共感革命: 社交する人類の進化と未来 (河出新書 067)

著者 :
  • 河出書房新社
4.17
  • (7)
  • (7)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 191
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309631691

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  これは物凄い本である。ユヴァル・ノア・ハラリは7万年前にホモ・サピエンスが言葉を獲得した「認知革命」が種の飛躍的拡大の最初の第一歩であると言っている。しかしこの言葉の登場の前に「音楽」があり、社交するリズムがあった。
     人類がチンパンジーから分岐し、ジャングルから直立2足歩行で草原に立った700万年前の類人猿の脳の容量は500cc程度でゴリラ・チンパンジー並であった。この当時の群はやはりゴリラ・チンパンジー並の10人から20人であった。
     200万年前頃から、人類の脳は大きくなり始めた。この原因は「共感革命」という音楽やリズムによってより多くの人たちと共感できる能力を身につけた事によるというのだ。この共感革命を経ると、人類は出アフリカによってユーラシアやジャワ島などに広がっていくことになるのだ。
     言葉を獲得した7万年前以降、人類の脳の容量は増えておらず、3万年前まで生存していたネアンデルタール人の方が脳の容量が多かった。つまり言葉の獲得により記憶を外部に保存できるようになると、脳の容量の増加はストップしているのである。
     つまり、人類にとって決定的に重要な変化は、認知革命の前に「共感革命」があったということである。

    とても腑に落ちる、素晴らしい見解である。
    ただ、今後の人類の未来については、どうも抽象の世界なので、「人新生の資本論」的な曖昧さになってしまうのはやむを得ないところであり、この本の価値を減ずるものではないだろう。

  • 言語の獲得に伴う「認知革命」が、人類を地球の覇者たらしめた、というのが、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』の見立てであった。

    しかし、霊長類学者の著者は、言語の獲得に先立って、人類は「共感革命」を経験していた。それこそが人類史上最大の革命であったとする。壮大な論考である。

    非力な人類が生き残るには互いに協力して獣などに対抗するしかなく、その協力の必要からまず共感能力が発達した、という見立てはその通りだと思う。

    共感力は諸刃の剣であり、その力がネガティブに働いて敵・味方の区別を強化し、暴力や戦争を生んだと著者は言う。これも得心がいく。

    この本に出てこない話だが、脳内ホルモンの1つオキシトシンの持つ両面性を想起した。
    オキシトシンは「愛情ホルモン」と呼ばれ、恋人とハグしたり、母が子に授乳したりするときに盛んに分泌される。

    ところが、集団の中の異分子を排除するとき(=いじめ等)にも、オキシトシンが強く作用するという。

  • 5章くらいまではどこかで読んだ話が多かった。6章に入って、西田幾多郎、今西錦司が登場する。さらには山内得立のレンマ、これは以前、中沢新一で読んで、わけが分からなくなっていた話。うーん、話が難しくなりそう。まあしかし、山でもあり、里でもある。あるいは、山ではなく里でもない。それを里山と呼ぶ。この里山や里海というような考え方が大切だということで納得しておこう。そして7章。コモンということばこそ登場しなかったと思うが、ほとんど斎藤幸平を読んでいる気分であった。まあ、同時進行で「マルクス解体」を読み始めているので、もうこの手の考え方になじんでしまった。最後に古着の例などもあげられているが、今後は所有にこだわる必要がなくなって来るのかもしれない。養老先生の参勤交代ではないが、どこかに定住するという発想がなくなり、いくつかのコミュニティを行き来するようになるのかもしれない。そうすると、荷物は少ない方が良い。本なんてかさばるばかりで、手元に置いておきたいなんて思う必要はないのだろう。でもなあ、退職後のいつか、自分の持っている本をきれいに並べ直してみたい。それを誰かに見てもらって、読みたい人がいれば貸し出す、あるいはほしい人には安価で売る。そんなことを夢見たりしている。レコードやCDの山も同じ。所有欲がそんなにある方ではないと思うが、でもどうしても「もったいない」という思いがあって、昔買ったもう着ることのない服などもクローゼットに残っている。大量消費の時代に安くで買ったものはすぐに捨てたりできるから、これは高くついたという思いが「もったいない」を発動するようだ。電化製品は新しくて機能が多いものほどこわれやすい気がする。あたかも、商品が売れない時代に、早く回転するようにとわざとこわれやすく作っているかのようだ。そして、家。自分の実家は売ってしまった。妻の実家も、今後10年くらいの間にどうするかを考えなければいけなくなる。避暑地というほどではないが、別荘として、年に数ヶ月をそちらで過ごすということも考えたりする。しかし、人が住まないと家は早くいたむようだし、うーん、どうしたもんだろう。と、本書を読み終わって、所有や定住についていろいろと考えている。それと、ボランティアについても。

  • 誰しも幼少期に集団で遊ぶことで個人ごとに習得する共感力。昨今の戦争やSNS被害などは、もともと小さい集団で人間が生きていくために必要であった能力の乱用と言える。協力、共感、共創、人間が人間として生きていくのは必要な理由はなぜか、その解説。

  • 組織や社会について「何が」、「なぜ」必要かを人類史から学ぶ1冊。

    社会的所属を喪失していない人は、必ず何らかの共同体に属している。それは、例えば仕事やサークル、コミュニティーやボランティアなど。
    それらの持続可能性を高めたり、例えば収益性を高めたりするのに、さまざまな組織開発や人材開発、組織づくりなどの手法が世の中には溢れている。

    例えば、焚き火をすることや、会議をする際にチェックインをする、人材のラダーを作成し給与配分を決めるなど。これは、人類が共同体を始め、農耕社会に移行した際の変化を見ていくと大きな気づきがある。
    それと同時に、共同体の当事者としてのヒントにも溢れている。

    改めて本書を読んで重要に思う3つの問い

    ①共感と言葉や社会との関係性は?
    ②狩猟採集社会から農耕社会に成り変わったことは?
    ③これからの共同体に必要な役割や機能は?

    ①共感は小さなコミュニティーでとても重要で感性のコミュニケーション。一方で、言葉はそのコミュニティーを超えて伝わる手段。いずれも、コミュニケーションの手段であり、それぞれのコミュニティーや場面に適したコミュニケーションが重要で、上手くいかない時はもう一方が不足しているかもしれない。特に、言葉の獲得以降、感じるよりも考える特性が高まってきているので、伝わらない時は考え過ぎていないかを振り返るのが大切。
    医療現場ではもちろん、経営や組織づくりについても同じことが言えます。�”人間は言葉の獲得によって、感じる動物から考える動物に変わった。”

    ②農耕時代は、人が定住を始めた時期ととても近い。また、言葉が獲得された後でもあり、言葉をもとに農耕の技術が拡散、継承されていった。それによって、その土地の生産量が高まり、土地に価値が生まれ所有により格差が生まれていった。また、食糧が増えることで人口も増え、狩猟採集社会にはない役割も増えていった。

    ③徒歩圏内で育児や食、四季の彩りや祭事、家族の成長や変化を、楽しみ、喜び、時には悲しみを分かち合い、支え合うような共同体的暮らしを営んでいきたいです。

    また、仕事とするとオンライン化が進み、本書にあるように遊動しながら新たなコミュニティーが生まれてくると思います。
    ただ、いずれも拡大し続けるのはリスクでもあり、ダンバー数にあるような数が一つの参考になると思います。
    いずれにせよ広すぎず、固定化せずリアルの感性を大切に。

  • 類人猿研究の知見を基にした、現代社会/人類への提言。ただ著者の主張が私には読み取りづらかった・・・。

  • ゴリラの研究で有名な山極先生の著書。人類が生物として、過酷な競争に打ち勝ち、文明を築いたのは「共感」がベースになっていた。しかし今、その共感(狭い共感)が、戦争や格差を生み出し、人類を滅ぼそうとしているという主張。後半は、どこかで間違えてしまった選択を振り返り、反省し、修正しなければならないが、メタバースやChatGPTは、その反省を阻害する技術だという主張。同じ類人猿の事例を引き合いにしながらの解説はとてもわかりやすい。共感の使い方を間違えないようにするということは、身近な場(家庭、会社、地域やコミュニティ)でもとても重要だと認識。

  • 共感が人類の原点。動く自由。集まる自由。対話する自由という3つの自由を上手くつなぎながら小規模な集団をつなぎ、より良い未来を作ろう。勉強になった。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

人類学者、霊長類学者。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山極壽一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×