砂漠の影絵

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (465ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334911355

感想・レビュー・書評

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  •  尊敬する石井光太さんのフィクション。イラク日本人人質事件が題材です。〝首切りアリ″率いるイスラム武装組織「イスラム聖戦旅団」に、5名の日本人が拘束されます。要求は、自衛隊のイラクからの撤退です。

     読んでいるとき、石井光太さんは、いろいろな制約があるからフィクションの形で書いたのかなと想像していましたが、インタビューを読むと、そういうわけではなく、異なる立場の多くの登場人物のそれぞれの視点から多角的にこの問題を書きたかったからフィクションにされたようです。もちろん、今までの詳しい取材から得た事が反映されてはいます。

     人質になった方が、武装組織の人に囲まれて要求を言わされる動画など、当時ニュースなどで目にしたのを鮮明に覚えています。自己責任論が飛び交いましたね。この小説にも、その自己責任論が出てきます。

     読んで一番唖然としたことは、自分が、ニュースなどの映像で見た、ほんの一部のみを全てのように真に受けて、その背景にあるかもしれない大部分の事を想像できていなかったことです。

     当時、報道を見て、捕らえられた人達は自己責任だという意見に私も特に異論を感じなかった。政府が直ちに退去するように言っていたのだからと。でも、もしこの小説の裕樹のように、日本国民が、石油などの資源をより良い状況で使えるように会社から言われて仕方なく行ってくれている人が人質になってしまっていたら?と想像できたら、考えはまた違っていたはず。

     そして、映像から武装組織=とにかく酷い人たち、と刷り込みのように思考停止に陥っていたけれど、彼らの経験してきたこと、元々はささやかな普通の幸せを送りたいだけという平和への思いをことごとく他国の大国に砕かれていたと知れば、その見方はまた大きく変わってくる。本当の悪は誰なのか?自ずと見えてくる。


    石井光太さんがインタビューでこう言っている。
     ‥もし自分が処刑される立場になったら、遺族に「彼らを恨まないでくれ」と言い残すと思う。それは、彼らも悪い人ではないというような綺麗事を言いたいのではなく、自分の死を肯定したい、国際社会にとって意味を持たせたいとの思いからだ。実際は無駄死にかもしれませんけど。…

     とても重かったですが、事件の背景にあった歴史や思い知れ、ひとつの事象に対して多角的に想像する大切さを教えてもらいました。

  • 2004年のイラク邦人人質事件をモデルにした小説。

    ほんとうのところはわからない
    けど
    善悪は考えや思想、立場によって大きく異なる
    人の命に大小はないし
    等しく平等であると
    でも
    そう扱われていない現実がある
    結局やっていることはおんなじ
    だからといって
    傍観せざるをえない私たちも同じなのかもしれない
    そんなメッセージを切に感じる
    だからこそ
    今の環境に感謝して
    目の前にあるものを精一杯大事にするしかないと
    ただ
    情報や世論や多数決
    そういったものに振り回されずに
    自分自身で判断できるようにならなければいけないと切に感じた。

    2015年

  • 2004年のイラク邦人人質事件をモデルにした小説。
    たとえそれが自分たちの国を守るためだったとしても、決してテロは許されるべきではない。人の命を簡単に奪ていいはずがない。けれど…
    なぜこんな哀しい状態が何年も何十年も続いているのだろう。
    「なんで個人と個人ではわかり合えるのに、国や組織だとそれができなくなっちまうのかな」
    誰もが、ただ幸せに暮らしたいだけなのに。

  • 泣いてしまった。あまりに哀しい。憎しみや苦しみのない世界が欲しいという願いは、いつになったら叶うのだろう。

  • 自己責任。確かに人質事件の時にそう思っていたことが思い出された。どんな事情でイラクに向かったのかも知らず、世間に流されるままに。そして居場所を無くして大切な人を失った人が、そうさせた欧米や日本のことを憎く思うのも当たり前だなあ、そんなことも考えることも無かったことが恥ずかしく思う。あんな残虐な方法で殺されてなお、自己責任で批判された被害者やご家族の方を思うと胸が詰まる。
    読んでよかったなと思いました。

  • イスラム過激派の視点から、彼らの活動や世界に発するメッセージを理解させてくれる本。

    なぜテロを引き起こすのか、なぜ戦い続けるのか、誰が悪者なのか、を考えさせられます。

    日本にいると欧米側の視点で物事を見ることが多いので、こう言った本を通してより中立的な視線で物事を見れるようになるのは良いことだと思う。

  • アラブ人の視点からイラク戦争を考えた事がなかった。それに気づかされた。ただ、平和を求めてのテロ、平和のための戦争は、ない。

  • フィクションかーと思ったけど長年の取材が効いてるのかよかった

  • 2018.5 報道されない戦争の残酷さ。でも攻撃できない日本の人質を殺していくのは全く許せない。

  • 重いテーマながらある意味物語の流れは予想できてたのだが,最後の最後に出てきた遺書とのギャップ,あるいはそれならどいういうやり方が良かったのかという思いに,やりきれない気持ちになった.この不幸の連鎖をどうすればいいのだろう.

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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