ドッグ・シェルター: 犬と少年たちの再出航 (ノンフィクション知られざる世界)

著者 :
  • 金の星社
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784323060781

作品紹介・あらすじ

殺処分してしまう施設でなく、捨て犬たちの新しい家族を探す橋渡し役、それがドッグ・シェルターです。アメリカのポートランドでは、新しい飼い主へ渡すまで、犬のすべての世話とトレーニングを、少年院の子どもたちがおこなっているプロジェクト、"プロジェクト・プーチ"があります。犬たちはここで人間への信頼を取り戻し、そして少年たちは「命」を預かることにより、その大切さを学び、自分自身の存在価値を見出していきます。少年・ネートと彼の選んだ犬・ティリー、そしてティリーの新しい飼い主となった自閉症のジョーダン。2人の少年と1匹の犬を通してプーチの活動を紹介し、「命」とそこから生まれる無限の可能性について考えます。

感想・レビュー・書評

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  • 【概要】
    「過ちを犯した少年たちに、命の大切さを教えてくれたのは、人間に捨てられた犬たちだった」(表紙の扉より)

    アメリカ・オレゴン州にあるマクラーレン少年院では、元校長のジョアン・ドルトンの発案で「プロジェクト・プーチ」という活動が行われている。

    在院生は「ドック・トレーニング・プログラム」の参加申込書を提出し、このプログラムに適正があることが面接でわかると、この活動に参加できる。

    捨て犬たちの新しい家族を探す橋渡し役である「ドッグ・シェルター」。ここにいる犬の動画を撮影し、少年たちに犬を選ばせ、プロジェクト・プーチに連れて帰る。

    トレーナーとなった在院生が選んだ犬の世話とトレーニングを、3ヶ月から1年かけて行なう。

    トレーニングが終わったら、犬の飼い主を見つけるためのチラシや広告も少年が自ら作る。

    チラシや広告はジョアンが動物病院やペットショップの掲示板に貼ったり、インターネットも活用する。

    犬を飼いたいという人から連絡が入ったら、飼い主となる人との面接を行い、全て条件が満たされれば、犬は新しい家族のもとへ行く。

    飼い主は175ドルをプロジェクト・プーチに支払うが、そのうち50ドルはその犬を世話した少年に渡され、貯金などにして社会復帰後に役立てる。残り125ドルは犬の食費やその他の経費となる。

    犬の新しい家族が見つかることは、少年にとっては悲しい別れでもあるが、自分がトレーニングした犬の家族が見つかる嬉しい出来事でもある。

    その後、少年たちは新しい犬の担当になり、トレーニングや世話を行なう。

    少年クリスの言葉:

    「ドルトン先生、信頼っていうのはさ、失うのは簡単だけど、取り戻すのは簡単じゃない。こいつの気持ちが、おれにはわかるんだよ。どうしてか、わかるかい?おれさ、小さいころ、親からひどい虐待を受けてたんだ。なぐられ、けられ、たたかれて・・・それが毎日続いたよ。小さかったおれは、どこにも行く所がなくてね。毎日おびえて、近くの道ばたで泣いてたよ。泣いて泣いて、泣きつかれて・・・。それでも、いくとこがないから、また家に帰る。で、またなぐられるのくりかえしだ。だからさあ、わかるんだよ。こいつの気持ちが情けないくらいにね・・・。」

    少年ネートの言葉:

    「犬は言葉を話さないだけだ。言葉を話せないだけで、全部わかっているのさ。おれの気持ち、先生の気持ち・・・。いや、それだけじゃないな。今のおれがいい人間なのか、悪い人間なのか、ちゃんと見ているよ。まいっちまうな。ティリー(犬)には、本当にまいっちまうよ・・・。」

    犬は、飼い主で変わる。

    このことを、このプログラムに携わっている子どもたちが証明している。

    プロジェクト・プーチで犬を愛し、犬と共にすごしたマクラーレン少年院の子どもたちは100人を超すが、再犯を犯した者はただ一人としていない。

    【感想】
    スクールドッグを広め、日本中の小中高生を元気にする「ソーシャル・アニマル・ボンド」という活動を、友人の青木潤一さんが精力的におこなっています。HPはこちら。

    https://www.social-animal-bond.jp

    この本は、青木さんに教えてもらいました。

    私自身は、男子校におけるジェンダー平等教育に関心があったことから、今は刑務所における受刑者(特に男性)の処遇にとても興味を持っています。

    受刑者が、「何をしてしまったのか/なぜしてしまったのか」に向き合い、「社会復帰後に再犯しないためにはどのようなプログラムが必要か」、社会復帰までに「対人援助職者である刑務官やその他のスタッフが受刑者に対しどのように接していくのが望ましいのか」などに関心があります。

    また・・・刑務所と学校が実はよく似た環境でもあり、学校現場で働く中で、このことを考え続けています。

    最近読み終わった本で、奈良少年刑務所の詩集「名前で呼ばれてこともなかったから」がすごく良かった、という話をしていたら、青木さんのスクールドッグの事業と一本の線で繋がるような感覚があったので、「刑務所の中に犬がいたら、受刑者の人たちにも変化がありそう」というような話を振ってみました。そうすると、すでにアメリカでそのような活動をしている本があるということで、本書の存在を教えてくれました。

    読了して感じたことは、犬という動物が、人と人の間に介在することで、人が犬から信頼や責任について学び、人との関係の回復にもつながるという点です。

    学校であれ、刑務所であれ、犬の持つ不思議な力であふれていて、ワンちゃんすごい!と開眼したような気持ちになりました。

    「被害者をこれ以上生まないために」、「受刑者が社会復帰後に再犯しないために」、何ができるのか学んでいる最中なのですが、刑務所の中で用意できるプログラムは一つではないことを知って、とても励まされた気持ちになりました。

    坂上香監督の映画『プリズンサークル』や、寮美千子さん編の奈良少年刑務所の詩集と共に、少年たちの再出発のために、「自分や社会にできることは何か」を考える機会を作ってくれる本でした。

  • なんでもっと注目されないのか。こんなに素晴らしい制度があるのに日本に導入されないのは、本当にもったいないと思う。いろいろ課題があって難しいこともわかるけれど、でも……!
    再犯率がほぼゼロということも信じられないけれど、それほどの効果があるってことだよなあ、と。いつか、日本で実現しないだろうか。

  • 子どもが借りてきた本を読みました。
    アメリカ的な話だけで日本では難しいことかもしれないけど、こういうシステム作りが日本でもできたらいいのに、と思いました。
    子ども向けなのですごく簡単に書かれていますが、内容は本当はとても重たいことです。
    児童向けだけではもったいない本。

  • 中学生、いや現在も絶賛の本。是非読んでください。

  • K645
    「殺処分してしまう施設でなく、捨て犬たちの新しい家族を探す橋渡し役、それがドッグ・シェルターです。アメリカのポートランドでは、新しい飼い主へ渡すまで、犬のすべての世話とトレーニングを、少年院の子どもたちがおこなっているプロジェクト、“プロジェクト・プーチ”があります。犬たちはここで人間への信頼を取り戻し、そして少年たちは「命」を預かることにより、その大切さを学び、自分自身の存在価値を見出していきます。少年・ネートと彼の選んだ犬・ティリー、そしてティリーの新しい飼い主となった自閉症のジョーダン。2人の少年と1匹の犬を通してプーチの活動を紹介し、「命」とそこから生まれる無限の可能性について考えます。」

    目次
    プロローグ 犬をゆずってください
    1 マクラーレン少年院の子どもたち
    2 ネート・ミッチムという少年
    3 ネートの一日
    4 ティリーが来た
    5 ジョーダンとクレイグ
    6 ビッグ・ブラザーとベスト・フレンド
    7 新しい家族
    8 ネートの手紙
    9 ネートとジョーダンの挑戦
    10 ティリーの心
    エピローグ ネートの再出航

    著者等紹介
    今西乃子[イマニシノリコ]
    大阪府岸和田市生まれ。シンガポールのホテル勤務、航空会社広報担当などを経て、旅行記と、子どもの道徳・倫理問題に関連した執筆をきっかけにフリーライターとなる。インドのストリートチルドレンと出会って以来、ライフワークとして世界の子どもたちの取材に取り組む。国際理解をテーマにした講演や、小・中学校の総合学習の授業等で講師を務めている。現在、特定非営利活動法人・アジア教育支援の会理事。著書に、第48回産経児童出版文化賞推薦となった『国境をこえた子どもたち』(あかね書房)がある

  • アメリカ・オレゴン州のマクラーレン少年院で行なわれているプロジェクト・プーチ。そこでは野良犬や捨て犬を保護するドッグ・シェルターの犬を、少年院の子どもたちが世話をするのだった。
    保護権と罪を犯した子どもたちとの出会い。素敵な取り組みですが、これを形にするのは大変だっただろうと想像します。お国柄なのかマクラーレン少年院は社会に対して開かれた印象があります。なによりドッグ・シェルターと協力しているということ。そして少年院の子どもたちが世話をした犬は、子どもたちの手によって飼い主募集のチラシを作られ(その掲示はもちろんスタッフが行なうのですが)、新たな飼い主と少年院の子どもが直に会って犬の受け渡しをする。また施設内で行なわれている犬の訓練に一般の人たちも参加できる、等々。これは社会で道を外れた子どもたちを見守ろうという思いの表れなのではないでしょうか。それがあってこそ、プロジェクト・プーチは成り立つのでしょう。
    犬の世話をするという自分の役割を与えられることによって変わっていく子どもたち。自分を信頼してくれる犬の存在の大きさ。そしてそれを見守りそのシステムを構築したスタッフの努力。それら全てが胸を打ちます。
    犬の引き取り手として自閉症の少年がやってくるのも考えさせられます。果たして自閉症の少年に犬の世話ができるのだろうか。そのことに犬の世話をしてきた少年院の少年は大丈夫と肯定します。そこにあるのはやはり信頼なのですね。犬との間で築けた信頼関係を、自閉症の少年との間にも築く。他者を信じ他者から信じられることを知り、それに価値を見出した者だからこそ言える肯定だったのでしょう。

  • BSでの特集の再放送を見ていたから、ぐいぐい引き込まれた。犬は素直な生き物だ。

  • 資料番号:020146924

  • 非行少年と捨て犬と犬を引き取った家族と。皆が愛されて幸せになろうと頑張れるシステムっていうのはあるもんなんだね。これはもっと各政府及び機関・制度が取り上げても良い事例だと思うんだけどなぁ・・。世の大人は何をやっているのか。小難しい制度なんかよりももっと分かりやすくて素晴らしいことだと思うけど。一人も犯罪を繰り返す少年がいなかったっていのが凄い。

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著者プロフィール

児童文学作家。(公財)日本動物愛護協会常任理事。著書『ドッグ・シェルター』(金の星社)で、第36回日本児童文学者協会新人賞を受賞。執筆の傍ら、動物愛護センターから引き取った愛犬・未来をテーマに、全国の小中学校を中心に「命の授業」(講演会)を展開。主な著書に、『犬たちをおくる日』(金の星社)をはじめ、累計45万部突破のロングセラー「捨て犬・未来」シリーズ『捨て犬・未来 命のメッセージ』『捨て犬・未来、しあわせの足あと』ほか(岩崎書店)、『捨て犬未来に教わった27の大切なこと』『いつかきっと笑顔になれる 捨て犬・未来15歳』(小社刊)など多数。

「2023年 『うちの犬(コ)が認知症になりまして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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