働くことの哲学

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011365

作品紹介・あらすじ

働くなかで、私たちは世界に爪あとを残してゆく――生きてゆくにはなんらかの目的や意味が必要であり、そこに仕事は重要なかかわりを持ってくる。ノルウェーの哲学者が、幸福で満たされた生活を求めるうえで、仕事がどのような位置を占めるのかを探求する。
「仕事は人生の意味そのものを与えてくれるか」「自己実現の神話を信じすぎることで、かえって仕事が災いになってはいないか」「給料の額と幸福感は比例するか」……「仕事とはなにか」という問いに手っ取り早い回答を提示しようとするのではなく、仕事のもつさまざまな側面に光をあて多彩なスナップショットを提示する。

生きがい、意味、人生、実存。この本は暇と退屈に向き合うことを運命付けられた人間存在の諸問題に、〈働くこと〉という実に身近な観点から取り組んでいる。読者はここに、いかに生きるべきかという倫理的問いについての一つのヒントを手にするであろう。──國分功一郎

感想・レビュー・書評

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  • 一時的に働いていない今、働くことについて考える時間だと思って読んだ本。
    産業革命の時代には、賃労働に対して強い反発があったのに、徐々に賃金が生活に十分かどうかに関心が向くようになった。これは、賃労働を労働者が受け入れたことになり、資本主義パラダイムに反抗するのではなく、その内部で改善していくという慎ましい野心へと変わった。
    この内容を読んだ時、人生を良くしようと努力した結果、資本主義という大きなものに飲み込まれてしまったのに、飲み込まれたことにも気づかない、そのどうしようもなさになんとも言えない気持ちになった。とはいえ、やはり現状、資本主義の中にどっぷり浸かっている中では、程度の差こそあれ賃金も大切。
    こういうことを考える時間も必要だなぁと思う。

  • 働くことの哲学 ラース・スヴェンセン著
    労働の意味の劇的変化を考察
    日本経済新聞 朝刊 読書 (21ページ)
    2016/6/12 3:30
     今日の社会において、働くことはどのような意味を持っているのだろうか。著者のスヴェンセンによれば、労働とは苦しいものであって、なぜそんな苦しいことをするのかといえばそれは余暇を得るためだという考え方と、いったん天職を得たならばその天職のなかにこそ生きる意味が見いだされるのだという考え方が、古代より現代に至るまで存在してきた。そして今日、労働によってこそ「自分らしさ」を発見できるとする考え方が出現してきた。スヴェンセンはこれを「天職という観念のロマン主義的変形」と呼ぶ。


     そして現代の組織管理学は、労働者のこのような「自分探し」の傾向をうまく利用して、彼らを内面から調教し、彼らの「自分探し」が企業の利益追求とぴったり調和するように誘導しようとしている。しかしながら、そのような管理で現代人をコントロールしきるのは無理だろうとスヴェンセンは考えている。というのも、北欧のような社会では、労働者は自分に合った職を見つけるために次々と転職するのが普通のことだからである。すなわち、労働者は、自分にとって意味のある仕事を追求するために企業を渡り歩き、そうすることによっていわば「仕事を消費している」とすらいえる状況になっているからである。すなわち生産プロセスである仕事それ自体が、労働者の消費の対象となっているのだ。

     スヴェンセンは、仕事を通じての自己形成というスタイルに大きな可能性を見いだしている。宝くじに当たった人であっても、たいがいの場合、仕事をやめることはない。というのも、仕事こそが、私たちの人生に意味を与えてくれる根本的なものであるし、仕事は私たちにとってたんなる収入の手段ではなく、私たちの実存的欲求をかなえてくれるものだからだ。

     スヴェンセンは、現代において、仕事の意味が劇的に変容していると指摘する。だが同じような診断を日本社会において下すことができるのだろうか。北欧とは違って、日本では社会保障の仕組みがまだ整っていない。日本でもし転職に失敗したときには、大きなリスクが待ち受けている。ブラック企業で身を粉にして働かざるを得ない若者や、年金だけでは暮らしていけず老後破産するケースなど、仕事をめぐる日本の現状はけっして明るいものではない。本書を読み進むにつれ、彼我の格差が身にしみてくる。現代日本の労働環境に何が欠けているのかを新たな視点で考えるために、本書は大いに役立つであろう。

    原題=Work

    (小須田健訳、紀伊国屋書店・1700円)

    ▼著者は70年生まれ。ノルウェーの哲学者。現在はベルゲン大教授。

    《評》哲学者

     森岡 正博

  • 仕事。労働、その歴史。哲学的な意義等に関する
    鋭い分析が読んでいて、とても面白く読めました。
    生きがい、意味、人生、実存、退屈。人間存在の諸問題に
    働くということという観点から取り組んでいると思います。

    働くことの意義、職業に関する考え方。自分の仕事
    と人生に関しての意義。世代や他者とのとらえ方の違い
    いろいろな思いや悩みに関して、答えはそこにはない
    ですが、さらに深く考えるヒントはある内容の本だったと
    思います。

  • 労働が、歴史的にどういう風に捉えられ方を変えてきたか(厄災から天職へ、この部分は面白かった!)、労働に伴う状況(賃金、管理、グローバリゼーション、レジャーなど)について解説がされています。

    著者の哲学論は展開されておらず、エッセイ的なミニエピソードを挟みながら気軽に読めました。

    5章「管理されること」で、巷に溢れる経営哲学啓蒙書に筆者が辟易している描写が笑えました。ほんとあんな個人の成功エピソードを有り難がるって不思議だなぁと常々思ってたので。仕事に管理が必要になったのは、経営者と従業員の利害が一致しないからだ、と書かれておりました。つまり経営視点が従業員全員に染み込んでたら管理は不必要??

    2章「仕事と意味」の最後の部分も素敵でした。
    >有意義な人生を送るにはしかるべきことがらにそれも可能であればしかるべき相手に気遣いを示さねばならない。あなたの気遣うことがらが、あなたの人生に目的をもたらす。その事柄を本当にきちんと気遣っていれば、その振る舞いのうちにあなたがどのような人間であるかが表現されていることがわかる。

    私は今休職中なのですが、働かなくても充実した人生を送れるということを実感しています。著者はそんなことないって書いてましたが、余暇を潰す方法が増えてきたので、今後は金銭的余裕があっても働く、という選択をする人が減っていくかもしれないですね。

  • 気鋭の哲学者として名高い著者による働くことに関する哲学書。仕事に対する向き合い方をゼロから考える機会を供してくれる良書でした。

    古くは狩猟採集民族時代に遡り、膨大な時間軸の中で、人間にとって働くことの意味合いがどんな変遷を辿ってきたのかを振り返りながら、現代人が働くことに対して抱いている姿勢に疑問を投げかけるとともに、倫理的な示唆をもたらしてくれる。

    「仕事は私たちの人生に豊かさをもたらすものの1つではあるが、一方で人間が幸福になるうえでの全てではあり得ないし、ゆえにそれを仕事に求めたとしても、相応の対価を得ることはできない。」

    このパラドックスと、ある意味では当然の帰結を、忙しく熱中しているうちに見過ごしてしまうからこそ、「読書」という営みの中にこれを確認する作業が人生には必要なのだと改めて。 

  • 気になっていた京都の恵文社一乗寺店に行った時に、せっかくなんでなにか本買うかと思い手に取った一冊。

    人はなぜ働くのか、遊んでる方が幸せじゃないのか、そもそも働くってなんなのか。

    最近中身のあまりない本ばかり読んでいたので久しぶりに骨のある哲学本を読んでなかなかに興味深かった。働く、労働というものに歴史的変遷を辿る一冊である。

    まあ、色々な意見があるけど、某お客さんが言ってた、
    仕事なんて人生の暇つぶし
    っていうのが個人的にしっくりくる気がするw俺的にはw

  • 働くことの哲学 ラース・スヴェンセン著 労働の意味の劇的変化を考察
    2016/6/12付日本経済新聞 朝刊

     今日の社会において、働くことはどのような意味を持っているのだろうか。著者のスヴェンセンによれば、労働とは苦しいものであって、なぜそんな苦しいことをするのかといえばそれは余暇を得るためだという考え方と、いったん天職を得たならばその天職のなかにこそ生きる意味が見いだされるのだという考え方が、古代より現代に至るまで存在してきた。そして今日、労働によってこそ「自分らしさ」を発見できるとする考え方が出現してきた。スヴェンセンはこれを「天職という観念のロマン主義的変形」と呼ぶ。







     そして現代の組織管理学は、労働者のこのような「自分探し」の傾向をうまく利用して、彼らを内面から調教し、彼らの「自分探し」が企業の利益追求とぴったり調和するように誘導しようとしている。しかしながら、そのような管理で現代人をコントロールしきるのは無理だろうとスヴェンセンは考えている。というのも、北欧のような社会では、労働者は自分に合った職を見つけるために次々と転職するのが普通のことだからである。すなわち、労働者は、自分にとって意味のある仕事を追求するために企業を渡り歩き、そうすることによっていわば「仕事を消費している」とすらいえる状況になっているからである。すなわち生産プロセスである仕事それ自体が、労働者の消費の対象となっているのだ。


     スヴェンセンは、仕事を通じての自己形成というスタイルに大きな可能性を見いだしている。宝くじに当たった人であっても、たいがいの場合、仕事をやめることはない。というのも、仕事こそが、私たちの人生に意味を与えてくれる根本的なものであるし、仕事は私たちにとってたんなる収入の手段ではなく、私たちの実存的欲求をかなえてくれるものだからだ。


     スヴェンセンは、現代において、仕事の意味が劇的に変容していると指摘する。だが同じような診断を日本社会において下すことができるのだろうか。北欧とは違って、日本では社会保障の仕組みがまだ整っていない。日本でもし転職に失敗したときには、大きなリスクが待ち受けている。ブラック企業で身を粉にして働かざるを得ない若者や、年金だけでは暮らしていけず老後破産するケースなど、仕事をめぐる日本の現状はけっして明るいものではない。本書を読み進むにつれ、彼我の格差が身にしみてくる。現代日本の労働環境に何が欠けているのかを新たな視点で考えるために、本書は大いに役立つであろう。




    原題=Work


    (小須田健訳、紀伊国屋書店・1700円)


    ▼著者は70年生まれ。ノルウェーの哲学者。現在はベルゲン大教授。




    《評》哲学者


     森岡 正博

  • 作者がノルウェーの哲学者でお国柄なのか過労死について反応が薄い印象。
    作者自身の体験をもとに個として労働に向き合う姿勢を考えてる内容で、日本のようにまわりの雰囲気にのまれ集団の中の一労働者として考えるとはまた違った。
    もう少し自立して個として労働に携わり読み返したら印象が変わるかもしれない。

  • 仕事は人生において何かしらのの意味を持つということを大前提とした上で、人の仕事との関わり方についてさまざまな観点で考察を行なっている。
    基本的に筆者が序文の中で述べているように労働に対する一つの真理を与えるものではなく、何らかの示唆を与えるものになっている。
    この手の本は大体骨太で読むのに苦労する印象だがこの本はいい具合の長さでまとめられていて、自分はどう考えるのかという思索へ導くという意味ではちょうどよかった。

  • 人生の中における仕事の位置づけを考えるヒントになるいい本でした。

    本の中では、仕事の中にどっぷりと浸かってしまうことは避けるべきものとして書かれている一方、
    仕事というものが、かなりの時間を費やすものであり、アイデンティティーの源泉であることは事実で、単なる生活の為の手段にしてしまうことも、筋がいいとはいえないと言うことが指摘されています。

    左派的な考えに共感することが多かった自分ですが、一度踏みとどまって、仕事の大切さを過小評価していないか、考えるようになりました。
    仕事に振り回されないようにしつつ、得るものは得る、公私の状況に応じてバランスをとっていきたいところです。

    また、過去を振り返ると現代人は働きすぎというわけでもなく、実はレジャーに振り回されているのではないかという指摘にもドキッとしました。

    この本ではヨーロッパの歴史を中心に、仕事の捉え方の変化を紹介していましたが、東洋の歴史もフォローしていきたいと思いました。

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著者プロフィール

著者紹介
ラース・スヴェンセン (Lars Svendsen)
1970年生まれ。ノルウェーの哲学者。工場の清掃助手、スポーツライターなどの職を経て、現在はベルゲン大学教授。その著書は27カ国語で翻訳されており、『退屈の小さな哲学』(集英社新書)は15カ国語以上で刊行される話題作となった。他の著書に、Fashion: A Philosophy (2006) 、A Philosophy of Fear (2008)、A Philosophy of Freedom(2014)などがある。

「2016年 『働くことの哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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