婿どの相逢席

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344038073

作品紹介・あらすじ

祝言の翌日に、隠居の申し渡し⁉
小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、相思相愛のお千瀬の生家、大店の仕出屋『逢見屋』にめでたく婿入り。誰もが羨む逆玉婚のつもりが……

「鈴之助、今日からはおまえも、立場上は逢見屋の若主人です。ですが、それはあくまで建前のみ。何事も、最初が肝心ですからね。婿どのにも、しかと伝えておきます」
鈴之助の物問いたげな表情に応えてくれたのは、上座にいる義母のお寿佐であった。
「この逢見屋は代々、女が家を継ぎ、女将として店を差配してきました。つまり、ここにいる大女将と、女将の私、そして若女将のお千瀬が、いわばこの家の主人です」(本文より)                                                                                                                   
与えられた境遇を受け入れ、商いの切り盛りに思い悩むお千瀬を陰で支える鈴之助。
“婿どの”の秘めた矜持と揺るぎない家族愛は、やがて『逢見屋』に奇跡を呼び起こす……。

感想・レビュー・書評

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  • 小さな楊枝屋の四男・鈴之助は大店の仕出屋<逢見屋>の長女・お千瀬にプロポーズされて婿入りすることに。兄たちに逆玉の輿だと羨ましがられるのだが、その実態は代々女性が主人で婿養子の男たちはあくまでも子作りのために必要なだけの日陰者だった。

    まるで武家社会の逆パターン。家を継げるのは長女のみ、その配偶者やそれ以外の弟妹たちは商いに関わることは出来ない。
    武家なら女性は家の差配を振るうことが出来るが、<逢見屋>の男たちは何もすることがない。
    実家でも商いに関わることなくのんびり過ごしてきた鈴之助ですら寂しく感じているのだから、長年そうした日々を過ごしてきた義父・安房蔵やお千瀬の妹たちはどうなのか。

    それでも夫婦仲がしっかりしているのが救い。裏方からでも縁の下からでも商いを支えようとする鈴之助に応えて協力し大女将や女将の厳しい目から守ってくれている。
    そして少しずつお千瀬の妹たちとの距離も近づいていく。

    物語の肝としては<逢見屋>に嫌がらせを仕掛ける同業者<伊奈月>の若主人の真意。そこにもまた<逢見屋>の異質な状況が関わっていた。
    そしてお千瀬に宿った小さな命をきっかけに、鈴之助・お千瀬夫婦は<逢見屋>の伝統について改めて考えていく。

    上手く行き過ぎなところもあるが、ホッと出来る結末で良かった。
    鈴之助が生まれながらに日陰者ながら歪んでも僻んでもないのも良い。だが一方で同じ状況にあれば心が荒んだり妙な野心に走ってしまったり、何もかもを諦めてしまったりする者がいるのも当然だろう。
    同じ状況にありながら様々な心情に向かう人達のその違いは何か。どうしたら前向きになれるのか。改めて考えてしまった。

  • 2024年 初読みに相応しく、心温まる内容だった。

    小さな楊枝屋の四男坊、鈴之助が、相思相愛のお千瀬と祝言した。
    お千瀬は、大店の仕出屋『逢見屋』の跡取り娘で、鈴之助は、入婿として『逢見屋』に入った。

    祝言の翌日、隠居から申し渡された事。
    誰もが羨む、逆玉の輿の筈が・・。

  • 室蘭民報2019年10月31日~2020年6月1日連載、他12の新聞に連載された作品に加筆訂正して2021年6月幻冬舎から刊行。四男坊の婿入先は女系経営の仕出し屋。婿は何もするなといういう中での鈴之助の気づきや頑張りで家族や店が変わって行く…という流れは予想の範囲なので、どういうやり方なのかに興味を惹かれます。少し出来すぎの感もありますが、鈴之助の持ち味と家族、奉公人を思う気持が物事を動かす様が素敵で面白かったです。

  • 楊枝屋の四男・鈴之助
    のんびり優しげな風貌、これといった取り柄もなく毎日のんびり実家の手伝い(おつかい)
    仕出し屋のお嬢様と相思相愛からの逆玉婚!

    婿殿の仕事は子作り…のみ笑
    西條奈加らしく面白おかしく始まったこの作品。

    店は大女将、女将、若女将に仕切られ、義父と鈴之助は貰った小遣いで毎日ぶらぶら…するだけ(*´-`)

    中盤からお店に不穏な問題が起こり始め…
    お〜ミステリー?
    若旦那がとてもいいです♪

    甲斐性とは…甲斐甲斐しく健気な性質のことである

    因果応報とは…悪が苦を生む悪因苦果も、善が楽を生む善因楽果もともに同じ因果である。そもそも起きた事ごとには善も悪もない。

    なるほど_φ(・_・

    西條奈加さんの作品はホント読みやすい!
    時代物だけど小難しい言葉やセリフもなく、サラッと説明も入ってる。
    上手い作家さんだなぁと毎回感心します(^ ^)

  • 安心して読める、西條さんの江戸モノ。

    小さな楊枝屋の四男・鈴之助は、相思相愛のお千瀬の生家、大店の仕出屋〈逢見屋〉にめでたく婿入りとなります。
    ところが、そこは代々女将が商売を仕切るしきたりで、祝言の翌日に“家業に関わってくるな”と、言い渡されてしまい・・・。

    まだまだ”家は男が継ぐ”のが世間的に多数派の中、その逆で“男はすっこんでろ”ってな家風の〈逢見屋〉。
    ある意味、お小遣いをもらってプラプラしていてもOKなので、“ヒモ気質”の男性には堪らない境遇といえばそうかもなのですが(汗)。
    最初はぞんざいに扱われ、肩身の狭い思いをしていた鈴之助ですが、妻のお千瀬からの愛情を支えに、持ち前の人柄の良さと周りを和ませる気質を活かして、奉公人や義妹たちと心を通わせるようになっていく展開で、鈴之助の〈逢見屋〉の役に立とうとする健気な様子に“鈴之助、頑張れ!”と応援しながら読みました。
    商売モノあるある(?)で、同業者〈伊奈月〉からの謎の嫌がらせがあったりもするのですが、後半で〈伊奈月〉の若主人の出目と〈逢見屋〉の驚きの繋がりが明らかになり、結果、心温まるラストに繋がるのが良いですね。
    個人的に、気の強い次女のお丹と“うさ兄さん”は相性が良さそうなので、お丹が〈伊奈月〉再生のお手伝いをすれば良いかも!と思いました。
    さらに、鈴之助の実兄(三兄)の杉之助もなかなかええキャラだったので、是非続編を希望したいです~。

  • 鈴之助の人となりが魅力的。

    大店の娘さんと結婚し、婿入りした途端、お店は女たちで回すから、引っ込んでおくように言われる。
    そんな中でも、飄々と立ち回る姿が、面白かった。

  • 世間の「あたりまえ」にあえて立ち向かい、「女系」を貫こうとする相見屋の女主人たちの厳しい覚悟を見る。そこの歪みも初めだからこそであり、この時代の「あたりまえ」の反動ゆえの呪縛ともいえる。鈴之助の柔軟な対応力と妻への思いやりが好もしい。

  • 「弱く愚かな者はいる。それより他に生き抜く術がないからだ。」
    上に立つ者の心得を説いたセリフにはっとする。
    この作者の作品が心地よいのは、懸命なものが報われるだけでなく、弱さや愚かさも否定しないところにあるのかなあと思う。
    こちらの作品は、基本的にやわらかな人情譚です。

  • 西條氏得意の江戸の人情もの。家族の立ち位置、感情がきめ細かく描かれている。前作の「心淋し川」や「無暁の鈴」が身に沁みただけに少し読み応えがなかった。

  • <賛>
    いやはや,なかなかな面白いではないか。『心淋し川 』でチョッキ賞を獲ってのちの第一作がこれってわけだな。こりゃあまた良い出来ときたもんだ。いや待てよ本作初出は各地の新聞に連載されたものらしいから,特に”チョッキ賞の直後に出る本だから”というつもりではなかったのだろうがやはり良い出来。奥付けには連載新聞の紙名はどうやら全部載っている様子だが,連載がいつからいつまでの事だったかは示されていない。

    と、ここまで書いて、あれちょっと待てよ何かあったぞ、と、ああそうだ先に僕の読書感想文で絶賛した『曲亭の家』が受賞後第一作であった。すまぬ。すまぬが面倒なのでここはこのまま書き進めるw。

    しかしまあ本の中身に触れないで毎回こうやって何か書くのもそれはそれで結構大変なのだぞ。登場人物のキャラ書いて舞台設定書いてオチなりなんなり書けばそれではい読書感想です,ってのがどれほど簡単か。だって毎冊”違う本”だjからな。あたりまえか。でもその体でプロの書評家や帯の文言を考えるプロライターさんなんかは書いているのだからな。要は”文質”ってことだよな。毎度高講釈すまぬすまぬ。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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