流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

制作 : J. ペダー・ゼイン 
  • 紀伊國屋書店
3.53
  • (21)
  • (12)
  • (28)
  • (11)
  • (2)
本棚登録 : 644
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011099

作品紹介・あらすじ

すべては、より良く流れるかたちに進化する――生物、無生物を問わず、自然界に現れるかたちの全てを決定づける「コンストラクタル法則」という新たな物理法則を提唱する衝撃の書。同法則を物理学の第一原理と位置づける著者は、樹木の形、血管の配置、河川の流れから、空港や道路、スポーツ記録の進化、社会制度や文化の広がりなどもこの法則に従うと主張する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • デザインという言葉が、これほど広い意味で使われるようになったのはいつ頃からだろうか。僕が広告業界に足を踏み入れた時にはまだ、デザインとは特定の職群の人たちの美的関心事を指していたように思う。だが同じ頃、営業の仕事とは「絵を描くことである」と教わった記憶も残っているから、既に現在使われているような広義の意味は含まれていたのかもしれない。

    この言葉がこれほど頻繁に用いられるようになった理由の一つに、創造性と能動性のイメージを伴なっていることが挙げられる。たとえば営業の仕事を「アカウントをデザインする」と表現すれば業務の意味が変わってくるだろうし、書評を書くことだって「文脈をデザインする」と置き換えると、書く内容も変わってくるかもしれない。

    だが、本書はこのような「デザイン」という言葉の持つイメージを真っ向から否定する。それどころか、ダーウィン以来定説になっている「進化に網羅的な方向性がない」という考え方にも異を唱え、さらには「世界のやり直しはまったく異なる結果を生む」というスティーヴン・ジェイ・グールドの有名な主張にも立ち向かおうとするのだ。

    著者によれば、デザインとは自然の中で自ずと生じ、進化している現象のことを指すのだという。要は、自発的で科学的なものとして取り扱っているのが特徴である。それだけでなく、人間を取り巻くものの一切のデザインが、たった一つの物理法則によって形作られているとまで言う。そしてその法則は、以下の2行の言葉に集約されるのだ。

    ”有限大の流動系が時の流れの中で存続するためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない。”

    コンストラクタル法則と名付けられたこの法則を最初に目にした時には、正直何が凄いのかよく分からなかった。低速での近距離の流れと高速での遠距離での流れが一緒に機能する、いわゆる樹状構造のようなものであるなら、よく知られた現象でもあるからだ。

    だが、真に驚くべきはこの法則の適用範囲の広さという点にあった。これを本書の前半部では、電子機器から熱を取り除くためにデザインされた人工の冷却システム、河川流域、私たちの身体中に酸素とエネルギーを運ぶ血管の系などを地続きに見ていくことで明らかにしていく。

    これらの系というのは、それぞれ別個に研究されることの多かった領域でもある。これを流動系というフレームに入れ、デザインという観点に着目することにより、共通項を見出だせる。Nature、HumanからArtまで、言わばリベラルアーツを横断するような形での視点を獲得することが可能になるのだ。

    さらに驚くのは、この法則の後半に記述されている「流れを良くするように進化しなくてはならない」という一節である。つまりこの法則は、適用範囲という空間軸だけではなく、時間軸にも及ぶ3次元の法則であったのだ。本書の後半部ではこれらを示すために、スポーツの記録、道路網、メディア、社会の階層性といった領域にまで話を広げ、予測可能な進化の世界を描き出していく。

    たとえば、都市のデザインというものを見てみよう。この場合、コンストラクタル法則に基づくと、遠距離を高速で移動するのにかかる時間と近距離を低速で移動するのにかかる時間との間には、均衡が存在することになる。つまり技術の進化によって、遠距離を高速で移動する速度が変わると、低速で移動するための町並みにも変化が訪れるということだ。

    古代における牛が引く時の荷者の速度と、現代における自動車での移動を前提として比較してみると、はたしてどうなるだろうか?これは、地図上で古代からの町と新しい町とを重ねあわせることによって解を導くことが出来る。そして進化がまさに予測可能であったということが明かされるのだ。

    このように無生物、生物、工学技術などを串刺しにして対比できることの意味は大きい。生命は動きであり、この動きのデザインをたえず変化させることと定義できるからだ。「ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず」とはよく言ったものである。

    一般に地球上の生命体は、35億年ほど前に始まったとされている。だがこの定義に則ると「生命」の始まりはそれよりもはるかに古く、太陽熱の流れや風の流れといった最初の無生物の系が、進化を続けるデザインを獲得した時と考えることができる。この捉え方によって、生命の概念は生物学から切り離され、意味を拡張して考えることが可能になるのだ。

    なんだか、途轍もないものを見てしまったような気がする。目の前の1個のドミノが倒れることによって、パタパタパタと音を立てて、全ての景色が塗り替えられていくような壮観さが本書にはある。生命を生物学から解き放った革命の書。読んだというより、目撃したという感覚の方が近いだろうか。

    最後にコンストラクタル法則が成立する範囲についても、明示しておきたい。一見万能にも思えるこの法則が成立するためには、「効率性を追求する」ということが前提条件になってくる。裏を返せば、予測不可な結果を生み出したければ、効率性を無視したふるまいが必要であるということも意味していると思う。これはこれで示唆に富む。

  • 素晴らしいの一言。生物学やってた身にとって、進化の方向性、無生物の進化の話は衝撃だったよ。

    僕ならコンストラクタルをどう応用するかな?まずは組織構造とプログラムかな?

    新しい世界が広がった感じで毎日が楽しくなるよ。

  • ミクロから積分してマクロを導く科学のアプローチではなくて、マクロを原則としてあらゆる物事を論証していくコンストラクタル法則について書かれる本。

  • 本書ではコンストラクタル法則と言う、新たな観点からの物理法則が語られる。
    正直この法則は抽象的な感じで、雪の結晶の形や、樹々の樹上構造などは何らかの法則の下で成り立っているのは明らかだと思うが、交通であったり政治であったりは後付け感が否めないなと感じた。
    その雪の結晶の話だが、確かにあの形は不思議だ。水の表面張力は感覚的にも理解できるが、こちらは確かに何か法則があって成り立っているとの主張は理解出来る。それを熱力学界の巨匠とも言える著者が熱く語るのだから、この先重要な法則として認知されていくのだろう。

  • 端的に言うと、全ては流動であり全ての流動は流れやすく
    なるように変化していくということを書いた本。何よりも
    まず全てを流動と見立てるその視点がおもしろい。それに
    よって様々なことが説明できていくのは痛快とも言える
    内容だった。

    ただ、このコンストラクタル理論自体がまだ研究の端に
    ついたばかりのためか、ことある度に自説を礼賛するのが
    「トンデモ本」を思わせて残念。

    表現としては、「流れを良くするように進化していく」の
    ではなく、「流れを良くするようにしか変化できない」の
    方がしっくり来るな。一応続巻も続いて押さえておきます。

  • 請求記号 401/B 32

  • コンストラクタル理論によってあらゆる現象を流動系として統一的に捉えることができる、という主張がとても面白かった。またこの理論は現象の説明だけでなく、未来の予測や最適なデザインの導出までも可能だという。

    しかし厳密性、論理性に少し問題があるような点もそれなりにあり、もったいないところかな、と思う。広い読者層を想定しているのか数式が少なかったのも原因の1つかもしれない。
    かといって一般人にも読みやすいかというとそうでもなさそうで、他のレビューにもあるように啓蒙書としては専門性が高すぎる印象。実際に広い層に届いているかといえば疑問であり、少し中途半端な感じがある。

    ただ一般書に厳密性を求めるのは酷なので、著者の論文を読んでみることにする。
    全体としてはとても興味深く、また論文を読んでみようと思わされた点では、理論を広めることに成功しているのかもしれない。

    理論としてもとても面白いものだし、筆者の科学に対する哲学も垣間見ることができて良書の部類だと思う。
    おススメ

  • 万物のデザインは「流れをよくするため」に決まる、というコンストラクタル理論の本。

    川の三角州の形と人の肺の樹状構造の類似性などが根拠になっている。

    専門性の高い内容で、今一つ楽しめなかった。

  • 流れを促進する方向に進む。ということなの?なにがなにやら、わからーん。

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

【著者】エイドリアン・ベジャン
1948年ルーマニア生まれ。デューク大学 J. A. Jones 特別教授。欧州アカデミー会員。30冊以上の書籍と650以上の論文を発表しており、スタンフォード大学のジョン・イオアニディスが作成した引用インパクトデータベースにおいて、最も引用されインパクトのある世界の科学者の上位0.01%(工学部門では世界トップ10)にランクされたことが2019年の PLoS Biologyで発表されている。1999年にマックス・ヤコブ賞、2006年にルイコフメダルなど、受賞歴多数。11か国の大学から18の名誉博士号を授与されている。熱力学での業績と、科学と社会システムにおける自然のデザインと進化についてのコンストラクタル法則の提唱を認められ、2018年には米国版ノーベル賞とも言われるベンジャミン・フランクリン・メダルを、2019年にフンボルト賞を受賞。邦訳に『流れとかたち』『流れといのち』(いずれも柴田裕之訳、木村繁男解説、紀伊國屋書店)がある。

「2022年 『自由と進化――コンストラクタル法則による自然・社会・科学の階層制』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エイドリアン・ベジャンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
デールカーネギ...
ジャレド・ダイア...
ヨルゲン・ランダ...
ヴィクトール・E...
リチャード P....
J・モーティマー...
クリス・アンダー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×