十四番線上のハレルヤ

著者 :
  • 国書刊行会
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336062758

作品紹介・あらすじ

宵闇の四つ辻、季節はずれの祭囃子、遠い記憶の手触り――夢と現が交錯する、奇妙でノスタルジックな幻想譚「ラヅカリカヅラの夢」「補陀落葵の間」ほか全6篇を収録。西崎憲・東雅夫推薦!! 装画:椎木かなえ 装幀:コバヤシタケシ
[推薦のことば]
●西崎憲(作家・翻訳家・アンソロジスト)
いつのまにか文中の風景を歩いている。本のなかの路地を歩き、家並みの隙間から空を眺める。本のなかには人もいて、隣にすわった少女が絵を見せてくれる。そしてどこが間違っているか指摘しろと云う。わたしには分からない。なにしろその間違い探しの絵は一枚しかないのだ。もう一枚はどこにあるか訊こうと顔をあげるが少女の姿はもうない――ずっと前からこういう小説が現れることをわたしは予期していた。そしてようやくいま作者の名前を突きとめた。大濱普美子。
●東雅夫(アンソロジスト)
巻頭の「ラヅカリカヅラの夢」から一気に惹きこまれた。萩原朔太郎「猫町」や佐藤春夫「美しい町」を想起しながら、市井の人々と人ならざるモノが物憂げに共棲する尽(すが)れた幻想市街図を堪能した。要するに、澁澤龍彦のいう「幾何学的精神」が、大濱普美子の小説には躍如としているのである。

感想・レビュー・書評

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  • 最新作「陽だまりの果て」が凄かったので、その前に当たる第2作目を読んでみた。
    実は刊行当時からカバーイラストが素敵だったり皆川博子の書評もあったりで、気になっていたのだ。
    内容の幻想性、怖さもさることながら、文体の「とぼけた空恐ろしさ」が凄い。
    描写も人物造形もいちいちユーモラスなのに、全体として見ると嫌な感じ。
    記憶や認知がどこか歪んでいるのに、ゆめまぼろしの世界に飛んでいかず、むしろ実生活が着々と進む。
    単純に人が怖いというより、人が内面に溜め込む何かや、老いること、死ぬことが強烈に辛いので、人という存在が仕方なく怖くなってしまう、という流れ。
    「補陀落葵の間」なんかはポプラ文庫あたりに潜ませて、中高生への劇薬として送り込みたい。

    このたび知ったのは、作者の父親はフランス文学者の大濱甫(はじめ)。
    なんとマルセル・シュオッブの訳者なのだ。
    何かしら納得。

    ■ラヅカリカヅラの夢
    ■補陀落葵の間
    ■十四番線上のハレルヤ
    ■鬼百合の立つところ
    ■サクラ散る散るスミレ咲く
    ■劣化ボタン

  • 不穏さと美しさをたたえた、珠玉のゴースト・ストーリー 大濱普美子「十四番線上のハレルヤ」|好書好日
    https://book.asahi.com/article/11724366

    りんごのイチゴ狩り
    http://shiikikanae.com

    十四番線上のハレルヤ|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/sp/isbn/9784336062758/

  • 『陽だまりの果て』がとても気に入ったので大濱普美子を遡ることに。こちらも短編集。確か皆川博子さんのエッセイでもこちらの本は紹介されていたような記憶。表紙絵もとても好み(椎木かなえ http://www.shiikikanae.com/

    表題作は収録作中で一番短く、それでいてラストにきちんとカタルシスがあるタイプのお話。個人的には、とりとめのない過疎地の群像劇のような「ラヅカリカヅラの夢」と、地縛霊系(?)の「補陀落葵の間」や「鬼百合の立つところ」が怖くて面白かった。「補陀落葵の間」は、妹に好きな男を奪われるという繰り返しが陰湿でぞわぞわしたし、「鬼百合~」は死んでなおストーキングする主人公の執着とそこにいたる孤独の描写が秀逸。

    「劣化ボタン」は少しSF味があり、部屋の模様替えをバーチャルで出来るという近未来的設定の部屋に単身赴任した男性が、機能の一つである「劣化」を体験するうちにどんどん…。近い未来に実現しそうな技術だなという面白さと、そこであえて劣化ボタンを押してしまう心理のギャップがやっぱりちょっとホラーかも。

    ※収録
    ラヅカリカヅラの夢/補陀落葵の間/十四番線上のハレルヤ/鬼百合の立つところ/サクラ散る散るスミレ咲く/劣化ボタン

  • 『ちょっと、どうしたの。そう声をかけると、蒲の穂綿を取ろうとして落ちてしまったのだ、との答えが返ってきた。手首のところから曲げた指先まで、水から生えるように静かに立っていて、水面は波立たず泡の一つも浮かんでこなかった』―『ラヅカリヅラの夢』

    現代社会における遠野物語。現実は堅実な支えに寄って立ち得ているようで案外と脆い。硬い壁だと思って手を添えて歩みを進めていると、すっと手応えを失いよろめく。よろめいた先はあたかも壁一枚挟んだ向こう側の世界のよう。何もかも見知った世界そっくりだが、何か異質な存在を感じ取る。大濱普美子はその違和を巧みに物語る。少し不気味で、現実とはかけ離れた世界だが、そこに巣食う人々は誰もが汗臭い現実臭を強く放つ。架空の物語を通底する響きが、これは現実の世界の中の物語なのだと訴えてくる。

    文体や設定、物語の長短は変わりつつも、ここに並ぶ物語はいずれも異質であるということと繋がる物語である。その異質さを悟られぬよう身の内に抱え込みながら生きる登場人物たち。そのことが、ふと、異質であるとはどういうことかと問うことを強いているようでもある。啓蒙思想以降、数々の超常現象的な出来事は科学的に説明できる出来事となり、魔女や妖怪の棲む領域はほとんど無くなったかに見える。それでも洋の東西を問わず、人々は何か常識的には理解できないものを想像上の存在と結びつけて考える。妖精しかり、UFOしかり。存在していると信じる心を誰も否定することはできない。

    けれども問題の本質はそんなことではない。目に見えないけれど存在するというものが元々客観的な存在なのではなく人間の思考の癖の産物だとしたら、如何に科学が発達し蒙が啓かれたとしてもそれらが雲散霧消することはない。それどころか、現代ではむしろ在りもしない小さな差異をことさらに強調して魔女狩りのようなことすら行われる。そんな不合理な狩りの獲物にされた者に祝福を。表題作はそんな祈りのようにも見えてくる。

    多様性と唇の端で嘯いて見せても、我々の薄暗い心の闇の奥底にはとてつもなく強い同調圧力が存在する。異質であることを自覚しながらそんな世界に巣食うこと。それが現代社会におけるクレドでないとしたら何を糧に生きるのだろう。

  • なんとなく多和田葉子を彷彿とする文体だなあと思い著者略歴をみてみたら、ドイツ在住とのこと。
    現実と幻想の間が曖昧に行ったり来たりする世界観の短編集。

  • 日常の中に奇妙な出来事が交錯する幻想小説6篇。

    うまく言えないけど装画のような雰囲気が好きな人はぴったりではないだろうか。
    お耽美な世界というか夢と現実の境界が曖昧なところにいる感覚。薄暗い夜のイメージ。
    個人的には表題作より後になる方が読みやすかった。最後の「劣化ボタン」が他の話と異色。

  • 好:「ラヅカリカヅラの夢」

  • ふと店頭で見かけて購入。
    国書から出る本は独特の雰囲気があって、他社からは出そうにない雰囲気を纏っているのだが、本書もそのタイプだった。本書の前に1冊、短編集が出ているらしいので、それも探してみよう。

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著者プロフィール

1958年、東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科フランス文学専攻卒。パリ第七大学修士課程修了。著書に『十四番線上のハレルヤ』、『陽だまりの果て』(第50回泉鏡花文学賞受賞)がある。

「2023年 『猫の木のある庭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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