ゴースト (Sunnyside Books)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784338287203

作品紹介・あらすじ

中学一年の少年キャスは三年前、酒に酔った父親に銃を向けられ、母親と一緒に家から逃げだした過去がある。
父親のいない貧しい生活に引け目を感じ、周囲ともあまりなじめず、距離を置く。
逃げ足の速さから自分でつけた呼び名は”ゴースト”。
ところが、ひょんなことから地元の陸上チームに入ることに。
それぞれ悩みをかかえるチームメートや監督との関係を通して、自分の才能、そして弱さと向き合っていくことに……。

感想・レビュー・書評

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  • 7年生の少年ゴーストは、母親とふたりでスラムに住んでいて、学校では問題ばかり起こしていた。父親は3年前酔って暴走し、母親と彼に発砲し、逮捕・服役中。ある日、公園で走る練習をしている中学生たちを見た彼は、自分の俊足を披露したい気持ちからそこに飛び込み、監督から才能を見初められ、チームへの入会を勧められる。バスケットボールに憧れているゴーストだったが、バスケの役にも立つと説得され、母親も学校で問題を起こさないのなら、と了承した。ところが、初日の練習も始まらないうちに彼は学校で暴力沙汰を起こしてしまう。

    暴力のトラウマと貧困からくる差別やいじめに遭いながらも、チームメイトや周りの大人たちの支えを得て、目標を見つけ努力する少年の姿を描いた物語。






    *******ここからはネタバレ*******

    銃声でスタートする陸上競技と、銃声のために早く走れるようになったゴーストとを重ねているんでしょうけど、ちょっとブラックですね。彼のトラウマは、銃声が引き金になっていないようで良かったです。

    チームの練習をなんとなく見ているうちに走りたくなって、実際走って、いい結果を出して、監督に見いだされて、チームに入って、……と短距離走の世界においての彼はトントン拍子に向上していっていますが、中学陸上でほとんど練習経験のない彼がいきなりトップクラスにいるというのはちょっと疑わしい。


    監督が、とてもとてもいい人。
    彼がゴーストに親身なのは、彼自身が薬物中毒の父親からひどい仕打ちを受けた経験があったから。
    そして、彼もゴーストも、普段の父親を愛していたというところに、救いを感じる。……救いになればいい。

    「自分という人間からは逃れられない。だが、なりたい自分に向かって走っていくことはできる」
    いいですね。
    この言葉が読む子どもたちの希望になればいい。

    最後に、学校でのいじめっ子役ブランドンが競争相手として登場し、ライバルのルーが「おれとおまえの勝負」と言って集中させている。これは、彼らチームの結束を示したかったのか?「ブランドンといざこざを起こすゴースト」はもう卒業したと言いたかったのか?


    表現は平易ですが、厳しい現実も描かれているので、高学年以上にオススメします。

  • スラム街に住むゴーストは、父親に銃で狙われ必死に逃げた記憶がある。父親は現在刑務所に入っていて、母親が病院で働いて育てているが、いつもダブダブの服と靴を履いている。そんなゴーストだが、足が速いことから陸上競技チームに入ることになる。

    逆境のなかのゴースト。陸上競技を通して少しずつ変わって行く。

  • ゴーストことキャッスルはスラム街で母親とふたりで暮らす七年生の少年。三年前酔った父親がゴーストと母親相手に発砲してきて、命からがら走って逃げた。そんなゴーストの走る能力に気付いた陸上競技の監督はゴーストをチームに誘うのだった。

    ゴーストは様々なコンプレックスを抱いています。その大本となるのが貧困の問題。スラム街に住み母親が病院の食堂で働き、その食堂の余り物を食べているということ。そのことを学校で揶揄されることも。
    そんなコンプレックスは自分は他の人とは違うのだという、見えない壁を作りゴーストを囲んでしまう。他人を見るときも、その壁越しにしか見えず、自分とは違う人として見てしまっている。

    そのゴーストの壁を取り去ってくれたのが走ることだった。走ることの魅力なんて全くわからず、陸上競技なんてただのかけっこだと思っていたゴーストが、陸上チームに入りチームメイトと共にトレーニングを重ねることで、何かにのめり込むこと、何かを誰かと共にすること、そんな自分を認めてもらえることの心地好さに気付くのです。
    そして自分とは違うと思っていた人たちにも、それぞれ悩みがありそれを乗り越えようとしていることに気付くのです。
    だからそのチームから外れたくなくて、ゴーストはついやってはいけないことをやってしまう。

    ゴーストの周りには、ゴーストを信じてくれる信じようとしてくれる大人がいます。でもゴーストがその大人に本当に真っ直ぐに向き合わないと、その気持ちに気付けないのです。
    そしてそれは自分自身に真っ直ぐ向き合うこと。
    これは自分の居場所がないと思っていた少年が、自分の居場所に気付く物語でしょう。元々あったかもしれない。でも自分で作った壁を自分で取り払うまで見えなかった居場所。大人たちの気遣い。それに気付いた時ゴーストはより遠くまでより速く駆け抜けることができるのでしょう。

  • 児童書侮るなかれ。こんなに面白いのはなかなかないぞ。

  •  スラム街で母親と暮らすキャッスルは、父親に銃で狙われたことがあり、それがトラウマになっている。その時走って逃げたことで、自分の足の速さに気がついた。
     ふらっと立ち寄った公園で陸上のチームが練習をしていた。あれくらいなら自分の方が速いと思ったキャッスルは、飛び入りで走り、監督に一緒にやらないかと声をかけられた。

     ただのかけっこに練習なんてするの?そう思っていたキャッスルだが、監督の誘いにのり練習に参加し始めた。
     走ることが楽しくなり始めると、キャッスルは自分のボロ靴が走りに向いていないことに気づいた。そしてキャッスルのとった行動が…。

  • キャス(自称ゴースト)は足が速い。父親が自分と母親に向かって打った銃声を聞いてから。ある時、たまたま見かけた陸上クラブの練習に飛び入りで参加したことから、クラブに入会させられてしまう。走ることなんか練習しなくても簡単だと思っていたのに、きついトレーニングについていくのも苦しい。だけど、生まれて初めて、自分のことを気にかけてくれる人たちと出会い、ゴーストの心に変化が…。

  • 雑誌「こどもとしょかん」の新刊紹介で知り、図書館で借りた。

    キャッスル・クランショー、7年生(中学生)。
    自分でつけたニックネームは「ゴースト」。
    アルコール中毒の父ちゃんは、キャスと母ちゃんを銃で撃とうとした罪で、刑務所に入っている。
    キャスの体のなかには、悲鳴がうずまいていた。
    それがある日、競技場で走ったことから変わっていき……。
    2016年 全米図書賞 YA部門 最終候補作。

    黒人作家による、黒人少年の物語。
    やっぱり、立場により見えてくる景色が異なるのは当然のこと。
    作者は高校陸上の経験があり、また本を読まない子どもだったそうで、それがたしかに著作に良い影響を与えているんだなと、素人ながらに感じます。
    主人公のキャスは、スラム街に住み、服もぶかぶかで、髪も母ちゃんに切ってもらい、からかわれることも多い。
    小学生の頃から「体のなかに悲鳴がうずまいて」いて、それが思春期ともなればどれほどか。
    銃声で逃げ足が速くなった、というのは、すごく”わかる”設定だなあと思いました。
    でも、自分からは逃げてはいけないというのは、どんな読み手にも響いてくることです。
    雑貨屋のチャーリー、〈ディフェンダーズ〉の監督や仲間たち、魅力的な人物たちが登場します。
    チームのメンバーが誰かのために走ったって、それは結局自分のためになっているもの。
    最後、キャスがスタートを切って走り出したことが感じられて良かったです。
    希望のある終わり、基本的に人はハッピーエンドを求めていると、最近強く感じています。

  • どんなに足が速くても、自分自身からは逃げられない。
    でも希望と目標を持てば、どこまでも走ってゆける。

    少年は、父親に撃たれそうになった心の傷を抱え、貧困と差別の中で育ち、「自分なんかダメなんだ」という考えから離れられない。声にならない悲鳴を抱えて生きている。
    ある時ひょんなことから、陸上競技と出合い、才能を開花させていく。
    まわりの大人たちもいい。コーチ。いつも行くお店のおじさん。みんな哀しみを知って暖かい。
    お母さんの描写もいい。ただの立派なお母さんじゃない。看護師資格を取りたいけれど、一日働いた後は、ついついくだらない映画をみてだらだらしてしまう。宿題を前にゲームをしちゃう気持ちと同じだ。一生懸命働く尊敬すべきお母さんだけど、ダメダメな弱いところもちゃんと書いてある。
    だけどそんなお母さんも、妹さん(少年の叔母さん)といっしょに息子の応援に行く時の服装(ど派手なピンクとか)、バスに乗り遅れちゃうとか、そういうちょっとした一言で、陽気で楽天的で健康で、何より息子を心から愛しているのが伝わってくる。
    靴の万引きはハラハラするけれど、そして少年のこのまま何とかなるんじゃないかという気持ちもちょっとわかるように書いてあるけれど、結果的に良いほうにいってよかったと思う。
    現実はもっとシビアだろうけども、ここに作者の祈りのようなものを感じた。
    父親の撃った銃声は、ラストのスタートのピストル音へとつながる。
    すばらしい本だと思う。
    ただ一点、「ゴースト」という題名で損してると思う。
    あ、ゴースト、お化けの話?じゃあいいや、って手に取らなかったらほんとに残念だ。

  • 銃声もいろいろな意味をもつ。主人公のゴーストにとっては父親が自分と母親を狙った音であり、100メートルのスタートの合図だ。
    速く走ることができることは知っていた。でも、速く走ることが好きであることには気づいていなかった。好きなことならつらくてもがんばることができる。好きなことを続けるためには過ちを認めることができる。そしてチームに貢献したいという気持ちにもなる。
    テンポよく進む物語。うまく進みすぎだし、ゴーストがいい子過ぎるかなあ、と思うけれど、ゴーストのような子もいるだろうと思うし、そんなことを忘れてしまうストーリーだった。
    作者の続編が読みたい。

  • 貧困や家庭の問題に苦しむゴースト。ひょんなことから陸上チームに参加することとなる。ボロボロの靴では走れない……と感じたゴーストは靴を盗んでしまう。

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著者プロフィール

ジェイソン・レノルズ  1983年生まれ。“When I Was the Greatest” でジョン・ステップトウ新人賞、 “As Brave As You” でカーカス賞、『エレベーター』でエドガー賞YA部門を受賞。その他に全米図書賞児童文学部門の最終候補に選ばれた『ゴースト』などがある。2020年、まだ30代でアメリカの児童文学大使に就任し、今最も注目されている若手作家の1人。

「2020年 『オール・アメリカン・ボーイズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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