考える日本史(河出新書) (河出新書 2)

著者 :
  • 河出書房新社
3.64
  • (10)
  • (23)
  • (17)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 305
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309631028

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本郷和人さんによる日本史の本、5冊目です。
    毎回思うのは今まで思っていたこととは違う見解が書かれていること。
    そして私たちが勉強と思ってやっていたことは
    実はけっこう曖昧なことで、
    それゆえに私のようなものが理解しづらいことになっているんだなと。

    この本は受験勉強には直接役立つものではないけど、
    余裕があれば、歴史の理解が深まるから中高生の皆さんも読んで楽しめると思う。

    編集部が提案した信、血、恨、法、戦、貧、拠、知と、
    本郷さん発の三、異の十文字をお題にして、
    本郷さんが即興で話を展開するもの。
    「異」から少し紹介します。

    コジューヴ(1902~1968)という哲学者が、
    パリの高等研究実習院で講義した際、
    「人間の歴史は日本の歴史を見ればわかる」
    ということを言ったそう。

    〈日本の歴史を見れば人類の歩みがわかる。
    なぜかというと、日本は異との戦争がない。
    つまり侵略されることがほとんどない。
    モンゴルが攻めてきたくらいの話で、外国に責められるということがなかった。
    だから、「人間が侵略されずに、自然状態のまま進化していくとどうなるか」ということを知るためには、日本の歴史が貴重な例になる。
    「世界が学ぶべき日本史の価値はそこにある」とひじょうに高く評価しています〉

    本郷さんはときに日本史を俯瞰。
    〈ヨーロッパがアジアにおける植民地獲得競争に本腰を入れる百年前。
    「異なるもの」との接触のなかで、朝鮮出兵は、事実として起きた。
    そしてそれは大失敗に終わります。
    秀吉は彼の大失敗を修正することができないまま亡くなる。
    その後に徳川家康が出てきたわけですが、家康はまず朝鮮出兵の愚を撤回する。
    そして、政権を再びまた東へと移し、異国との接触の間口を狭めていく。
    キリスト教も弾圧します。〉
    〈家康がとった政策は、日宋貿易を行った平清盛に対して、
    源頼朝が東国に政権を移した歴史の、その拡大版と捉えることができる。
    頼朝は、「まだ武士は、平清盛の海外貿易路線を走るだけのレベルには達していない」ということで、東国の田舎で、質実剛健の国づくりを始める。
    一方家康は、秀吉の朝鮮出兵を撤回し、東国に政権を確立した。
    江戸幕府です。〉

    また、本郷さんはときに当時の人たちに寄り添います。
    元寇で戦った武士たちに幕府は恩賞をだすことができませんでしたね。
    〈私は、北条氏はそこで自分の財産を売り払ってでも、命がけで戦ってくれた武士たちに褒美を分けるべきだったと思います。
    そうすれば武士たちも「北条様がこれだけ犠牲を払っているのだから、満願回答とは言えないけれど俺たちも納得しよう」という話になったのではないか。
    しかし実際は、北条氏は「新しい土地がないのだから、あげるものはないに決まってるじゃん」という態度でした。
    そうなると命がけで戦った武士たちは面白くない。
    しだいしだいに不満が高まっていく。
    しばらく時間はかかりますが、この不満が結局は、鎌倉幕府、というよりも北条政権が倒れる大きな原因につながったと私は見ています〉

    あー、なるほどなあ。
    つまり犠牲を払って誠意をみせてくれれば、納得したのではないか、ということですね。
    ここ数日純烈がワイドショーを賑わわせています。
    私にとってとくに好きでも嫌いでもないグループなんですが、
    記者会見を見て「ちょっと可哀そう」と…。
    「でも彼をたたいていたマスコミや被害女性は、
    これで一応すっきりしたんじゃないかな?」
    この事件とだぶりました。

  • 本書は、河出書房新社の藤崎氏から一字の題を出してもらって、著者がほぼ即興で話を展開するやりかた。いわば落語の三題噺のように客席から『お題』を出してもらい、それを取り込んで即席で話を展開するのと同じ手法で、本の編集をしたそうである。
    著者曰く、「一つのことをひたすら追い求める、という緊迫感には欠けるが、多方面に茫洋と広がる心地よさは演出できたのではないかと自賛している」

    <目次>というか、取り上げたテーマは、
    「信」「血」「恨」「法」「貧」「戦」「拠」「三」「知」「異」
    上記の言葉をテーマに話が多岐に渡り展開していくのが、これまでにない歴史の切口として面白い。

    特に「異」に関しては、著者の主張が熱く繰り広げられる。
    異とは外国のことであり、古代~中世においては唐・宋等の中国であり、中世戦国においてはキリスト教の欧州の国々であり、幕末においては黒船、戦後においては米国を中心とする連合国である。
    異と接触した時にのみ緊張し改革や革命が起こるが、異との接触をしない合間は、平和な世襲制がはびこった「ナアナア的」な中だるみ状態が続く。

    また著者は、異との接触の一例として、中国から科挙を取り入れなかったためエリート官僚が育たないで貴族が官僚を兼ね、それが世襲制に繋がり、現代まで影響していると糾弾する。

    面白い話として、哲学者のコジューヴが、パリの高等研究実習院で、「人間の歴史は日本の歴史を見ればわかる」と講義している。
    どういう意味かと言うと、日本の歴史を見れば人類の歩みがわかる。なぜかというと、日本は異との戦争がない。つまり侵略されたことがほとんどない。だから「人間が侵略されずに、自然状態のまま進化していくとどうなるか」ということを知るためには、日本の歴史が貴重な例になる。「世界が学ぶべき日本史の価値はそこにある」

    ただ、著者は言う。「しかしその反面、激烈な歴史はない。日本では虐殺のようなことは起きず、むしろ貴族社会のように非常にぬるい歴史がある。これは私が繰り返し言ってきたことですが、そのために日本社会では、才能の抜擢があまり見られないで、世襲制が幅を利かせている」と、世襲制には手厳しい。

    以前に読んだ丸谷才一と山崎正和との対話した「日本史を読む」では、「日本と中国との関係、というより関係の不在の歴史であった。関係より関係の不在が、より多く日本を作ってきた」とその不在が日本文化の形成に非情に良かったと評価している。

    皆さんはどちらの考え方に共鳴しますか?

  • ある一文字をテーマにとって、著者が歴史で語り尽くすといった形式の一冊です。あちこちに話題が飛び、そのお話が勉強になるものだから、とても楽しい読書体験となりました。

  • この本の“はじめに“を読むとこう出ている。「この本は至極まっとうな本である。」まっとうな本とはどういう意味かというと知っている、知らないに基づかない。考える事に立脚している本である、という事であるという。インターネットがこれだけ発達したおかげで知っている、知らないはあまり問題にならなくなった。知らないことがあればネットや本で調べればいいのである。しかし、「考える」事はこうはいかない。むしろ「考える」事の前段階として調べる事があるのだ。作者は中高の日本史の授業が暗記一辺倒になっていて、入学試験も知っている、知らないを試す問題が多すぎる、という。そうじゃなくて、授業では教科書に書いてある事を基に「なぜ」そのようになったのかという事を考え、考える事をいろいろな方面に展開してはじめて、日本史は学ぶに足る学問になるだろう、と主張する。この本はマニアックな日本史の知識はあまり出てこない。むしろ限られた情報の中から考えを進めていき、まとめていく事を重要視した本であると感じた。詳細→
    https://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou28107.html

  • うーん、今まで信じてきた歴史が、実は違った…なんて。
    よくあることですけど。
    既に起こったことなのに、後世の研究で過去が変わるということが面白い。
    今年の大河、どうなるんでしょう。

  • 実証的な歴史の専門家が、たまには自分の思ったことを好きなように喋りたい、ということでできた本なのだろう。様々な角度から歴史を見直してみることの面白さが味わえる。ただこうした本の性質上、ずいぶん脇の甘い発言も多い印象。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 「信」/第2章 「血」/第3章 「恨」/第4章 「法」/第5章 「貧」/第6章 「戦」/第7章 「拠」/第8章 「三」/第9章 「知」/第10章 「異」

  • 好:第四章「法」,第六章「戦」,第八章「三」,第九章「知」

  • 目新しくはないが印象に残ったのは、"中だるみ"の平安、江戸期の特徴として、世襲主義、型式(儀礼)尊重、保守傾向を挙げ、同じく平和が続く現代の日本にもそれが色濃く出つつある、という主張。和をもって尊し、のエッセンスかもしれない。もっともこれらは人類の普遍的な流れに思えるが、本書は「日本史」がテーマなので、「世界史」にまで手が回っておらず、その辺片手落ちな感がある。全般にエッセイの筆致で、歴史に詳しい人の漫談を聞くスタイル。「いや、自分はこう考える」と自分なりの異議を唱えられたら、著者の本望かと思う。

  • 最近になって日本史を面白く解説してくれている素晴らしい本に出合いました。最近老眼が進んでしまい、近くの文字を見るのが辛くなってきましたので、読書をするにも本を選ぶようになりました。

    そんな私が、この本の著者である本郷氏の本は幅広く読んでみたいと思っています。これで彼の著者のレビューは6冊目となりますが、まだ読み放しの本も数冊ありますので、近日中に書き上げたいと思います。

    以下は気になったポイントです。

    ・同盟とは破られるために結ぶようなものであった、そうしたなかなので、信長と家康の同盟が破られることなく続いたことは非常に稀といえる(p26)

    ・藤原氏は、娘を天皇の家に送り込み、天皇の母方の祖父・叔父として、摂政・関白となる。院政は、天皇の父方の祖父・父親が上皇となって権力を掌握しようとする(p38)

    ・日本は地位に権限もともなわなければ、責任もとのなわれない国と言える。これが日本が戦後に軍事裁判で天皇の退位・財産没収がなかったことにつながる(p40)

    ・一般の庶民が抵抗する事態としては、一向宗による宗教戦争の形を借りて現れた、武士たちの支配を受け付けず庶民たちは自立を目指した。一向宗は現在でいうところの「平等」に一番近い概念を持っていた(p50)

    ・応仁の乱が行われていた1479年(室町・文明11年)、密懐法(びっかいほう)によれば、間男は殺しても罪にならない、という画期的は法律が下っている。前提は、自分の妻をてにかけた上というもの。間男を殺しても妻の敵討ちにあたり、慣習法的に正当理由が認められるというもの(p80)

    ・敵討ち(江戸時代には、届けを出して、公的な手順を踏めば公認された)は赤穂浪士の場合はそれに当てはまらまい。家来が主人の敵を討つケースは含まれないから。敵討ちとは、自分の父・兄など、あくまでも自分の尊属の敵を討つもの(p83)

    ・中央政府の中に「令外官」が多い、摂政・関白が律令の規定にない、内大臣・中納言・参議(中納言の下)、あるのは、太政大臣・左大臣・右大臣・大納言(p91)

    ・承久の乱までの朝廷であれば皆が税金を払っていたが、幕府に負けたので税金が集まらなくなった、そして後鳥羽上皇の名前で、自前の軍事力をもたない、と宣言した(p96,101)

    ・官人(中位貴族より下)には、4つの学問分野があった、明経道(みょうぎょうどう・儒学)、文章道(もんじょうどう・文学歴史学)、算道(さんどう・勘定)、明法道(みょうほうどう・法)である(p99)

    ・養和の大飢饉(1181)は、西日本(普段は気候が温暖で先進地域)を襲い、東日本はそれほどでもなかった、東国に基盤を置く源氏は遠征軍を編成できたが、京都の平家軍は難しかった(p113)

    ・戦国時代、1万人規模の兵隊を1か月動かすとなると、現在価値で1億円以上かかる、戦争とはまさに経済行為である(p137)

    ・ジャックウェルチは言っている、能力もなく目的も共有していない社員をリストラするのは当然として、能力はあるけどビジョンは共有していない社員と、能力に欠けてもビジョンを共有している社員、選ぶのは後者である(p139)

    ・南北朝あたりから集団戦が始まっているので武器の変化もある、この時期に薙刀(なぎなた)が使われなくなり、槍が登場してくる。集団戦において薙刀は味方を切ってしまうので(p145)

    ・東国国家論では、源頼朝が鎌倉につくった鎌倉政権は、天皇が治めている西国と並ぶもうひとつの国家と考える。将軍はあい並ぶ存在で二つの国家があったとする(p184)これをさらに演繹させると、北には平泉の藤原政権があったとも考えられる、馬と純度の高い金が採れた(p185)

    ・室町幕府は、反幕府勢力である山名一族の力を大きく削いで、商業都市京都の課税権を本格的に手に入れた、自分たちの出身である関東・東北地方を切り離して、鎌倉公方(関東管領の補佐)が面倒を見ることになる。南朝が消滅した1393年に室町幕府が誕生したと言ってもよい(p238)

    2019年8月11日作成

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。1983年、東京大学文学部卒業。1988年、同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。同年、東京大学史料編纂所に入所、『大日本史料』第5編の編纂にあたる。東京大学大学院情報学環准教授を経て、東京大学史料編纂所教授。専門は中世政治史。著書に『東大教授がおしえる やばい日本史』『新・中世王権論』『壬申の乱と関ヶ原の戦い』『上皇の日本史』『承久の乱』『世襲の日本史』『権力の日本史』『空白の日本史』など。

「2020年 『日本史でたどるニッポン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本郷和人の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×