マレスケの虹 (Sunnyside Books)

著者 :
  • 小峰書店
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本棚登録 : 94
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784338287180

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦期のアメリカ・ハワイ。日系二世の少年マレスケは、よろず屋を営む祖父の元で貧しくも平和に暮らしていた。だが、1941年12月、日本軍による真珠湾攻撃を境に環境は激変してしまう……。

感想・レビュー・書評

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  • アイデンティティとして、自分が○○人だということを常に意識するのは大事だし、たいていの人がそうしているのもわかる。
    だけど、他人をそういう物差しだけで測ったり、ましてや差別し排斥するのに使うことは、もう言い尽くされている感があるけど、愚かしい。
    著者の森川成美さんはこの本で、他人を○○人だからというステレオタイプ的な目で見ることの矛盾や意味の無さを、日本からハワイへ移住した祖父をもち、自身はアメリカ人として生まれ育つが、現地のハワイ人や白人とは異なる容貌を持つ日系人のマレスケ少年を主人公に選び、描いている。

    それはすなわち、「日本列島に唯一定住する民族=日本人」という固定的な観念を打ち破るかのように、まず舞台をハワイに移して日本列島から切り離し、さらに真珠湾攻撃の後を描いて戦争で敵対視される国民として日本人を位置づけることで、日本人の固定イメージをひらりと飛び越えさせ、日本人や○○人といったアイデンティティの正体とは何か?を問いかけてくるかのようだ。

    でもそう書いたものの、ストーリー自体は教訓めいたものではなく、マレスケの精神的な成長とハワイの美しい風景を楽しみながら読み進められる。一文一文も短く、先の時代の話とはいえやさしい語句で書かれているので、中学生の読書好きは読むのに挑戦してほしい。
    なお戦争も描かれているのでシリアスなテーマも含まれているが、真実は甘いだけでなく酸っぱくも苦くもあるものだし、この本に出てくる“No rain, no rainbow”という言葉のように、美しい虹の姿を見るには、雨に遭わなければならないということだ。

    ハワイでは急に雨が降り、そうかと思うと急にやんで、日本では見られないような大きな虹が天空にかかることが多いのだという。
    マレスケはアメリカの市民権をもち、日本にも行ったことがない「アメリカ人」だが、その大きな虹を見るたびに自分の心情にあてはめる繊細な感性をもつのであれば、そのとき「日本人」だとも言えると思う。
    言い換えれば、決して祖父が日本出身だからとか、大和魂とは何かを教わったから日本人と呼ばれうるものではないのだ。○○人というアイデンティティは、そのように人間の内面のあり方に焦点を当てることで正しく使われうるのだと、この本は教えてくれたような気がする。

  • 日系2世に関する作品を読んでみたいと思っていたところに、本書に出会った。第二次世界大戦中のハワイが舞台、主人公は日系2世の14歳の少年、マレスケ。
    児童文学らしく爽やかで瑞々しい語り口で、日系2世としての立場の危うさや板挟みになる苦しさが描かれる一方、淡い恋や進路に悩む姿など十代らしい描写も多く、とても読みやすい。
    じわじわと戦況が悪化し、厳しい立場に立たされるハワイの日系人たち。祖国か、今自分が住む国か。日本からハワイに移り住んだ祖父とは違い、ハワイに生まれ育ちアメリカ国籍を有するマレスケ及び彼の兄姉とは、立場も微妙に異なる。読んでいて、心を引き裂かれる思いだった。
    なかなかシビアで深く考えさせられる場面も多々あるけど、重苦しさを感じさせない展開が見事。戦争の酷さを描きつつも、しっかりとマレスケの成長物語として成立させている。若者たちには是非とも読んで欲しいな。アイデンティティの問題は決して過去のものではなく、現在も世界のあちこちで、似たような思いに苛まれている人々がいるかもしれない。
    このタイミングでこんな良作に出会えて本当によかった。

  • 今、ロシアがウクライナに侵攻してて、この家族のような境遇の人も多くいるかもしれないな。
    日本人とかアメリカ人とかどこで生まれたからとか、しがらみやステレオタイプを打破するために、志願兵になる兄。
    愛国心ってなんだろう、自分の国だけがいい思いする時代は終わった真の意味でのグローバル化が進めばいいのに。

  • ときは1941年
    ハワイ島ワイカフリに暮らす少年マレ、小西希典14歳

    明治時代の末、移民として入植し苦労の末にコニシ・ストアを開いた祖父、姉みさを、兄ヒロキの4人家族に、真珠湾攻撃が不安な影を投げかける

    日本人である祖父、日系二世でありアメリカの市民権を持つマレたちきょうだい、マレに恋するハワイ人のレイラニ、そしてハワイで白人を意味するハオレ

    ハワイの発展にともにつくしてきた人たちが、日本とアメリカの開戦により複雑な立場に追い込まれていく

      敵か味方か。
      戦争はどっちかにつかなきゃならない。
      ぼくはアメリカ人だし、もちろんアメリカの側に立っているつもりだ。
      だけど、ふしぎなことに、あっちがつかせてくれない。
      日本はぼくらを裏切り、アメリカはぼくらを疑っている。

    徴兵に志願した兄ヒロキは、ハワイとアメリカ本土の日系人だけで構成された陸軍442連隊に配属されヨーロッパ戦線へ……

    《ノーレイン、ノーレインボウ》

    マレの見た虹が、マレにひとつの道を指し示す

    カバーを広げると、鉄条網のない海岸で海を見つめるマレ、浜辺に打ち寄せるハイビスカスのレイ、そして空にかかる虹──思わず手にした装幀は城所潤+大谷浩介

  • アメリカに疑われ、日本に裏切られた希典たちの物語。
    現実を交えて書いているからか、すごく実感が湧きました。希典たちは、裏切ったり相手の損することはしないのに……。身を隠して、アンネのようにこそこそと生活しなければ生きていけないなんて。
    今ウクライナ侵攻が起きていて、ウクライナの人はきっと苦しんでいる。生まれたばかりの赤ちゃんも、生まれたその時から危機にさらされている。ロシアの兵士たちは、本当にウクライナの人の命を奪うことをなんとも思っていないとは考えられない……きっと、すごく苦しんでいるのは、ウクライナの人たちだけではないんじゃないかな。
    ロシアの生まれです、と言っただけで嫌な視線を感じたりするロシアやベラルーシの人たちだって、好戦的な人しかいない訳じゃない。
    そう考えると、胸が痛くなりました。

  • 今、ウクライナやロシアでマレスケと同じ想いをしている人がたくさんいるのだと思うと、悲しくなりました。
    これ以上マレスケのような思いをする人が増えないことを願います。

  • 今もまた、同じことしてる、人間は。
    2022年になっても人間は。
    どうしようもないことね。
    よく見て、よく聞いて、よく考えて。
    生きているのも、死んでしまうのも、みんな同じよ。

  • マレスケ?どこの国の人だろうと思ったら「希典」だった。そしてハワイの日系二世の少年の、第二次世界大戦に向かう時代の話だった。

  •  ハワイで暮らす日系2世の少年マレ。3つ年上の兄は、戦争が始まり日系人にも志願が許されると、兵隊に志願する。『GO FOR BROKE』442連隊の一員として。

  •  第二次世界大戦期のアメリカ・ハワイを舞台に、太平洋戦争中を見つめた日系2世の物語です。
    (一般担当/道明寺P)

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著者プロフィール

森川 成美
東京都生まれ。「アオダイショウの日々」で第18回小川未明文学賞優秀賞。『マレスケの虹』(小峰書店)で、第43回日本児童文芸家協会賞。そのほかの作品に『さよ 十二歳の刺客』『はなの街オペラ』(ともにくもん出版)、「アサギをよぶ声」シリーズ、『ポーン・ロボット』(以上、偕成社)、『夢の発電って、なんだろう?』『光るマウスが未来をかえる』(以上、講談社)、『てつほうの鳴る浜』(小学館)など。

「2023年 『かわらばん屋の娘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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