- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344984882
作品紹介・あらすじ
世界中で民主主義が劣化している。アメリカのトランプ現象、イギリスのEU離脱、フランス極右政党の台頭など、多数の民意を反映した選択は、目先の利益のみを優先し、自国の生き残りを賭けたものばかりだ。協調、協和といった精神からかけ離れたむき出しの欲望が民主主義と結びつき、社会の分断は加速する。今、世界の知性たちは何を考えるのか-?人々の心の闇を見続けてきた老練な社会心理学者から、若き天才哲学者まで六人が考察する政治変動の深層と、民主主義の混迷。世界の現実を知る必読書。
感想・レビュー・書評
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NHKの『欲望の民主主義』がとても面白いので、こちらも読んでみましたが、現代の課題を考えるにはとても良い本だと思います。
民主主義も資本主義も、現代においては主流の政治経済理念ではありますが、これらはあくまでも歴史の流れの中で求められた思想であって、至高のものではありません。そして、現代においては、日本に限ってみても、どちらも行き詰まり、閉塞感を感じている国民が多いと思います。この閉塞感がどこから来ているのかを明らかにしているのが本書です。
どちらも当初は必要であり、むしろ大事な思想でした。ですが、どちらもそれぞれに課題を抱えているのは当然であり、長く延命した分、行き詰まりから抜け出られなくなっています。
特に資本主義はその性質上、もはや人類は太刀打ちできないところまできています。なので、もう一方の民主主義をアップデートし、本来の民主政治を取り戻し、維持しながら、資本主義に立ち向かっていくしかありません。
時代は、ちょうど分岐点にあります。我々の選択が、子どもたちの将来を作るのであれば、正解も誤りも含めながら一人一人が真剣に考えなくてはいけない、そういう時代です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
内容を覚えていない
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本書が出版された2016年、トランプ氏が大統領選挙で当選した年、民主主義は世界的に危機にあった。ポピュリズム政党、政治家が欧州で躍進、日本の都知事選も国際的にはポピュリズムと評される。
これまでも投票率の低さ、政治への無関心は言われてきたが、昔の無関心は、投票しなくても無難な結果、という空気だった。だが今は、政治への信頼が失われている。選挙で選ばれた者は民意を代表しない、つまり代表制民主主義そのものに疑念が抱かれている。これは時代の変化に民主主義が対応できないのか、それとも民主主義そのものに欠陥があるのか。
本書は、そんな時代の空気の中、米国とフランスの政治学者、心理学者、哲学者へのインタビューを通じて民主主義への処方箋を模索する。民主主義の原点といえるホッブスのリヴァイアサン、ルソーの社会契約論に立ち戻り、共同体を維持するツールとしての民主主義、平等と平和の理念のための民主主義、哲学としての民主主義、様々な視点から民主主義を説き直す。どの論者にも共通するのは、民主主義は所与のものでなく、一人ひとりの協力が必要という点である。しかし現代のネット社会は、一人ひとりの意見を分断して増幅する。そのため、選挙で選ばれた代表者の議論よりも、変動が早く極端である。そのような意見に政治家が左右されて愚策に走るか、逆手にとってポピュリストとなるか。どちらにしても危機的だ。
本書の出版後、パンデミックにより再び政治は信頼を失っている。恐怖、脅威は人々を結びつけ、民主主義が再び上手くいく条件となるはずだが、政府よりも国民の方が情報の量とスピードが大きいこと、人の特性である自信過剰のバイアスにより、議員よりも自分たちの方が解決できる、と思ってしまうのだ。
ヒト、モノ、カネ、情報のグローバル化の中、私たち一人ひとりが民主主義を再定義する必要がある。 -
民主主義についての考え方は様々あるが、現在劣化しつつある民主主義を克服するためには、民主主義以外の選択肢を通じてではなく、民主主義が持っているポテンシャルを引き出すことにより可能となることがわかった。そのためには一人一人が、しっかりとした知性、対話できる能力を持ち、おかしなことを言う政治家や、偏った見方をするメディアを批判することが大切だと思った。
個人的にはマルクス・ガブリエルの「他人や他の種の動物の苦しみを理解する人間の度量を普遍的価値とした民主主義」に共感を覚えた。分断が深まる現代においてはこの考え方が特に重要だと思った。 -
・大統領の役割=何が起きているか分かっている人がいるフリをする役割、というのが腹落ち。
たかだか10人くらいの組織でさえ、トップは部下が何をしているか把握していない。1億、2億の民のトップが、すべてを見通しているわけがない。
民主主義が、中産階級の価値を最大にするための組織(集団の力を使って個人の自由を最大化する)であり、それが現状機能しなくなっている。 -
アメリカの自国主義、EUの分断等民主主義の混迷、世界の現実を知る本です。
後退している民主主義はこのままでは、破滅の道、戦争へといってしまうのではないか?危惧を感じる。人間は弱肉強食から逃れられない。
著者は「民主主義とは何か自分に問い続ける限り」より良くなって行くと言う。
印象に残った文章
⒈ 人々はとにかくすべてを焼き尽くしたかったのだ。
⒉ 問題その1ーグローバル化
⒊ 問題その2ー代表制民主主義
⒋ 問題その3ー分極化 -
ずっと「民主主義」を無条件でとてもいいもののように思っていたけれど、どうもそうではないかもと思って手に取った本。
民主主義の政治が衆愚政治にならないためには何が必要なのか、とか、ただの民主主義ではなくて「自由」民主主義が大事なんだとか、じゃあ自由ってなんなんだろうか、とか、そういったことを考えるヒントがいろいろあった。
「ドイツ史上、最も若くして大学の哲学科教授に就任した」マルクス・ガブリエルが「自分があの人だったかもしれない」と認識すること、他人や動物の苦しみを理解する度量が民主主義の基盤だと言っているのが印象に残った。 -
自由「民主主義」でなければいけないんだな。
意思決定の速度を遅くして熟考する時間が必要なんだな。
グローバリゼーションの時代だからこそ、もっと違うものや弱いものを受け入れることが大事な気がします。 -
民主主義は巨大な情報処理システム。意見の対立を調整するための方法。常に相互に批判し合っている状態こそ、民主主義が機能している証拠。民主主義とグローバル化は両立しにくい。民主主義とは、共同体の皆で決めたルールは皆で守るものだから、グローバル化により多くの人々が共同体へ流入すると移民や外国人が自分たちの果実を食べるのではないかという恐怖心が生まれる。人生全てが自分の思うままにならないのと同様に、民主主義はフィクションに近い。。
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自らの人生を受けとめ、真摯に思考する時、誰もが実存主義者となる。生まれ落ちた時から抱える実存、所与の条件、意識を持った頃にはすでに課さられていた宿命を、引き受けざるを得ない存在が覚悟を決める時、実存主義の門を潜るのだ。だが、そうしたありようは、時に固着した視点を生み、それゆえの不自由を生むこともまた事実。他者からの視点という想像力を欠き、熱い情念に囚われることでますます視野狭窄に陥る不幸も、背中合わせとなる。その呪縛を解こうとしたのが構造主義だったのであり、そうした柔軟な視点を獲得した時、皆、構造主義者となる。すべては関係性だという認識がもたらす、自己という存在の相対性に思考を開く可能性をそこに見るのだ。そしてさらにその関係性すらも固定化しないダイナミズムを導入しようというのがポスト構造主義だった…
真摯に思考する時、人はすべて実存主義の洗礼を受け、構造主義の門を潜る。