愚か者、中国をゆく (光文社新書 350)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034535

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしい旅の記録である。時間をおいて、その後の中国の変化から、さらに気がついた事を掘り下げているのが素晴らしい。また、異文化コミュニケーションについて深く考えさせられる。

  • 星野博美さんの、香港留学、アメリカ人留学生マイケルとのシルクロードへの旅が描かれた一冊。年代から行くと、「愚か者、中国をゆく」→「謝謝、チャイニーズ」→「転がる香港に苔は生えない」となる。ただ、この本で描かれた、香港返還の日の夜に、この時の留学生たち、マイケルも含んで、集まったと描かれたシーンは、転がる香港に…では描かれていないように思うがなぜなのだろうか。そして、親しい友人と描かれていたので、そう思って読み進めていたけど、読み終えるころには彼氏彼女でしたよね、ふたりの関係は、と思った。だからこそ、苦味をともなって思い出されるのだろうけど。香港というさまざまな文化が混在する場所ではうまくいっていた関係が、中国を旅し、さまざまな場面で異文化と衝突していくことで、次第にふたりの関係もぎくしゃくしてしまい、マイケルは閉じ篭るようにして観光もせずにドフトエフスキー「白痴」を読みふけるように。この本のタイトルに取られている、愚か者、はこの書名から来たのだろうと。ここに描かれたのはおよそ30年ほどまえの中国。巻末に2006年時点での変貌に触れられていたが、今の中国を描く一冊を読みたいというのは無いものねだりだろうか。以下備忘録的に。/旅という非日常の中では、金がないことで冒険が買える/ここはあまりに平等すぎて、特権がなければ非常に不便さを感じる社会なのだ/懸命に現地の価値観に慣れることで日常と非日常の差異が縮まり、無邪気な感動を妨げてしまう。観光して感動するとは実は難しい。/

  • 20年前の中国鉄道旅行を回想しながら、話題は中国の鉄道事情から東洋と西洋、中国国内での文明の衝突など、幅広く展開される。

    文章の表現力が豊かで、どんどん引きこまれていく。この本は旅行記の枠を越え、中国社会の実像をとらえることに挑戦しているかのよう。
    著者は、政治の変化は抑えられたまま、経済だけが市場主義に突っ走る中国の勢いを目の当たりにし、警鐘を鳴らす。先に富んでいく者と取り残されていく者との間で、いつか文明の衝突が起こるのではないかと。

    中国を旅したことがある人は、きっと懐かしい気持ちになる一冊。
    2008.08読了

  • 香港を抜けて広州、鄭州、西安、敦煌、ウルムチの旅程を、著者が21歳の時にアメリカ人の相棒と共に汽車で巡った回想日記。

    時代は80年代。当時の中国では切符販売がオンライン化していないので各駅が適当にばら売りしているという状況で、待てど並べど硬臥の切符が手に入らないが、その駅の窓口に切符が無くても満席とは限らない。そこで硬座の切符を買って乗車してから空いている硬臥を押さえるという裏技に成功したり、失敗したり。
    中国人の多さ。駅ではこれが圧倒的に感じられると書かれている。それは今も昔も変わらないんだなあとしみじみする。
    敦煌に至って期待したほど感動出来ない戸惑いが、そこが非日常に長く身を置いた旅の終盤にあることが原因じゃないかというところに共感を覚えた。
    蛇足の章でも常々自分が考えていたことを指摘していて楽しく読めた。

    平素な目線で愛情むき出しの中国のルポを書く作家はこの人以外にいないのではないか。もっと書いて欲しい。

  • ふむ

  • 星野さんの、ふと目にした光景や出来事を、そういうものなのだと納得するだけでなく、なぜそうなるのか理解しようとする姿勢が大好き。

    中国や中国文化を愛する心、また鋭い観察力と共感力に溢れていて、星野さんが出会う全ての人々が愛おしく、時に憎らしく感じる。
    まるで自分がその場にいて、その空間で同じ時間を過ごしている…星野さんの文章を読むと,いつもそう感じます。

    そして何より、星野博美さんの書く『別れ』のシーンが大好きだ。人だけでなく、街、記憶、時間、光景、そういったあらゆる概念との 別れ を、星野さんは本当に繊細に表現する力がある。

  • 1987年の中国旅行記である。35年ほど前である。中国の列車のフィールドワークとして読んでみてもとても面白い。これだけの中国の列車の旅について書かれた本はないであろう。ニュースでは帰省の混雑のみ報道されているがそれが一面でしかないということがわかる本である。

  • 転がる香港に苔は生えないの著者による中国旅行記?だが、2008年発売だが内容は1980年代後半で、今はもうなくなってしまったであろう光景、似たものがまだ残りつつも大分改善されてしまった状況など臨場感を持って書かれていて興味深い。まあ旅行記というよりは、切符争奪戦と道中何を思ったか、感じたかといった内容に主眼が置かれている。

    著者の紹介ページでは日本にいる時から中国が気になって人民服を買い求めて着てたとのことなので、なかなかの中国への傾倒ぶりだったようだ。しかしまあ今の中国はそのころとは全く別の国といっても差し支えないぐらい変わってしまったんだろうな。今とは違う種類の違う破茶滅茶なエネルギーが溢れていた頃に一度訪れてみたかった。

    P.57
    金をかけなければかけないほど、旅は刺激に満ちたものになる。何でも金、金、金の世知辛い世の中で、旅先では冒険が安価で、時にはタダで買えるのである。これほどお得な話はない。欲しいものが効果ならどこかで諦めるかもしれないが、安価になればなるほど刺激が増すため、歯止めが利かなくなる。(中略)旅という非日常の中では、日常の中で通用する「高くて有名なブランド品を身につける」感覚が、「金では買えない貴重な体験をする」に替わる価値となるからだ。

    P.59
    香港に住む我々留学生たちは、中国を修行の地とみなしているようなところがあった。中国でどんな無茶をして一皮剥けてきたかで自らのステージを上げようと誰もが腐心していた。(中略)深圳や広州に行くなどというのはガキのおつかい、北京や上海でさえ素人の行くところと見なされる始末だった。
    できるだけ遠くへ。できるだけまだ行っていない場所へ。私たちは好むとこの混ざるとにかかわらず、そんなプレッシャーを互いに与えあっていた。
    どれだけ冒険をして特異な体験をしたかが賞賛の対象となるのだから、実は二年前、ツアーに参加して軟座(一等座席)に乗ったことがあるという事実だけは口が避けてもいえなかった。(中略)白状しようものなら、「反乱分子」と糾弾されそうな空気させ流れていた。

    P.75(深圳に到着して)
    滑走路に転用できそうなほど広い、どこまでも続く道に見渡す限りどこまでも続く駅前広場。(中略)その広大な面積の中にいるからさほどの密度は感じずに済んでいるが、おそらくものすごい数であろう、さほど用事があるようには見えない人々の群れ、それらは間違いなく、香港には存在しないものだった。
    人ごみを見るのは香港で慣れている。しかし香港の場合、人ごみには必ず理由があった。クリスマスのイルミネーションやビクトリア港に打ち上げられる花火を見に行くとか、来港したイギリスのエリザベス女王をの姿を一目みたいとか(中略)、しかし中国の人々の群れには、理由が見えなかった。
    この、「理由の見えない人々の群れ」という光景は、その後も私個人にとっては、中国を考える際の重要なキーワードの一つになっていく。

  • 旅先の中国よりも、旅そのものに主眼が置かれていて、旅行中に変化する相棒との関係や、著者の「旅論」が語られる。

    『転がる香港~』以降、感傷的になっているが、相変わらず考察は深い。中国鉄道の硬座(二等座席)がこの世の地獄のように書かれているのが興味深い。87年当時のことなので、自分の知っている2010~2012年よりもずっとマナーが悪くて自由だったのだろう。怖いもの見たさに一度経験してみたかった気もする。

  • この人の書いたものは、そこに出てくる人々の言葉が活字ではなく生の言葉として感じることが出来る。
    いきなりだけど、著者はマイケルのことが好きだったのね。

    今では所謂ホテルや高速鉄道が中国でも当たり前で、当時のような外国人ならではの旅行スタイルもなくなり、一つの歴史を読むような感じ。他の著者でも読んだことあるが、硬座での旅はハンパなくキツイらしい。更に、無座というのもあったらしい。
     

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著者プロフィール

1966年、戸越銀座生まれ。ノンフィクション作家、写真家。著書に『転がる香港に苔は生えない』(2000年、第32回大宅壮一ノンフィクション賞)、『コンニャク屋漂流記』(2011年、第2回いける本大賞、第63回読売文学賞随筆・紀行賞)、『戸越銀座でつかまえて』(2013年)、『みんな彗星を見ていた』(2015年)、『今日はヒョウ柄を着る日』(2017年)、『旅ごころはリュートに乗って』(2020年)など多数。

「2022年 『世界は五反田から始まった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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