陽だまりの果て

著者 :
  • 国書刊行会
4.26
  • (7)
  • (10)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 175
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336073433

作品紹介・あらすじ

〈ないことないこと〉が書き連ねられた物語、この世の裏側に窪んだどこにもない場所。魅惑に溢れた異世界へ――

時空や他己の隔たりを超えて紡がれる、懐古と眩惑に彩られた幻想譚6篇を収録。

〈傾聴ボランティア〉の派遣先で出会った老婦人の作り話とも真実ともつかない昔語りと、主人公の過去現在が絡み合う交感の物語。(「ツメタガイの記憶」)
行きつ戻りつ繰り返される、老人の記憶の窓に映る追想。(「陽だまりの果て」)
老いを意識し始めた主人公が姉御肌の老女と出会い、かけがえのないものを託される。(「骨の行方」)

◆皆川博子さん 推薦!
「表現は静謐でかろやかでさえあるのに、内在するのは深く重い生と衰と死と哀と慈である。
個が認識するものが細やかに巧緻に描かれるとき、一見ありふれた日常が、貌を変える。
現象のうわべに馴染んだ目には異様と映る、それこそが、真実の相であろう。
満ち足りた思いで読了した。」

【目 次】
ツメタガイの記憶
鼎ヶ淵
陽だまりの果て
骨の行方
連れ合い徒然
バイオ・ロボ犬

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 皆川博子推薦ですって!

    Fumiko Ohama | Künstlerin und Schriftstellerin
    http://www.fumiko-ohama.fuyosoft.com/

    陽だまりの果て|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336073433/

  • 以前アンソロジーで1作読んだだけだけどとても気になっていた大濱普美子の最新短編集。読みながら、ああずっとこういうのが読みたかった久々に好きな作家キタコレ!みたいな気持ちで、作品の静謐さとは裏腹に内心大興奮(笑)他の作品集もぜひ読もう。

    とにかく文体が好き。静謐で美しい。日常のなにげない風景描写なのに、この作家の目で切り取られると1枚の絵のように美しく、そして何も起こっていなくても幻想的。うまく説明できない。ディティールの積み重ねだろうか。とにかく緻密で細密なアート作品でも眺めるような気持ちで読み終えた。

    ストーリー的なものがはっきりあるという意味では、近未来のロボット犬を飼う話「バイオ・ロボ犬」や、万引きを疑われた初老女性が自分より年上の女性に助けられ交流する「骨の行方」などが、わかりやすく面白く読めたけれど、この作家の本領はむしろそれ以外の作品のほうだろうなと思う。

    表題作は、おそらく介護施設にいると思しき老人の独白で、現実的にいえば認知症なのだろうけど、本人はなにかもっとふわふわした夢想と現実のあわいにいて、過去も回想もあちらの世界も何もかも混交しながら、不思議な透明感があってたまらない。

    何も怖いことは起こっていないのに、後味ほんのりホラーだったり、日常生活をそのまま描写しただけなのに夢物語のようだったり、なんとも不思議で心地よい読書でした。


    ツメタガイの記憶/鼎ケ淵/陽だまりの果て/骨の行方/連れ合い徒然/バイオ・ロボ犬

  • 皆川博子が「彗星図書館」で「十四番線上のハレルヤ」を取り上げていて気になっていたところ、
    東雅夫が編んだ「平成怪奇小説傑作集3」にて「盂蘭盆会」を読んでゾゾゾ……というのが初の出会い。
    《これは恐い。部屋にでんと腰を据えて、姉夫婦と姪の死を見送り、死後をも見ている、視点人物の怖さ。物言わぬ女の怖さ。あらすじに起こしてみるとそうでもないが、文章の細部に、冷静な加虐心といったものが宿っていて、文章そのものが冷え冷えと恐い。》
    と書いた。
    で、最新作がやはり皆川博子の推薦文つきで刊行されたので、読んでみた。
    やはりゾゾゾ……。

    読後、猫丸(nyancomaru)さんのおかげで、ドイツ語による作者当人のサイト「Fumiko Ohama Künstlerin und Schriftstellerin」を知り、あっ、小説家だけでなくアーティストだったんだ(それも年季の入った)、と驚くと同時に納得。
    Google Translateによれば、

    大浜文子 アーティストとライター 私について
    東京生まれ東京育ち。慶應義塾大学でフランス文学を学ぶ。パリ第3大学でフランス文学を学び、パリ第7大学で外国語としてのフランス語の修士号を取得。フランクフルト・アム・マインで25年近く日本語教師として生活している。1998 年以来、当初は成人教育コースの一環として絵画とデッサンのトレーニングを行っていました。2003年よりスタジオ「Ahmad-Rafi」にて芸術活動。久しぶりのライターです。2冊の短編小説集の日本での出版:2013年 「たけこのぞう」 2018年「14番線上のハレルヤ」以下を含むいくつかの展示会」(以下略)

    と。
    アマゾンによれば、

    著者について
    1958年東京生まれ。1980年慶応義塾大学文学部文学科フランス文学専攻卒。 1987年パリ第七大学《外国語としてのフランス語》修士課程修了。1995年よりドイツ在住。2009年、「猫の木のある庭」を発表(三田文学)。著書に『たけこのぞう』『十四番線上のハレルヤ』(いずれも国書刊行会)がある。

    パスポートすらない者にとっては英語ができるだけで凄いと思うが、おそらく英語フランス語ドイツ語あるいはもっと、のマルチリンガルなんだろう。
    にして、日本の風物を敢えて選んでホラブルな小説を描いているあたり、すごいな……。
    お生まれは1958年。
    来歴から勝手に多和田葉子(1960年生)を連想したり、出版社から勝手に山尾悠子(1955年生まれ)を連想したりしてしまうが、……もっと茫洋としてぼんやりしているというのか。

    単著「たけのこぞう」を刊行したのが55歳当時で、約5年ごとにスタンダードに単行本を刊行して、これが3冊目。
    その上勝手に感じた怖さだが、「たけのこぞう」収録6篇、「十四番線上のハレルヤ」収録6篇、本作も6編。
    年に一作?
    さらに、やや無理矢理と言われそうだが思ったんだから仕方ない、本作に収められた作品、どれもボリュームが同じくらい(60p、72p、50p、70p、72p、45p)
    この周期性、均一性、みたいなものも、なんだか怖い。

    内容について、6作のうち前半3作は、ガチのホラー、幻想、怪奇、恐怖、とはいえ角川ホラー文庫には入らなさそうなアプローチ。
    後半3作は奇妙な味なんだかいい話なんだか、読者としての了解のしどころが摑みづらい感じ。
    作風の広さ、文体の多様さ、なのに突き進む先にある怖さ、については延々考えたいところだが……その欲望を掻き立てるのは文体や文章そのものなので、ちょっと短く言い表しづらい味なのだ。
    今のところ杉江松恋の書評が最も的確だと感じた。
    https://kadobun.jp/serialstory/sugitreasure/entry-46321.html
    読後、note限定の書き下ろしエッセイ
    https://note.com/kokushokankokai/n/n24418a00c338
    を読んで、作家追いせねばと感じた。
    嬉しい。

  • 縁(フチ)と縁(エン)。断絶と継続。欠如によって完成する真円。引き裂かれることで対になるもの。優しく哀しく、切なく儚く、係累図の端に位置する者たちの生と死に纏わる物語。
    キリギリスを逆からスリギリキと読むと何を示しているのかわからないように、記憶を遡っていくと幻想の過去が別の顔を見せる。住み慣れた家は廃屋となり、鏡に映る私は誰でもない者である。廃材を拾い集めて作る棺に、取るに足らない人生を詰めて海に浮かべるのなら、それは棺ではなく舟と呼ぶのだろう。波の音がする無形の物語が寄せては返し、始まりも終わりもない。

  •  短編集。ヒトと、ヒト以外の生物の死の匂い、老いの気配がどの作品にも強く漂う。文体はユーモラスであり、それぞれの物語のもつ深刻さを中和している。老婆二人の、万引きをきっかけのかっこいい友情物語『骨の行方』が一番好き。

  • 端正な日本語、少し昭和の香りもする。でも読んでいると閉所に閉じ込められたような気持ちになる。この本の空間は私には狭い。骨の行方は、おもしろかった。

  • 泉鏡花賞受賞に納得。
    少し不思議な、怪談の少し入った話。
    恒川光太郎さんの女性バージョン。
    恒川さんより余分な描写が多く、内容よりそっちを重視している感がある。それが私にはちょっと読みにくく、抽象画を読んでいるような気分になって、老化した脳にはしんどかった。詩っぽい部分が多い。

    6つの話があり、
    表題作の陽だまりの果てがいちばん疲れた。

    1)ツメタガイの記憶
    語り手の息子の部分がなかったら好き

    2)鼎ヶ淵
    子供が語り手で読みやすく面白かった

    3)陽だまりの果て

    4)骨の行方
    老女二人の友情。いちばん普通に読める

    5)連れ合い徒然
    ドイツ人ツレアイとの3つのエピソード。ドイツ人とは書いていないけど郷土料理でグリューネゾーセと出てくるのでそうと分かる。大濱さん自身ドイツに暮らしているから実際そうなのかな?

    6)バイオ・ロボ犬
    ロボット犬というモチーフで生死を考えさせるので分かりやすい。でもこれを読むと、読みにくいと感じて大濱さんはちょっと苦手かもなぁと思った1と3が恋しくなって、そっちの方が良いなと思ってしまった(苦笑)

  • 前半の3作「ツメタガイの記憶」「鼎ヶ淵」「陽だまりの果て」は、彼岸の人たちとの奇縁めいたつながり方と、どこかにピタッと着地するわけではない仄暗い幕切れが印象的だった。なんとなく村田喜代子の小説に描かれる異界っぽさを感じたけど、あとで調べたら本作は第50回泉鏡花賞を受賞していて、ひとつ前の第49回が偶然にも村田喜代子『姉の島』だった。

    このふわふわした感じが後半3作でも続くのかと思いきや、「骨の行方」「連れ合い徒然」「バイオ・ロボ犬」はまた毛色が変わって、いい意味で予想外。

    器用な作風。他の作品も読んでみたい。

    【目次】

    ツメタガイの記憶
    鼎ヶ淵
    陽だまりの果て
    骨の行方
    連れ合い徒然
    バイオ・ロボ犬

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1958年、東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科フランス文学専攻卒。パリ第七大学修士課程修了。著書に『十四番線上のハレルヤ』、『陽だまりの果て』(第50回泉鏡花文学賞受賞)がある。

「2023年 『猫の木のある庭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大濱普美子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×