著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344035041

感想・レビュー・書評

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  • 川上さんの世界にひたって一気読み。ハルカになった始まりからマリの途中まで読んでいたら時間の流れが思ってたのと違うことに気づいた。さみしいのに温かい、静かでちょっとずれてる世界。某達と人間との差って?私の近くにもある世界なのかも。

  • 人間のようでいて、でも人間でない、変身して死なない「某」。男、女、子供、老人に変身できる謎の生き物。世界にごくわずかいるらしい。ある「某」は、まずは、高校生の女の子、その後、高校生男子、成年男性、次は…と。変身しながら、人間をそして自分を見つめる。
    成長すること、誰かを好きになること、そういったことによる変化。哲学的でいて人間そのものを考える。ロボットなり別の生き物、某やら見ると人間とは違う角度で見ると人間は不思議で、興味深いんだろうな。客観的に今までの自分が見える某が羨ましい。某がどう変身し、どういう考えに至るか、そしてその生態に注目しました。謎の生物でないにしても、いつかこんな日も来るのかななんて。

  • 発売日に買って、2日ほどで一気に読んだのに、感想が定まらなかった。
    それほど、自分にとっては衝撃的な内容だった。

    ある日突然現れた主人公が、様々な人間に擬態を繰り返していくというのが大まかなあらすじ。

    最初に擬態した「丹羽ハルカ」は、ものすごく大雑把に「作った」性格だったのにも関わらず、擬態を繰り返していくうちに、だんだんと混みいった感情を持ち、人間らしくなっていく。

    性別、時間の概念を乗り越えて、様々な年齢の人間になれるのは、インターネットを通して「擬態」する私たちからすれば、理想の自分になれるという点では、羨ましいかもしれないが、生きるための擬態と考えると、そこに、虚しさが漂う。

    日常的すぎて、あり得るような気がして、自分の周りにもそんな人がいるのかもしれない、とも思わされた。それほどまでに、淡々としながらも、リアリティのある文章だった。

    また、自分とは何か、生きることとは何か、そして愛することとは。SFでありながらも、哲学的に考えさせられてしまう。

    「大きな鳥にさらわれないよう」が文庫化されるので、そちらも読みたくなった。

  • 「誰でもない者」を通して、ヒトとは何者なのかを探る、哲学的な作品とも思える。

  • 家族、愛情をめぐる物語。

    幻想小説かもしれないし、SFかもしれない。

    いずれにしても奇書、だと思う。

    書店で偶然立ち読みを始めて奇怪な物語に一気に引き込まれてしまった。

    それまでの記憶が一切ない、自由に姿形性別も変えられるという存在が主人公である。

    物語にはどこか優しさと危うさを感じる。

    この存在は人間と類似の姿をしている様子だが、人間性はあまり豊かでは事が多いようで、感情が偏っていたり、或いは欠如していたり、そしてその行動も何処か偏りがある。

    人間性とは共感性ではないか、と考える。

    親(家族)がいて、ピア(友人)ができて、恋人を作り、家族ができる。

    しかしこの存在には始まりの時点で家族は存在せず、ある日突然この世界に誕生する。

    物語冒頭の医師と看護師が疑似的な両親の役を果たそうとする。しかし、姿形・性別・年齢が変化してしまう(させる)ために、成長という物語を十分に吟味できない。

    ここで、家族関係或いは重要な、親密な他者と関係を結ぶという事は物語を共有する事である、という考えがよぎる。

    所謂ナラティブな関係性、或いは家族神話と呼ばれるものであって、その物語を共有するためには共感性が必要となる。

    共有できる物語と共感性が有ればこそ、対人関係・対象関係は円滑で愛情深くなるのだろう。

    そして、人間の姿に擬態するが人間性、共感性に乏しい彼等は家族や親密な他者をなかなか獲得できず、そして日々の糧も安定がなく何処か居心地が悪そうでもある。

    居心地が悪くなれば、或いは何かのきっかけがあると姿形・性別・年齢・性格も変化させる。

    解離性障害。

    この古くて理解が難しい精神疾患をどうしても連想してしまう。

    この疾患は多くの場合、幼少期早期の心的外傷或いは、幼少期早期から継続される養育者の情緒的応答性欠如がその病因とされる。

    記憶が途切れる解離性健忘、記憶が交代して別の人生を送ってしまう解離性遁走、自分の姿が別の視点で見える離人症、そして人格の交代が生じる解離性同一性障害と様々な様相を見せる。

    最も困難な場合は養育からの虐待によって、虐待されている時の自分を感じさせず、別の記憶・人格を構築してやり過ごそうと始まり、やがてストレスに直面する度に新しい人格を形成させるようにしてしまう。

    従って、人格は二重人格から多重人格へ移行してしまう。

    この疾患のひとたちとこの物語は重なってしまう。

    彼等に必要なのは、他者との十分に安全で保護された安定した関係性であり、そのためには共感性をもてる他者との交流が必要となる。

    この物語は人格を統合する物語であり、損なわれつつある人間の共感性に迫る物語だと思う。

  • あー。あー。あー。
    ってなった。すげーなこれ。川上弘美ワールド炸裂してて、好き。不思議な設定なんだけど、あ、こんな人の話聞いた気がするってなるから不思議…。そして、タイトルの某。某って意味が出てきたときにぞわってなった。誰かのために生きたいって、たとえ自分を犠牲にしても。愛って、なんだろうね、某

  • この本の、読み始めと読んだ後の印象が全く違うものだった。
    1行目からスルッと読みやすくさくさく読める。
    それでも初めは馴染めないというか、こんな調子で変化し続けるだけのお話ならつまらないかも、と思っていたけれど、気づくと淡々とした雰囲気からものすごく壮大な、温かいような、けれど悲しいような不思議な変化をこのお話は遂げていました。
    実際初めから最後では時間もものすごく経ってるし。
    こういう読後感は初めてかも。

  • "誰でもない者”ってじつは誰なんだ?って気になって、一気に読み進めました。

    人間って何だろう?って、生物的に、哲学的に…主人公と一緒にいろんな風に考えました。




  • 「くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである」
    川上弘美のデビュー作『神様』の冒頭の文章です。本当に軽々と不思議な話を書いています。あまりに軽々書くので、リアルな世界などどうでも良く思えてくる。私にとって川上さんはそういう作家さんでした(もちろん『センセイの鞄』なども好きなのですが)。
    この『某(ぼう)』も不思議な話です。
    ある日突然に病院に現れた人物。それ以前の記憶が全く無いばかりか、性別も年齢も判別できない。まるでその直前に忽然と発生したようであり、どうやら人間とは異なる「誰でもない者」である。何にでも変身できる「誰でもない者」は、医者に勧めに従い最初は絵を描くのが好きな高校一年生の女の子に、次には性欲旺盛な男子高校生に、そして生真面目な教職員と次々と姿を変えて行き。。。。
    同じ不思議でも『神様』と『某』では違うようです。
    『神様』の不思議は「うそばなし」(川上さん自身がそう表現しています)。何やら明るく不条理な夢の中に居るようで「不思議」「奇妙」「変」それ自体がなんか楽しいのです。それに対し『某』の不思議は、著者が考える哲学的テーマ例えば「私とは何か?」「愛とは?」「死とは?」を描く手段としての不思議のようです。
    それを高く評価している人が多いのですが、私はついて行けませんでした。
    私は初期の「うそばなし」から入り、今でも川上さんにそれを望んおり、そのノリでこの『某』を読み始めました。途中でこの「誰でもない者」がテーマ追求の手段である事は判りましたが、それが相応しい手段なのか疑問を感じてしまったのです。

    • naonaonao16gさん
      todo23さん

      こんばんは^^初めまして!
      コメントありがとうございました(・∀・)

      「某」、わたしも読みたい作品です!出版...
      todo23さん

      こんばんは^^初めまして!
      コメントありがとうございました(・∀・)

      「某」、わたしも読みたい作品です!出版されて直後は購入の予定でおりましたが、おそらくこのまま文庫を待つことになりそうです…

      ご質問の件ですが、わたしは特に読書会のようなものは存じ上げておりません(もしかしたらあるのかもしれません)。
      ブクログを長く続けてきたらフォロワーさんがたくさんついてくださりました。もしかしたら、todo23さんのレビューを、フォロワーさんが見てくれているのかもしれませんね^^
      2020/07/12
    • naonaonao16gさん
      todo23さん

      こんばんは^^コメントありがとうございます!

      思い当たる節がないというより、あくまで読書会というものについては...
      todo23さん

      こんばんは^^コメントありがとうございます!

      思い当たる節がないというより、あくまで読書会というものについては存じ上げない、という感じです。
      みなさん大切なフォロワーさんです(´▽`)

      おそらくこういった流れだと思います。
      todo23さんのレビューに誰かがいいねをする→その誰かからその人のフォロワーに拡散される→さらにいいねをされる→さらに拡散される
      こういったことが起きてるのだと思いますよ^^
      todo23さんが過去に読まれた古い作品が、他の誰かにとっては今読んだ作品で、ふり返ってご覧になられた方がいらっしゃったのかもしれないですね!
      2020/07/14
  • ストーリー設定が奇抜でおもしろく、前半は引き込まれたが、途中から世界観に入れず置いてきぼりのまま終わってしまった。設定からは、生まれる、共感する、愛する、アイデンティティ、死ぬといった多様な論点が発生するだけに、もう少しどこかに焦点を置いてストーリーがシンプルだったら、と思う。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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