経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来 (至善館講義シリーズ)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334952938

感想・レビュー・書評

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  • 野田智義は、非営利の独特な教育機関であるISL(Institute for Strategic Leadership)の創設者である。ISLは、大企業の経営幹部候補を対象に、リーダーを育てる教育を行う機関である。私はこれまでに、金井壽宏先生との共著である「リーダーシップの旅」という野田智義の著書を読んだことがあり、とても共感を覚えた記憶がある。ISLを母体に、2018年には大学院大学の至善館を開校されている。
    宮台真司は有名な社会学者であるが、その至善館の特任教授として講義を受け持たれていて、本書「経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来」は、その至善館での講義を著書にしたものである。

    とても面白かった。社会学という学問を学んだことはないが、学んでみたくなるような書籍だった。
    宮台真司と野田智義は、現代の日本社会を「社会の底が抜けている」状態であると認識している。それは、特定の大きな「悪者」がいるわけではないし、皆が悪い社会にしようと意図的に悪事を働いているわけではない。それは、社会システムの問題であり、構造的な問題である、と本書の中で主張しており、本書の大部分を使って、どんな状態なのか、その構造的な原因などを分析し語っている。
    本書はISL・至善館での講義ノートなので、対象はリーダー候補の人たちだ。こういった状態の中で、あなた方は、リーダー候補としてどのように考え、どのようなアクションを起こしますか?というのが、講義の、本書の問いかけだ。
    お二人が主張されていることの詳細の内容は本書に譲るが、とても漸進的で真っ当な内容であり、これらのリーダー候補の人たちが、それぞれの持ち場で本気で実践してくれると、世の中が良い方向に変わるきっかけになるかもしれないと感じた。

  • リーダーシップの旅を読んでファンになっていた野田さんと宮台さんの対談本。好きなお二人の本だけにとても楽しみに読んだら、まさに自分が今悩んでいる部分に対しての処方箋となるようなコメントが数多く散りばめられていた。
    とはいえ、簡単に世の中を変えられるわけでもないけれど、少し方向性が見えたような気がした。

    分断を生まないようにしながら、一人一人が傍観者にならず当事者意識を持って参加する共同体を作ることが大事。それをできるファシリテーターが必要なのだと。
    ファシリテーターと表現されているが、個人的にはリーダー的な人なのかなと理解している。それも偉そうなニュアンスではなく、コミュニティ意識をもってそのコミュニティを少しでもよくしたいと願う人なのだろう。

  • 漠然と抱いていた違和感が明確に言語化されている。自分を取り巻く社会がどうなっているのか、どこに向かっているのか、そこから自分自身がどう影響をうけているのか、どう生きていけばいいのか、考えるきっかけになった。

    耳の痛い話も多かった。
    自分はフリーライドしがち。

    講義形式なのと、文字数少なめでかなりわかりやすくしてあると思うので、関連書籍や著者の他の本も読みたい。

  • リベラルアーツに重きを置くなど特徴あるカリキュラムで知られる経営大学院の至善館で、社会学者の宮台真司と経営学者の野田智義が行った講義を元にした論考。もともと開学時から社会学者の橋爪大三郎などが教鞭を取っているのは認識していたのだが、まさか宮台真司まで登壇していたとは知らなかった。そしてここでの議論は今の日本、そしてこれからの日本を考えていく上で超一級の思考の補助線を与えてくれると断言できるほど素晴らしかった。

    本書は「既に社会の底が抜けているこの日本社会をどのように良き社会へと変えることができるか?」という問題意識からスタートする。孤独死、無敵の人、ヘイトスピーチなど、日本社会は経済は何とか回っていても社会の底はこのような問題だらけで既に底が抜けかけた状態に至っている。そのような事態が発生しているのは、単一の悪者がいるわけでもなく、各構成員が良かれと思って行動をするうちにその総和からなる社会全体は悪い方向に進んでいく、というシステム的な観点での問題である。本書は社会学におけるニコラス・ルーマンらの社会システム論を理論的支柱とし、具体的な問題の状況を日本と海外の比較を行いながら明らかにし、そして最終的に著者2人による解決の方向性が示されていく。

    実際の講義をベースとしたものということもあり、通常の宮台真司の著作からすると遥かに平易であり分かりやすく、普通に語れば極めて複雑なってしまう本書のストーリーをここまで平易に示せた点も含めて、十分な読みごたえがあった。

  • システム世界の全域化と共同体の空洞化、その結果として孤独死や人間関係の希薄化といった問題が出てきた

    合理的な判断と行動の積み重ねが、人間同士の関係性を根本的に変化させ、僕らの精神的安定性を失わせている

    短期的な便益を享受するために意図的にシステムに依存する行為(自律的依存)が気がつけばシステムなしには生きられない他律的依存に頽落(たいらく)する

    生活世界は維持にコストがかかる
    システム世界の全域化が始まると、社会の変容は基本的に不可逆となる
    生活世界の維持をみんなで図ろうとしても、必ず誰かが抜け駆けしてシステム世界の便益を享受しようとしてしまう
    その誰かは、他の人々と違って生活世界にタダ乗りするだけで、維持に努力を払おうとしない

    孤独に耐えられない弱い個人を包摂する役割を果たしてきた生活世界がシステム世界に置き換えられると、人間関係が流動的になり、われわれは入れ替え可能な不確かな存在となる
    その結果、引き起こされるのが 感情の劣化 であり、排外主義の広がりやヘイトスピーチ、高齢者クレーマーの増加といった社会現象も同じ要因によって生じる

    何が自分にとって良い社会なのか
    人を助けるとリターンが返ってくるから助ける社会と、困った人にただ善意から手を差し伸べる社会

    権力をベースにトップダウンで命令を下すのではなく、人々の信頼を得て共同体自治の確立を向けて人々をエンパワーするリーダー
    利他的・倫理的で、周囲から こんな人になってみたい と憧れるリーダー

  • 「経営リーダーのための」という立て付けになっているが、別にそういうことを志す人でなくても、今、この時代を生きている私たち全員に必要なことが議論されている。

    社会システム論(ハーバーマスとか、ルーマンなど)は、理論的には、かなりめんどくさいのだが、ここでの議論は難しくない。今、私たちの生きている時代、世界がどんな状況なのかを大きなシステムとして捉え、そして私たちの日常で身近に起こっていることを分析している。

    システムという考え方は、個々の要素だけでなく、要素間の関係もみていくということ。つまり、全体は、一つ一つの要素の単なる積み上げではないということ。

    ということは、うまくいけば、システムはここの力の総計以上の力を発揮することを可能にする。一方、うまくいかなければ、みんな頑張っているのに全体としては失敗してしまうということが起きる。

    現代の社会はかなり厳しい機能不全になっていると思うが、この背景に誰か悪いやつがいて、、、という陰謀論にハマるのではなく、みんな善意で頑張っているにもかかわらず、全体として厳しい状況を再生産・強化する構造になっているという理解にシステム論は到達する。

    この本では、今の日本社会や世界が、個人の意志とは関係なく、システムとして進んでいく方向性とそれへの対抗・対応手段についての議論をがなされている。

    議論のたどり着くところはある意味当たり前のところかもしれないが、それが唯一の正解なわけではない。答えというより、議論のプロセスがスリリングで、この辺りは実際に他の人と対話してみる価値があると思った。

    そして、今、こうした本を「経営リーダー」が読むことが薦められているということにかすかな希望を感じた。

    表層的ないわゆるSDGsから、今の世界をしっかりみた活動にフォーカスが移るきっかけになるといいな。

  • いやはやーめちゃくちゃ面白かった...!

    豊かになっているはずなのに生きづらいのはなぜか。構造的問題は何か。そもそも、私たちはどんな社会システムに依存しているか。短期的な選択が中長期的にどのような症状を引き起こしているか。なにがセンターピンか。
    いつもと違う角度からの刺激がビシビシでした。対話形式で読みやすいです。

  • ボスから薦められ、読了。読み進める中で、自身も「システム世界」の一員であり、利便性を追求する余り、無思考/無感覚になっている可能性を強く意識した(例えば、毎日コンビニ弁当を摂取するなど)。もちろん、これは現時点の自分にとっては合理的な訳だが、システム世界に浸かることによる不の可能性を常に念頭に置くことは肝要と思う(コンビニ弁当が自身の味覚を形成すると思うと、それは必ずしも本意ではない)。
    また、必ずしもシステム/テクノロジーを全否定するわけではなく、その利便性を享受しつつも、自身が帰属する共同体および共同体から自身が享受している恩恵に思いを馳せることもまた、本書から感じ取った要素の一つ。以下にも引用している通り、システム世界で強く生きるためには、そのベースとなる共同体が不可欠。共同体の存在を忘却/軽視し、維持コストを払わなければ、いつの間にか自身も「底の抜けた人間」になっている、という恐ろしい顛末になりかねない。どのような感情を持つ人と仲間になりたいか/ありたいかを考え、その維持に向け、自身は何を請け負う/与えることができるか、という視点が必要と感じた。


    特に印象に残った箇所は以下の通り
    ・「ただし、未来の設計は必ずしも論理的な帰結から導かれるものではないということだけは再度強調しておきたい。コンピューター科学者のアラン・ケイが述べているように、未来は選択するものだし、選択の主体は僕たちだ」(p.21)
    ・「構造的問題の最大の特徴は、「悪役がいない」ということだ」(p.57)
    ・「共同体には必ず維持コストがかかります(中略)共同体からいいものだけを引き出し、コストをかけないという「いいとこ取り」はできません。つまり、「絆には絆コストがかかる」のです。しかし、人々がそのことをわきまえない場合、共同体なんかにコストをかけるよりは、システムからベネフィットを引き出す方が、コストパフォーマンスは高いというふうに損得計算するようになります。すると、システムに依存するうちに、共同体を空洞化させてしまうのです」(p.81)
    ・「自信を入れ替え可能な存在だと思う人間は、他者のことも入れ替え可能な存在だと見なす」(p.103)
    ・「日本では最近「グローバルで戦えるような強い個人を育てよう」といったスローガンが掲げられますが、間違いです。人は強くありませんし、強く見えても病気や事故でヘタレます。弱い個人を包摂する共同体、つまり代替不可能な人間関係を備えたホームベースが維持されて初めて、システム世界で強く生きられます」(p.126)
    ・「「気にかかる仲間」がいるという事実をベースにした同心円的な想像力の働きの延長線上で、初めて「全体についての意識」が生まれるのです」(p.254)

  • 損得野郎の自分にとっては胸に突き刺さる本だった。失って行く人間らしさに絶望しながら、人間らしさを取り戻す模索をしていこうと思う。

  • 冒頭で語られる「日本は社会の底が抜けた状態」というのが、本書を読むことでよく理解できる。また講義形式のせいか、難解な社会システム論が理解しやすく語られているのと、受講生による質問で議論が更に深まっている。

    本書では、市場・行政を”システム世界”と呼び、その拡大により、人々の感情劣化(利他性が損なわれ、損得勘定が主な価値判断となる)と孤立化が進んでいると言う。それが仲間意識の希薄化・分断となり、民主政の機能不全に繋がっている。
    民主政は、それを営む人間の”善意”や”倫理”が前提となっており、いかに維持が難しいかということと、自分自身も損得勘定の価値判断にすっかり染まっていることに気付かされた。

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著者プロフィール

宮台真司:1959年宮城県生まれ。社会学者、映画評論家。東京都立大学教授。1993年からブルセラ、援助交際、オウム真理教などを論じる。著書に『まちづくりの哲学』(共著、2016年、ミネルヴァ書房)、『制服少女たちの選択』(1994年、講談社)、『終わりなき日常を生きろ』(1996年、筑摩書房)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(2014年、幻冬舎)など。インターネット放送局ビデオニュース・ドットコムでは、神保哲生とともに「マル激トーク・オン・ディマンド」のホストを務めている。

「2024年 『ルポ 日本異界地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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