命の価値: 規制国家に人間味を

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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326550791

作品紹介・あらすじ

「ナッジ」で知られるハーバード大学の教授がホワイトハウスへ。情報規制問題局の局長として、規制に関する法律の実際の立法に関わる。政策採用の是非の基準や、その際の費用便益分析の用い方まで、その内実を明らかにする。

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  • 原題:Valuing Life: Humanizing the Regulatory State(2014)
    著者:Cass R. Sunstein(1954-)
    訳者:山形浩生
    装丁:宮川和夫

    【書誌情報】
    価格:2,700円+税
    出版年月日:2017/12/22
    ISBN:9784326550791
    版型:4-6 340ページ

    「ナッジ」で知られるハーバード大学の教授がホワイトハウスへ。情報規制問題局の局長として、規制に関する法律の実際の立法に関わる。政策採用の是非の基準や、その際の費用便益分析の用い方まで、その内実を明らかにする。
    http://www.keisoshobo.co.jp/smp/book/b329817.html

    【目次】
    献辞/コロフォン [/]
    題辞 [i]
    目次 [ii-iii]

    はじめに――フランクリンの代数 001

    第1章 政府の中 015
    ルールのレビュー OIRAプロセス 022
      基本
      「ROCISにアップロード」
      内部プロセス
      外部会合 
    費用、便益、政治 050
      費用と便益の役割は重要だが限られている
      専門的な問題、政策的な問題、政治
      分散した情報について  

    第2章 人間的な帰結、あるいは現実世界の費用便益分析 067
    基本 070
    死亡リスクの価値評価 073
    幅の広さ 076
    コベネフィットとリスク=リスクトレードオフ 079
    定量化困難または不可能な便益 082
    純便益 085
    気候変動 086
    割引率 087
    見事な問題と制度的な制約 090

    第3章 尊厳、金融崩壊など定量化不能なもの 093
    問題、手法、謎 093
    定量化担当者の三つの課題 097
    情報不足 101
    実務 105
    謎 110
    簡単な場合、むずかしい場合 111
    上限と下限 112
    定量化不能と金銭化不能 114
    比較 115
    知見の不足と条件つき正当化 116
    ブレークイーブン分析にできること、できないこと 118

    第4章 人命の価値その1 ――問題 121
    支払い意志額――理論と実践 129
    厚生と自律性 131
    疑問、疑念 133
    統計的リスクの価値 135
    個人化 136
    リスク 137
      人々 
    理論と実践 150

    第5章 人命の価値その2 ――解決策 157
    楽なケース 160
    厚生と自律性(再び) 160
    VSLを分解する 163
    楽なケースは実在するのか? 166
    反対論 167
      「欲求ミス」
      情報や行動的な市場の失敗
      権利
      民主主義と市場
      きわめて低い確率のカタストロフ的なリスク
      第三者の影響
    もっとむずかしいケース 181
      構成と分配
      最適課税と実行性
    世界的リスク規制と国別の価値評価 188
      インド人の命はアメリカ人の命より価値が低いのか。気候変動など
    政策と実務 193

    第6章 リスクの道徳性 195
    通常のヒューリスティックス、確率、頑固なホムンクルス 197
    ヒューリスティックスと道徳性 200
    アジア病気問題と道徳的フレーミング 203
    費用便益分析 207
    裏切りと裏切りリスク 211
    排出権取引 214
    予防原則と損失回避 217
    ルールと失敗 220

    第7章 人々の恐怖 223
    確率無視――理論と実践 226
    電気ショック 228
    がん 230
    恐怖、怒り、確率 232
    制約と異質性 236
    法律への要求を動かすのは何か? 237
    どうすればいいのか? 241
    鮮明さと確率 245

    おわりに――規制国家を人間化する4つの方法 247

    謝辞 [251-253]
    訳者あとがき(二〇一七年一一月 東京にて 山形浩生) [255-270]
     1.はじめに
     2.著者について
     3.本書の特徴――『シンプルな政府』との関係
     4.本書の議論の骨子
       1 費用便益分析とは何か?
       2 行動経済学的な視点 
       3 アメリカの規制行政の内実
     5.規制行政の現実とは
     6.おわりに

    補遺E:死亡と病気の価値 [lxi-lxii]
    補遺D:ブレークイーブン分析の主要事例 [lvii-lx]
    補遺C:主要連邦規制の推定便益と費用 [l-lvi]
    補遺B:炭素の社会的費用 [xlvii-xlix]
    補遺A:大統領命令 13563、2011年1月18日 [xliii-xlvi]
    注 [v-xlii]
    索引 [i-iii]



    【抜き書き】
    ■エピグラフ(題辞)から。

    ――――――――――
     費用と便益の世界(これは悪質な行動や、自由と権利の侵害がどんなにひどいものかを認識するというのも含む)は、結果とは無関係な義務や責務が持つ、傍若無人な理由付けとはかなりちがった意志決定の宇宙となる。
       ―――アマルティア・セン
    The Discipline of Cost-Benefit Analysis, in 『Rationality and Freedom』 553, 561 (2002). (「費用便益分析」、『合理性と自由(下)』勁草書房、2014年)

     合理的経済秩序の問題が持つ奇妙な特性は、まさに我々が活用しなければならない状況に関する知識が集約されまとまった形では決して存在せず、むしろ様々な別個の個人が保有する、不完全でしばしば矛盾する知識の、分散したかけらとしてしか存在しないという事実からきている。(中略)あるいは、手短に言うと、それはだれにも完全な形では与えられていない知識を活用するという問題なのだ。
       ―――フリードリッヒ・ハイエク
    The Uses of Knowledge in Society, 35 Am. Econ. Rev. 519, 519 (1945). (「社会における知識の利用」『市場・知識・自由』ミネルヴァ書房、1986年)
    ――――――



    ■「はじめに」(pp. 6-7)から。

    ―――――――
     何らかの政治的代数というのは魅力的ながら、多くの理性的な人々は費用便益分析に激しい不快感を示す(※3)。その不快感は、学術界でも政府でも見られたし、真面目で正当な問題を提起するものでもある。大気汚染、プライバシー、不注意運転、危険な鉱山、障害や性的嗜好に基づく差別を考えよう。こうした問題に対応した規制の便益をどうやって金銭換算しようか? 車いすの人をトイレにアクセスしやくする経済的価値はいくら? そうした費用が本当にその費用を負担できる人々に課された場合はどうで、便益がそれを本当に必要とする人々、それがなければ生活できないかもしれない人々にまわる場合はどうなのか? 
     公職についていたとき、私は「費用便益分析の人間化」についていろいろ語ってきた。この用語で、私は四つの関連しあう発想を指すつもりだった。一つは、起こりそうな結果を考慮する必要性だ――これは費用便益分析を私が熱心に勧める理由を説明する点となる(※4)。二番目は、費用便益分析が捕らえるのに苦労するものにスポットライトを当てることで、そこには人間の尊厳も含まれる。人間化された費用便益分析は、定量化できないものを無視したりはしないのだ。第三の発想は、本物の人間とホモ・エコノミカス(標準的な経済分析に使われる合理的なアクター)とのちがいに関するものだ。何十年にもわたり、心理学者や行動経済学者たちはこのちがいを強調して、人間というのは標準的な経済学者たちが認めてきたよりも利己性が低く、まちがいを犯しやすいのだと示唆してきた。人間化された費用便益分析は、政治や規制が本物の人間に与える影響を検討する。最後に四つ目の発想としては、国の市民たちが保有する散り散りの情報を集める必要性についてのものだ。規制当局は通常はいろいろ知ってはいるけれど、でも市民たちよりはずっと無知なことが多い。規制を固める前に、世間のコメントを集め、奉仕させてもらっている人々から学ぶことが必要だ。

    ※3 ことさら示唆的な議論が Matthew D. Adler, 『Well-Being and Fair Distribution: Beyond Cost-Benefit Analysis』 92-114 (2011)にある。

    ※4 もちろんこうした帰結に対応する方法はいくつもある。費用便益分析はそうした手法の一つでしかない。上記論文を参照。私は現時点では、費用便益分析が、比較的実施が容易という利点を持つと思うけれど、各種の代替案や、帰結主義の内部から出てくる批判は慎重に検討する余地がある。
    ――――――――――

  • 読了。やっと片づけて達成感。最近は本を読む「まとまった時間」がないからなぁ。

    ◆金銭化できない価値はあれども、費用便益分析が中心的な検討事項というのは確か。(p.51~)
    そこで、基本的なシナリオ分析(思考実験や二択のアンケートによる試験)を進めながら、時に哲学的領域にも踏み込みつつ、検討が進む。(P.69~)

    ◆本書の主題は「命の価値」(Valuing Life)だが、著者も言うように、基本的に、リスクをある程度「低減」するための「支払意思額」を基にしてVSL(生命の統計的価値)が導出される点には、一応注意が必要(つまり100と0の比較ではなく例えば100と90を比べている)。(P.73)
    その上で、VSLが一般的な数値として得られたとしても例えば高齢者の場合(例えば寿命が数か月のびるだけでも)同じ値にすべきか?等といった問題が生じてくる。(P.76、P.206)

    ◆加えて、コベネフィット(副次的な影響)や定量化困難な便益の取り扱い方や、費用便益比(B/C)よりも順便益(B-C)のほうが重要ではないかという点、さらには、分配(公正性)についても触れられている。分配のみならず「尊厳」の議論もあり、そうした費用便益分析の外にある論点はもちろん大事。(PP.79,85,86)
    ただし、本書の力点はむしろ(表題の通り)VSLのほうにある。

    ◆VSLはリスクにより、あるいは人により違うはずであり、できる限り「個別化された(=人やリスクにより異なるはずの)VSLが使われるべき」というのが本書の大きな方向性に感じる。
    このうちリスクの種類による違いとしては、怯えの有無(例えばガンの苦しみ)や自発性の有無、更には直感的な反発が考えられる。(P.136~)
    また、人による違いとしては、前述の年齢に加えて、所得や国や人権(による支払意思額)の違いがある。(P.145~)(※こうしたことから、国をまたぐ事業や国の異なる事業間での選択といった取り扱いに、国際機関では特に悩むことになりそうだな、、、)
    つまるところ、無数のVSLがあるということになるのだ。

    ◆VSLを使えば十分なのか、、、支払意思額の選択で、そもそも理性的選考をしていないとか、厚生の選択も主観的かも、とか。又、極めて低確率のカタストロフ的リスクの場合にはカタストロフプレミアムも反映すべきとも指摘。
    さらに、生命は本人だけでなく他人にも影響するという点も。
    この辺りのことは『最悪のシナリオ』にも結構かぶるけど。強い刺激や感情的描写があると特に強い拒否感がでて確率判断を無にしがち、ということもそう。

    ◆その他面白かったこととして、
    ○気候変動に関し、炭素の原単位や社会的割引率という(本来行政的にきまる話でそう簡単に変えられべきとサンスティーンが言っているはずの)基礎的な数値を、トランプ政権になって大きく操作されたという、訳者の解説での指摘にはびっくりした。
    ○また、「不作為バイアス」(裏切りへの反発からの)(P.214)も、昨今のコロナワクチンへの一部の反応を物語っているとも思った。
    ○あとは、排出権取引を巡るサンデルの理論への批判とかも・・・。(P.214~)

  • 米国政府ホワイトハウス情報規制問題局局長による政府が規制をどのように評価検討しするのか、局内の実態と、発生する問題、幾つかの例示への対応例(2億ドルかかる規制に対して便益がいくらなのか、人命の価値や人権をどう判断するのか?)を説明するもの。
    特に後半必ずしも論理的帰結に行き着くとは限らない民衆の不安や恐怖への言及も興味深い。

    説明は丁寧なのだが、元が法律家だからか文章がやや読みにくいのと、ルール作り側からの視点で個人的には興味を惹くが一般には退屈かも。同著者の『シンプルな政府』の方が一般向けぽい。
    一読すれば気づく程度のくだらない誤変換が目につくのが気になる。

  • アメリカではレーガン政権の時に、規制影響評価が大統領令で求められるようになったが、その実際の取り組み、考え方について詳細に説明が行われており、極めて参考になる。費用便益評価、カタストロフィックリスクについては特に興味深く読ませていただいた。誤字が多いことに驚いたが、内容が面白いので気にならない。類書はないと思う。

  • ハーバード大学の憲法学の教授がホワイトハウス(情報規制問題局長)へ。規制に関する法律の実際の立法に携わる。その経験から、政策採用の是非の基準や、その際の費用便益分析(Cost-Benefit Analysis)の用い方を論ずる。

    「スター・ウォーズによると世界は(キャス・R.サンスティーン)」(早川書房)(2017/11/21)の著者と同一人物。

  • 命の値踏みについて、どう考えるとよいのか。
    その出発点として読んでみた。

    キーワードは、統計的生命の価値 Value of Statistical Life: VSL だ。
    今のところそれは9,000,000ドルと見積もられている。アメリカでは。

    それがどんなふうに妥当か、あるいはどのように妥当でないと考え得るのかについての議論が極めて形式的に明快に整理されている。

    様々なヒューリスティックスや恐怖によってこの判断が間違って行われてしまう事があることも指摘されている。ただしそのことを冷笑的に扱うのではなく人とはそうしたものだと言うことを冷静に取り扱っている。

    ちょっとどうかなと思うくらい誤植がある。「死素敵」(たぶん、質的)だの「拳凍り付く」(たぶん、健康リスク)だの。スとツを打ち間違いやすいんだろうか。

  • 著者がホワイトハウスで担った規制行政と費用便益分析について語られている。行政に於ける費用便益はその対象の背景が多様な為にどのラインで便益が妥当と考えるのかという判断が難しい。そこに著者は行動経済学の知見を用いて判断しており、そのプロセスは我国ではどういう形をとっているのか?が興味深い。我国に於ける行政の再配分の判断は不確かな道徳的なバイアスがかかり、機能不全に陥っていると感じているので、こうした知見を活用して欲しい。

  • やっぱり選別されているんだろうなぁ、、、

    勁草書房のPR

    「ナッジ」で知られるハーバード大学の教授がホワイトハウスへ。情報規制問題局の局長として、規制に関する法律の実際の立法に関わる。政策採用の是非の基準や、その際の費用便益分析の用い方まで、その内実を明らかにする。
    http://www.keisoshobo.co.jp/book/b329817.html

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著者プロフィール

ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81 年よりシカゴ大学ロースクール教授を務め、2008 年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18 年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。著書に『ナッジで、人を動かす──行動経済学の時代に政策はどうあるべきか』(田総恵子訳、NTT出版)ほか多数、共著に『NOISE──組織はなぜ判断を誤るのか?』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー共著、村井章子訳、早川書房)ほか多数がある。

「2022年 『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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