裁判の原点:社会を動かす法学入門 (河出ブックス) (河出ブックス 109)

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  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309625096

感想・レビュー・書評

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  • 最近の図書館で借りる本のラインナップから、娘に「裁判するの?」と心配されてます。

    とても軽い気持ちで借りて、ちょっと後悔。
    帯にあった「重要判決から考える、正義・民主主義・国のかたち」
    まさに。そして重い。
    裁判から政治について思考が及ぶとは思わなかった。

    全国で一斉に起こる、一票の格差訴訟、の意義。
    何のために裁判をするのか。

    裁判所は万能ではなく、正義を実現するための機関でもない。
    裁判は手段であって目的ではない。
    終わりに、の「正義は正しさではない。」は考えさせられた。
    特定の人の価値観・善の構想の実現手段ではない。

    問題を解決し、共存を可能にする制度。
    問題を抱えながつつ、解決への道を探し続ける。
    いつか成熟すればそんな日も来るのか。
    人が人を裁くことの意味、正義の定義、そんなことも今後考えてみたい。

    裁判外においても、客観性(中庸)が必要だと思う。
    でも、裁判と違って(安易すぎるのは論外だけれど、)同調もありなのかも、とちょっと考え方が変わった。
    裁判ではない、調停だからこそできる和解があってもよいと思う。
    裁判外で行うことの意義は、そんなところにもあったらいいなと思う(大岡裁き的なやつ)。

  • これまでの重要裁判を紹介しながら、裁判の可能性と限界が分かりやすく示されていた。本書を読んで、少数者の権利利益を守るための司法の役割はたしかに重要であるが、政策形成訴訟の解説を読んでいるとこれまで裁判所に本来の役割以上のものを期待して来たのではないかとも感じた。また、政治が必ずしもそれぞれの利害関係だけで動く世界だけではないという説明はなかなか興味深いものであった。このような動的な視点から描かれた法学入門の書はあまり知らず、面白く読み通すことができた。

  • 裁判は何を実現でき、何を実現できないのか。集団的自衛権、中古ゲーム訴訟、衆参議員選挙の定数是正訴訟、さらに非嫡出子への相続や性同一性障害特別法などのさまざまな法改正における裁判の果たした役割などを採り上げながら、対話形式で説明をしている。

    まず、集団的自衛権に関する違憲訴訟を通じて、裁判は政策の是非を問う場ではなく、あくまで当事者として「法律上の争訟」があった場合に訴えを提起できる場であるということが説明されている。具体的な法的利害を持ち合わせていない立場で、裁判の場で政策の是非を争うことはできないのだ。

    一方で、中古ゲーム訴訟で見られるように、新たなビジネスやサービスなどについて直接的に実定法上の規定がないものであっても、類似する他の法令を輸入しながら、新たな権利関係の係争に対応するという積極性も持ち合わせている。

    これらのことから分かるように、裁判所は、社会の不平等を正すといった「正義」を実現するための、万能の機関ではない。

    衆参議員選挙における一票の価値の格差是正に関する訴訟が選挙のたびに提訴されており、これは一般的には選挙の無効を勝ち取ることが目的ではなく、違憲状態であるという判断を得ることで立法府に改善を働き掛けることを目的にしていると言われている。しかし、筆者はそのような裁判の使い方は、本来の裁判制度のあり方からは外れたものであると述べている。

    一票の価値の格差是正のような問題は、何を以て平等とするのか、どのような形でそれを解消するのかという民主的な正統性を持った結論の出し方が求められる。そのような問題においては、最終的な結論を裁判所が出すということは逆に民主主義の危機を招くのではないかということだ。

    「専門家によって『最善』の判断を追求するために能力主義的な選抜・運営が行われる司法府と、人民の代表によって『最終』の判断が示される立法府がそれぞれを尊重し、押し入らないことが望ましい」と筆者は述べている。

    結局のところ、司法が実現することのできる「正しさ」と立法や行政が実現することのできる「正しさ」の違いを理解した上で、社会の抱える様々な課題に対処していくことが重要であるということが、よく分かった。

  • 裁判という制度に人々が抱きがちなイメージ(真実の発見手段・正義の実現手段であること,それなのに重要な判断を避けがちであること)は幻想にすぎない。そのことを事例を紹介しながら丁寧に説き,裁判とは現実的には何を期待すべき制度であるのかを読者とともに探っていく。憲法・権力分立と日本の司法との関係もこの本一冊を通して明らかになってくるのが良い。

    憲法・権力分立と日本の司法との関係もこの一冊を通して明らかになってくるのが良い。日本の統治機構への関心が俄に盛り上がってるけど,その土台として資するところ大なのでは。
    中古ゲームソフト訴訟や選挙の定数是正訴訟,裁判に勝つためでなく世論を喚起するための政策形成訴訟についても詳しい。

    中古ゲームソフトの販売って,今でも16年前の最高裁判決が採用した消尽理論で違法性なしってなってるのか。映画の著作物ではあるけれど,著作権者の専有する頒布権は消尽している,という論法。
    立法ですっきり解決させないのはなぜなんだろう。

  • 東2法経図・開架 327.01A/O94s//K

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2020年 『AIと社会と法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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