梁塵秘抄 (光文社古典新訳文庫 Aコ 6-1)

著者 :
制作 : 後白河法皇 
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752309

作品紹介・あらすじ

歌の練習に明け暮れ、声を嗄らし喉を潰すこと、三度。サブ・カルチャーが台頭した中世、聖俗一体の歌謡のエネルギーが、後白河法皇を熱狂させた。画期的新訳による中世流行歌100選!「わたしはバカな女です」「マリーのひとりごと」「わが子ゆえの嘆き」「も一度抱いて」etc。

感想・レビュー・書評

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  • あなたの 約束 忘れない
    信じて 信じて 待っている
    あなたの 名前を呼ぶだけで
    ほんとの 幸せ やってくる

    誰が歌っている演歌だろうか?いや、そうじゃない。今から900年ほど前、京の都を中心に流行した「今様」という歌謡の歌詞を川村湊さんが今様に訳したものです。
    本歌はこうです。

    阿弥陀仏の誓願ぞ 返す返すも頼もしき ひとたび御名を称うれば 仏になるとぞ説い給う

    大嘘じゃないか!百歩ゆずって意訳のし過ぎじゃないか!と思うだろうか?私はそうは思わない。当時、庶民にとっては阿弥陀仏は単なる仏様ではなかった。仏像や歌い手は時にはアイドルそのものだった(参考 五木寛之「親鸞」)。庶民がこの歌を歌うとき、おそらく意味合いは上の歌詞そのものだった、と私は思う。

    それにしても素晴らしい訳業だと思う。そのまま、誰か曲をつけて売り出して貰いたいものだと本気で思う。もちろん出来不出来はあります。

    また、今から900年前に、既に庶民の間では歌謡曲の条件が揃っていたということが、生き生きとわかる素晴らしい「古典」だと思う。ここでの訳業は全体の1/5も無い。また、歌謡曲だけでなくて、「前口上」「ピン芸人」「風刺」「阿保芸」等々、凡ゆる娯楽の素地が生まれている可能性がある。しかも「梁塵秘抄」はたまたま近代に見つかったもので、全体の一部に過ぎないらしい。ホントの全体像は未だ謎なのです。後白河法皇が、まるで憑かれたようにカラオケボックスに籠っていたのがわかる気がする。録音機が無いのを法皇は残念がっていたが、せめて歌詞だけでも纏めてみたいと思い、精力傾けて編纂したのもわかる気がする。おそらく居たはずのスーパースターの歌声と曲調は如何なものだったのだろうか?庶民文化史の燦然と輝く裾野を見せ、想像させる面白い訳業でした。

  • 原文をチラチラ見ながら、大胆に現代歌謡曲の歌詞風に翻案して感性で読ませる斬新なスタイル。ふむ、こうやって移し替えるのか、とニヤリとできる楽しみがあった。肩の凝らない古典でありながら、「遊びをせんとや生まれける・・」は読みようによって、人としての根幹を揺すぶる素朴な力がある。かようなものを後世に残してくれた後白河法皇の日本文化への貢献は、まっこと素晴らしいです。

  • (遊女)遊びをするために生まれたのか。戯(たわむ)れをするために生まれたのか。(無心に)遊んでいる子どもの声を聞いていると、自分の心も揺れ動いてしまう。※貴族の前で遊女が演じた歌を集めてまとめたもの。後白河法皇『梁塵秘抄』1180

    道長批判。『大鏡』
    道長賛美。『栄華物語』
    *平安後期。院政。

  • 「一週間のご無沙汰です。歌は時代とともに、時代は歌とともに。神仏讃えるその歌も、恋の謡へと変えましょう。平安時代の流行歌『後白河・歌のアルバム』、古人の思いを言葉にのせて...』そんなナレーションをつけたくなるような、思い切った翻訳の梁塵秘抄です。訳そのものは若干、悪乗りしすぎていたり乱暴な気もしますが、そのままでは硬く身構えてしまいそうな今様を身近に感じさせてくれます。昭和歌謡テイスト溢れるアレンジなので、若い世代には古臭く感じられるかもしれませんが、こういった試みは良いと思います。

  • 遊びをせんとや生まれけん
    戯れせんとや生まれけん
    遊ぶ子供の声聞けば
    わが身さえこそゆるがるれ

    で有名な『梁塵秘抄』の現代意訳付きの文庫。900年前の人間の思考法を知る上において、日本ほど豊かな文献が残っている地域は少ない。そして、苦しみ悲しみ喜びを表現し、生き生きと人生を謳歌している日本人の姿を見ると、過去の文献の存在価値がありがたくさえ思えてくる。

    原歌380
     遊女の好むもの 雑芸 鼓 小端舟
     大笠翳(かざし)艫取女(しもとりめ)
     男の愛祈る百大夫(ひゃくだゆう)

    これを読んで見ても人間が進歩したとはとても思えない。日本人の思考法はこの1000年不変なのだ。そういうことを知れるのが古典の面白さであり、偉大さである。
    またそれを編纂した後白河法皇に対する興味も沸くというものだ。

    本書の評価が☆2に過ぎないのは、意訳があまりに陳腐で古臭いからであり、『梁塵秘抄』の価値を下げるものではない。訳者が昭和歌謡が好きなのはよいが、もう完全に訳者の陳腐なオリジナルと化したポエムを読んで、『梁塵秘抄』の何がわかるというのだろう・・・。正気の沙汰とは思えない。

  • 遊びをせんとや生まれけむ、の梁塵秘抄。一度読んでみたいと思っていた。川村湊氏が現代訳も現代訳、かなり現代向けにくだいて、しかもあとがきにあるように、大好きな女性演歌の風味もとりまぜて。おもしろい試みと思いながら読了。今様、当時の流行歌。ちょっと仏を「あなた」にして恋歌にしたてるのはピンとこなかったけれど。読経も富くじも独楽つかいも当時は芸能だったのは寡聞にして知らず。◆「仏も昔は人なりき」「万の仏に疎まれて 後生わが身をいかにせん」「あまりに興あらむとすることは、必ずあいなきものなり」◆作者と歌い手は別であり、歌い手のそれぞれで歌の意味が異なるということも示され。

  • 中世あたま(平安時代末期)に後白河上皇が集めた今様集。
    基本的な構成は、昭和歌謡風の現代語訳・原文・訳者の解釈やコメントからなるパートが100個。

    これは現存している梁塵秘抄の一部を取り出したもので完訳ではない点、出版から10年足らずで訳自体の現代感覚がすでに過去のものになっている(まあ10年ちょっと前のおじさんの感覚と、今の30代の感覚が合うことはない)ことに留意する必要はあるけれど、読んでいて楽しかったから、まあよいし、こういう試みの面白さが、初期の光文社新訳文庫の強みだったとも思うし。

  •  中世日本の流行歌である「今様」を集めた古典から100の歌を選び、なんと演歌調・ムード歌謡調に“超訳”したもの。もちろん原文も載っているし、曲ごとに短い解説も付されている。

     どんな訳か? たとえば、『梁塵秘抄』に多い「法文歌」(仏教歌)に頻出する「仏」という言葉は「あなた」と訳され、恋の歌に置き換えられている。
    「仏は様ざまに在(いま)せども 実(まこと)は一仏なりとかや」が、「わたしには やさしい あなた/でも あなたには いくつもの 顔がある/ほんとうの あなたは ひとりなのに」になるという具合。

     橋本治の『桃尻語訳 枕草子』みたいなものか。
     ちなみに訳者の川村は、以前にも古典新訳文庫で、親鸞の『歎異抄』を関西弁で現代語訳するという試みをしている。

     本書の大胆な訳は賛否両論のようだが、私はどちらかというと「賛」。
     古典新訳文庫はとっつきにくい古典を親しみやすくするためのシリーズなのだろうから、本書の試みは企画意図にぴったり合っていると思う。少なくとも私は、これまで読んだことがなかった『梁塵秘抄』を、本書のおかげでまがりなりにも読めた。

     いまどきのJポップ調ではなく、あえて昭和歌謡のテイストで訳してあるあたりも、キッチュでよい。まあ、悪ノリしすぎな感じの訳も散見されるが……。

     川村自身による各曲の解説も、教科書的な堅苦しさはなく、ウィットに富んだ面白いものになっている。

     それにしても、本書にも多く選ばれている「法文歌」を読むと、中世の庶民の生活にいかに深く仏教が根付いていたかを、改めて思い知らされる。
     いまでいえば、AKB48がヒット曲の中で仏への渇仰を歌っちゃうようなものだろうから……。

  • 今様・現代風remix
    ぶっ飛びすぎていて、ちょっとね…。

  • 詩歌
    古典

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著者プロフィール

1951年2月、網走市に生まれる。文芸評論家。1981年「異様なるものをめぐって──徒然草論」で群像新人文学賞(評論部門)優秀作受賞。1993年から2009年まで、17年間にわたり毎日新聞で文芸時評を担当。木山捷平文学賞はじめ多くの文学賞の選考委員を務める。2017年から法政大学名誉教授。
『川村湊自撰集』全五巻(作品社、2015‒16年。第1巻 古典・近世文学編、第2巻 近代文学編、第3巻 現代文学編、第4巻 アジア・植民地文学編、第5巻 民俗・信仰・紀行編)。

「2022年 『架橋としての文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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