生き残る判断 生き残れない行動

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962098

作品紹介・あらすじ

9.11、ハリケーン「カトリーナ」、ポトマック川旅客機墜落、スマトラ沖地震…etc.初めて明かされる生と死の分岐点。

感想・レビュー・書評

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  • 災害やテロを生き延びた人たちの記録。
    生存者たちの証言は生々しく緊迫感があって引き込まれるエピソードばかりだった。ノンフィクションとしても優れた良い本。

    大規模災害やテロといった危機の際、人間はどう振る舞い、身体はどう反応するのか?科学的な根拠を紹介しつつ何が生死を分けたか。生存者たちの証言から浮き彫りにする。
    結論からいえば、重要なことは危機に備えて準備すること。
    それだけでも生き残る確率は高くなる。日ごろの防災・避難訓練は意味があった!
    備えあれば憂いなし、という格言は科学的にも正しかった。つまり真理だったわけ。


    人間が危険から生き延びようとするとき否認→思考→行動の段階を踏む。本書の構成はこの3つの段階について、それぞれの事例と裏付けてとして科学的知見を紹介して書かれている。
    危機を否認する認知の構造。人間がパニックに陥る心理。恐怖のため身体が麻痺するメカニズム。極度のストレス下では人の視覚は狭窄になる。そして周りの動きがスローモーションになる「解離」と呼ばれる現象が起こる。などなど、ほうー!と驚くような内容。と同時に人間のあまりの複雑さに眩暈さえする。

    それだけでなく、恐怖に打ち勝つ実践的な呼吸法も書かれている。覚えておくといいよ。
    4つ数える間に息を吸い込み、4つ数える間息を止め、4つ数える間にそれを吐き出す、4つ数える間に息を止める。これをまた最初から始める。
    意識的に呼吸の速度をゆるめることで恐怖反応を段階的に小さくできる。黙想も効果あり。笑いも呼吸同様に、感情的な覚醒レベルを下げる。人は対処できると思えば、ストレスを受けてもうまく行動する。

    僕がもっとも感銘を受けたエピソードが本の最後に書かれてる。
    それは9,11テロにおけるある警備員の話。
    WTCビル内にあるモルガン・スタンレー社の警備主任、元ベトナム復員兵のリック・レスコラ。
    彼は警備主任になってから全社員2700人に対して抜き打ちの防火訓練を頻繁に行った。もちろん投資銀行である社員らはこの抜き打ち避難訓練に苛立つ。でもレスコラは気にしない。軍隊の訓練で人間性についての原則や教訓を得ていた。極度のストレスの下で脳を働かせる最上の方法は、あらかじめ何度も繰り返して練習すること。




    そして2001年9月11日の朝。ビルに飛行機がつっ込んだときレスコラは社員にビルから脱出するように呼びかけた。社員はどうすべきか分かっていた。「災害時、どこへ行くべきか知っているのは重要。なぜなら脳は機能停止してしまう。次に何をすべきか知っておく必要がある」。
    しばらくしてレスコラは炎上しているタワーから大多数のモルガン・スタンレー社員を首尾よく避難させる。それから彼はビル内に残る社員を助けに戻った。




    でもそのときタワーが崩壊した。彼の遺体はいまだに発見されていないとのこと。




    レスコラはモルガン・スタンレー社の社員に自分の身を守ることを教えた。タワーが崩壊したとき、中にいたモルガン社員は13人。うちレスコラと4人の警備員含めて。残りの2687人は無事だった。




    リック・レスコラのエピソードがこの本の核だと思う。危機のとき人間はどうなって、どういう行動をするのか?といった深い洞察と知識がある。
    大事なことは危機に備え準備すること。避難訓練と防火訓練、災害時どこに逃げ、どう振舞ったらいいのかという知識を知っているだけでも自信が生まれ、その自信が生き残る確率を高める。危機を生き延びる可能性は高くなる。

    様々な災害、大規模事故、テロから生き延びた人たちの証言から浮き彫りになったのはそんなシンプルな教訓だ。単純でしょ?シンプルでわかりやすい。
    でもだからこそ人はバカにしてやらない。めんどくさい、とか言ってね。で、危機になると騒ぐ。3月11日の震災と原発事故を経験した僕ら日本人なら腹の底まで沁みる教訓だ。




    日本語タイトルと装丁はダサいがそれらを差し引いても、実用的で且つ学術的。稀ないい本。お薦めです。

  • 最後の最後の「結論」が超流し読みになり、そこだけもっかい読まなっ、っつう終え方をしたのでちょっとばかし未消化なのだが、面白かったねぇ~~。
    結論として「こうこうこうしたら大丈夫!」ってことが書かれている本ではないよ~。ヾ( ̄▽ ̄)
    いざというとき人間という生き物が取る行動のパラドックスぶりが満載。
    (「ブラックスワン」のナシーム・ニコラス・タレブ氏も出てくる!http://bit.ly/j5l0P5
    DNAによって生き残るor残れない可能性が分かれるということもあるのだが、意識でもってそれが変化する部分もあり、何が生死を分けるのか決定的なことはわからない。
    だけど、そこから予防する手立ては見えてくる…、という1冊。
    私的には、利他的な行動も実は利己的な動機(無意識含めて)だったりするというところがとても興味深かったねぇ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「利他的な行動も実は利己的な動機(無意識含めて)だったりする」ふ~ん、この一言で読んでみたくなってきました。。。
      「利他的な行動も実は利己的な動機(無意識含めて)だったりする」ふ~ん、この一言で読んでみたくなってきました。。。
      2012/03/05
  • 大災害、テロでの生存者の行動を追った作品。その現場での行動には、やはり心理的な側面の影響が大きいという。日頃から脱出ロを確認しておくなど、準備をしておくことで、現場での状況否認、パニックといった状態を軽減することができるという。さらに本書では、災害時に人々を救出するといった行動についても、その心理を探っているのが興味深い(ある種の自己満足のためだという)。
    被災者の証言と、集められた客観的事実をもとに描かれていて、冷静な視点で臨場感たっぷりに場面が描かれている。

  • 人間は製紙が隣り合わせになるような大災害の時にどのような反応をし、どのようにふるまうのか。
    筆者はテロや火災、航空機事故などの生存者たちから丹念に聞き取ることで、人間の心理と行動を説明していく。
    タイトルからすると、「こうすれば生き残れます」というガイドのようなものにも思えるが、さすがに災害やテロは予期できないパターンもあるし、例えば航空機が上空で爆発して墜落したとしたらどのような準備があろうとも助かることはないだろう。それでも、緊急時に余計なことを考える必要がない状態、つまり避難経路はどこなのかあらかじめ押さえておく、などのことが非常時には役に立つであろうことなどが紹介されている。
    また、いわゆるパニックなるものはなく、正常性バイアスやただ凍り付いたように何もしないのも人々の反応によくあることである。事前にこのような知識を仕入れておくことでいざ自身が正常性バイアスの罠などにはまらないという保証はないと思うが、万一のリスクに備えて本書を読んでおくことであなたの人生の急な終焉を回避できるかもしれない。

  • ふむ
    ・人はなぜ逃げおくれるのか あし
    ・生と死の極限心理 け
    ・災害防衛論

  • 2001年9月11日、アメリカの世界貿易センタービルが同時多発テロの攻撃で倒壊したとき、ビルの中から逃げ出すことができた人々。
    2005年8月、ハリケーン「カトリーナ」がアメリカ、ニューオリンズに襲来したとき、市長による避難命令が出ていたにもかかわらず、自宅にとどまって死亡した住民。
    1982年1月13日、エア・フロリダの旅客機が厳寒のポトマック川に墜落したとき、救助を待つ人々を救おうと、身の危険を冒して凍りつく川に飛び込んだ男がいた。
    2007年4月16日、ヴァージニア工科大学で起きた銃乱射事件で、ただ一人生き残った学生がいた。

    大きな災害に見舞われたとき、そこから無事に生還できる人とできない人の違いは何だろう?

    東日本大震災の津波に関しても、同じようなことがいえるのではないだろうか。多くの津波にあってきた地域のはずなのに、その経験が逆に「このくらいなら大丈夫」という判断になってしまう。

    私自身がその瞬間に遭遇したとき、正しい判断ができるだろうか?

  • 9・11テロに限らず、多くの人質事件、飛行機事故、火災、洪水といった非常時に遭遇した人々の判断と行動を、生存者への綿密なインタビューと専門家への取材で解明することを試みた一冊。
    上質なドキュメンタリーであり、我々一般人に対して貴重な示唆を与えてくれる啓発本でもあります。

    非常事態に遭遇した群衆は、取り乱しパニックに陥るものと想像しがちですが、実際にはパニックはめったに起こらない。
    まず訪れるのは「否認」。
    自分が生命の危険に直面していることを信じようとしない脳の働き。
    すぐに何が適切な行動なのかを判断し、行動にうつすことのできる人は稀にしかいない。
    そしていざ行動に遷ろうとしても、視覚・聴覚は普段のように反応せず、身体も思うようには動かすことができず、脳も通常の判断力を喪う。
    即座に当たり前の避難行動ができてさえいれば失われることがなかったはずの生命が、逃げ遅れや不可解な行動により犠牲になった実例が数多紹介されます。

    いざと云う時に適切な行動をとることができるようにするために我々ができることは、「備え」をしておくこと以外にありません。
    非常事態に際した場合の適切な行動を十分に訓練しておくこと、頭の中でシミュレートしておくこと、避難路を実地で使ってみて経験しておくこと。
    そうしておくことで緊急時に脳の反応が鈍くなってたとしても、反射的に適切な行動をすることができる。

    示唆に富むことがいろいろと書かれていましたが、中でもこれはと思ったものを以下備忘も兼ねて記しておきます。

    人間の主観は、リスクの評価を正確には行わない。
    「リスク=確率×結果×不安あるいは楽観」である。
    そして、
    「不安=制御不能+馴染みの無さ+想像できること+苦痛+破壊の規模+不公平さ」である。
    よって、客観的には、心臓病や自動車事故よりもリスクが低い飛行機事故に対して、過大な不安を人間は感じてしまう。

    非常時の恐怖反応に打ち勝つためには呼吸法が有効である。
    四つ数える間に息を吸い、四つ数える間息を止め、同じく息を吐き出し、同じく息を止める。
    それを繰り返す。
    呼吸は、体神経系(意識的に制御できるもの)と自律神経系(制御できないもの)という二つの神経系に跨る活動であるからだと云われている。

    この本を読んで、とりあえず、自宅に煙探知機を設置することと、これからは飛行機に乗る時は避難路を確認し、CAさんの非常時の対処方法説明を聴くことはちゃんとやろうと心に決めました。

  • 社会

  • "災害、事故が起こった時の人間の行動を生存者からのインタビューと科学的、医学的見地からの解説がされる。人間を見つめた名著。
    自分だけは大丈夫と思いこむことや、行動するべきなのになぜかその場にとどまろうとしたがる、など人間の行動は合理的ではない。災害もビルの崩壊、火災、洪水、銃撃戦、など様々な時にその場にいた人たちのとった行動をつぶさに検証する。英雄的行為の章から最後までは感動のあまり涙がでてくる。

    著者はアマンダ・リプリーさん、今後も注目するべき人物だ。"

  • すごく面白かった。
    特に災害時の否認は、つい最近の豪雨被害で
    息子の言うことを聞かず
    死にそうになったおじさんの動画を
    ニュースでみたり、
    震災の本を読んだりしてたからとても納得。
    そういえばうちの夫は、いろんな状況を
    想像してはそれをどう切り抜けるか、
    シミュレーションを繰り返すと言っている。
    免許取り立ての時は車でもバイクでも、
    広い場所で敢えて危険な運転をして
    いかに事故をしないか実際に試したと。
    だからなのか車もバイクの運転もうまいが
    周りの人は自分は事故に合わないと言いたげに
    無責任な運転をしている人が多くて
    なかなか怖い目にもあう。
    私自身は不安症レベルで高い建物や
    地下、人混みでは逃げ道をいつも探してしまうから
    私たち夫婦はいざとなったら大丈夫だと思いたい…笑
    でも実際に何かがあったら、
    少なくとも私は否認したり固まってしまいそう。
    やはり日頃から想像でもいいから備えないとな。

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著者プロフィール

ジャーナリスト兼ノンフィクション・ライター。コーネル大学卒。主に「タイム」誌や「アトランティック」誌に、公共政策と人間の行動のあいだに生じる差異について調査した記事を書いている。ほかの著書に『世界教育戦争』(北和丈訳/中央公論新社)がある。本書は15カ国で出版された。

「2019年 『生き残る判断生き残れない行動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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