主の変容病院・挑発 (スタニスワフ・レムコレクシヨン)

  • 国書刊行会
3.60
  • (2)
  • (4)
  • (2)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 106
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336045041

作品紹介・あらすじ

友人との再会から、青年医師ステファンは、煉瓦塀に周囲をかこまれ、丘の頂に屹立する、ビェジーニェツのとある病院に勤務することになる。そこ、「主の変容病院」では、奇怪な精神と嗜好を有する医師と患者たちが日々を営んでいた。彼らに翻弄されるステファンだったが、やがて病院は突如姿を現したナチスによって占拠されてしまう。次々と連行される患者たちを前にステファンの懊悩はなおいっそう深まっていき……レムの処女長篇『主の変容病院』のほか、ナチスによるユダヤ人大虐殺を扱った架空の歴史書の書評『挑発』や『二一世紀叢書』など、メタフィクショナルな中短篇5篇を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 一人レム生誕100年祭り開催につき国書刊行会のレム全集完結巻を読む。

    「主の変容病棟」
    レムのデビュー作にして非SFである作品はドイツ軍占領下にあるポーランドの精神病棟を舞台にしています。主人公であるステファンは叔父のの葬儀に参列した際に従兄弟から精神病棟の医師の職を紹介され働くことになります。占領下という理不尽な環境におかれているため職もなく生き方も定められない状況は、今日のコロナ禍の世の中と共通するものがあるのではないでしょうか?ついには病棟にまで親衛隊の手が伸びてくるわけですが、無慈悲な選択をしなければならない医師たちの苦悩についても、レム自身が経験した世界をリアルに描写しているため薄ぺらではない非常な恐ろしさに満ちています。冒頭が理屈っぽく感じられましたが、病棟にきてからのエピソードは「ソラリス」を思い起こさせます。やはり最初からレムはレムだったのですね。コロナとの戦いはいわば侵略者との戦争に等しいもの。政府の対応が甘いとか他人事のような評論をしている場合なのでしょうか?自分事としてとらえないとコロナ親衛隊に連れて行かれます。

    「挑発」
    架空書評の作品が2編。ジェノサイドが80年代に発表されているのですが、ナチスの大虐殺から始まり21世紀のテロの横行を予測していて恐ろしい。

    「21世紀叢書」
    宇宙論に関する考察である「創造的絶滅原理」など、SETIを経てなお地球外文明をとらえていない謎を考察する。これも80年代の作品ですが、いまだ最先端をとらえているのではないでしょうか?SFを読む以上に衝撃的。
    「二十一世紀の兵器システム、あるいは逆さまの進化」での現行のAI開発の方向性への批判はまさしく目から鱗。レム凄すぎ!

    全集完結後の心配はこの後に読むSFの全てが薄っぺらくもの足りなく感じてしまうのでは?ということです。

  • 主の変容病院と架空の本の書評から成る。
    病院の方は新人医師の体験談のような内容だが、家族・親族との交流、病院医師間のやり取り、患者、詩人との会話がまとまりないように感じた。最後のドイツ軍の侵入で話が引き締まるが、放り出されたように終わってしまう。

    架空本の書評はそういう体裁をとった評論。晩年期の作品だけあってよく練れている。無敵のアイデアがあるように、どれもSF作品になりうるアイデアで興味深い。

  • 系推薦図書 総合教育院
    【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 989.83||LE
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=186563

  • 2018/10/3購入

  • 『スタニスワフ・レム・コレクション』も本書で完結した。ずいぶんと長かった……。まずは完結したことに安堵しているw
    完結編となる本書には、初期の長編とメタフィクショナルな短編が収録されている。後者はレムをコンスタントに読んでいる人ならば好物だろう。また、初期長編『主の変容病院』に関しては良い意味で予想外だった。
    未訳の長編や現在では入手困難なものもあるので、その辺りを拾い上げてくれる版元が何処かに無いものか……?

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

スタニスワフ・レム
1921 年、旧ポーランド領ルヴフ(現在ウクライナ領リヴィウ)に生まれる。クラクフのヤギェロン大学で医学を学び、在学中から雑誌に詩や小説を発表し始める。地球外生命体とのコンタクトを描いた三大長篇『エデン』『ソラリス』『インヴィンシブル』のほか、『金星応答なし』『泰平ヨンの航星日記』『宇宙創世記ロボットの旅』など、多くのSF 作品を発表し、SF 作家として高い評価を得る。同時に、サイバネティックスをテーマとした『対話』や、人類の科学技術の未来を論じた『技術大全』、自然科学の理論を適用した経験論的文学論『偶然の哲学』といった理論的大著を発表し、70 年代以降は『完全な真空』『虚数』『挑発』といったメタフィクショナルな作品や文学評論のほか、『泰平ヨンの未来学会議』『大失敗』などを発表。小説から離れた最晩年も、独自の視点から科学・文明を分析する批評で健筆をふるい、中欧の小都市からめったに外に出ることなく人類と宇宙の未来を考察し続ける「クラクフの賢人」として知られた。2006 年死去。

「2023年 『火星からの来訪者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スタニスワフ・レムの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ピエール ルメー...
アンナ カヴァン
テッド・チャン
サミュエル・R・...
デイヴィッド・マ...
スタニスワフ・レ...
ウンベルト エー...
劉 慈欣
円城塔
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×