わたしの神様

著者 :
  • 幻冬舎
3.22
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本棚登録 : 391
感想 : 65
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344027619

作品紹介・あらすじ

一番若くて一番きれいな女にだけ価値がある。描かれることのなかった"女子アナ"たちの嫉妬と執着と野心。

感想・レビュー・書評

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  • 私には、ブスの気持ちがわからない。
    胸元のマイクを直す音声担当の女を見下ろしながら、まなみは思った。この人だって、もっと顔がきれいだったら、こんな男みたいな裏方仕事、しないで済んだだろうに。男と張り合うよりも、可愛がられた方が得だ。
    それが望めない女だけだ、男と対等に働きたいなんて負け惜しみを言うのは。

    こんな、冒頭で始まるこの本。
    息をつかせぬおもしろさでした。
    女子アナが登場するテレビ業界を舞台に、人の欲望と葛藤が渦巻いていて、読み進めるのが辛くもあったけど、これを最後まで書ききった著者の力量にとにかく圧倒されました。しかもこちら、デビュー作だとか。(ちなみに著者は元TBSのアナウンサー)

    伝えたいことが凝縮されていて、とても濃いです。
    人は、選べないものを持って生まれてきます。美しい容姿だったり、才能だったり、恵まれた家庭環境だったり。それら神様のギフトの影響力は絶大です。
    ギフト自体は恵まれたものですが、人間とはおもしろいもので、もともと備わっているものだけじゃなく、自分で努力をして獲得していったものを認めてもらいたいんですよね。
    でも実際に客観的な評価というのは、努力以上に自分では選べない生まれもったものによるところも大きい。容姿だとか性別だとか家柄だとか。そのギャップが、頑張れば頑張る程、もどかしい。

    男性、女性ということだけでなく、人によって仕事観1つとってもまるで違う。本書は著者の高い文筆力によって物語の語り部が瞬時に変わり、多くの人の内面が見える。皆、表面で見せてる顔と、内面は随分違う。なかなかにあざとい。そのドロドロした感じがまたリアルなんですよね。
    そして、話さないから伝わらないし、わからない。では、話せば伝わるのか?というと、そうではない。なぜなら価値観が違うから、わかりあえないこともある。むしろ、違って当然のものを同じにする必要すらない。
    そこが、そのまましっかり書かれているのが大好きです。とても、潔くて。

    本書は「女子アナってこういうものじゃない?」というイメージをばっちり具現化していて、実際のところがどうなのかはわからないですが、いかにもありえそうな感じでくらくらしました。自己顕示欲の強さとか、承認欲求の高さとか、痛々しいくらいに見えますが、本書では更に1歩踏み込んだ描写があるのが納得感を与えてくれて。痛々しさ自体は、消えないんですけど、それでもひたむきさがあるからすこし、救われます。

    自分の辛さや痛みというのは、自分以外には正確にはわからない。
    それでも、わかってほしいという気持ちも、わかり合えたという幻想も、抱いてしまうんですよね。
    ただ、実際にわからないとしても、わかろうとしてくれる人がいてくれることが何より大きい。

    さらに恋愛要素から子育てのことまで、本当に濃くさまざまなものが練りこまれていて、読み終わってもしばらく言葉にできないくらい。
    読めて、ものすごくよかったです。最後のページがとくに好き。おすすめです。

  • 新堂冬樹あたりに映画化してほしい
    まなみ役は、水卜アナで脳内再生されてました
    佐野アリサがとにかく…彼女に幸あれ

    そして彼女らは女と同時に毒虫でもある 害虫
    男を貪り、変な臭いを出し、騒音を発し、甘い蜜を求めて飛び回る
    私たちは虫 では男たちは花なのか?
    けれども、本当の光り輝く美しさというものは、決して外見だけのものではない。登場人物のどれもが、どす黒くあまりにも醜い

  •  30歳過ぎて、働く女としてどんなキャラ設定でいけばよいのか。ひさしぶりに会った先輩と飲んで絡んだ時に渡された1冊(たまたま読み終わったらしい)。
     「私には、ブスの気持ちがわからない」「他人が自分の中身まで見てくれると期待するなんて、そんなのブスの思い上がりだ」随所に挑発的なフレーズがちりばめられているが、恐らく読者の狙いに反して、素直に読んだ。
     週刊現代で連載されていた柳美里の「オンエア」の迫力とは比べものにならないが、「元女子アナによる処女作」とは思えないほど読みやすい。なんやかんや言っても才色兼備じゃないのさ。
    出てくる女子アナの誰もが幸せそうではなく、性同一性障害のキャラクターだけが唯一、自由な存在として描かれているのが、悲しい。
     三十路女のもやもやへの回答にはならなかったが、どの世界も大変であると、楽天家の私はなぜか少し前向きになりました。

  • 女子アナの世界がステレオタイプに描かれている。
    最初は内幕ものかと思ったが、働く女性に共通する話であり、女性の焦燥、怒り、憎しみがこれでもかと書かれている。
    多かれ少なかれ、働く女性なら共感するところはあると思う。
    女性の時代だの活躍促進だの、はたまた女性のほうが出世が早いという御仁もいるが、女性に求められる役割を超えて、男性の領分に侵入してくる女性を受け入れる社会は極めて稀であろう。

  • おおよそテレビ業界というところはこんな感じなのでしょう。
    それにしても女性同士の駆け引きというのはとても疲れます。
    何も考えないでいると、本当に女性にも男性にもいいように使われてしまう。
    アナウンサーにかわいさや愛嬌や、アイドルとしての要素を盛り込んだのはテレビ業界自身なのに、それが自分たちの業界の首をしめていることに気づくのが遅い。
    しかし、出てくる男性もろくでもないのばかりが出てくるしな。
    誰を信頼し、信用して仕事をしていけばいいのか分からなくなるし、本当にこの人、先輩、後輩と仕事をしていきたいと思える人と出会うのって難しいのだろうな。
    教養、外見、性格など全部が求められて、しかも会社員なので給料は他と比べればいいかもしれないが、それに伴うリスクを考えると非常に損なのか得なのか分からない職業。フリーになりたいのもわかる。
    時間とお金が全然違うから。
    でも見てる側からすると、まじめに仕事に取り組んでいるかどうかは、ちゃんと画面から伝わってくるから。
    同じ内容でも、伝える人によって伝わり方が違うし。
    でもそれに見た目がついてくるから、なんだかなあという職業ですね。
    文体や視点が移りやすく読みにくい感じもしましたが、
    まぁ、内容を把握するうえではいっきに読めました。

  • これを女子アナの世界の話。と思って読める人は幸せな育ち方をしたんだろうと思う。
    もしくは問題に気が付いてないか見ないふりをしているのか…

  • そして、男って…


    オリジナル小説なのだろうけれど、作者の前職のことがあるから、どうしてもあれこれと作者の周囲の人々や環境を想像してしまいます。

    「女子アナ」のことを書いてはいますが、それを取り巻く男社会のことを痛烈に批判しているように思えます。
    きっと、現実もそうだったのでしょう。(ああ、やっぱり。違うのだろうけれど、そうだとしか思えない)

  • 容姿と知性、女性らしさの全てが要求される日本独特の職業
    海外に住んでいる知人が日本のニュース番組を見てビックリしていた。
    女性アナウンサーのミニスカートから覗く脚を下から舐めあげるようなカメラワークで番組が始まるからだ。

    最近はさらに顕著な気がするがアイドルや女優のような容貌の高学歴な男女が毎日ピカピカの笑顔を振りまいてテレビに登場している。
    その動向はゴシップの対象になり、入社前にホステス経験があれば内定取り消し騒ぎ、愛らしいお天気キャスターが不倫報道で叩かれ降板。
    最近では男性キャスターの利益供与問題も騒がれていた。

    会社員でありながら芸能人のような、また女性であれば男性プロデューサーとテレビの前の男性の欲望を満たすような存在であることが期待される
    まさに特異な職業である。

    小説で表わされている女性陣の心の声は女子アナ業界に関わらず今の社会で生きる女性達の葛藤にそのまま当てはまりそうである。美醜、能力、フアッションセンス、伴侶と子供の有無、そのステータスなど多方面から評価され、またお互いを比較し合う。不毛だけどやめられない。皆それぞれの武器とコンプレックスを抱え、わたしの神様を信じて戦っていくのだ。

  • ドキュメンタリーでしょ、これ。昼ドラ張りの生々しさ。「女子アナ」の生態がグロテスクなまま描写されていて、反吐が出そうなくらいです。この”小説”を読むまでもなく、まるで憧れない別世界だとは想像していましたが、その認識を新たにしました。

    とは言え小説です。ノンフィクションです。それでも著者の経歴がリアリティを持たせています。どうりでプロ野球選手と結婚する女子アナが多いわけです。

    が、テレビの「こっち側」には関係の無い世界です。勝手に妄想して、勝手に思いを巡らせれば良いだけです。鑑賞物です。それがこの国の現状です。良いとは思わないけれど、修正するのも困難を極めそうです。

    それぞれの幸せを模索しましょう。

  • ストーリーはとくにない。登場人物のモノローグと説明文が入り混じり読みにくい部分がある。それでも、

    「私には、ブスの気持ちがわからない。」

    この一文で始まるこの小説は、そんな細かいことはどうでもよくなるほど、それぞれのキャラクターに対して愛と力と情念がこめられている。男社会が崩壊しない限り、わたしの神様を信じるしかない働く女性の姿が息苦しいほどリアルに描かれている。
    小説という形を借りた告発だと感じた。ただ凄まじかった。

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著者プロフィール

エッセイスト、東京大学大学院情報学環客員研究員。学習院大学法学部政治学科卒業後、95〜10年TBS勤務。99年第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。独立後は各メディア出演、講演、執筆活動を幅広く行う。ジェンダーや発達障害に関する著述や講演をはじめ、DE&Iをテーマにした発信を積極的に行なっている。2014年より家族はオーストラリア、自身は日本で暮らす。連載、著書多数。近著に対談集『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)。

「2023年 『いいね! ボタンを押す前に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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