聖餐城 (光文社文庫 み 16-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (864ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334747565

作品紹介・あらすじ

「馬の胎から産まれた少年」アディは、新教と旧教が争う三十年戦争の戦地を渡り歩きながら育った。略奪に行った村で国王にも金を貸すほど裕福な宮廷ユダヤ人の息子イシュアと出会う。果てない戦乱のなか傭兵となったアディは愛してはいけない女性に思いを寄せ、イシュアは権謀を巡らし権力を握ろうとする。二人の友情を軸に十七世紀前半の欧州を描く傑作歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「死の泉」も「薔薇密室」も相当分厚かったけど、これはそれを上回る分厚さ。850ページ越え。通勤電車での読書用に持ち歩けないのでせめて上下巻に・・・というささやかな苦情はさておき、分厚さだけの読み応えは十分でした。

    舞台になっているのは17世紀ヨーロッパ、三十年戦争中の神聖ローマ帝国。現代とは名前の違う国も多いし、プロテスタントとカトリックの対立、ハプスブルグ家と諸侯の力関係、そういった歴史的背景を把握するのに時間はかかるのですが勉強にはなりました。

    正直、とにかくずっと作品の中で戦争が続いているので、読んでいるこちらまで疲弊してきます。もちろんその時代背景ありきの物語なのですが、人間たちのドラマは戦争の合間にちょこちょこ挟まれる感じなので、タイトルになっている「聖餐城」や「青銅の首」錬金術師やホムンクルスといった要素はあまり主要な題材として扱われておらず、読後感はもっぱら歴史小説のそれ。もうすこし伝奇・ゴシック的要素を期待していたので、そういう面では拍子抜けはしましたが、小説としては文句なく面白かったです。

    アホっぽいですがキャラ萌え的な部分で、ローゼンミュラー隊のフロリアン隊長はちょっとしたアイドルでした(笑)。何より主人公のアディが心酔しているので、読者としても共感しやすい。実の兄には執念深く復讐をくわだてるイシュアが、アディのことだけは献身的にフォローしまくるのも健気で愛おしい。地名や人名がドイツ系なので、ある意味、銀英伝的なノリで、ひたすら続く戦闘描写も読めてしまったのかも。

  • 純粋というわけではなく、愚直に隊長に誓いを立て
    しかし幼き恋心、不条理な制度と、からめとられて
    自分の弱さと向き合いながら必死に生き抜くしかない、
    この無秩序な世界に秩序を求め
    不条理な死に向き合い、なすすべもなく流され
    何か何者かになろうとしながら
    他者のために生きる他者のためにも祈ることで
    約30年間、戦争、いや略奪や暴虐のなか国が荒れ果てる
    この世を嘆きながら、希望を追う主人公

    そんななか、現実を突き付け、冷たく突き放すようで
    ずっと寄り添い、同意できないかもしれないけど
    手を差し伸べ続ける『友』の姿。

    分厚い、なぜ上下巻にしない、でも三十年戦争だから
    30年分ならこれぐらいのボリュームになるでしょうか。
    歴史の、駆け引き、謀略、なんかそういう”汚さ”の中
    何が本当のきっかけかわからないけど
    男二人の人生の、魂の共鳴を中心として
    すがすがしく一気に読める気がするのだ。

  • ドイツを中心に30年間続いた戦争が舞台。学生時代には殆ど省略されて学んだから知識がないのでなかなか難しかった。始めは宗教戦争だったのが諸外国の介入で政治的利益を求めるものになったような感じであってるのかな(-_-;)
    フロリアンへの忠誠とユーディトへ恋の狭間で揺れ動くアディがもどかしく、兄への復讐の時を待ちながらアディに見返りもなく献身するイシュアが痛々しい。
    物語自体はアディとコーヘン家の長男シムションを視点としているのでイシュアの感情が語られることがなく余計に想像を掻き立てられ、読み終わった時に孤独な感じがして寂しくなった。

  • 理想を求める自分と、冷徹な自分が、アディとヨシュア。

    大変な時代に、青臭い理想を抱いて生き抜く話が好きだ。戦争や拷問の表現はなるべく想像しないように読んだ。

    アディは視点を変えたら、女の人生を振り回した男なんだろう。

    アディは、ユーディトを無二だと思いながらも、いつも違う人に命を捧げている。法が駄目でも内縁関係とか(それもつらいか)抜け道はあるがな( ゚Д゚)
    「大事だと言われながらも、一番欲しいものをもらえない」関係だよね。悪い人間でないからこその残酷さ。

    でも、読んでた時は、淡い恋の感じがしてよかったよ(突然ほめる)

    アディに共感して読んでいたけど、ラストでヨシュアに持っていかれた。さみしくなった。
    ベルセルクをアニメでみたせいか、序盤にヨシュアが行かされた牢獄を想像したらどぎつ過ぎて怖かった。

    シムションをみていて、生かされる人間は生かされるんだなと思った。たまにいるよね。

    海賊女王の時も思ったけど、彼女の作品好きかも。

  • 実は、結構好きな、中世ヨーロッパが舞台。

    本来なら知り合う事もなかったような、運命的な出会いを果たした、アディとイシュア。
    血の繋がった親や兄弟でさえ、裏切りあうような世の中で、二人の友情が、尊く見えます。
    多分、敢えて書かれていない、二人の短い旅が、双方にとって如何に貴重なものだったのかが窺われます。

  • ドイツ三十年戦争を扱った物語。
    戦争では血が流れる、そして……

    以下ネタばれ含みます。
    感想という名のイシュア語りです。

    とりあえず読み終わって思ったのが、
    「イシュアはアディを50回くらい殴ってもいい」
    ということ。笑

    この物語の中では誰よりもイシュアがすきだったので、イシュアがアディのために何も言わず尽くす姿が痛ましかった……。
    ただ、イシュア自身が言っていたように、アディのために動くことはイシュアの人生そのものであり、見返りを望むものではなかったのでしょう。
    無茶ばかりするアディをそれと気付かせることなく守り続け、シムションへの復讐も遂げ、青銅の首も完成させたイシュアは幸せだった気がします。

    きっと自身の死によりアディにイシュアという存在の大きさを分からせるところまでがイシュアの筋書き通りだったのではないか、と勘繰ってもあながち外れていない気が。
    三十年戦争ではドイツ国民の三分の一が亡くなったと言われますが、そのような中で生かされたのはイシュアの尽力の賜物であったこと。
    「お前は馬鹿だ」と言われ続けたアディですが、最後にその事実と、イシュアの気持ちに気づけたのはなによりです。(遅かったですが!)


    壮大な物語を破綻なくみごとに収めていく皆川せんせいの技量には圧倒されます!

  • 最初の一行が衝撃的過ぎた。
    歴史小説なので、政治や戦争の動きに関しての描写がかなり多い。細かく描かれているけどドイツ史の知識がないのであまり付いて行けず、その辺の部分はなんとなくで読み進めた。
    主人公や周りにいる人達の物語にはかなり引き込まれた。ただ、アディやイシュアの物語がもう少し前面に出るともっと面白かったと思う。

  •  新教と旧教が争う三十年戦争を舞台に、孤児から傭兵として成りあがっていくアディと、裕福なユダヤ人の息子イシュアとの友情の物語。

     アディを拾った女は、彼は馬の胎から産まれたといい、イシュアは父から自分がホムンクルスだと聞かされていた。
     お互い、人ならざる身であるかもしれないという恐怖が、通奏低音のように物語の根底に流れている。それは、否定している神への畏怖なのかもしれない。
     お互い、信じられるのは我が身と友情だけなのに、神への畏怖から逃げられずにいるように感じた。
     
     中世の暗黒とは、ようするにこういうことなのかもしれない。

     皆川博子はやっぱりすごい。
     最後のページを閉じるのがとてもとても残念だった。

  •  舞台は三十年戦争時代のドイツ、神聖ローマ帝国。物心ついた頃から戦場に身を置き、長じて傭兵となる少年アディと、宮廷ユダヤ人の一家の末弟イシュアの出逢いから、戦争の終焉までを描く。

     帯や裏表紙でやたらと「友情」を強調するものだから、なにか少年ジャンプもののような熱い話なのか、でも皆川博子なのに、と首をかしげながら読み始めたものです。
     幻想度は控えめで、どちらかというと佐藤賢一の小説のような、生々しい戦地の描写が続きます。略奪、破壊、強姦を繰り返す傭兵の世界に生きるアディが主な視点人物で、もう一人の主人公イシュアはどこか得体の知れない人物として描かれています。タイトルにもなっている「聖餐城」、そして「青銅の首」のような、幻想小説のモチーフになりそうなキーワードはすべてイシュアにつながっているため、物語の前面に出てくることはありません。これもまた、小説の幻想度を下げ、歴史物、戦記物としての印象を強めている一因。そのキーワードも幻想や魔術というよりオーバーテクノロジーとして解釈できるような書き方をされていて非常におもしろい。
     友情は確かにテーマではあるんでしょうけれど、帯から想像したような、「友情で戦争に打ち勝とう!」みたいな話にはなっていなかったですね。アディとイシュアの関係がちょっとアンバランスなので(イシュアからの思いが強すぎる、というかアディには他にいろいろありすぎる)。
     熱中して読んでしまってなかなかしんどかったですけれど、それくらいものすごくおもしろかったです。

  • 分厚い単行本でかなり威圧感があったが、中だるみする事なく、最後まで一気に読めた。
    歴史的な背景と多くの登場人物はノンフィクションで、戦争の経緯だけでなく、当時の風俗や経済事情なども分かって楽しい。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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