- Amazon.co.jp ・本 (635ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344428935
感想・レビュー・書評
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田部井淳子さんをモデルに、その幼少時代から、登山に目覚め、アンナプルナやエベレストに女性だけの隊で初登頂を果たすまでを描いた小説。
山行のシーンが生き生きと描かれていて、また山に登りたくなった。
一方で、初登頂という華やかな結果だけでなく、隊の中の人間模様や処々の苦労なども描かれていて、親近感もわく。
とはいえ、この小説の主人公、淳子が何より恵まれていたのは、理解ある夫、正之の存在だと思う。"てっぺんは頂上じゃないからな。・・・淳子のてっぺんはここだよ。必ず、無事に俺のところに帰って来るんだ"と言って、あとは遠征や準備で淳子が留守がちなときも、文句一つ言わず積極的に助けてくれる、なんてステキなパートナーなんだろう!
プロローグとエピローグで、田部井さんご夫妻が力を入れていた、東日本大震災の被災地の子供たちに富士登山を経験させるボランティアのことも紹介されていて、お二人のお人柄が偲ばれる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
女性登山家・田部井淳子さんをモデルにした山岳小説。
であるとともに、夫婦愛の物語でもある。
それは、アンナプルナへ出発する前日の会話に象徴される。留守を預かる夫への感謝の言葉とともに「必ずアンナプルナの頂上に立ってみせるから」と言う淳子に、夫が答える。
「言っておくけど、てっぺんは頂上じゃないからな」「淳子のてっぺんはここだよ。必ず、無事に俺のところへ帰ってくるんだ」。
文庫本625頁もの大作であるが、フィクションとノンフィクションとを巧みに織り交ぜ、その長さを意識させることなく、一気に読ませる。
恋愛小説家と称される著者が、数々の山を登る「山ガール」でもあり、その体験を生かしての力作であるからだろう。
男尊女卑の空気が色濃く残り、女性が山に登ることに偏見の目が合った時代に、ひるむことなく果敢に挑戦し、女性初のエベレスト登頂を果たした主人公。
彼女の姿勢の原点は、小学校時代の教師の言葉だろう。
「たくさんの努力が必要になるだろうけど、けっして不可能なわけじゃない。みんなの未来は可能性に溢れているんだ。やりたいことがあるのなら、何にでも挑戦するといい。何もしないで諦めることだけはしちゃいけないよ」
登頂に至るまでのこれでもかというトラブルやアクシデント。資金の調達、女性だけの登山隊への蔑視、隊員同士の確執と嫉妬、膨大な荷物の梱包作業、さらには現地での盗難騒動。
数々の困難を克服し、登頂を果たした主人公の足跡は、今を生きる我々(特に女性)に勇気を与えてくれるだろう。
プロローグとエピローグで語られる、彼女が企画した東日本大震災後の富士登山プロジェクト。
主人公のライフワークのひとつであるという。彼女の人柄があらわれているといえよう。 -
この本と出会えてよかった。
本を読んで涙が出たのは久しぶりだった。
生きる意味がわからないから生きる。
親友の死や仲間の婚約者の死、それらを胸に挑戦したエベレスト。
覚悟と強靭な意志。
これからでも遅くない。 -
登山ものはなぜかたまに読みたくなる。命懸けで過酷なチャレンジに対する尊敬、憧れ、嫉妬なのかなぁ。期待以上に感動させてもらいました。
まず、田部井さんが少し前まで単身赴任してた郡山の隣、三春町出身と分かっただけで親近感。晩年の穏やかそうな彼女をテレビでみるくらいだったが、一女性として心も体も鍛練を重ねた人生だったんだなぁと感じた。
同じ「山屋」の旦那さんも本当に優しい。
「言っておくけど、てっぺんは頂上じゃないからな。」
「淳子のてっぺんはここだよ。必ず、無事に俺のところに帰ってくるんだ。」
いやー、言ってみたい!
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唯川恵さんの評価がまたガラッと変わった。
恋愛小説だけではない。
実在する世界的な登山家 田部井淳子さんをモデルに、女性登山隊としてエベレスト初登頂を果たすまでの様々な出来事が描かれている。
時は半世紀前。
ウーマンリブが叫ばれ出したとはいえ、まだまだ女性蔑視の男性がうようよ存在する時代だ。
山屋にも女性は少なく、体力面から大きなアドバンテージを有する男性から心ない言葉を浴びることも多かったようだ。
反発心もあり、「女性だけで難しい山を制覇したい」という想いを強めていき、心を同じくする仲間たちと共に様々な山に挑んでいく。初めての海外遠征となったアンナプルナ登頂では、出発前から様々な困難が発生する。資金繰りや長期休暇の申請、そして何より家族の説得だ。膨大な装備品の発送作業にくたくたになる中で隊員同士の軋轢も増え、「女同士」の無謀さを感じたのも事実。しかしこの経験から、のちのエベレストに繋がるリーダーシップの取り方や徹底した準備の大切さを学ぶことになる。
印象的なのは「てっぺん」への想いだ。
同じく山屋の正之と夫婦となり、互いの夢を応援し合う理想の関係性を築くふたり。
山を愛するふたりはある共通する哲学をもつのだ。それは、ベースキャンプがあるから頂上を目指せる、安心してアタックできる、ということ。
週末それぞれに大好きな山を目指せるのは、家庭というベースキャンプがあるから。
そしてふたりにりとって「てっぺん」とは、山々の頂上のことではない。無事に下山して安らいだ気持ちで辿り着くホーム、お互いの存在こそが「てっぺん」なのだ。
女性初のエベレスト登頂を成し遂げ日本に帰国した淳子が改めて痛感する場面がある。正之と娘・梢の出迎えを受けた時に涙がこみ上げてくる。「ここが、こここそが、私のてっぺん」。
タイトルこそ「淳子」さんの名がつくが、これは夫「正之」さんの物語でもある。
誰からも一目置かれる山屋であり、淳子と結婚してからは家のことを満足にせずに毎週山に出掛けていく妻を心から応援し支えてくれる人格者である。封建的な昭和初期の時代には本当に珍しい。淳子が感じているとおり、「固定観念にとらわれないフェアな人」だ。
自らの海外遠征マッターホルン登山で凍傷により足指を失ってからは、それまでのようなチャレンジは難しくなった。それでも弱音を吐かず、腐らず、これまでと同じように山を愛し出掛けていく。半年にも渡る妻の海外遠征のため、資金繰りや子どもたちの世話の一切をどーんと引き受けてくれる。
こんな夫じゃなかったら、淳子さんの心持ちはまた違っただろうな。
反対する人、無理だと言う人もいるなら、
必ず、応援してくれる人が同じだけいる。
その人たちの存在を受け止め、感謝し、最後には自らの鍛えられた心を信じることで成し遂げられた偉業だ。
かっこいい!!
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田部井淳子の登山人生。世界ではじめてエベレストに登頂した女性であり、二人のこどもの母親でもある。彼女が登山をはじめた時代は男尊女卑が当たり前だった時代。それを切り開いていくのは並大抵のことではなかったと思う。
登山は生きていることを感じるとともに、死も意識することになる。それが田部井さんの最高のザイルパートナーであった笹田マリエさんという存在だったと思う。また旦那さんとなる正之さんは男も女もないやりたいことをやるのが一番という当時としては珍しいひとだけど、格好いい。
ここが淳子のてっぺんだからという台詞も素敵ですが、生きて帰るために待っているひとがいてほしいがひとはひとりでは生きられない生き物なんだと考えるさせられました。
当たり前のことだけど、山は登ったら生きて戻らないといけない。何度でもそのことを感じてしまいます。 -
本作は山登りをテーマとしつつも、
女性の社会的ポジションという点を濃く描いている。
タイトルにもある「てっぺん」とは、
山頂を指した意味も含むが、淳子の人生においてのその時その時の到達地点や帰るべき場所という意味も含んでいる。
時代背景が1950〜1970年代ということもあり、
「山は男が登るもの」
「女は男の助けがないと成功できない」
といった女性蔑視の封建的な考えが非常に強い中、
主人公の淳子たちは女性のみで構成されたチームを作り、女性の社会的地位の確立を念頭にしつつ山に挑んでいく。
そんな封建的な考えと戦うにあたり、
著者の女性目線もあってか、
女性だけのチームでの社会性の難しさが非常にリアルに描かれている。
・議論がロジカルにできず感情的で堂々巡り
・決定事項に対し後から不服を言う
・自分で責任は持ちたくないが責任ホルダーには強く当たる
こういったシーンが非常に多く散見し、
山登りへの準備〜開始〜登頂に至るまでの女性同士の意見のぶつかり合いがメインと言っていいほどの内容となっている。
唯川恵氏の真骨頂は恋愛小説だと思っていた為、本格的な登山という全く違った固いテーマの本作を初めて手に取った時には違和感があったが、
読了してみると、唯川恵氏だからこそ描ける女性の細かい心情部分が固いテーマをソフトにし、それが面白味となって読者を引きつける作品になっていると感じた。
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プロローグからうるっときてしまった。
すごいことを成し遂げる人は、色々な経験を積んできたんだなぁと感じた。
一度読もうと手に取ってページ数に尻込みしたが、とても読みやすく引き込まれてあっという間に読了した。
帰る場所があるってやっぱりいいね -
山岳小説が好きで新田次郎、夢枕獏、沢木耕太郎など読んで来ました。女性が書く山岳小説ってどうなんだろうと思いながら手に取った一冊、なかなかの読み応えでした。女性として初めてエベレスト登頂を果たした登山家たちの内面をここまで書けるのは、女性ならではなんでしょうね。もう30年以上前、学生時代に田部井淳子さんの講演を聴きました。もしそれがこの本を読んだ後だったら訊きたいことがたくさんあったのにな〜
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伝記と迷ったけれど小説に.本当に読んでいるだけで山の厳しさ,人間関係の難しさに息がつまるようでした.こんな困難を乗り越えて頂上に立つ姿には圧倒されました.そしてそれを支えた家族特に夫には頭がさがる思い.出会った時からのぶれない人間性に心温まりました.