- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336073433
作品紹介・あらすじ
〈ないことないこと〉が書き連ねられた物語、この世の裏側に窪んだどこにもない場所。魅惑に溢れた異世界へ――
時空や他己の隔たりを超えて紡がれる、懐古と眩惑に彩られた幻想譚6篇を収録。
〈傾聴ボランティア〉の派遣先で出会った老婦人の作り話とも真実ともつかない昔語りと、主人公の過去現在が絡み合う交感の物語。(「ツメタガイの記憶」)
行きつ戻りつ繰り返される、老人の記憶の窓に映る追想。(「陽だまりの果て」)
老いを意識し始めた主人公が姉御肌の老女と出会い、かけがえのないものを託される。(「骨の行方」)
◆皆川博子さん 推薦!
「表現は静謐でかろやかでさえあるのに、内在するのは深く重い生と衰と死と哀と慈である。
個が認識するものが細やかに巧緻に描かれるとき、一見ありふれた日常が、貌を変える。
現象のうわべに馴染んだ目には異様と映る、それこそが、真実の相であろう。
満ち足りた思いで読了した。」
【目 次】
ツメタガイの記憶
鼎ヶ淵
陽だまりの果て
骨の行方
連れ合い徒然
バイオ・ロボ犬
感想・レビュー・書評
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以前アンソロジーで1作読んだだけだけどとても気になっていた大濱普美子の最新短編集。読みながら、ああずっとこういうのが読みたかった久々に好きな作家キタコレ!みたいな気持ちで、作品の静謐さとは裏腹に内心大興奮(笑)他の作品集もぜひ読もう。
とにかく文体が好き。静謐で美しい。日常のなにげない風景描写なのに、この作家の目で切り取られると1枚の絵のように美しく、そして何も起こっていなくても幻想的。うまく説明できない。ディティールの積み重ねだろうか。とにかく緻密で細密なアート作品でも眺めるような気持ちで読み終えた。
ストーリー的なものがはっきりあるという意味では、近未来のロボット犬を飼う話「バイオ・ロボ犬」や、万引きを疑われた初老女性が自分より年上の女性に助けられ交流する「骨の行方」などが、わかりやすく面白く読めたけれど、この作家の本領はむしろそれ以外の作品のほうだろうなと思う。
表題作は、おそらく介護施設にいると思しき老人の独白で、現実的にいえば認知症なのだろうけど、本人はなにかもっとふわふわした夢想と現実のあわいにいて、過去も回想もあちらの世界も何もかも混交しながら、不思議な透明感があってたまらない。
何も怖いことは起こっていないのに、後味ほんのりホラーだったり、日常生活をそのまま描写しただけなのに夢物語のようだったり、なんとも不思議で心地よい読書でした。
※
ツメタガイの記憶/鼎ケ淵/陽だまりの果て/骨の行方/連れ合い徒然/バイオ・ロボ犬 -
縁(フチ)と縁(エン)。断絶と継続。欠如によって完成する真円。引き裂かれることで対になるもの。優しく哀しく、切なく儚く、係累図の端に位置する者たちの生と死に纏わる物語。
キリギリスを逆からスリギリキと読むと何を示しているのかわからないように、記憶を遡っていくと幻想の過去が別の顔を見せる。住み慣れた家は廃屋となり、鏡に映る私は誰でもない者である。廃材を拾い集めて作る棺に、取るに足らない人生を詰めて海に浮かべるのなら、それは棺ではなく舟と呼ぶのだろう。波の音がする無形の物語が寄せては返し、始まりも終わりもない。 -
短編集。ヒトと、ヒト以外の生物の死の匂い、老いの気配がどの作品にも強く漂う。文体はユーモラスであり、それぞれの物語のもつ深刻さを中和している。老婆二人の、万引きをきっかけのかっこいい友情物語『骨の行方』が一番好き。
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端正な日本語、少し昭和の香りもする。でも読んでいると閉所に閉じ込められたような気持ちになる。この本の空間は私には狭い。骨の行方は、おもしろかった。
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泉鏡花賞受賞に納得。
少し不思議な、怪談の少し入った話。
恒川光太郎さんの女性バージョン。
恒川さんより余分な描写が多く、内容よりそっちを重視している感がある。それが私にはちょっと読みにくく、抽象画を読んでいるような気分になって、老化した脳にはしんどかった。詩っぽい部分が多い。
6つの話があり、
表題作の陽だまりの果てがいちばん疲れた。
1)ツメタガイの記憶
語り手の息子の部分がなかったら好き
2)鼎ヶ淵
子供が語り手で読みやすく面白かった
3)陽だまりの果て
4)骨の行方
老女二人の友情。いちばん普通に読める
5)連れ合い徒然
ドイツ人ツレアイとの3つのエピソード。ドイツ人とは書いていないけど郷土料理でグリューネゾーセと出てくるのでそうと分かる。大濱さん自身ドイツに暮らしているから実際そうなのかな?
6)バイオ・ロボ犬
ロボット犬というモチーフで生死を考えさせるので分かりやすい。でもこれを読むと、読みにくいと感じて大濱さんはちょっと苦手かもなぁと思った1と3が恋しくなって、そっちの方が良いなと思ってしまった(苦笑) -
前半の3作「ツメタガイの記憶」「鼎ヶ淵」「陽だまりの果て」は、彼岸の人たちとの奇縁めいたつながり方と、どこかにピタッと着地するわけではない仄暗い幕切れが印象的だった。なんとなく村田喜代子の小説に描かれる異界っぽさを感じたけど、あとで調べたら本作は第50回泉鏡花賞を受賞していて、ひとつ前の第49回が偶然にも村田喜代子『姉の島』だった。
このふわふわした感じが後半3作でも続くのかと思いきや、「骨の行方」「連れ合い徒然」「バイオ・ロボ犬」はまた毛色が変わって、いい意味で予想外。
器用な作風。他の作品も読んでみたい。
【目次】
ツメタガイの記憶
鼎ヶ淵
陽だまりの果て
骨の行方
連れ合い徒然
バイオ・ロボ犬