「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学

  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326154401

作品紹介・あらすじ

伝統的な哲学は、正義の理論や共通善の説明を作り上げ、それが多くの政策課題についてもつ含意を示すというやり方で、政策の問いを考えてきた。しかし本書は、現実世界で直面する政策課題から出発し、哲学だけでなく、歴史学、社会学、科学的証拠を使い、なぜいまそれが問題になっているのかを解明し理解することを目指す。

感想・レビュー・書評

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  • これは応用倫理学者にもっと読まれるべきだ。

  • 公共政策について、倫理学や哲学がどのように貢献できるのかを、様々なイシューに即して論じた本。本書の立場は、つづめて言えば、問題解決型のアプローチである。つまり、各イシューに関して一般的な哲学的原理を提示してから個別の問題に応用していくという流れではなく、何が問題になっているのか、その状況の理解に努めながら、その問題に対する解決案の様々な立場のメリットとデメリットを比較考量し、議論のすり合わせを行っていくという流れである。またもう一つの特徴として、経験的実証的な知見の重視が挙げられる。ギャンブルや犯罪の章では特に顕著であるが、常識的な見解に反する立場を擁護する際には、経験的な知見を交えながらそれを行なっている。しかし総じて、原理原則に基づく社会の抜本的な刷新ではなく、人々の常識的な判断を尊重しながら、部分的な改善を目指していくというスタイルが貫かれている。

  • 311.1||Wo

  • 知人から借りて読了。訳語なのもあり難しい部分もあったが、印象に残った議論はいくつかあった。個人的には、「安全性」の章で出てくる電車事故の事例が印象的。

  • 「哲学者たちは世界を様々に解釈してきただけだったが、大事なことは世界を変えることだ」というマルクスの言葉が端的に引用されるように、社会、とりわけ政策にどう哲学的思索を反映させるかということを情熱をもって取り組んでいる。読み慣れるまで少しとっつきにくいが面白い。 とはいえ哲学者は概して意見の一致よりも独創性を重視する個人主義者かつ論争家であり、彼らは意見の一致を退屈で面白くないものと考えがちだ。妥協は哲学者にとってなじみの概念ではない、のだからこれがいかに挑戦的なテーマであったかうかがわれる。 印象に残った一節(解説より) 「さまざまな政策的課題の背景には道徳的な価値の対立があることを知り、そしてそこに道徳的価値の多元主義−諸価値の対立を収めることのできる至上にして唯一の価値はないこと−を認め、さらには、それゆえに絶対に正しい唯一の政策上の解決策や態度はないことを理解する」「最善の正義を目指すよりも明白な不正義を減らすべく、漸進的な改革を目指す方が重要」

  • いただきもの。英国の政治哲学者ジョナサン・ウルフの著作。公共政策における哲学者の役割を、筆者が参加したいくつかのプロジェクト(動物実験、ギャンブル等々)の議論を通して考えるもの。実際に政策作りに近いところにいたので、ベンタムやミルと比べると原理的というよりは折衷的に見えるが、その分現実的でもある。よく見習うことにしよう。

  • 一見正しい政策がありそうな問題にも多数の論点があって、そんなに簡単じゃない、という話が延々と続くので、スゴい体力、集中力を求められる本です。休み休みでないと読めません。

  • 哲学者が政策の形成にどのように寄与しうるかについて、「正しい政策」がない様々な政策課題を例に挙げながら検討している。

    「正しい政策」がない状況とは、価値観の対立がある場合、現状の理解に対する共通の認識がない場合、政策の手段に対する見解が分かれている場合など、様々な状況が考えられる。

    一般的に哲学は、推論を積み重ねながら正しい結論に至るための、思考の手段として捉えられているが、本書ではそのような哲学の作法としての側面は認めつつも、それが唯一の正しい結論を導き、政策の骨子を固める役割を果たすことができるという見解に対しては否定的である。

    むしろ、現実の政策形成のフィールドは、異なる価値観や前提条件をもとに様々な政策手段を求める人々の集まりであり、その中で何が正しいか、何が正しくないかを一義的に決定することはできないというのが、本書の議論の土台にあると思われる。

    そのうえで、しかし実際の政治の世界は結論を出し、政策を実行しなければならない。そのような状況の中で哲学者ができることは何か。

    筆者は、哲学者は短期的には、問いを投げかけ、推論の道筋を正し、何が分かっており何が分かっていないのかを整理するといった、議論を深めていくための手助けをできると考えている。

    また、長期的には、新しい価値観を組み立て、それらが浸透するために必要な議論と説得を継続的に行っていくということも、哲学者が果たすことのできる重要な役割であるとしている。

    政策形成の現場が、誤った課題認識やあやふやな論理によって進められるとすれば、その結論としての政策がより良い社会をもたらすことはできないであろう。そのようなことを避けるために、哲学者の役割が重要であるということを感じた。また、哲学者という専門職のみがそのような役割を担うことができるということではなく、われわれ自身が政策に対する議論を行うにあたって、哲学の世界が築いてきた思考のプロセス自身に学ぶことも多いということも、本書が伝えたいひとつのメッセージだったのではないかと思う。

  • 政治哲学なる学問があり、イギリスでは実際に哲学者が政治の決定に参画して、影響を及ぼしていることに大変驚いた!
    日本の政治では、利害関係者や、該当の分野のいわゆる専門家、政治学者、経済学者が委員会等に参加しているが、哲学者が入っているケースは知らない。
    この本で展開されているように、動物の取り扱いや生殖医療等、倫理的な価値判断が入り、何が正義か一概には決まらない課題が多くなっている。そんな時に、哲学者が論点を整理し、多様な問題点を提起してくれるのであれば、身のある議論ができるのではないたろうか。
    生殖医療、AIの軍事利用等、ますます倫理的な価値判断が問われる局面が増えているが、議論を先送りして規制が後追いになってしまっている。取り返しがつかなくなる前に、国会等でもっと身のある議論を行うべきであろう。

  • 当たり前の話ばかりで、新鮮味がなかったので、途中放棄。

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著者プロフィール

ジョナサン・ウルフ(Jonathan Wolff)

オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院教授。著書に『ノージック――所有・正義・最小国家』(森村進/森村たまき訳、勁草書房、1994年)、『政治哲学入門』(坂本知宏訳、晃洋書房、2000年)など。

「2016年 『「正しい政策」がないならどうすべきか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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