夢中になる東大世界史 15の良問に学ぶ世界の成り立ち (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334045463

感想・レビュー・書評

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  • ■「歴史って何の役に立つの?」と思う人へ
    手放しに東大礼賛をするわけではないが、東大の世界史はどの問題も正直すごいし面白いしタメになる。

    一般的に受験教科としての「歴史」は単なる暗記科目として捉えられがちだが、東大世界史の問題はむしろ暗記した知識をもとに「新たな視点」を気付かせてくれる。
    受験準備万端で臨む学生たちは、試験会場で歴史のさらに新しい景色を見ることになるのだ。

    例えば、東大世界史は「イギリス革命」「フランス革命」「アメリカ独立革命」の年号や関係者の固有名詞などは出題しない。
    その知識を前提として、それぞれの革命の背後にある原因や目指した目標の違い、さらにはその奥に見え隠れする「国家」の在り方までを学生に問うてくる。

    こうした比較の問題は難しい。ただ具体的な物事を並べて表面的に説明するだけでは比較とは言えない。それら具体的な事象の相違を、抽象的な概念や言葉で表現し、一段高い視点から俯瞰しなければならない。

    ビジネスの現場においても比較は非常に重要だ。自社と競合他社とのビジネスモデルやコアコンピタンスの違いは常に意識しなくてはならないし、テクノロジーの進歩がとてつもなく速い現代においては、過去・現在・未来の比較の中で自社の立ち位置や方向性を正しく判断していかないといけない。

    歴史学で学べる比較・抽象化は、こうした場面でも役に立つとても実践的な思考法だ。

    また東大世界史は、技術革新や情報革新によって世界の一地域の出来事があらゆる国に影響を波及させていくグローバルヒストリーの視点を問うてくる問題も多い。

    例えば1985年の東大世界史では、19世紀から20世紀初期に世界各地で展開された反帝国主義について、東京・漢城(ソウル)・北京・マニラ・カルカッタ・テヘラン・イスタンブル・ハルトゥーム・ペテルブルク・ハバナといった一見関連性のなさそうな都市を、ある共通事象で繋げる論述が出題されている。40年近く前から東大では国家を超えた物語を意識させる問題を学生にぶつけていることに驚いた。

    ■「いいね」を集めるために必要なことは?
    「アメリカ独立革命」「フランス革命」が後にラテンアメリカの独立運動や19世紀ヨーロッパの自由主義運動に大きな影響を与えたのに対し、「イギリス革命」は他国へ特段の影響を与えることはなかった。
    両者の違いは、革命の理念に「普遍性があるか、ないか」だ。

    アメリカとフランスが目標に掲げた「自由・平等」の理念は、全ての人間に認められるべき基本的人権という普遍的な権利を求めたが、イギリスの目標は「国王への約束」という限定的な理念であったため、その後のフォロワーの出現に大きな差が出た。

    より多くの人から「いいね」を集めて、より強力な影響を世界に発信したい場合、重要なのは「共感性のある理念」を掲げることだ。

    企業や組織の理念についても同じことが言える。Amazonの「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」やユニクロの「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」といった共感を得られる普遍的な理念とその体現が、実際に人々から支持を得てフォロワーを増大させている。

    ■「主権国家、それは戦争である」
    これはフランスのミッテラン大統領の言葉で、戦争の本質を言い表した見事な一言だ。

    欧米は現在の秩序である主権国家や民主主義を進展させてきたが、一方でそれは帝国主義時代に世界を征服することで普及したという側面を見逃してはいけない。

    主権国家には主たる国民・民族の主権が及ぶ範囲である「国境」が存在する。そこに住む国民・民族は、自分達の肌の色や話す言葉などの文化の違いから他国との差別化を始めるようになった。

    これが主権国家同士の戦争の始まりであり、つまるところ「主権国家=戦争」なのである。

    ロシアのウクライナ侵攻は決して許されるものではないが、主権国家を否定しないと戦争を回避できない現代において、戦争をなくすことがいかに難しいかということは、国際社会の前提として受け入れる必要がある。

    東大世界史では、こうした国家と戦争についての関係性を考えさせる問題も出題されている。

    ■おわりに
    本書は上記で述べたような論述問題について、先生と生徒が対話をする中で解答を導くという形式で展開している。東大入試なのでハードルが高そうだが、著者は予備校講師であるため、実際の授業の様子を思い浮かべながら生徒になった気分で読み進めることができる。

    ただ、生徒役である京子ちゃんの学力レベルが割と高いので、自分の考えやツメの甘さに少し落ち込んでしまうかもしれないが、気にせず読み進めていくのが吉。

    近代以降のテーマを15問取り扱っているが、どれも良問であり、我々が暮らす現代に根強く続いている問題ばかりなので、読み終えた時には世界情勢についてある程度の知見が身に付いているのではないかと思う。

  • <目次>
    第1部  国際社会の成立
     第1章  革命によって国家は生まれた
     第2章  アメリカとラテンアメリカ諸国の差異
     第3章  イギリスを中心に展開された「侵略と抵抗」
     第4章  「抵抗」する中華世界
     第5章  「抵抗」の中心にあの国がいた
     第6章  技術革新に支えられた「抵抗」
     第7章  民衆と指導者たちの国際体験
    第2部  国際社会の発展
     第8章  戦争の助長と抑制
     第9章  世界大戦は世界を変えた
     第10章  「帝国」の終わり
     第11章  戦争の苦悩と惨禍・平和の解放と希求
    第3部  国際社会に残る問題とこれから
     第12章  冷戦で分断された国々
     第13章  植民地主義の遺産
     第14章  経験なきアジア
     第15章  女性の闘い

    <内容>
    歴史専門の大学受験塾「史塾」をやっている著者が、東大世界史の問題を、塾での物語形式で解法を解いていく内容。東大の問題は歴史の本質を問うているので、問題文をしっかりと読み、自分の知識をいかに組み合わせるかがポイントなのだが、それを下書きの表をうまく使いながら説明してくれているので、わかりやすい。全部で15問。今のグローバルな問題点も見えてくる良書です。

  • 面白かった。東大の論述良く出来てるなと思った。こういう意図が読み取れていくアタマを持ちたい。つながりってかなり大事だと思う

  • 東大入試の世界史は骨のある論述とは聞いていましたが、まさに歴史の見方について新たな線を与えてくれるものと思います。

    答案の中で使用を促される各単語にはよく知らないものも散在し、深い知識も求められると思いますが、それ以上に問題の真意を理解し、事象を整理して共通項を抜き出す(または差異を明らかにする)ことの難しさ! この構成メモを作ることができるだけでも素晴らしいと思います。

  • 背ラベル:209-フ

  • 東大の世界史の問題すごいな……! 現代の世界を考える上で必要なものが的確に出されている……!

  • 子供のときからこんな歴史の教えられ方をしたら、そりゃ~賢くなるわーと思いました。

  • 図書館で借りたけど。あらためて購入したい。
    断片的な知識と知識が、どう結びつくのか、東大の入試という普通に生きてたらお目にかからない問を通して考えさせられる。頭の体操になる。
    現在の国家の成り立ち、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスで起きた革命から始まり、現在のジェンダーに至る問題まで幅広く思考させられる。
    自分では回答に至る思考をするのは難しいけど、東大受験生の発想の過程をトレースして閃きを共有されるのはとても刺激になる。
    悲しいことには自分の知識が追いついてないため深く受け止められないことなので、しっかり知識をつけたらあらためて読みたい。
    なお、構成メモはそれだけで価値があると思うので是非覚えて思考のベースに取り入れたい。(暗記は趣旨でないと思うが)

  •  世界史の論述問題は勉強になる

  • 国家・民主主義という観点で見ると世界史がとてもよくわかった。何度も読み返したい。

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著者プロフィール

福村国春(ふくむら くにはる)
慶應義塾大学文学部東洋史学科、美学美術史学科を卒業。専門は世紀末芸術。在学中から世界史の講師として教鞭をとる。卒業後は都内に世界史専門大学受験塾 史塾 を設立、東大・京大・一橋・早慶を中心に高い進学実績を誇る。著書に『歴史の見方がわかる世界史入門』(ベレ出版)、『夢中になる東大世界史』(光文社新書)など。

「2022年 『西洋絵画の見方がわかる世界史入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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