サイレント・ブレス 看取りのカルテ (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
4.21
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本棚登録 : 2111
感想 : 206
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344427761

作品紹介・あらすじ

誰もが避けては通れない、 愛する人の、 そして自分の「最期」について静かな答えをくれる、 各紙誌で絶賛された現役医師のデビュー作。 2018年6月21日のNHK「ラジオ深夜便」にて紹介され、話題沸騰中! 「生とは何か。死とは何か。答えの出ない問いへの灯りのような一冊」(書評家・吉田伸子さん) 「本書を読んで何よりも私は、救われた、と感じた」(書評家・藤田香織さん) 大学病院の総合診療科から、「むさし訪問クリニック」への“左遷"を命じられた37歳の水戸倫子。そこは、在宅で「最期」を迎える患者専門の訪問診療クリニックだった。命を助けるために医師になった倫子は、そこで様々な患者と出会い、治らない、死を待つだけの患者と向き合うことの無力感に苛まれる。けれども、いくつもの死と、その死に秘められた切なすぎる“謎"を通して、人生の最期の日々を穏やかに送れるよう手助けすることも、大切な医療ではないかと気づいていく。そして、脳梗塞の後遺症で、もう意志の疎通がはかれない父の最期について考え、苦しみ、逡巡しながらも、大きな決断を下す。その「時」を、倫子と母親は、どう迎えるのか?

感想・レビュー・書評

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  • 2023.12.19 読了 ☆9.5/10.0



    本書は、以前読んだことのある『いのちの停車場』の作者、南杏子さんのデビュー作です。


    デビュー作とは知らずに読んで解説でそれを知りました。
    南杏子さん自身が本書のテーマである終末期医療(看取りの医療)に携わっている現役の医師であるからこそ、確かなディテールが作中の細部に宿っていて、リアリティに溢れています。


    人生の最期を看取る在宅医療が本書の各物語の共通テーマなので、患者さんが次々と最期を迎えていくのですが、穏やかに死を迎える患者さんの姿、それを優しく看取る親族の姿には、悲しみよりも安らぎを感じました。


    病気の原因をいち早く突き止め、適切な治療を施し、完治させることが「医者の存在意義」だと教わり、それを信じていた主人公の倫子は、自分を訪問クリニックに異動させた上司である大河内教授から、医師の存在意義の“もうひとつの側面”を教わるのです。



    “「治療を受けないで死ぬのは、いけないことかな?医師は二種類いる。わかるか?
    死ぬ患者に関心のある医師と、そうでない医師だよ。医師にとって、死ぬ患者は負けだ。だから嫌なもんだよ。だがよく考えてごらん。人は必ず死ぬ。いまの僕らには負けを負けと思わない医師が必要なんだ。死ぬ患者も愛してあげてよ」

    「死ぬ人をね、愛してあげようよ。治すことしか考えない医師は、治らないと知った瞬間、その患者に関心を失う。だけど患者を放り出すわけにもいかないから、ずるずると中途半端に治療を続けて、結局、病院のベッドで苦しめるばかりになる。これって、患者にとっても、家族にとっても、不幸なことだよね。
    死ぬ患者を最後まで愛し続ける。
    水戸くん(主人公・倫子)には、そんな医療をしてもらいたい」”



    教授からのそんな言葉や思いを知り、学び、だんだんと患者さんの意思を尊重し、彼らが穏やかに死を迎えられるように心を砕く医師へと成長していく倫子の姿勢にも強く共感し心を動かされました。




    “救うことだけを考える医療には限界がある。今は看取りの医療がとても大切なことに思える”


    “延命治療によって生き続けるのも、自然に看取られるのも、どちらも間違いではない。一番大切にしたいのは、患者自身の気持ちだ”


    “苦しみに耐える延命よりも、心地よさを優先する医療もある、と知った。穏やかで安らぎに満ちた、いわばサイレント・ブレスを守る医療が求められている。どんな最後を迎えたいのか、患者の思いに愚直に寄り添うのが、看取り医である自分の仕事だ”




    こんな言葉からも窺えるように、主人公の倫子が医者として患者さんに寄り添おうとする姿勢に目頭が熱くなりました。




    “死は「負け」ではなく「ゴール」なのです”




    印象に残ったこの言葉から、自分にとっての幸せなゴールとは何か、つまり自分の人生の終末を考えるきっかけとなる作品になりました。
    次は、自らが読む彼女の三作目である『ディア・ペイシェント』を読みます。

  • 大学病院から訪問診療クリニックへの異動を命じられる主人公の女医。最初は戸惑いながらも、様々な患者との出会いと通じて、意識の変化と成長が描かれた連作医療ドキュメンタリー。

    著者自身が現職医師ということもあり、終末期医療の実態をリアルに描写されている。

    先般、中山祐次郎著者の『泣くな研修医』『逃げるな新人外科医』を読了、レビューにも記したが、患者を【救うため】に懸命に命と向き合う姿に感動した。

    本作は同じ医療がテーマでも、患者を【看取るため】に懸命に命と向き合う姿が描かれていて、こちらも兎角深く感動した。

    最後の章では、主人公が自身の父親を看取る物語が描かれているのだが、16年前に亡くなった私の母親を看取った時の記憶が鮮やかなまでに蘇り、描かれていた最期の姿と寸分違わず重なったのには驚かされた。


    本作品は連作の物語があらゆるケーススタディをもって、読者へ暗黙の問いを投げかけてくる。

    決して重たい文体ではないので、今一度死することに感慨する機会として、お薦めしたい一冊である。

    • チロさん
      私を初めてフォローしてくださった方がこんなに素晴らしい感想を書かれる方だったなんて恥ずかしいような嬉しい気持ちです。勉強になりました。私もも...
      私を初めてフォローしてくださった方がこんなに素晴らしい感想を書かれる方だったなんて恥ずかしいような嬉しい気持ちです。勉強になりました。私ももう少しちゃんとした感想を書きたいと思います。
      サイレントブレスや泣くな研修医などぜひ読んでみたいです!
      2021/08/23
    • akodamさん
      清水妙子さん
      コメント、ありがとうございます。
      私の自己語りでしかないレビューに、そのように仰っていただいて光栄です。ありがとうございます。...
      清水妙子さん
      コメント、ありがとうございます。
      私の自己語りでしかないレビューに、そのように仰っていただいて光栄です。ありがとうございます。

      本作品や中山裕次郎著書の作品も、命と向き合う直向きな人物たちに、きっと感情が揺さぶられるのではないかと思います。是非機会がありましたら、ご一読ください。

      今後ともよろしくお願いいたします。
      2021/08/23
  • 終末期の在宅医療をテーマとした短編連作の物語。
    「いのちの停車場」を読んで、ほかの作品も読みたいと思って探していたら、本作は筆者のデビュー作とのこと。
    現役医師としての専門性が本作をよりリアルにしています。

    ■スピリチュアル・ペイン
    大学病院から在宅医療の訪問クリニックに左遷された倫子が訪問診療に戸惑いながらも、最初の看取りの物語。
    わがままのように振る舞う元記者の綾子。そして、その綾子の元にたびたび訪れるスキンヘッドの男。
    綾子の最後とは?
    スキンヘッドの男は?

    ■イノバン
    筋ジスの少年を受け入れたクリニック。
    怪しげな行動をとる母親。
    そして、少年が亡くなった時に残していたメッセージ。
    この少年の想い、強さに心打たれます。

    ■エンバーミング
    亡くなる寸前の母親と、急遽その母親を介護すべく戻ってきた息子。
    息子の目的は?
    そして母親が残していたモノ。
    家族が亡くなるというときに、その本性が出ちゃうんだなぁって寂しくなりますね。

    ■ケシャンビョウ
    高尾山で引き取られた身元不明の推定10歳の娘。しゃべることもできず、引き取られた里親のもと、暮らしていますが、ある日、母親の料理をすべてひっくり返す。
    その意味は?
    娘の正体は?
    これは、ほっこりしました!

    ■ロングターム・サバイバー
    新宿医大の名誉教授の在宅医療に指名された倫子。
    延命治療を拒否しながらも、わずか数日治療を再開。その目的は?
    名誉教授が逝ったのちに知る、わずかな期間の治療を再開した理由。そして倫子への評価。
    これも、心温まる話でした。

    ■サイレント・ブレス
    倫子の父親の看取りの物語。
    父親の延命治療で悩んでいた倫子と家族。そして、延命治療について考えさせられる物語

    全編を通して、自らの死を目前として、それぞれの患者たちは何を望むのか?
    そこに医療はどうかかわるのか?

    とてもよかった。
    お勧めです。

  • 私が購入した本は、隣に住む叔母に全て差し上げるのだが、叔母は読み終わると全て私の母親へ律儀に回してくれる。
    そして母親は、読み終わると全て私に返却してくれる。
    その後は、古本屋に売っても大した金額にはならない為、会社に持っていき、ジャンル毎に好きそうな人に差し上げている。

    この本は、私が購入したわけでもないのに、母からの返却の本の束に紛れ込んでいた。

    何となく読み始めたのだが、この本はとても興味深く、そして物語としてとても面白い。

    看取り、終末期の医療。訪問医として働く水戸倫子の物語。患者毎に一話一話が短編で繋がっていく。

    終末期、患者がどのような医療を望んでいるのか。

    とても読みやすく、登場人物も心地よい人ばかりで読み始めるとページを捲る手が止まらなくなる。

    何故私の元に回ってきたのか分かりかねるが、良い本だったなぁ(*^^*)

    • 土瓶さん
      bmakiさん、こんばんは~^^
       
      なんて素晴らしいサイクルでしょう。
      うらやましい。
      bmakiさん、こんばんは~^^
       
      なんて素晴らしいサイクルでしょう。
      うらやましい。
      2022/08/21
    • bmakiさん
      土瓶さん

      こんばんは(^^)
      コメントありがとうございます(^^)

      本好きが周りにたくさんいてありがたいです。会社の人も、私に...
      土瓶さん

      こんばんは(^^)
      コメントありがとうございます(^^)

      本好きが周りにたくさんいてありがたいです。会社の人も、私にたくさん本を貸して下さいます(^-^)

      図書館行かないのですが、ジャンル問わず色々な本に巡り合うことが出来て幸せです。
      2022/08/21
  • 「いのちの停車場」が話題になっていたので、この作者をいつか読もうと思っていたが、この本を見つけたので読んでみた。作者のデビュー作。後ろの解説を見ると、夫の転勤でイギリスに行った作者が子供のために医学を勉強し、日本に戻って医学部に入り直したとのこと。医者になって55才でカルチャーセンターに通って作者デビューしたそう。
    この本は自分の経験を等身大で書いたように見えて、終末期医療が短かに感じられる。主人公の女医は大学病院で、周辺の医者や看護師にも「時間をかけ過ぎる」と文句を言われるほど鈍臭い。担当教授から訪問クリニックに出向を命ぜられるが、左遷と思うが文句も言えない。出向の理由が左遷と思われたが、最後の方に元院長と担当教授の思いが明かされる。
    6章の中で一つだけ除き、患者の看取りが描かれているが、それ程重くなく淡々と受け入れられる内容となっていて読みやすい。患者達自身が死を受け入れているからと思う。主人公の父親の死も父の終末期指示公正証書があったからこそだろう。自分もこういう証書が残される遺族のために必要と強く感じる。

  • 終末期の在宅医療…たぶんここに描かれているよりも現実はもっと厳しいことが沢山あるのだと思う。死に直面すると、それまでの生き方、家族との関係性がはっきりと現れてくることに気づかされた。

  • 南 杏子氏の「サイレント ブレス 看取りのカルテ」という本を読みました。
    南氏は現役の医師。
    25歳で結婚をした夫がイギリスに転勤。
    イギリスで出産、子育てをしている間に医学に興味を持ち、帰国後33歳で医学部に学士編入したという経歴を持っています。
    終末期医療に携わりながら、55歳でこの本でデビュー。

    この本は6編の連作でなっていますが、どの編も読みごたえがあります。
    死は「負け」ではなく「ゴール」。
    読後感のとてもよい本でした。

    他の本も出版されているようなので、読んでみたいと思いました。

  • 大学病院から訪問医療に移動になり
    さまざまな患者と関わって行く話


    病を治すこと、命を延ばすことが
    医者の使命だと考えていた倫子は
    訪問医療を通して
    人生の最後をどのように迎えるかの
    大切さに気づいていきます


    倫子の葛藤、患者の思い
    その家族の思いなどが交差し
    いろいろ考えさせられる作品でした


    私も最近父を亡くしました。
    父の気持ち、母の気持ち、自分の気持ち。
    また自分が死ぬ時のこと、
    その時の家族のこと、
    そういったことを考えました。


    死は誰にでも起こる
    でも誰も体験したことがなくて
    怖いものでしかありませんでしたが
    この本を読んで少し怖さがなくなりました。

    • いるかさん
      どんぐりさん こんばんは。

      突然 すみません。
      私もこの本 とても好きです。
      死は「負け」ではなく「ゴール」。

      私も死は怖く...
      どんぐりさん こんばんは。

      突然 すみません。
      私もこの本 とても好きです。
      死は「負け」ではなく「ゴール」。

      私も死は怖くなくなりました。
      多くの人に読んでもらいたい一冊ですね。
      2022/03/24
    • どんぐりさん
      いるかさん、コメントありがとうございます
      とても嬉しいです(^^)

      死をテーマにしていても
      重すぎず、
      逆にこちらの気持ちを軽くしてくれま...
      いるかさん、コメントありがとうございます
      とても嬉しいです(^^)

      死をテーマにしていても
      重すぎず、
      逆にこちらの気持ちを軽くしてくれました

      ホント、おすすめしたい一冊です
      2022/03/25
  • 終末期の在宅医療をテーマに書かれた作品。
    終末期医療に携わる現役医師でもある著者が書かれただけあって、とてもリアルだった。
    私も末期がんの方と関わる事があって"死"について考えさせられた事があった。
    治る可能性の低い病気になった時、奇跡にかけて辛い治療をしながら延命するのか、それともそのまま寿命をまっとうするのか。
    病気との向き合い方って人それぞれで、年齢とかでも違うだろうし、患者さん自身の気持ちも不安定だったり、治療の中変わっていく事だってあると思う。
    それは家族の思いとはかけ離れてる事もあって、そこが難しいな〜と思った。
    私は看取る側になった時、本人の気持ちに寄り添ってちゃんと終わらせてあげる事ができるかな?
    色々考えさせられる作品だった。
    緩和ケアって治す医療とは違うんだろうけど、心身ともに痛みを和らげ、最後まで人間らしく過ごしてもらうための人間味のあるあたたかい医療だと感じた。
    知らない事も知れたし、連作短編だけどどの話も良かった〜!
    読めて良かった。

  • 在宅で最後を迎える患者の訪問クリニックに勤める医師の物語。
    日常の中でおだやかな終末期を迎えることをイメージした言葉がサイレント・ブレス。
    自分の最後をどのようにして迎えたいか、それは自分だけの思いだけでなく家族の思いもあり、そう出来るか否かの環境もある。
    その時を考えて置かないといけないと思う気持ちと、どうなるのか予測出来ないとの思いでやっぱり決めるのは難しい。

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著者プロフィール

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶応大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー。『いのちの停車場』は吉永小百合主演で映画化され話題となった。他の著書に『ヴァイタル・サイン』『ディア・ペイシェント』などがある。


「2022年 『アルツ村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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