AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争 (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044817

感想・レビュー・書評

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  • たくさんの戦前・戦中の写真はあるが、もっぱらシロクロです。わたし達はそれは見て、無機質で静止した「凍りついた」印象を受ける。戦争を他人事にとらえることに一因にもなっている。このカラー化は、戦争を自分のこととして捉えることを助けるだろう。

    AIで色をつける事はできる(幕末期写真はそれ)。しかしそれでは未だわたし達の知るカラー写真ではない。その記憶を持つ「生存者」と話し合い、色をつける。その写真を見せて、更に記憶が蘇る。更に写真が真に迫ってゆく。

    そうやってよみがえった写真の数々。気がついたことを以下に羅列してゆく。

    (ー1941)
    ・1932年大阪浜寺双葉幼稚園。12人の幼児が小山に登ってメルメットを被り、背中にカバンを背負って、おもちゃの鉄砲を構えて、戦争ごっこをしている。明るい日向の下、新緑の芝生の上のいかにも微笑ましいはずの景色ではあるが、鉄砲を構える幼児たちや旗持ちの姿が、あまりにも堂に入っていて、「これが戦前の風景なんだ」と腹落ちするのである。
    ・あみ傘をさした着物姿の沖縄県糸満の女性。現代のどの映画女優とも似ていないけど、わたしならば直ぐにスカウトするね。それほどの存在感ある美人。後の白いTシャツ、紺のスカートの女の子は裸足である。
    ・糸満の漁師のふか捕り名人。木綿紺絣(こんがすり)の一枚を羽織って帯で締めただけの普段着の中年の男の堂々とした筋肉と面構え。こういうのを見ると、弥生時代、貫頭衣一枚で人々が暮らしていたのも頷ける。
    ・1939年。軍服・モンペ姿の結婚式の挙式での2人。2人とも中学生と見間違うほど幼い。モンペといえども、女性は桜色の着物を着ている。草履の鼻緒も色を合わせて精一杯のおしゃれをしているのを、カラー化で初めて知る。女性はずっと「一度は花嫁衣装を着たかった」とこぼしていた。
    (1942)
    ・岐阜県の田舎の村の囲炉裏をかこんだ8人家族を映した写真。カラーだから、多くが鮮明。モンペの上のカスリが如何に粗末なものか、擦り切れた畳表、ピカピカに磨かれた板塀、使い込まれた鉄瓶、真っ白い陶器の湯呑みなどの「生活」が見える。父母と妹2人兄1人兄嫁と子供3人そして本人の9人家族である。
    (1943)
    ・神戸市にて「働く婦人標準服展示会」という名前の街中の行進を写す。全員10-20代。紺一色か、つちいろ一色。しかし作りは意外とオシャレである。←コロナ禍のもと、こういうファッションショーもあって良いんじゃないか?
    (1944)
    ・一月。土俵入りする大横綱双葉山の写真。ほとんどの娯楽は閉まっていたと思っていたが、相撲はやっていたのか!ほぼ満員。まわしも金の化粧で派手だ。
    ・マリアナ海戦の軽巡洋艦「バーミンガム」から撮影された、戦い後の飛行機雲を眺める兵員。三つ四つの飛行機が左右から違う円を描いて交差している。もはや2度と見ることは無いだろう(軽戦闘機の交戦はもうあり得ない)、青空の下の飛行機雲である。
    ・特攻隊員たちの笑顔の記念写真が数枚ある。みんな若くてイケメンである。どうして?と思う。
    (1945)
    ・硫黄島(全滅に近い)で、まる2日死んだふりをして土に埋もれ手榴弾を持っていた兵士が、説得されてタバコをもらっている図。こういうところが、アメリカの余裕だな。
    ・東京大空襲の後の空撮写真。まるで緑色のタペストリーの半分が灰にになってぶすぶすと燃えているようだ。
    ・3月17日神戸大空襲の跡。少し焼けて白い立て看板が立てかけられている。「楠公の霊地だ、断じて守れ  湊川警察署」。一面の焼け瓦礫。の中にこれを建てる警察署とは何なのか?霊地とは楠木正成が祀られている湊川神社のこと。
    ・沖縄戦での有名な「鉄の雨(対空砲火)」の実際の色を初めて見た。空襲する日本軍機に向けて、まるで機織り布の糸のように撃ちて撃ち込んでいる「白色」は実は白い光線と橙色の光線が混じったものだった。こちらの方が確かに現実的だ。
    ・無数の特攻機の写真がある。米軍の論理からすると、人間ではない奴らの仕業にしか映らなかったのかもしれない。日本人から見たら、人の死んでゆく様を写真に撮ったとしか思えない。
    ・燃え盛る名古屋の街の空撮。まるで一枚の板が下から上に焼けているように見えるし、見ようによっては美しい。もう2度とあってはならない「戦争の姿」。
    ・1945年6月25日、沖縄で米軍に投降する「白旗の少女」比嘉富子さんの有名な写真。カラーで初めて観る。ぼろぼろの紺のかすり、茶色のズボン、裸足、痩せこけた肋骨と腕、その辺りにあった山地の枯れ枝に白地の布をくくりつけたと思える急拵えの旗。様々な情報がカラー化する事で見えてくる。
    ・呉市から見た広島市のキノコ雲。助言を得て若干真っ白から少しオレンジ色がかかっている。正に禍々しく美しい。そして、なんと間近に見えることか!
    ・福山大空襲跡の城址から見える福山市街地。ほとんど海が、山が見える。現代と比べて信じられない。
    ・禍々しい、長崎市香焼島から見えた、長崎原爆が落ちた直ぐのキノコ雲。エヴァの世界だ。
    (1945-1946)
    ・マーシャル諸島の捕虜兵士の写真。これで生きていけたのかというくらい痩せている。
    ・11月千葉県国鉄総武本線日向駅近くの買い出し列車。屋根はもはや無く、まるで布切れの輸送列車のように人が溢れる。人はこんなにも列車に乗れるものなのか。みんな帽子をかぶっているか、手拭いを巻いている。裸頭は1人もいない。
    ・一転、46年1月25日、銀座松屋呉服百貨店の前に発売のタバコ「ピース」を求めて、延々と「密に」並ぶ壮年男女と学生、数人帰還兵も。みんな比較的いい服を着ている。焼け野原の東京の何処から湧いて出たのか。
    ・広島八丁堀の福屋デパートは、八丁座という名映画館があるために何度か訪れている。そこから被爆1年後の屋上から写したカップルの写真が最後に載っている。あの繁華街から海が見える。しかし、その頃デパートは既にダンスホールを営業していたという。カップルはその客かもしれない。いろんなことを考える。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      「セピア調」と言うように、思い出を喚起するモノクロ写真は、古びて優しくなるのでしょうか?
      人の記憶って、どの程度アテに...
      kuma0504さん
      「セピア調」と言うように、思い出を喚起するモノクロ写真は、古びて優しくなるのでしょうか?
      人の記憶って、どの程度アテになるのか?と懐疑的なのですが、kuma0504さんの抜き書きを読んで少し考えを改めるコトに、、、
      2021/02/09
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      セピア色が優しく感じるのは、写真に本人か写っているか、その関係者が写っているか、その物語を知ったからということになると思います。...
      猫丸さん、
      セピア色が優しく感じるのは、写真に本人か写っているか、その関係者が写っているか、その物語を知ったからということになると思います。

      全然背景を知らない者には、古い写真でしかない。でも、カラー化されると突然リアルに感じられる。Amazonの書影の後にその見本が3枚載っています(うち二つは広島原爆と広島福屋屋上の写真)。

      実際、認知症を患ったおばあちゃんが、AIでカラー化した野原で集う家族写真を観て、突然この花はタンポポだと言ったそうです。最初は、つめ草を想定して白い花にしていたそうです。でも、彼女の記憶は、カラー化で突然蘇った。本人は特にカラー化でよみがえる記憶は多いらしい。もちろん事実でない場合もあるかもしれませんが、本人にとっては真実ではあるでしょう。ホントは原爆は、あそこまで禍々しくはなかったかもしれない。けれども、私は一眼見て原爆の真実を観た気がしました。
      2021/02/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      ナルホド
      色が付くコトで実際の世界に近付いて、脳が活性化されるのかなぁ、、、
      kuma0504さん
      ナルホド
      色が付くコトで実際の世界に近付いて、脳が活性化されるのかなぁ、、、
      2021/02/09
  • 本書のレビューで多くの方々が書かれているとおり、白黒だと身近に感じにくいことが、カラーになると命が吹き込まれ生々しく伝わってくる。
    音・臭い・温度・触覚などが追加されたわけでもなく、単に色が付いただけなのにこの歴然とした違いは何だろうかと思う。

    美しく青い海と空や、緑の草木、黄色やピンクの花、これら白黒だと識別しにくいものがカラーだと一瞬で何であるかを理解できてしまうから?
    カラーだと今までの自分の生活体験で得た色や形の情報と結び付き易く、脳が即座に活性化させられるのではないだろうか。
    飲食でも視覚と臭覚が味覚に影響を与えるように、色によって視覚以外のいろんな感覚が無意識に湧きだして来て絡み合うのだろう。

    何百年もの遥か昔のことではない、ほんの数十年早く生まれていたら自分が経験していた社会の生々しい現実がここにある。

    本書にページは振られていないので目次がないが、
    1941年:戦争前
    1941年:戦争開始
    1942年:
    1943年:
    1944年:
    1945年:敗戦まで
    1945-1946年:戦後
    と続く。

    真珠湾攻撃で始まり、長崎への原爆投下で終わったとも言える戦争とその前後の生活の写真による記録。
    まさに「諸行無常」で「ああ無情」だ。

    普通の日常の風景として、幼稚園児が鉄砲(のオモチャ)を持ったり、防毒マスクをつけて戦争ごっこをしている。
    人間魚雷、神風特攻隊として九死に一生ではなく十死に零生の戦法で的確に敵艦を狙う(9.11みたいだ)。
    空襲に備えて殺処分が取られていた上野動物園のゾウ3頭が一ヶ月間で次々に餓死する。
    終戦を迎える1945年には、4月から日本全土がほぼ爆撃され、庶民の生活や精神がボロボロになっているのに8月まで無駄に抵抗を続ける日本の姿。

    広島に投下された原子爆弾「リトル・ボーイ」や長崎に投下された原子爆弾「ファットマン」は想像以上に小さい。
    米軍は爆撃の前日に原爆にサインして記念写真まで撮る余裕を見せている。

    昭和天皇(終戦時は44歳と若い)とマッカーサーの写真もカラー化されている。

    戦争が終わったが空襲で校舎を失った品川区の児童たち。天気のいい日だけの青空学校の風景がもの悲しい。
    たばこが生活必需品だった時代らしく、終戦からの復興の記録として新発売のたばこ「ピース」を買うために銀座松屋の周りを取り囲み並ぶ大勢の人々の平和な姿。

    今日は憲法記念日か。
    戦争は愚かな行為だ。本書の写真を眺めていてつくづくそう思う。
    自衛権のあり方や国防の定義が曖昧だと言って、戦争を容認するような憲法改正(改悪)には絶対に反対だ。

  • カラー化されただけで、こんなに現実味を帯びて感じられるのですね。
    白黒写真だとどこか作り物のような、遠い時代の出来事のように感じていましたが、、

    そこには確かに人々の営みがあったのですね。

    自分と変わらない人たちが、戦争の辛い時代を生き抜いたこと。
    きちんと知ることだけでも意味があると思います。

  • 戦前から戦後の貴重な白黒写真。最新のAI技術と、当事者への取材や資料をもとに人の手で彩色。カラー化されることにより、当時の事をイメージしやすくなりました。できる限り再現しよう取りくまれています。「過去の色彩の記憶をたどる旅」
    たまたまNHKで見た松本隆さんの「君は天然色」の歌詞「想い出はモノクローム 色を点けてくれ
    この歌詞が生まれた松本さんの回想が、ちょうどこの本とリンクしました。
    地道な事業を引き続き記録として、残していただけたらなと。

  • 戦後生まれの自分の眼をとおして眺めた〝戦前と戦中のカラ-化された写真〟は、今は亡き父母が生きた時代の記憶として甦ってきました。戦争という取り返しのつかない大きな過ちの記録が、モノクロ写真を越えた生々しい真実の姿が、衝撃と共にまざまざと伝わってきて、ペ-ジを繰る手が幾度も震えました。

  • 映画やドラマとはまた違う。生きた写真が本の中にあった。
    色があるだけで、こうも感じ方が変わるのか…
    ぜひ見てほしい。

  • たまたまTwitterで流れてきた写真を見て、心を揺さぶられ、本が出版されたのを知り購入。

    カラー化されたことで一気に、【戦争の時代】が本当にあった現実の出来事なんだと認識させられた気がした。
    白黒写真だとどうしても、遠い遠い昔の、自分とは関係ない世界のことのようで。

    目を背けたくなるようなグロい写真は無いのだけど、戦争の悲惨さは痛いほど伝わってくる。

    特に印象的だったのは、
    特攻2時間前なのに仲間と笑顔で写っていたり、
    アメリカ兵が原爆を落とす前日に、笑顔で戦闘機の前に立ち記念撮影していたり。
    戦争の中の笑顔って、なんか切ない。

    あとはやっぱり、戦争直後の、上裸の日本兵。
    あれは強烈すぎた。
    ろくに食べていなくてどうして最後まで戦えたんだろう。

    度重なる空襲で日本中が焼け野原になり、
    毎日何百人も何千人も亡くなっていってるのに、
    原爆であれほどの犠牲が出るまで
    なぜ戦争をやめられなかったのだろう。

    だけどあんなにひどい時代の中でも、
    強くたくましく明るく生きることを忘れなかった人々の姿も知ることができた。

    これが、たった75年前のことだなんて、本当に信じられない。
    信じられないけれど、このカラー化された写真たちによって【実際にあった現実のこと】になった。

    これもひとつの立派な平和のための活動だと思う。

  • ヒロシマ以前の風景を復元する「記憶の解凍」プロジェクト。AIを活用し白黒写真をカラー化。息を吹き返した過去は現在につながる。

    白黒写真は過去のイメージ。それがカラー写真となることで一気に現実味を帯びる。本書に収録されるカラー写真の多くは戦前の広島の中島地区。4400人が暮らした町は爆心直近。町は全滅し戦後は平和記念公園となる。

    個人の収蔵写真を集めカラー化する「記憶の解凍」プロジェクト。原爆で失われる町並みと人命。家族の幸せな風景、来るべき悲劇。

    本書には、広島だけでなくほかの多くの写真も収録。朝日新聞に保管された物がおおいのでどこかで見たことのある写真が多い。ミッドウェー海戦、ガダルカナル、沖縄戦や空襲など。そして戦後の戦災孤児などまで。

    本書は偶然ながら電子書籍で購入。写真を拡大して見られるし見開きの写真の真ん中も途切れないので、電子版の方がオススメである。

    カラー化され息を吹き返した写真。現実味を増したことで。戦争が身近に感じられる。それは遠い過去ではなくごく最近のことであるし、また我々の未来なのかもしれない。

  • 第二次世界大戦(太平洋戦争)の写真は,殆どが白黒で,本書でも書かれているように,凍りついたように見えることがあります.カラー化することで,当時の様子がさらに見えてきます.子供に伝えたい一冊です.

  • 白黒写真に色を付けるという。たったそれだけなのにいろんな感情が沸き起こってくるのがわかります。
    モノクロでは、昔のこと、自分の世代とは異なる、という印象が無意識にあったのですが、カラー化により今の自分と連続している身近な印象を持ちました。また、色彩の鮮やかさで、当時の躍動感、豊かさが感じられた。みんな一生懸命生きていたのです。特攻に行く前の兵士の笑顔とか、たまらない気持ちになりました。


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