって悲惨。(いじめ物語の「大人に話したらもっといじめると脅される→どうせ話しても何も解決にならないとあきらめていじめられつづける……というループがきらいで、前半はかなり飛ばし読みしてしまった)

    トビーも気の毒だった。ちょっと人物像もはっきりしないところがあり……最後まで謎の人物のままだったということなのか。

    最後、トビーの嫌疑を晴らしたのも「嘘」。どちらにも転びうるツールを背負ったということなんだね。トビーも、人をあやめるための道具(銃)をずっと背負ったまま生きていて、最後はそれと同じ道具で命をうばわれる。彼の過去はけっきょく明らかにされないけど、戦場でつらいことがあったのだろう。……人間の原罪を描いた物語なのかも。

    でもそうやって考えると、ベティの、年齢にそぐわないほど究極の悪がどこから来たのかと恐ろしくなる。

  • 世の中には理解のできない邪悪な存在がある。突然現れた14歳のベティに脅され混乱する11歳のアナベル。ベティに立ち向かうため、アナベルは嘘を武器にする。
    この話はもっと悪い結末となってもおかしくなかった。世界にはもっと悪い結末となった本当の話がいくつもあるのだろうと思わされた。邪悪の圧倒的な存在感。「矯正不可能」というレッテルをはられて現れたベティの内面は描かれず、理解はできず、救いがない。貧富の差、家族の断絶、戦争と孤独が邪悪を産んだのか、書かれないから微かに想像する。それは生まれつきの悪なのか。恐い。
    戦争でトラウマを負った「変な」大人である放浪者トビーや、良心的な大人たちの存在、そしてアナベルの嘘と勇気で、世界はかろうじて秩序を取り戻す。でも、それは奇跡的な偶然ではないのか。強く狡猾な嘘に世界は常に味方するのではないか。過酷でサスペンスフルな成長譚だった。

  • 読み始め、なんだかざわざわして不穏な先行きを予想したのだけれど、
    確かに不穏、何人か死者がでたり、けが人がでたり、
    でも、言わなければいけない時には毅然として言わなければいけないと、最後はなかなかよかった。
    原題は全く違うようで、すごく納得。
    嘘がメインじゃないのにこのタイトルに引きずられたなあ、
    嘘から大変な事になるという、そっちよりもそこに至る行動とか、人々の対応とか、そっちのほうがずっと大事でだからこそ、最後の言葉が出てきたと思う。

  • 物語は思いがけない方向にぐんぐん進んでいくけれど。ベティの黒さに内面描写がないので、そこは一方的かな。終盤のヘンリーの成長が良い。
    タイトルはもう少し違ったものがいいと思う。

  • 第二次大戦のころ、オオカミ谷と言われる山村に住むアナベルは両親・祖母・二人の弟と暮らしていた。全員が同じ教室で授業を受ける小さな学校にベティがやってくる。矯正不可能とされ祖父母のいる田舎の学校へ送られてきたベティ。ベティはアナベルに目を付け、強引にいう事を聞かせようとする。小さな弟たちを守ろうとベティと対決するアナベル。しかし、狡猾なベティはアナベルを追い込んでいく。そんなアナベルを見守っていたのは、近くの小屋に住む放浪者のトビーだった。しかし、ベティの行為はエスカレートしてゆきアナベルの親友の片目を失明させてしまう。その犯人捜しの最中にベティは姿を消してしいます。放浪者のトビーの物言わぬ行動が疑いを招き、警察はベティの捜索とともにトビーの行方も探し始める。

    ベティの嘘に振り回される大人達。寡黙なトビーを信じるアナベルとその両親。まだPTSDという言葉すらなかった頃の辛いストーリーだった。アナベルのすぐ下の弟ヘンリーの成長が印象に残る。

  • 一応、YAという分類でよいのかな。高学年からでも大丈夫だけれど、ちょっと刺激が強い表現があるかも。

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著者プロフィール

アメリカ、メリーランド州出身。大学を卒業後、ネイティブ・アメリカンに関する本の執筆や、英語教師、教育関係の編集を経て、2007 年より、ケープコッド文化センターのアソシエイト・ディレクター。詩人、視覚芸術家、作家。はじめて書いた児童書『その年、わたしは嘘をおぼえた(原題:Wolf Hollow)』(さ・え・ら書房)がニューベリー賞オナーブックに選ばれ、本作は二作目となる。自然を愛し、各地のトークイベントなどに積極的に参加している。現在はマサチューセッツ州ケープコッドで家族とくらす。

「2019年 『この海を越えれば、わたしは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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