残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334043865

感想・レビュー・書評

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  • わたしの職場はいわゆるブラック企業で、みんなそれを承知で、昼食も食べずに働いているし、朝出勤すると、社員の誰かが徹夜をしている。公休なのに、働いていたりする。

    組織の体質を変える、ということは、それなりに時間がかかる。今の体質を作るにも時間をかけてきたように、ちょっとやそっとじゃ変わらない。
    これまでに政府が掲げてきた政策や、各会社が掲げている残業対策も、間違ってはいない。ただ、その政策や対策が、その会社にマッチしているかどうかだ。

    つまり。
    最後の方、ある企業の実際の取り組みが載っていて、けれど、頭に入ってこないレベルで現実味のなさを感じてしまって。
    残業をなくすには、長い時間をかけて、現場と上司(上層部含)が一体となって努力していくしかないのはわかる。また、単に「早く帰れ」というだけではいけないし、できる人に仕事が集中するのも得策ではない。現場によって、どんな残業対策がいいのか、それは会社によって異なるから、現場が問題点を挙げ、上司はツールを作り、現場はそのツールをもとに、試行錯誤を続けていく。

    言っていることはわかる。けれど、上司にはそんなツールを作る能力なんてないし、現場も、日々自分の仕事にいっぱいいっぱいで、なかなか試行錯誤をする余裕がなく、結局いつも通りに戻ってしまう。現場も上司も、常にキャパオーバーだから、こんな風に「どうしていったらよくなるか」を頭で考える余裕がない。そして上司も、「なんとなくうまくいかなかったね」「やっぱり残業減らすなんて無理なんだよね」と、ろくに深められずに終わってしまう。

    残業に対する価値観は人それぞれだし、残業に対する施策もたくさんあって。そんな中。
    結局、上司が残業遺伝子を持っている以上、何も変わらないし、変えられないのか。
    調査でわかった内容がとても興味深かっただけに、ちょっとだけ残念…

  •  昨今、日本全国「働き方改革」の大合唱。その中心は「残業の削減」。
     我が国の勤務形態は、欧米のように仕事内容が職務記述書(Job Discription)で明確に定められた「ジョブ型」ではなく、組織や職場単位で仕事が割り振られる「メンバーシップ型」。この形態では、「仕事はいくらでもある」というように、無限に増えていく。その結果、頑張る人、効率的にできる人に仕事は「集中」し、周りに気を遣って「帰りにくい雰囲気」が「感染」し、上司の若い時の「残業武勇伝」「残業成長神話」などにより、組織全体で「遺伝」していくという。
     よく「優先順位・メリハリ付けて」とか「効率的にこなせ」と言われるが、もはや個人のレベルだけで解決できる問題ではない。
     組織としての処方箋として、著者が提唱するのは、「マネジメントの3つの力」(①ジャッジ力、②グリップ力、③チーム・アップ力)により、「3つの透明性」(①時間、②業務、③コミュニケーション)を高め、「マネジメント・トライアングル・サイクル」を回していくこと、すなわち
    ①いつまでが「働く時間」なのか、何が・いつまでに行われるべきなのかをジャッジし、
    ②職場で「誰が・何を・どんなふうに」やっているかをグリップし、
    ③風通しよく、職位に関わらず、活発に対話がなされるチーム内コミュニケーションを行う
     ことだと言う。
     これを実現するのはなかなか容易ではない。まずは、私個人のレベルで、「残業は儲かる、カッコいい、成長する、仕方ない、なくならない」という古い時代の考え方を少しずつ変えていこう。
     また職場組織では得てして、与えられた以上の仕事をこなせる人が評価される。自分がアップアップにならないためにも、評価を気にしないで、やるべきこととやらなくてもいいこと、できることとできないことを峻別し、役割分担を明確にして「ジョブ型」に徹するというのも、一つの予防策かと思う。

  • <どんな本?一言で紹介>
    国会などでは語られない!
    膨大なデータから「残業」を減らす施策本。

    <どんな人におすすめ?>
    残業を減らしたい会社員。
    残業が多くて、達成感がある会社員。
    社内の「働き方改革」を担当している人。

    <読んだら、どんなことが分かるの?>
    どうして日本人は残業するのか。
    どうしたら、残業を減らせるのか。

    ・人口減ってるのに「長時間労働ができない人」が働けない現状はおかしい。

    ・働く人にとっての「長時間労働」によるリスク2つ
    ・企業にとっての「長時間労働」によるリスク4つ

    ・日本で残業文化が根付いたのは「仕事と時間の無限性」のせい

    ・「残業麻痺」に陥る2つの要因
    ・「アンラーニング」は新しいことを吸収するよりも難しい

    <日々の生活、仕事などに活かせるポイント>

    1.「仕事の相互依存性」を脱却せよ
    個人の仕事の範囲がはっきりしておらず、責任範囲も不明確。そのため、自分の仕事が終わっても帰りづらい。
    残業は、個人の能力不足というより、職場の雰囲気や人間関係の中で生まれている。

    (個人で出来ることは限られているが、勇気をもって帰宅すると、慣習が変化していく。※本書でない個人のプチ体験談)

    2.残業しても、本質的に成長しない
    大人の学びには、「3つの原理」がある。①難しい仕事へ②背伸びする、③過去の仕事の振り返り、信頼できる人からのフィードバック。
    「長時間労働」をしている人は、②③ができない状況なので、本人が感じているよりも成長していない。

    (やらなくていい仕事は依頼を受けてもやらない。相談や依頼をされ、提案できる立場になると、残業コントロールが可能。ただし、作業を受ける立場でずっといると、コントロール不可避が続く。※本書でない個人のプチ体験談)

    3.「アンラーニング(学習棄却)」する
    「長時間残業体質」の上司たちは、「働き方改革」や「長時間労働是正」がこれだけ叫ばれていたとしても、マネジメントの仕方を変えられない。かつての成功体験がくっついているからだ。
    とりわけ優秀な社員を採りたいのであれば、「人事課題」ではなく「経営課題」として早急に取り組む必要がある。

    <感想>
    会社のトップが意識を変えないと、マネジメントも変わらない。しかしトップもマネジメントも、なかなか旧来の慣習に縛られている。
    そんな中で個人で出来る事は、本当に限られているけれど、本書で考えるいいきっかけになる。

  • 私自身も入社当時は、時間が助長されているとまでは言わないまでもサービス残業が当たり前で、それによって自己成長を得ていたと思っており、それ自体を悪いことだとは考えなかった。逆に労基法順守、働き方改革や生産性向上という名目でサービス残業撲滅や時間外抑制を会社から求められることに対して、反発を覚えたこともあった。本書でいうところの「昔の武勇伝」を部下に語ることもあり、今の若手たちは自由に残業もできず仕事をやりたいのにできないという環境をかわいそうにおもってしまうことさえあった。
    しかし、自分が若いころに得られていた成長感は効率の悪いものであり、誤った考え方であると大いに反省させられた。
    一方で、これが個人的な問題ではなく、日本社会に文化として浸透し待っており、個人の意識を変えただけで変えられるような問題ではなく、国や企業が働き方改革などの号令や規制だけではなく、各職場に合致した具体的な具体的な施策をもって推進しなければ容易に解決できない問題であるということを理解した。
    とはいえ、それを待つだけではなく、管理職の一人としてできることから少しずつでも始めてみる必要性を感じた。まずは、自分の考え方を改めることが最初の一歩だ。



    日本以外は「ジョブ型(明確に仕事の範囲を規定した契約書に基づき雇用契約)」、日本は「メンバーシップ型(人を採用してから仕事を割り振る)」。後者では仲間意識が強くなり、残業も組織や会社全体の文化になってしまう。

    欧米では「労働は」なるべく避けたいもの、といった「負の効用」を持つ概念。「国富論(アダム・スミス)」において、人間にとって労働とは「toil and trouble(骨折りと苦労)」と述べている。
    一方日本人は「仕事」が「希望(幸せ)」を規定する傾向にあり、仕事の中に何か「幸せ」を見出したいという価値観を持っている人が多い。

    従業員が雇用主や企業に寄せるこうした期待を「心理的契約」という。心理的契約はいわば労使間の「暗黙の了解」で明文化されたものではない。これまでの日本では、年功序列や終身雇用という「心理的契約」があったからこそ、残業も厭わずがむしゃらに働いてきたとしても、その「見返り」が期待できた。
    しかし、「終身雇用」と「出世への期待」は、以前に比べて「裏切られる」可能性が高まっている。

    経験学習理論では、①背伸びの原理(現在の自分の力では少し難しい能力が伸びる仕事をすること)、②振り返りの原理(過去の行動を振り返り、意味づけた上で未来に何をするべきかを自分の言葉で語れるようになること)、③つながりの原理(信頼のおける他社からのコメントやフィードバックなどを得て周りとのかかわりの中で学んでいくこと)、の3つの原理が欠かせない要素である。
    一方、長時間残業では①は機能しても、②と③が機能しなくなってしまう。つまり長時間残業で経験を積み重ねる(①)だけでは成長できない。日本人には「努力信仰」と結びつく「量をこなすことが成長につながる」といった思い込みが強い。
    日本企業では「残業あり、成果あり」(よく頑張った)>「残業なし、成果なし」(もっと成果を出せたはずだ)=「残業あり、成果なし」(まあよくがんばった)と評価される傾向が強い。

    日本人男性は残業時間が減っても「家事・育児」の時間に変化はないが、女性は増加する。つまり、女性が社会進出することで、今まで以上に女性への負担が増える構図になっている。

    残業が発生するメカニズムは、「個人の能力不足」ではなく、職場の雰囲気や人間関係の中で生まれる。「集中(優秀さに基づく仕事の振り分け)」「感染(帰りにくい雰囲気)」「遺伝(若いころに長時間労働していた上司)」。

    残業が定常化すると、生活費を残業代に依存する「残業代依存」になり、残業が助長される。

    残業削減は、個々人で解決できるものではなく、トップダウンで全社的に取り組まなかれば効果が出ない。単なる号令だけでなく、具体的な施策やフォローがなければ浸透しない。

    経営学において、マネジメントのもっとも有名な定義は「他者を通じて、事を成し遂げる」。

  • 残業が発生する仕組み、日本の歴史、残業麻痺に残業は集中し、感染し、遺伝すること。
    ブラック企業を糾弾したり、単に「働き方改革で残業をやめなきゃいけない」と主張するだけでなく、さまざまな観点から冷静に書かれていて勉強になった。少し厚めだけど、話し言葉で読みやすい。

    自分の職場は、まずサービス残業を見える化することからだろうけど…、あまりそういうことを言うと角が立ったりするだろうか…

    組織開発の基本は「見える化」「ガチ対話」「未来づくり」とのこと。最近とみにガチ対話の必要性を感じている。波風立てずになんとなく遠慮したままズルズルいくといつか取り返しのつかないことにならないかと。
    マネジメント層にはとりあえず読んでもらいたい。

  • 前半部の日本の残業の現状整理は非常にわかりやすかったし、キーワードも学ぶことができたので、このキーワードを今後職場で活用すると良いと感じた。(残業麻痺など)
    ただ、後半部のhowの部分については、あまりインスピレーションを得ることができなかった。

  • 耳の痛いことがたくさん書かれている。自分の身近に置いておいてバイブルとしたいと思った。残業を是と認めがちで、比較的残業の多い人は固定観念を身にまとう前に読むべき本だ。私はどちらにも該当し、この本を読んで少し頭を抱えてしまった…。

  • すべてのマネジャー層、人事部門に読んで欲しい一冊。社内研修デザインに有用なインプット。昔は部下から仕事巻き取っていたなぁ...。あなたは「ジャッジ」「グリップ」「チームアップ」はできていますか?
    「教室を出たら、「事」をなすのみ」

  • 本書で挙げられている残業体質の会社の特徴は、まるで自分の会社のことを言われているようでした。きっと、多くの日本企業が同じような問題点を抱えているのでしょう。
    しっかりと統計をとって、問題を提起するだけでなく、具体的な対策も書かれているので、多くの人に参考になると思います。上層部の人にこそ読んでほしい職場の実態がここにあります。

  • 残業の歴史・構成要素等、暗黙の了解となっていたことが豊富なn値のエビデンスに基づいて紐解かれており、包括的な知見を踏まえて現場の抱える課題を考える上で、役立つ良書だった。

    自分が属する「ムラ」の住人をいかに幸せにするか、というミクロな起点から実践に移したい。

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著者プロフィール

立教大学経営学部教授

「2021年 『中小企業の人材開発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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