ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル (幻冬舎新書)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986381

作品紹介・あらすじ

世論調査では日本国民の8割が死刑制度に賛成だ。だが死刑の詳細は法務省によって徹底的に伏せられ、国民は実態を知らずに是非を判断させられている。暴れて嫌がる囚人をどうやって刑場に連れて行くのか? 執行後の体が左右に揺れないよう抱きかかえる刑務官はどんな思いか? 薬物による執行ではなく絞首刑にこだわる理由はなにか? 死刑囚、元死刑囚の遺族、刑務官、検察官、教誨師、元法相、法務官僚など異なる立場の人へのインタビューを通して、密行主義が貫かれる死刑制度の全貌と問題点に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の死刑制度について、私はこれまであまり深く考えたことがなかった。賛成か反対かについても明確な意見は持っていない。ただ、“人が人を裁くにあたり、冤罪をゼロにすることが本当にできるのだろうか”という疑問をずっと持っているため、今のところ、死刑制度にも懐疑的な方かもしれない。
    最近、ジャーナリストの清水潔さんの著作『殺人犯はそこにいる』を再読し、いつまでも“知らない”、“難しい”、“わからない”と言って考えることすらしないままなのはいけないと感じた。まずは制度の実際を知ることから始めようと思い、Audibleに入っていた本書を聴いてみた。

    著者の佐藤大介さんは、日本の死刑制度を議論するにはまず死刑に関わる人たちの声に耳を傾ける必要があるとして、死刑囚、刑務官、教誨師、死刑囚の家族、被害者遺族、弁護士、元法相など、様々な立場からの声を紹介している。
    ここに自分なりに抜き出したり、短くまとめてしまうことに抵抗を感じるほど、全ての体験に、意見に、思いに、ひとつひとつの言葉にたいへんな重みがあり、読み終わってしばらく経つが、自分の感想や考えをまだ整理できないでいる。

    《メモ》
    ここでは、主に制度面について、今後の読書の参考になりそうな部分をまとめる。
    ●執行までは「心情の安定」第一。
    →静かに死を迎えさせることが処遇の基本
    ・外部交通権の厳しい制限。親族・弁護人以外で面会ができるのは最大5人まで。
    ・確定死刑囚が互いに交流する機会はない。独房に収容され、運動や行事を一緒に受ける「集団処遇」も1996年以降実施されていない。

    ●執行までの手続き
    ①死刑判決確定
    ②裁判所→検察庁 判決謄本と公判記録を送付
    ③検察庁→法相 死刑執行上申書を提出
    ④上申書提出後、法務省刑事局が裁判記録の精査を行い、刑事局の起案に基づき必要な審査や決裁が行われる。
    ⑤必要な決裁が行われた最後に、法相によるサイン。ここに至るまでに十分な説明と根回しが行われており、法相がサインを拒むことはあり得ない。
    ⑥法相がサインをしたその日のうちに「死刑執行命令書」作成→検察庁に送付
    ⑦検察庁→拘置所長 死刑執行指揮書を送付し、執行期日を指定。法相の決裁から執行までは4日ほど。
    ※刑事訴訟法で定められた執行期限(死刑執行の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない)は、事実上無視されている。

    ●被害者遺族の感情を一括りに考えてはいけない。
    家族が殺されたら「犯人は死をもって償うべき」と考える人がいるのは当然。だが、そうは考えない遺族もいる。犯人との手紙のやり取りなどを通じて、時間の経過と共に心情に変化が出てくる遺族もいる。同じ被害者遺族という立場でも、死刑に対する意見の違いで分断が起きてしまっている事実はショックだった。

    ●絞首刑は憲法で禁じられた「残虐な刑罰」にあたるのか。
    日本では、1948年と1955年に最高裁が「残虐な刑罰にあたらない」との判決を出している。1955年の判決に影響を与えたとされるのは当時の鑑定人が引用した1928年の論文。
    しかし、その後、再現実験や執行立会人の証言等から、「絞首刑は首が切断されたり、長時間苦しみながら死亡したりすることも考えられる」「むごたらしく、正視に耐えない残虐な刑罰だ」「当時妥当性があったとしても、今日なおも妥当性を持つとの判断は早計」との意見も出ている。
    2013年、大阪パチンコ店放火殺人事件の二審・大阪高裁判決では、絞首刑については合憲と判断した一方、立法の不作為について異例の言及があった。
    「執行方法について140年も法整備をせず放置し続けるのは、立法政策として決して望ましくない」

    ●死刑廃止を推進する議員連盟(死刑廃止議連)
    四代目会長は亀井静香元金融担当相。亀井氏は警察庁キャリア官僚時代からの死刑廃止論者だったそうだ。「被疑者が勾留・取り調べを受けると、異常心理に陥ることが現実に非常に多いのです。いわゆる拘禁性ノイローゼにかかってしまって、取調官との関係が王様と奴隷のような心理状態になってしまうのです。取調官のまったくのいいなりになる被疑者がかなり多くいます。そして、そういう警察での供述をもとに、今度は検察が調書をとっていきます。公判廷でいくら被告人が『あれは嘘だった。勘違いだ。誘導されたんだ』といったところで、検面調書には証拠能力がありますから、それが優先されていきます。そういう実態がいまの刑事司法の中にあり、そんな中には冤罪の可能性がある」
    2003年、自民党法務部会において、「重無期刑の創設及び死刑制度調査会の設置等に関する法案」を通常国会に提出するべく議論が行われたが、検察官出身の議員を中心に、法案への強硬な反対意見が相次いだそうだ。
    「残酷な殺人現場に何度も立ち会った。地獄の苦しみを味わった被害者や遺族に死刑以外でどう償えるというのか」佐々木知子参院議員(元検察官)
    結局、法案は日の目をみず、議連の活動は下火となり、2017年の亀井氏政界引退後は実質的な活動はほとんどないという。
    ※2018年には「日本の死刑制度の今後を考える会」が発足。与野党の死刑廃止・存置両派の議員で構成されている。

    ●仮釈放のない終身刑
    ・「死刑よりもある意味残虐」と根強い反対論がある
    ・「冤罪を防ぐ観点から言うと、仮釈放のない終身刑であれば死刑執行のおそれはない。無実の人を誤って死刑執行することはない、という点はとても重要だ」小川原弁護士(死刑廃止検討委員会事務局長)

    ●巻末資料、駐日英国大使館公使ジュリア・ロングボトム氏へのインタビューは、死刑制度を維持する日本が海外の目にどのように映るか、英国では死刑制度をどのようなプロセスで廃止したかがバランス感のある視点で語られており、とても興味深かった。

    ●佐藤さんは死刑反対の立場を取る方のようだ。自分自身の意見を持つためには、別の立場から書かれたものも読んだ方が良いだろう。

    《目次》
    はじめに
    Ⅰ.死刑の現実
    1 死刑囚たちの日常
    2 死刑囚たちの胸中
    3 オウム元幹部13人への執行
    4 極刑を待つ日々
    5 執行までの法的手続き
    6 「その日」の拘置所
    7 執行に関わる人たち
    Ⅱ.死刑と償い
    1 ある「元死刑囚」の記録
    2 死刑になるはずだった元凶悪犯
    3 被害者遺族と死刑
    Ⅲ.死刑の行方
    1 絞首刑は残虐か
    2 世論調査にみる「死刑」
    3 死刑廃止は可能か
    4 終身刑という選択肢
    5 死刑廃止へと進む世界
    おわりに
    新書版あとがき
    巻末資料 インタビュー集
    参考文献

    ※Audible利用(8h10m)
    ※読了まで3日間

  • 「ルポ○○」というタイトルの作品が好きでよく読むのだけど、こちらもまたインパクト絶大な一冊。
    死刑囚、元死刑囚の遺族、刑務官、衛生夫、教誨師、元法相、異なる立場の人々からの克明な証言をもとに、謎に包まれている死刑制度の現実と実態を知ることができ、とても意義深い内容だった。
    改元前にオウム真理教元幹部らが立て続けに死刑執行されたことはまだ記憶に新しいけれど、それも「ニュースで知った」というだけで、どのように異例だったのか等の詳細は何にも考えたことがなかったのだと気づいた。
    いわゆる「袴田事件」については、死刑が確定していたのに49年目にしてそれが覆り、釈放が認められたというのだから驚愕するほかない。その間ずっと死刑の執行と隣り合わせの毎日とは、気が遠くなるほど恐ろしい。
    冤罪はあってはならないけれど、それでも漠然と死刑制度はあった方がいいのではないかと思っていた。世論調査でも日本国民の8割が賛成しているそうだ。

    けれど、一概にそうとも言えないのかも、と考えさせられたのは、第二章の「死刑と償い」を読んでから。
    被害者遺族の声は、私が想像していたのとは違った。

    「更生してほしいとか、そうなったら私も救われるとか、そういうことを考えて手紙を書いてはいません。ただ、彼が謝っているのもわかる。それは事実でしょう。そして、娘が帰ってこないのも事実です。彼は、一度は死んだ人間。そこから、裁判で判決が決まって、刑務所の中で一生懸命がんばっている。そのことは受け止めています」

    「いろんな気持ちが起きるんです。仏と鬼の両方の気持ちを持っている。それが人間でしょう」

    死刑を言い渡されるほど残虐に誰かの命を奪った者の償いって、本当にあるんだろうか。
    そんな相手に対して、死をもって償え以外の感情って芽生えるんだろうか。
    そこにどんな動機や理由があったにせよ、人は変わることができるのか、そして変わったとてそれを赦すことができるのか、次々と疑問が湧いてしかたがなかった。
    もちろん、更生しようとする死刑囚と、それを受け止めてやりとりができる被害者遺族の関係性はごくごく稀なのかもしれず、ずっと死刑を望み続ける場合もあるだろうけれど、それでも新しい視点から死刑制度を考えるきっかけが生まれた気がした。
    死刑囚と日々接し、執行そのものも担わなけらばならぬ刑務官が、模範囚でもあった当該人物の母親に「最期は立派でしたよ」と声を掛けた、というのも、本書を読まなければ絶対に知り得なかったことの一つだと思う。

    死刑制度を廃止する国が年々増加しているという国際社会において、日本は今後どうなっていくのだろう。死刑はやむを得ないのだろうか。終身刑は死刑より残酷なのだろうか。
    自分はどちらなのか、こうやって本を読んで罪と罰の問題を考えるだけでまるで分からなくなってくる。そもそも死刑制度とは一生関わらず、ずっと分からないままでいたいと願ってしまう。
    ただ、死刑執行の密行主義を貫く現状ではそれらの議論は停滞したままだろうし、他人事とし続けることはできない。何でもそうだけど、まず国民がきちんと知ること、知らせることから進めていってほしい。誰がどう考えたところで、正解なんて無いのだから。

  • 死刑制度について、実際のところどんな手順で執行されるのか、死刑囚や被害者はどう思っているのか、刑務官の苦悩など、インタビューを重ねて書き上げられている。死刑のことをよく知らずにその是非を議論することの無意味さを痛感する一冊だった。こういう繊細な内容はもっと想像力を働かせて考えなければならないと改めて感じた。

  • 死刑制度にやや否定的な論調であるが、死刑制度について、
    ・当事者の心情
    ・制度運営の実情
    ・制度の是非に関する議論の現状
    がまとめられており、死刑制度の基礎的な知識を習得することができる。読者は著者の主張を理解しつつ、自らの意見を持つよう努めながら読むことが肝要である。

  • 巻末インタビュー含めて、よくよく踏み込んだ、考えさせられる1冊でした。死刑はいろんな議論がある。だからこそ、もう少しオープンにして国民的な議論があってもいいというのは納得。
    犯罪被害者はどうしたら救われるのか。死刑は解決策となるのか。もちろん、やったことは許されないけど、オウムの井上死刑囚の反省が少し響いた。

  • 我々からは見えない死刑の実態を可能な限りオープンにし、
    死刑制度に対する議論を促す、という趣旨の本。

    実態を知らないのに世論の8割が死刑制度に賛成している、
    ということに対する著者の問題意識は理解できる。
    ただ、「客観的に事実を淡々とルポしました」というよりは、
    「死刑制度は廃止した方がよくない?」という方向に誘導する印象を受けた。
    特にそう感じたのは下記アンケート結果に対する言及。
    「死刑はやむを得ない、ただ状況が変われば将来的には死刑を廃止してもよい」
    という回答が「死刑制度に迷いがある」というのはちょっと違うだろう・・・と。

    ただ本書を読んで強く感じたことがある。
    私を含め多くの人が、この事実を「直視して考えたくない」んだと思う。
    死刑に関してだけでなく、
    自分自身は関わりたくないが、
    社会の中に「ある役割」を担う人がいることは必要だと思う。
    自分勝手なエゴとは思うが、
    ヒトは良くも悪くもそうやって進化してきたのだろうと・・・

    自分の近しい人から、死刑囚になる人がリアルに想像するのが難しい。
    一方で大事な人が凶悪犯罪の被害者になることは想像しやすく、
    それゆえに「想像上の被害者感情」が優先される気がする。
    冤罪で死刑を求刑される可能性もないことはないのだろうが、
    その場合は「冤罪」に対する怒りや関心が向かうので、
    やはり「死刑」の是非とは論点が異なるような気がする。

  • 読む価値無かな

  • 死刑 を
    はじめてまじめに考えた

    • てらちゃんさん
      考えた。泣いた。
      人間て
      戦争もするし
      人を殺すし
      愛する。

      家族単位で
      いや、
      個人単位で。

      愛をつなぎたい。

      それが大きくなれば
      ...
      考えた。泣いた。
      人間て
      戦争もするし
      人を殺すし
      愛する。

      家族単位で
      いや、
      個人単位で。

      愛をつなぎたい。

      それが大きくなれば
      地球平和だね。
      2022/03/17
  • 死刑への賛否は別として、日本人の考え方や人権意識を考える素材として良い素材だと思う。巻末のインタビューでも安田弁護士が述べていることに同感。日本人はわあわあいうだけで、議員への働きかける力が弱い。

  • 死刑、日本における絞首刑の現状を説明しながら、その問題を浮かびあげている。
    厳罰として、被害者感情を考えると日本人は死刑ありき論が多いが、アンケートの設問の問題も指摘している。
    個人的には終身刑が妥当と考える。やはり、絞首刑は野蛮だ。それに関わる仕事しているとしたら、平静ではいられない。

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著者プロフィール

共同通信社記者。1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社入社。長野支局、社会部を経て2002年、共同通信社入社。06年、外信部へ配属され、07年6月から1年間、韓国・延世大学に社命留学。09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、経済部で経済産業省を担当するなどし、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。インド各地の都市や農村だけでなく、スリランカ、バングラデシュなどの周辺国も担当し、取材で現地をめぐってきた。同6月より外信部所属。著書に『オーディション社会 韓国』など。

「2020年 『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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