ふたつのしるし

著者 :
  • 幻冬舎
3.51
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感想 : 127
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344026346

作品紹介・あらすじ

この人は何も知らない。遥名も何も知らない。それが決めてだった。
傷んだ心にやさしい雨のように降り注ぐ、傑作恋愛小説。

欠けていたものが、ぴたりとはまる。そんな風にしてふたりは出会った。

勉強のことを一秒も考えない小一のハルと、生きるための型がほしいと考える中一の遥名。
別々の場所で生まれ、まったく違う人生を歩んできたふたりの成長と出会いを描く、生きることが愛おしくなる傑作恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 嫌いじゃない。
    この小説の雰囲気は割と好きだ。
    心が温かくなる大人向けのおとぎ話といったところだろうか。

    二人のハル。
    小さな男の子のハルとちょっとお姉さんの遥名が出会うまでの30年を描いた物語。
    ハルは自分の世界の中に生きていて周囲から浮いている。
    でも彼は母親にそして友達に温かく見守られながら成長し、やがて実生活と折り合いをつけていく。
    優等生の遥名は周りの目を気にしすぎて自分らしさを失っているが、やがて恋をし徐々に変わっていく。

    どう考えたって現実はもっと厳しい。
    この二人のように運命の赤い糸の様な出会いはなかなかあるもんじゃない。
    でも宮下さんの温かい文章で描かれると、素直に受け止められてしまうのが不思議。

    なるほど、ハルのモデルはご自身の息子さんなのですね。
    「ハルのような子が幸せになれる、喜びを見出せる世界を書きたい」
    そういわれちゃうと、言い返せないじゃないか(笑)

    世界観としては「窓の向こうのガーシュウィン」と近いかな。
    この作品が好きな人はきっと気にいるはずです。
    それにしても日経新聞のレビューはどうなの。
    いささか大げさすぎやしないか・・・。
    すっかり騙された。

    • vilureefさん
      九月猫さん、こんにちは♪

      お!九月猫さんも読まれたんですね。
      ちょととイメージがわかないですが(^_^;)

      私もそんなに宮下さ...
      九月猫さん、こんにちは♪

      お!九月猫さんも読まれたんですね。
      ちょととイメージがわかないですが(^_^;)

      私もそんなに宮下さんの作品を読んでいるわけではないのですが、基本的には目立たない人だったり、はみ出していたりする人に光を当てて小さな幸せを見出していく感じがするんですよね。
      でも根底にあるのは同じなのに、作品ごとにガラッと雰囲気が違ってくるのが不思議な感じ。
      だからついつい読みたくなってしまう。

      ハルは息子で、遥名はご自身がモデルと書かれていたような(*^_^*)
      母性本能ですかね~。

      日経新聞のレビュー、「大河小説」と書いてありました!
      こりゃ、大きく出たなと。
      30年の人生ドラマって言うからどんなすごい話が待ち受けてるんだろうと期待しながら読んだら、あっさり終わっちゃいました。
      あれれ、みたいな(^_^;)


      2014/11/21
    • koshoujiさん
      こんにちは。お久しぶりです。
      >日経新聞のレビュー、「大河小説」と書いてありました!
      そんな表現されていたのですか。
      大河はないですよ...
      こんにちは。お久しぶりです。
      >日経新聞のレビュー、「大河小説」と書いてありました!
      そんな表現されていたのですか。
      大河はないですよね(笑)
      2014/11/21
    • vilureefさん
      koshoujiさん、こんにちは♪
      いつも花丸ありがとうございます。

      ふふふ、大河小説はないですよね・・・。
      新聞書評は参考にする...
      koshoujiさん、こんにちは♪
      いつも花丸ありがとうございます。

      ふふふ、大河小説はないですよね・・・。
      新聞書評は参考にすることが多いのですが、これはちょっと大げさすぎますよね。
      なぜに大河って言っちゃったんでしょう・・・(^_^;)
      2014/11/25
  • 先日、
    お坊さんだらけのバラエティーなんとか…と、言うTV番組を見た。
    その中で特に印象に残ったのが
    「今の時代、私達の周りには尊敬できる人が少なくなっています。」
    と言った坊さんの言葉。

    (そういえば、そうだなぁ…)
    と、共感しつつ、フト。
    じゃあ、尊敬できる人達がいた時代って?
    と、思いを巡らせてみると
    空海や道元など、宗派の開祖となった偉人達は元より、
    釈迦やキリストまで遡ると、
    なんとまぁ、とんでもない。

    庶民には甚だ生き難い、
    苦難の時代じゃないですか。
    そんな時代だったからこそ、
    本気で人々を救おうとするHEROは現れたんだ。

    じゃ、今はどうなのか?
    救世主、必要かな?いや、いらない。
    こんな便利で快適すぎる現世にHEROはいらないのだ。
    平和な時代は来た。
    生き易く、それぞれが皆、好きな事をして好きな様に生きていい理想の時代はついに訪れたのだ。


    それなのに。
    ここから目を背ける、ってどんな子?

    奴隷として売り飛ばされたり(いつの時代だ??)
    ひもじい思いをするわけでもないのに
    空ばかりじっ、と見る子。
    まるで、空に潜む誰かを見透かしているかの様に。

    あ、空の色が変わった。
    それに気付いた彼らはまだ幼い。

    まだどう生きていいのかさえわからない。

  • 冒頭───

    小学校の校庭に三十二人の子供がいた。入学して間もない一年二組の子供たちだ。春の明るい陽射しが降り注ぐ中、屋外活動用のボードを首から提げ、担任の渡辺孝代先生の話を聞いている。上下とも白っぽいジャージを着た渡辺先生は、サンバイザーの下から子供たちの顔を見まわした。
    「春のしるしを見つけましょう」
     いささか抽象的な提案だったにもかかわらず、はあい、と子供たちは返事をした。

    小学生のハルと中学生の遥名の二十年以上に及ぶ物語。
    蟻の行列を熱心に見つめていると、自分を呼ぶ担任の先生の声も耳に入らなくなるハル。
    柏木温之という名字なのだが、それまで“ハル”としか呼ばれたことがないので、「柏木さん」と呼ばれても、何を言われているのか理解できないないハル。
    一方の遥名は、かわいくて勉強ができるにもかかわらず、世の中を上手に渡るためには、なるべく目立たない方が良いと考えている女の子。
    その考えのまま、高校、大学、就職へと進んでいく。
    一見、接点など何にもないような二人だが、大人になり、ある一つの事件で、“しるし”を見つけて、急速に接近する。
    それはありきたりな言葉だが“運命”だったのだろう。
    子供が大人になるまで、何を思い、何を考え、何に疑問を持ち、未来に何を抱きながら生きていくのか?
    これが人間の生き方として正しい、という解答なんてどこにもないのだ。
    枠にとらわれず、周りに惑わされず、成長していくことの大切さを思い知らされる。

    “ハル”の話は、全体的に暗くて気が沈みがちになるが、最後で、ふわっとした温かな風が吹いてきたような気持ちになれる。

    そういえば、あの日の帰宅難民の行列で、何組かのカップルが出来上がったという実話があると聞いたような気もする。

    途中まではやや退屈な感もあるが、最後で心が優しくなれる、そんなお話です。
    特に、最後の“第六話”の語りがこの作品を見事に締めてくれる。
    小学校からの友だちである健太の存在もハルにとっては大きかった。

    それにしても、今の小・中学校って、こんなに荒れてるんだろうね。
    自分の頃を振り返ると、とても想像できない。
    いつから、学校教育は間違った方向に進んでしまったのだろう。
    先生が悪くなっていったのか、親が悪くなっていったのか------。

    宮下奈都さんは、なかなか味のある良いお話を書くんですね。
    他の小説ももう少し読んでみたいと思いました。

  • ところどころに散りばめられた登場人物たちの考え方とか生き方が、とっても温かい。こんな話を生み出せる宮下奈都さんは、きっと優しくて懐の深い人なんだろうな。集中したら周りの声が全く届かなくなるハルを、急かすことなくハルが満足するまで待ち続ける母・容子が素敵。幼馴染の健太の、「ハルはとっておきなんだ」「おまえはいざというときのための人間なんだ」のセリフが好き。不器用なハルのありのままを受け入れ、人と違う部分をしっかり認めてくれている。また読みたいな。

  • 宮下さんの小説が好きな理由のひとつに、「やさしさ」がある。
    物語の中の人たちが、そしてその人たちを見つめている作家の目が、やさしいのだ。
    強いモノが上をめざし、そのために弱いモノたちをかきわけふみつけ知らん顔で降りすぎていく。
    そんな世界のなかで、黙々と、もしくは淡々と、だけどふんわりと微笑みながら自分の半径3メートルの世界で日々を大切に生きている人たちへのまなざしが、やさしいのだ。
    ヒトより遅くたっていいじゃない?なにもかもが上手くできなくたっていいじゃない?今日のこの日をあなたと過ごす、それが私にとって大切なことなのだから、と、そっと肩を抱きしめられるような。
    そうだそうだ。「やさしさに包まれる」そういう気持ちになるんだ。宮下さんの小説を読むと。
    人と同じこと、が苦手な2人が偶然に出会う。ある意味一種の奇跡なのだろうけど、そんな奇跡のしるしをまるごと受け止めたい。そういう気持ちになる一冊。

  • 遥名の中学生の話が自分にとって特に印象的だった。

    私は美人ではないけど勉強はちゃんとしてたから結果も出てた。でも、ガリ勉とは思われたくなくて色々気を遣っていたし、少々荒れ気味な中学だったから、早く自分に合う高校に行って好きなだけ勉強したいと思っていた。

    中学のあの抑圧感は何なんだろうね。思春期って一番苦しい。

    個人的に、聡兄さんの俳優を目指すスピンオフが見たい。

  • 皆と同じことが出来ずはみ出していた陽之、目立つことなく型にはまったことを好んだ遥名。
    二人のハルの物語。

    子供の頃のそれぞれの2人から始まりますが、前半は今ひとつ入り込めずにいましたが、2人が就職してからの展開からは一気にその世界に入り込みました。

    2人が出会うという前提で読んでいたので、今か今かと待っていた気がします。

    この2人が釣り合うのかな?と前半思っていましたが、時を経て、2人がそれぞれの経験を積んだ上では、ステキなカップルになったのだろうなと思わされます。

    改めて、また機会があったら読んでみたいと思います。

  • ハルと呼ばれる二人の物語。
    交互にそれぞれの子供のころからの話が
    かかれて、二人の人生が運命的に交差して
    最後はめでたしめでたし的な。
    面白く読めたけど、終盤が唐突すぎて
    なんだかなーって思いながら読了。
    読み返さないと思う・・・。

  • ハルと遥名の子供時代から大人になって
    出会い子供を持つまで、と長いスパンを
    それぞれの転機になるエピソードを
    数年おきに紡いでいくかたちが新鮮だった。
    幼いころのハルと母、容子のところが
    一番心持ってかれたかなぁ。

    なんだか切なくて、でも心救われる
    ピュアな一冊でしたね。

  • +++
    この人は何も知らない。遥名も何も知らない。それが決めてだった。
    傷んだ心にやさしい雨のように降り注ぐ、傑作恋愛小説。
    欠けていたものが、ぴたりとはまる。そんな風にしてふたりは出会った。
    勉強のことを一秒も考えない小一のハルと、生きるための型がほしいと考える中一の遥名。
    別々の場所で生まれ、まったく違う人生を歩んできたふたりの成長と出会いを描く、生きることが愛おしくなる傑作恋愛小説。

    +++

    ハルと遥名、二人の「ハル」の人生は初めは別々に進んでいく。だがどちらもがいまいる場所にしっくり納まらない居心地の悪さを感じ、ほかの同級生たちのようにすんなりと事を運べずに成長していく。大人になり、それなりに必要とされる場所を見つけ、自分なりに充実して暮らしていた。そんなときに運命は二人を引き合わせたのである。そして震災。ハルは遥名を自転車で職場から自宅まで送るのである。二人にとっては、極端に言えば言葉さえ要らないくらいの必然的な出会いだったのだ。1991年、1997年、2003年、2009年、2011年と二人の人生を追いかけてきて、最後の章までたどり着いたとき、そこにはほんもののしあわせのしるしがあったのだった。愛おしいという言葉はこのためにあるのだと思える一冊である。

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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