非常識な建築業界 「どや建築」という病 (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334039059

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  • 使いにくいデザインの公共建築が作られる原因を、コンペの構造、建築史、業界の実態等から考察した本。新国立競技場の問題をきっかけに書かれたもの。

    ・コンペの構造による問題
    募集要項に総花的な要望がそのまま載せられ、削り切れない。設計案のたたき台検討の過程で無理な点を洗い出しておくべきだが、実績にならない仕事のため建築家はやりたがらない。
    審査委員会では、建築専門家の意見に、他の立場の委員が引っ張られがち。専門家と言えどもコストのことは分かっていない場合があり、同業者内での評価軸で考えやすい。単年度予算前提のため応募期間が短く、十分な検討がされない。

    ・建築史
    新国立競技場デザインのザハ・ハディドは、もともと脱構築主義で、実用に向かないデザインをする人。
    丹下健三のモダニズム。これが組織設計事務所という構造になっていく。丹下の弟子筋に黒川紀章、磯崎新等がいる。磯崎あたりから、実用と切り離された、表現としての建築物を作る傾向が強まっていく。
    1970年代には個人住宅のデザインが発展。ここで腕を磨いた建築家が、その後のバブルを背景に、凝ったデザインを公共施設に取り入れるようになる。

    ・教育過程
    建築デザインの教育の場ではオリジナリティを偏重し、既存の構造をありきたりと退けがちな傾向がある。しかし既存の構造を避けたデザイン(例:出っ張りの少ない建物)には性能上のリスクが大きい。建築物は大衆に触れる時にはもう完成しているため、大衆から評価される仕組みがない。

    ・現場の問題
    本来ゼネコンは、各分野の職人をとりまとめて全体の工程を管理する仕事。派遣の普及により、長期的な人材育成や、ゼネコンと下請けの間の信頼関係醸成がされない。責任の所在が曖昧になりやすい。

    著者は、長期的な見通しの重要さを繰り返し主張している。公共施設の場合は予算の問題だけでなく、首長の交替というのもリスクなのかなと思った。成功例として挙げている「黒壁スクエア」が、民間有志による取り組みであるが象徴的。世代を超えて見通しを立てることが公共にできるか。
    公共建築ということで、言及される例には図書館も多い。
    ・「地域に開いたコミュニティを表現」して、大部分ガラス張り、外壁をアルミ格子にした駅舎。「目玉の一つが駅舎内に設置された図書館ゾーンでした。しかしこれも、ガラスを通って入る直射日光で本が日焼けする、本棚の棚板や受付カウンターが強烈な日差しで反り返る、温室と化した施設内部の暑さに耐えかねて利用客が寄り付かない(p23)」
    ・補助金の話。「既存の老朽化した図書館を建て替える計画がもちあがったとします。建物を新しくするだけでは補助金は出ませんが、それらしい名目(地方都市におけるIT教育の拠点にするなど)を考え、マルチメディア対応型の図書館として建て替えるのなら、国のIT関連政策の一つとして経済産業省や文部科学省からの予算が全体の8割ほどもついたりします。そんな「アイデア」を、シンクタンクから自治体に進言してあげるわけです(p25)」
    ・「ある自治体で行った図書館のコンペは、6月に開催が決定、10月には最優秀案を選定し、年度内に設計図書(図面)を納品してもらい支払いを済ませたいという事情から、募集要項を練る時間がまったく与えられませんでした(p40)」
    ・「たとえば地方の図書館建設に関するコンペで審査委員を構成する場合(略)地元の大学教授1名、すでに地元で大規模建築の設計経験がある建築家1名、行政側からは建築課の担当者1名、図書館司書の代表1名、昨今は環境問題に詳しい大学の先生が呼ばれることが多いので環境問題の専門家1名、図書館の場合は教育委員会から1名、地域の商工会の会長と、図書館利用者の代表として民生委員から1名。ざっくりいえば、建築に詳しい人3~4名、そうでない人3~4名、それに市長が加わって10名弱という陣容が一般的です(p44)」

  • 建築業界に勤める身としては、こんなに悪く言わなくたっていいじゃん!と思ってしまうような業界についてのブラックな事実が記されている。

    当本は全5章で構成されており、特に第2章の非常識な建築史は、自分も学生時代に抱いていた、『なぜ建築家はこんなにも特異な形をした建築を作るのだろう?』という謎を解き明かしてくれた。

    少々悲観的だが、これから建築業界を生きる人間として知らなければならないことが書かれており、非常に参考になった。

  • 新国立競技場問題を2年前からブログで取り上げ、ザハ・ハディドによる案に疑問を呈していた建築士。その説明は素人にもとてもわかりやすくエンターテインメント性に富んだもので大変楽しく読ませて貰った。結局予算が限りなく膨張したザハ案は白紙撤回され、その慧眼ぶりが立証されたのだが、そんな著者が日本の建築業界が抱える重大な問題点の数々を鋭く指摘する。

    10年前に世田谷に購入した小洒落た狭小住宅は、雨漏りが止まらず断熱性能もひどいもので、まったく呆れたものだったけれど、その原因となる建築業界の仕組みがよく分かった。現場の声に耳を塞ぐ業界はどこもダメになっていく。その典型的な例が示されている。

    一般市民や為政者など建築の素人がどうしたら建築を正しく評価できるようになるのか。印象に残った逸話がある。「韓非子」の故事に、伯楽という名馬の目利きがいるのだが「伯楽は愛する者には駄馬の鑑定法を教え、憎む者には名馬の鑑定法を教えた」という。名馬というのは滅多に出会えるものではなく、一方駄馬はいくらでもいるのだから、普通の人にとっては駄馬を避ける事のほうがずっと役に立つ、ということらしい。同様に建築に対しても、すごく前衛的なデザインの建築の善し悪しを見るのではなく、その建築の目的に沿って要素を整理し、判断していくという地味で実直な方法を提案している。

    特に街並みの景観や公共施設においてそうした判断基準を共有し、建築と一般社会との健全な関係を築き上げることが大切なのだろう。

  • 有名なセンセの公共施設 トイレが遠くて漏れそう••
    見栄えはいいけど 使いづらい でも某casaなる雑誌では絶賛 なぜ?!みたいな 建築って住みやすさ使いやすさ そんなんで決まらないぜドヤ!!な公共施設が多い謎が解けました。ドヤ

  • 建築の世界が、設計、施工の両面から詳しく、わかりやすく解説されている。ニュースで取り上げられた新国立競技場やマンションの杭打ち不良の問題についても、業界が抱える仕事の発注や進め方の構造とからめてよく理解できた。さらに建築の歴史を概略で把握できるような内容も盛り込まれていてとても興味深かった。すごく勉強になった。

  • 変な形の公共の建物ができる理由や、一流の建築家の設計なのに雨漏りしたりといった欠陥建築ができる理由がよくわかる。

    しかし、味のある古い建築を次から次へと壊して、不細工な建物を建ててしまう風潮は何とかならないものか。

    専門家会議とか審議会とか、役所が設定する会議が機能していない理由もなんとなく分かっていたがよく整理されている。大企業の会議も似たようなもんか。”お約束”で進められるものが多い。

  • 建築業界は、木材とも関係の深い、隣の業界だったので、関心を持ってずっと見ていたが、今ひとつ業界構造がわからなかったというのが正直なところであった。それが、この本を読んで、氷解。
    ゼネラルコントラクター。脱構築建築・・・暴走してしまう業界というのは必ずあるのだなぁ。

  • ●どや建築という病
    表現建築家。周囲の環境と全く調和しない、それ単体での成立を目指す彫刻ような建築を設計する建築家。例外なく威圧的な「どや顔」をしています。
    ●その街にとってどのような施設がふさわしいかと言う議論をしているようでいて、それを選ぶことで選んだ自分までが評価されるような設計を知らず知らずのうちに推しています。
    ●新国立競技場の問題で渦中の人となった建築家、ザハ・ハディド氏の異名は「アンヴィルドの女王」建築されない、実現しないといったことを意味します。
    ●丹下健三、黒川紀章、磯崎新
    ●建物は古ければ古いほど価値を増します。多くの人々に長い間使われている建物ほど、親密度は増し、いろいろな思い出が宿り、風景の1部となり、街の顔になっています。
    ●時代が変わっても陳腐化しない建築。

  • 築地市場移転のころ,よくラジオでコメントしてて,その後選挙に出たりして,どんな人なんだろうと思っていた人の本。
    新国立競技場の騒動(設計の問題)や,マンションの杭が固い地盤まで達してなくて傾いた問題(施工の問題)がどういう事情で起こったのか,そしてそれは他の工事でも起こりやすいことが,わかりやすく説明される。

  • 著者の森山氏は私と同世代、共感できるところもあった。特に建築学科の設計の評価の仕方など。たしかに変哲のないデザインはだめだという風習があった。そして無理やり環境との調和、エコロジーをとりいれないといけない等。国立競技場のザハ氏の経歴もわかっておもしろい。「どや建築」に対抗する「負ける建築」の隈氏に期待か。
    後半部は日本の労働問題にも触れ、組織内の技術の継承がされないことで現場監督が育たないなど、日本の会社組織のほとんどは目先の利益に固執してしまっている。今後も悪循環が続くのだろうか。

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