経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来 (至善館講義シリーズ)
- 光文社 (2022年2月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334952938
感想・レビュー・書評
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野田智義は、非営利の独特な教育機関であるISL(Institute for Strategic Leadership)の創設者である。ISLは、大企業の経営幹部候補を対象に、リーダーを育てる教育を行う機関である。私はこれまでに、金井壽宏先生との共著である「リーダーシップの旅」という野田智義の著書を読んだことがあり、とても共感を覚えた記憶がある。ISLを母体に、2018年には大学院大学の至善館を開校されている。
宮台真司は有名な社会学者であるが、その至善館の特任教授として講義を受け持たれていて、本書「経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来」は、その至善館での講義を著書にしたものである。
とても面白かった。社会学という学問を学んだことはないが、学んでみたくなるような書籍だった。
宮台真司と野田智義は、現代の日本社会を「社会の底が抜けている」状態であると認識している。それは、特定の大きな「悪者」がいるわけではないし、皆が悪い社会にしようと意図的に悪事を働いているわけではない。それは、社会システムの問題であり、構造的な問題である、と本書の中で主張しており、本書の大部分を使って、どんな状態なのか、その構造的な原因などを分析し語っている。
本書はISL・至善館での講義ノートなので、対象はリーダー候補の人たちだ。こういった状態の中で、あなた方は、リーダー候補としてどのように考え、どのようなアクションを起こしますか?というのが、講義の、本書の問いかけだ。
お二人が主張されていることの詳細の内容は本書に譲るが、とても漸進的で真っ当な内容であり、これらのリーダー候補の人たちが、それぞれの持ち場で本気で実践してくれると、世の中が良い方向に変わるきっかけになるかもしれないと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
リーダーシップの旅を読んでファンになっていた野田さんと宮台さんの対談本。好きなお二人の本だけにとても楽しみに読んだら、まさに自分が今悩んでいる部分に対しての処方箋となるようなコメントが数多く散りばめられていた。
とはいえ、簡単に世の中を変えられるわけでもないけれど、少し方向性が見えたような気がした。
分断を生まないようにしながら、一人一人が傍観者にならず当事者意識を持って参加する共同体を作ることが大事。それをできるファシリテーターが必要なのだと。
ファシリテーターと表現されているが、個人的にはリーダー的な人なのかなと理解している。それも偉そうなニュアンスではなく、コミュニティ意識をもってそのコミュニティを少しでもよくしたいと願う人なのだろう。 -
漠然と抱いていた違和感が明確に言語化されている。自分を取り巻く社会がどうなっているのか、どこに向かっているのか、そこから自分自身がどう影響をうけているのか、どう生きていけばいいのか、考えるきっかけになった。
耳の痛い話も多かった。
自分はフリーライドしがち。
講義形式なのと、文字数少なめでかなりわかりやすくしてあると思うので、関連書籍や著者の他の本も読みたい。 -
リベラルアーツに重きを置くなど特徴あるカリキュラムで知られる経営大学院の至善館で、社会学者の宮台真司と経営学者の野田智義が行った講義を元にした論考。もともと開学時から社会学者の橋爪大三郎などが教鞭を取っているのは認識していたのだが、まさか宮台真司まで登壇していたとは知らなかった。そしてここでの議論は今の日本、そしてこれからの日本を考えていく上で超一級の思考の補助線を与えてくれると断言できるほど素晴らしかった。
本書は「既に社会の底が抜けているこの日本社会をどのように良き社会へと変えることができるか?」という問題意識からスタートする。孤独死、無敵の人、ヘイトスピーチなど、日本社会は経済は何とか回っていても社会の底はこのような問題だらけで既に底が抜けかけた状態に至っている。そのような事態が発生しているのは、単一の悪者がいるわけでもなく、各構成員が良かれと思って行動をするうちにその総和からなる社会全体は悪い方向に進んでいく、というシステム的な観点での問題である。本書は社会学におけるニコラス・ルーマンらの社会システム論を理論的支柱とし、具体的な問題の状況を日本と海外の比較を行いながら明らかにし、そして最終的に著者2人による解決の方向性が示されていく。
実際の講義をベースとしたものということもあり、通常の宮台真司の著作からすると遥かに平易であり分かりやすく、普通に語れば極めて複雑なってしまう本書のストーリーをここまで平易に示せた点も含めて、十分な読みごたえがあった。 -
システム世界の全域化と共同体の空洞化、その結果として孤独死や人間関係の希薄化といった問題が出てきた
合理的な判断と行動の積み重ねが、人間同士の関係性を根本的に変化させ、僕らの精神的安定性を失わせている
短期的な便益を享受するために意図的にシステムに依存する行為(自律的依存)が気がつけばシステムなしには生きられない他律的依存に頽落(たいらく)する
生活世界は維持にコストがかかる
システム世界の全域化が始まると、社会の変容は基本的に不可逆となる
生活世界の維持をみんなで図ろうとしても、必ず誰かが抜け駆けしてシステム世界の便益を享受しようとしてしまう
その誰かは、他の人々と違って生活世界にタダ乗りするだけで、維持に努力を払おうとしない
孤独に耐えられない弱い個人を包摂する役割を果たしてきた生活世界がシステム世界に置き換えられると、人間関係が流動的になり、われわれは入れ替え可能な不確かな存在となる
その結果、引き起こされるのが 感情の劣化 であり、排外主義の広がりやヘイトスピーチ、高齢者クレーマーの増加といった社会現象も同じ要因によって生じる
何が自分にとって良い社会なのか
人を助けるとリターンが返ってくるから助ける社会と、困った人にただ善意から手を差し伸べる社会
権力をベースにトップダウンで命令を下すのではなく、人々の信頼を得て共同体自治の確立を向けて人々をエンパワーするリーダー
利他的・倫理的で、周囲から こんな人になってみたい と憧れるリーダー -
「経営リーダーのための」という立て付けになっているが、別にそういうことを志す人でなくても、今、この時代を生きている私たち全員に必要なことが議論されている。
社会システム論(ハーバーマスとか、ルーマンなど)は、理論的には、かなりめんどくさいのだが、ここでの議論は難しくない。今、私たちの生きている時代、世界がどんな状況なのかを大きなシステムとして捉え、そして私たちの日常で身近に起こっていることを分析している。
システムという考え方は、個々の要素だけでなく、要素間の関係もみていくということ。つまり、全体は、一つ一つの要素の単なる積み上げではないということ。
ということは、うまくいけば、システムはここの力の総計以上の力を発揮することを可能にする。一方、うまくいかなければ、みんな頑張っているのに全体としては失敗してしまうということが起きる。
現代の社会はかなり厳しい機能不全になっていると思うが、この背景に誰か悪いやつがいて、、、という陰謀論にハマるのではなく、みんな善意で頑張っているにもかかわらず、全体として厳しい状況を再生産・強化する構造になっているという理解にシステム論は到達する。
この本では、今の日本社会や世界が、個人の意志とは関係なく、システムとして進んでいく方向性とそれへの対抗・対応手段についての議論をがなされている。
議論のたどり着くところはある意味当たり前のところかもしれないが、それが唯一の正解なわけではない。答えというより、議論のプロセスがスリリングで、この辺りは実際に他の人と対話してみる価値があると思った。
そして、今、こうした本を「経営リーダー」が読むことが薦められているということにかすかな希望を感じた。
表層的ないわゆるSDGsから、今の世界をしっかりみた活動にフォーカスが移るきっかけになるといいな。 -
いやはやーめちゃくちゃ面白かった...!
豊かになっているはずなのに生きづらいのはなぜか。構造的問題は何か。そもそも、私たちはどんな社会システムに依存しているか。短期的な選択が中長期的にどのような症状を引き起こしているか。なにがセンターピンか。
いつもと違う角度からの刺激がビシビシでした。対話形式で読みやすいです。 -
損得野郎の自分にとっては胸に突き刺さる本だった。失って行く人間らしさに絶望しながら、人間らしさを取り戻す模索をしていこうと思う。