エニグマ アラン・チューリング伝 上

  • 勁草書房
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326750535

作品紹介・あらすじ

解読不可能といわれたドイツの暗号機エニグマを攻略した史上最強の暗号解読者であり、コンピュータ科学の創始者であり、同性愛で罪に問われるという数奇な人生を送ったアラン・チューリング。彼は何を考え、何を感じ、そして生きたのか。数理物理学者でもある著者アンドルー・ホッジスがチューリングの生涯を鮮やかに描き出す。トロント国際映画祭観客賞受賞、第72回ゴールデン・グローブ賞5部門ノミネート、ベネディクト・カンバーバッチ主演映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』原作。

感想・レビュー・書評

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  • アラン・チューリング。
    コンピュータ科学の父とも、人工知能の父とも言われる。
    第二次大戦時、ドイツ軍の暗号「エニグマ」の解読に関わり、成功を収めたが、その業績は長く秘密にされた。チューリングマシンやチューリングテストなど、コンピュータ科学や人工知能の萌芽となる概念を考え出すとともに、生物の形態形成や数理生物学にも興味を示し、学問の境界を越えていく稀有な知性の持ち主だったと言えるだろう。
    1952年、自宅に泥棒が入ったことをきっかけに、当時の英国では許されぬ性癖、すなわち同性愛の事実が明るみに出る。チューリングは拘束か薬剤療法かどちらかを選ぶよう促され、その頃、同性愛の「矯正」に効果があるとされていた女性ホルモン療法を受けることを選択する。
    このことが精神状態によくない影響を及ぼしたのかどうかは定かでないが、1954年、彼は自宅で死亡しているのを発見される。死因は青酸中毒。ベッド脇には囓り掛けのリンゴがあった。かつて彼は「白雪姫」の映画を見た際に、毒リンゴで倒れる場面に感銘を受けたとされており、このシーンを真似たとも言われる。いずれにしろ、自殺というのが定説だが、彼の母や友人は事故だと信じていた。

    昨年、このチューリングの映画(「イミテーションゲーム」)が公開されたが、本書はその「原作」と言われている本である。
    最初の版は1983年に出版されているが、その後、何度か版を改め、本書は映画公開に合わせて改定・改稿されたものを底本としている。ホッジスによるチューリング評伝の和訳としては最初のものである。2015年2月に上巻が出ているが、下巻は8月31日刊行予定である。上巻はチューリングがエニグマ解読に取り組むあたりまでで終わっている。

    映画は映画でよく出来た作品だったのだが、上巻を読み終えて、よくこの原作からあの映画を組み立てたな、というところにまずは感心する。チューリングの変人ぶり、秘められた「ロマンス」、国家による陰謀などがテンポよく配された、ある意味、非常にわかりやすいストーリーとなっていたからだ。
    本書の趣はいささか異なる。静かで、複雑で、さほどわかりやすくない。稀代の天才であるチューリングの内面へと、温かく、しかし鋭く迫っていく評伝である。
    著者は数理物理学者であるとともに、ゲイ解放運動の活動家でもある。チューリングを描くのに、まさにうってつけの人物と言えるだろう。
    ある箇所ではチューリングマシンの概念やエニグマの構造について解説し、ある箇所では社交的とは言い難いチューリングの、同僚たちとのぎこちない交流を描き、ある箇所ではバーナード・ショーの戯曲やホイットマンの詩を語る。
    こんな離れ業は誰にでも出来るものではないだろう。
    だがこの多層さが、チューリングの人格の多様さに分け入っていく一助となっている。
    数学に長け、生物の中のフィボナッチ数の存在に惹かれ、強靱な肉体を持ち、しかしどこか不器用であった、1人の孤独な天才の。

    この本はおそらく、読む人を選ぶ。
    自分もこの本に非常に適した人物とは言えないだろう。
    しかしそれでも、謎に満ちた知性がどのような道をたどり、偉大な業績を生み出したのか、天才の人となりを感じ、何某かを思い浮かべることは可能である。

    不思議な本だ。
    下巻刊行を待つ。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 天才は寂しいね…

  • 数学理論や確率統計の専門的な内容に及ぶため難解であるが、それでもなおアラン・チューリングの才能や変人ぶりを興味深く伝える書物。20世紀初頭の時代背景への理解が深まり、世界大戦の時系列はスリリング。ダグラス・ホフスタッターによるはしがきも良かった。アインシュタインをはじめノイマンやリトゲンシュタインなど著名な科学者も登場。計算可能数の理論やゲーデルの不確定性原理など、一般レベルを超えた知識が要求される。 ゼータ関数の方程式なども紹介がないため、リーマン予想についても知っていることが前提とされた内容。
    文脈が急に飛んでしまったり、登場人物名が良く分からなくなってしまったりもする。

  • 棚番:D10-06

  • アラン・チューリングの伝記。フォン・ノイマンよりも先にコンピュータの骨格作っていた。今でいうアスペルガー症候群の人であったと思う。第二次世界大戦で、イギリスを救った暗号解読者である。

  • No.759

  • コンピュータ科学の基礎を創ったチューリングの伝記
    映画イミテーション・ゲームの原作本、下巻もあります
    【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 289.3||HO||1
    【OPACへのリンク】
    https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/175200

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784326750535

  • チューリングの先祖の話から、エニグマ解析の最初のところまで。
    パブリックスクールの締め付けの強いところに、同性愛者が入るというなんとも本人にとって苦痛以外の何者でもない世界が読んでいてなんともいえない気分になる。

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著者プロフィール

アンドルー・ホッジス(Andrew Hodges) 1949年、ロンドンで生まれる。 ケンブリッジ大学卒業後、本書を執筆。ロジャー・ペンローズの共同研究者としてツイスター理論の発展に寄与した数理物理学者であるとともに、1970年代からのゲイ解放運動の活動家。現在は、オックスフォード大学ウォドム(Wadham)カレッジのフェローであり、数学研究所 (Mathematical Institute)教授。 個人サイトは www.synth.co.ukであり、チューリングの伝記に関するwww.turing.org.ukを運営している。

「2015年 『エニグマ アラン・チューリング伝 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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