煙突の上にハイヒール (光文社文庫 お 46-1)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334764227

作品紹介・あらすじ

恋人にだまされた織香は、大きな衝動買いをした。一人乗りのヘリコプターMewだ。心躍る飛行体験が、彼女の前に新しい世界を拓いてゆく(表題作)。

猫の首輪に付けた超軽量カメラ。猫目線の隠し撮り映像には、思いもかけないものが映っていて…(「カムキャット・アドベンチャー」)。

人とテクノロジーの関わりを、温くも理知的な眼差しで描く、ちょっぴり未来の五つの物語。2009年に刊行された単行本が文庫化。

感想・レビュー・書評

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  •  近未来を舞台にした作品5編収録のSF短編集。

     近未来といっても10年、20年先というわけではなく、場合によっては数年先にはこうなっているのではないか、という作品ばかりです。

     そのためか出てくる登場人物たちも身近に感じられるキャラが多いです。表題作の「煙突の上にハイヒール」は結婚詐欺師に騙されかけたOLさんが主人公。
    「カムキャットアドベンチャー」では近所の猫に餌をやる男子大学生、「イブのオープンカフェ」では彼氏と別れたばかりの女性が主人公です。

     SFのイメージで強いのは宇宙人、宇宙開発、アンドロイド、科学による人間の変容などなのですが、この短編集はそうした大げさなものでなく、
    普通の人たちが、ほんの数年先の未来で実現されていそうな技術に触れることで、少しいい風に自分の世界を変えていくのです。

     その短編集全体につらぬかれたテーマは、最終話「白鳥熱の朝に」でも変わりません。この短編の舞台はパンデミックによって多くの日本人が死んだあとの日本が舞台です。

     そんな厳しい現実に登場人物たちは置かれながらも、それでも彼らは前を向いて歩き続けます。

     小川さんはたとえどんな未来が訪れても、それでも人間は前を向き進み続けられる、というメッセージを作品に込めているのではないでしょうか。
     
     だからこの短編集の中で少し異質の「白鳥熱の朝に」も含めたどの短編にも、ほんの少し先の未来への希望と、人間への温かな視点を感じながら読むことができました。 

  • 近未来の社会が舞台で個人飛行用プロペラやロボットが登場するのですが、SFという言葉を使ってしまうには良い意味で現実味があり過ぎる。
    テクノロジーが生活の中に自然に溶け込んでいるからか、登場人物が素敵だからか。
    いずれにせよ、他に類のない魅力的な作風です。

  • 面白かったです。どれも傷ついた人の再生の話。最初の方はまだ軽いのですが、終わりは・・・最後の一編はパンデミックの話。死傷者が膨大為、でた里親制度。狩野のもとにきた少女の秘密がそしてその耐える姿が痛々しい。

  • 中村佑介氏のイラストが作品世界にピッタリ!少し先の未来を描いた5つの短編は、「少し先」だからこそ身近で。優しい目線のSFは読みやすく、構成もうまく、飽きることなく読めた。
    比較的とっつきやすかった表題作、するっと読めた反面ひねりがなさすぎたかな?とも思ったんだけど、2話・3話と読み進めるほどストーリーがちょっとずつ複雑に重めになっていく。
    最終話「白鳥熱の朝に」は、パンデミックが何だかリアルで、自分の中でうまく消化ができなかったけれど…誠実な作者の視線にはとても好感が持てた。
    文庫の帯に「こんな未来なら、悪くないと思いませんか?」とあったけど、本当にそう思うよ。テクノロジーの進化とうまく人間が共存していければ、実現するかもしれない作品中の「未来」に生きる自分を想像するのが、楽しみになる。

  • 確か単行本を買った気がするのですが読んだ覚えが無いしどこかにまぎれてしまったのでしょう。と言う訳で短編集、面白かったです。

    私もお空の散歩はしてみたいなあ…。そして猫カメラは是非私もやってみたい。彼らはどこで何をしているのだろう、といつも不思議だったので。そして個人的にはピグマリオンな話は面白かったです。なるほど愛されるために世界を、自分を変えてしまうとは。なかなか出てこない発想だと思います。

    伝染病の話は薄ら寒い感じです。いつ、どこでこれほど強力なウィルスが発生してもおかしくない。発症後致死率の高い伝染病が空気感染で人から人、動物から人へとうつったら。少し前の口蹄疫病でもあれほどの大パニックになったのだから人だったら…と考えるとあながち絵空事でも他人事でもないよな、と思うのです。
    そして私が小川さんの作品が好きなのもそこなんだなあとしみじみ思います。何の規制もない、荒唐無稽な世界を描くのではなく、実際ありえそうな未来であったりありえそうな技術であったり、実際そうなりそうな未来を描くので読んでいて考えさせられたり身につまされたりするのだな、と。

  • 日常の謎ならぬ日常のSF、とも言うべき短篇集。

  • SF度は低めなれど、ぐいぐいと引き込まれる。
    坂木司の解説も秀逸。

  • どの話も印象的で、読みやすく面白いです。
    最後の話、2008年に書かれているので驚きました。まるで今のコロナ禍を予見しているかのような話です。この話のように、いつか朝が来ることを信じたいですね。

  • 読みやすく、面白かった。

  • 小川氏と言えばSF。

    今回は身近にありそうなSFの短編で、いろいろ興味深かった。
    小型の背負って飛べる飛行機や、ロボットなど、
    本当に近い未来に実現しそうな話でワクワク。
    どんな未来になるのか、考えるだけで楽しい気持ちにさせてくれます。

    そんな気分でいたところに最後の短編は
    重たいテーマで隕石が落ちてきたよう感じなんですが、
    でも、一番最後のウイルス感染の話がリアリティある。
    というか、本当に起きるんでないかい?

    いろんな未来を考えておくって、必要なことなのかもしれない。

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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