ペンギンが教えてくれた 物理のはなし (河出ブックス)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309624709

感想・レビュー・書評

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  • 生物学者である著者が解説する、動物行動とその研究方法。
    範囲や飛行距離を観測するために動物に小型カメラや観測機を取り付けるが、ここで使われるのはバイオロギングという機械です、
    そこで本書は「バイオロギングの明らかにし野生動物のダイナミックな動きを紹介し、その背景にあるメカニズムや進化的な意義を明らかにする」つまりは「ペンギン物理学」の本というわけ。
    以下メモ。私は機械的科学的な根拠はあまり理解できていないので動物行動部分だけメモしていますが、本書ではなぜそうなっているのか、どのように観測したか、そしてどうして失敗を重ねたかなどユーモラスに書かれています。
    私としては、哺乳類鳥類が深海まで潜ったり、鳥や昆虫が大海原を飛んだりというのは非常に頑張っているという印象を持っていたのですが、それぞれがそれに特化した体の進化を遂げるため、「休みながら潜る」「休んでいるときと変わらない心拍数で飛んでいる」ということで、いまさらながら生物の進化とその体の設計ってすごいな、人間がどんなに機械を作っても「楽に」飛んだり潜ったりする事はできないんだからと想いました。

    【バイオロギング】
    動物の体に取り付け、数々のセンサーにより動物の行動を観測する。
    ❐アルゴス:人工衛星を使って動物を追跡する。動物に取り付けられたアルゴス送信機が発した電波を人工衛星がキャッチして、その情報をウェブサイトから確認することができる。
    人工衛星は高速移動するので、キャッチする電波の周波数が、発信された電波の周波数からズレが生ずる。そのズレが少なくなれば動物に近づいたということ。機械が大きいので小型動物や、水に潜りっぱなしの生物には向かない。
    ❐GPS:GPS本体と人工衛星との距離を電波で測定する。場所は正確だが、記録はGPS本体にされるので、機械を回収しなければいけない。
    ❐ジオロケータ:周りの明るさ(照度)を記録する超小型記録機。長期使用可能なので渡り鳥の足に取り付けることができる。機械を回収して、記録されている照度から移動経路を算出する。(←これ私には意味がわからないのですが○| ̄|_、船乗りたちが昔から使った手法ということ)
    ❐ポップアップタグ:魚用。深度、水温、照度を記録する機械。魚体に装着され一定期間後に魚体から離れて水面にぽんと飛び出て(ポップアップする)、人工衛星にデータを送る。そのデータに基づき、ポップアップタグ本体を回収しに行く。

    【動物の移動】
    ❐季節を追いかけて
     ミズナギドリ⇒常夏型。地球を南北移動し、つねに餌が豊富な温かい地域へ移動する。その移動経路は、地球規模の風の動き、地球規模の餌の発生サイクルとピッタリあっているという。これが動物の本能ってやつなんでしょうか。風に乗って滑空するので、そこまで体力も使わずに広範囲移動ができる。
     ザトウクジラ、ペンギン⇒両半球の高緯度海域を移動することはできないので、地球の半球内を季節に合わせて南北移動する。夏の期間は高緯度海域、冬の期間は同じ半球の低緯度海域で過ごす。
     アホウドリ⇒海流に合わせて東西移動。海流と海流の境目に群がる魚を求めている。わりと身近な範囲だけ過ごす個体もいれば、東へ東へ移動して46日で地球一周する猛者もいる。

    なお、捕食のトップにいる動物は、他の動物に食われることは殆どないが、同種の競争相手と常に争うため、行動範囲が餌の豊富な場所と一致する個体もあれば、餌が乏しい場所しか行動できない個体もいる。

    【生物の設計】
    生物は、その種類や個体により設計思想が感じられる進化を遂げてきた。
    海底で待ち伏せする平べったく大きな口のアンコウ、上下運動遊泳のために浮き袋を捨ててゼラチン状皮下組織を持っているマンボウ、とにかく泳ぐことに特化したマグロなど。
    なおマンボウは、魚の中では珍しい上下移動型。水面にぷ〜かぷ〜かしているかと思ったら海底150メートルにも潜る。マンボウには浮き袋がなく、その代わりにゼラチン質の皮下組織で浮力を得ている。あのユーモラスな体は上下移動のためにそのように進化したもの。

    ❐泳ぐ
    水の密度は空気の800倍のため、水中生物は地上生物より800倍の抵抗を受ける。
    そのため水中生物の遊泳速度はかなり遅い。通常は時速2キロ〜8キロ程度。高速イメージのマグロだって時速7キロ。
    尾びれを振りによりスピードを調整する。尾びれの筋肉の収縮運動は水温体温に関係する。あたたか変えれば活発、寒ければ停滞。
    マグロやクジラが時速100キロとか言われているのは、昔の機械が不確かなころに手動で計測したとか、瞬間的な観測からと思われる。
    本書では、昔の測定方法を紹介している。非常にアナログなんだが、これはこれで生物学者たちがよくここまでやったよなあという妙な感動もある。そして著者は、機械測定がなかった時代に装置を考えて作って測定したという姿は称賛に値する。このときの発想が後の世の研究や機械開発の土台になるし、間違っていたなら訂正すればよい。それが科学の発展だ、といっている。
    そうですね、「このやり方は間違いでした」ということを証明するのも発展の土台ですよね。
    ・早い魚 時速8キロくらい(これでも早い)
     海の生物の中でも、クロマグロ、ホホジロザメは泳ぎが速く行動範囲が広い。なんとクロマグロとホホジロザメは水温より10度ほど高い体温を保っているということ(←びっくり/@@)。そのため筋肉の活性が上がり、尾びれを素早く動かし続けることができる。マグロとサメは全く種目が違うのに、これらだけこのような特徴を身につけたのが進化の不思議。
    ・遅い魚 時速1キロ
    ニシオンデンザメ⇒「世界一のろい魚」「謎の深海モンスター」などと言われているサメ。氷点下の北極圏に住み、低体温を保ち、からだはぐにゃぐにゃしていて、両目には寄生虫(ほぼ見えてない?!)。それなのになぜか胃のなかにはアザラシ、クジラ、トナカイ、同種のサメまで入っていて、この鈍い魚がどうやって素早いアザラシを?!などと謎の生物。

    ❐潜水する
    潜水するにあたって肺、血液、筋肉に溜めた酸素をどのように長持ちさせるか。
    酸素を大量に入れるか、消費速度を下げるか、酸素を最後の最後まで使い切るか。
    ・アザラシ
    沈む前に息を吐く。つまり酸素は肺ではなくて血液や筋肉に溜めている。これは二酸化炭素による”潜水病”を防ぐため。
    顔が水面下に沈んだ瞬間に心拍数が下がり、顔を挙げたら心拍数が戻る。
    通常は20分程度の潜水を行うが、記録では45分、600メートル(スカイツリーに匹敵)などが計測されている。
    いちばんの記録はゾウアザラシによる1735メートルだそうだ。あの太い体が水の抵抗や水圧対策だとしても、ここまで潜っていたとは。
    しかしつねに緊張して沈んでいるわけでなく、重力に任せてふらふら〜っと沈んでいるので、休みながら沈んでいるんだそうだ。陸上生物が「潜水する」というとどうしても頑張っているかと思ってしまうが、彼らにとってはそれがごく自然な姿だった。

    ・クジラ
    でもやっぱり体が大きいほうが有利。マッコウクジラは80分の長さと、2000メートルの深さという記録を持っている。
    ・亀
    長さだったらウミガメの10時間がぶっちぎりで長い。
    ❐飛ぶ
    旋回するルバ目、上空で円を描く飛び、一直線の鴨、滑空するアホウドリ、その場に静止できるハチドリ…
    各種の鳥の特徴と、そもそも鳥ってなぜ飛ぶの?どうやって飛ぶの?というシンプルな解説まで。
    ・アホウドリ
    空をとぶというととってもがんばって筋肉運動をしているような印象があるのだが、飛行中の心拍数は水面dね休んでいる時と殆ど変わらないのだそうだ。やはり生物はそれが楽にできる生活様式に対応した体になっているんだ。
    ・グンカンドリ
    高度2500メートルまで飛行。上昇気流をうまく利用し、空中で速度を落とすことができる。そのため数日間一時も木に止まったりせずに空中を舞う事ができる。
    ・インドガン
    単純に己の筋肉で勝負!夏はモンゴルやロシア、冬はインドで暖かく過ごす。しかしそのためにはヒマラヤ山脈を越えねばならない。空気密度の高い寒い時間帯に、ヒマラヤ山脈の中でも越えやすい5〜6000メートルのところを選び(なぜわかるんだ?!)、速度調整もするという、筋肉+頭脳+計算プレー。
    ・ハチドリ
    ホバリングするには、自分の筋力で自分に対して風を起こさなければいけない。
    ハチドリは体が小さいので代謝速度が大きい、心臓や胸筋が大きい、有酸素運動に特化した進化をしている。

    余談ですが、ハチに襲われたら風上鬼逃げるといいそうです。ハチは空気に対して飛ぶので風上に進むのは苦手。でも突然襲われたときにちょうどよく風が吹いているのか?手持ち扇風機程度じゃダメだよね。

    【極地観察基地】
    ・南極観測船「しらせ」の南極海移動方法。
    氷がぶ厚くなると、勢いよく前進して20メートルくらいの氷を割り、100メートルほどバックしてまた勢いをつけて前進して…を繰り返して、時速100メートル程度で移動するということ。(←なんとなく漠然とした印象で、船体でゴリゴリ〜って氷を押しのけたり割ったりしているのかと思っていた。こんな前後運動していたとは!乗り物酔いの激しい私には、こんな移動方法されたら瞬時に酔うわ○| ̄|_)
    ・各国の観察基地や極地基地には重要視しているものの違いが見える。
    日本の南極観測基地では通信環境抜群。しかしフランスの極地観測基地では通信環境を犠牲にして別の物に予算を割いたのではないかと思われるくらいお粗末だった。その別の物とは美味しいバケット!バケット&デザート専用職人が滞在して専用の窯で、朝はパリパリパケット、昼と夜はフルコース、観測小屋にもオーブンが備えられている。
    各国の違いってこんなところにも現れる。

  • 野生動物に小型カメラや記録計を取りつけて、得られたデータを分析することで動物の生態や行動を調査することを、バイオロギングというそうです。
    本書の著者は、そのバイオロギングの手法でさまざまな動物の生態を明らかにしてきた、国立極地研究所の研究者です。
    研究対象はバイカルアザラシ、アデリーペンギン、ニシオンデンザメ、ワタリアホウドリなどなど。
    空の上や海の中…人間の目では追跡しきれなかった動物の行動が、データから浮かび上がってくる様子にわくわくしてしまいます。

    面白かったのは、著者が初めて導入したタイマーによって自動で切り離される記録計についての話。
    この仕組みによって、記録計を取りつけた動物を、再度捕獲して記録計を取り外す必要がなくなったのです。
    …これだけだと、なんだか簡単な話のように聞こえてしまいますが、それが実現するまでには試行錯誤の繰り返しがあったのです。
    アザラシから無事に切り離され、湖面に浮かんでいた記録計を無事回収できたときの喜びの大きさが伝わってきて、こちらまで嬉しくなりました。

    著者にとっては本書が初めての書籍とのことですが、その文章の面白さに夢中になってしまいました。
    「これめっちゃ楽しいんだよ!」とみんなに知ってもらいたい…という著者の想いが、バイオロギング門外漢が読んでもとても楽しい1冊を生み出したのだと思います。
    次作も期待!

  • つまんな

  • つまんな

  • つまんな

  • 動物に測定器を取り付け生態を調べるバイオロギングという手法による研究
    46日で地球一周分の飛距離を出すアホウドリ
    約1時間も潜水するアザラシ
    2000メートルも潜るマッコウクジラ
    体脂肪率45%のバイカルアザラシ 常軌を逸した太り方 防寒と浮袋代わり
    マグロは時速80Kmでは泳がない、8Km程度
    ミズナギドリ達は常に夏の大フィーバーの中にいる。ワタリの秘密

  • おえ

  • 「ぺんぎんは、なんでもぐるのですか?」
    この本はバイオロギングという新しい分野について、とても分かりやすく説明しています。技術の発達により渡り鳥やペンギンアザラシの生態を追跡することができるようになった。とは言っても相手は野生動物であって、追跡装置をつけたり、回収したりは、そう簡単なことではなくて、研究者は日々悪戦苦闘して動物たちを追いかけている。最先端の研究について、その成果だけでなく、研究のための苦労や感動がそのまま綴られているので、臨場感を持って読むことができます。
    追跡する方法は主に三つあるそうで、人工衛星で電波をキャッチして測位を特定するアルゴス。渡り鳥につけるために開発したジオロケータ。これは数分間に一度照度(明るさ)だけを記録して、そこから経度と緯度を計算する。それからマグロやホオジロザメの回遊を分析するために開発されたポップアップタグ。これは深度や水温、照度を記録してある一定の時間が経つと魚体から切り離されて水面に浮かび上がる。
    位置を計測するならGPSだろうと思っていたが、動物の生態に合わせて機器の性能向上や小型化を進めるために多くの努力が払われてきた。その結果、見えてきたのは、今まで知られていなかった動物達の運動能力は想像を超えるものだった。そしてそのような能力を身につけた理由はどこにあるのか。動物達の知られざる生態に迫る。
    このような研究ができるようになったのも、ICT技術の発達によるもので、発信器と人工衛星で位置を計測してコンピュータで解析する。そこに動物達がいることは知っていたけれども、どのように行動しているのかは、ようやく分かってきた。研究者達のわくわく感が伝わってきて、面白く読み進めることができました。科学を知りたい子供(中高生?)にもお薦めです。

  • 【用語の解説】
    バイオロギング…動物の体に小型の測位機器を取り付け、個々の動物たちの移動を追跡すること。

    【本書の概要】
    バイオロギングの様々な手法は野生動物のダイナミックな生態を明らかにした。
    動物たちが泳いだり翼を動かしたりするパターンは、エネルギー消費が最小限となるように最適化されている。そうした最適化行動は物理の法則に基づくものだ。
    筆者はバイオロギングを使い、「一番長く潜る哺乳類」や「一番長く飛べる鳥」を研究することで、生物の身体における普遍的な法則を見出そうとする。
    異例から本質をあぶり出すことで、生物の根源に迫るメカニズムや進化的な意義を明らかにできるのだ。

    ①野生動物は何故地域をまたいだ移動をするのか
    野生動物の渡りや回遊のパターンをバイオロギングで調査した結果からは、動物の移動について大まかに三つのことが言える。

    鳥は勿論のこと、マグロやサメなどの魚類から鯨などの哺乳類にいたるまで、実に多彩な動物たちが、5000~1万キロにおよぶ大移動をする。移動の際には、偏西風や貿易風、海流などの自然現象の流れにうまく乗る。


    一部の鳥は赤道を挟んで地球を南北に移動するが、それは季節的な餌の発生サイクル(プランクトンやオキアミ)に合わせた行動である。鳥は赤道をまたぐことで終わらない夏を享受できるが、海の生き物は水の抵抗によって移動に時間を取られるため、半球内の高緯度海域で夏を過ごし、低緯度海域で冬を過ごす。


    太平洋、大西洋、インド洋のいずれの海も泳いで横断する猛者がいる。魚なのに高い体温を持つマグロとサメだ。魚は変温動物であり、海水の温度が低ければ動きが鈍くなるが、マグロとサメは海水温から10度近く高い体温を保つため、彼等だけ他の魚より長く泳げるのだ。
    彼等は地球を南北ではなく東西に動くが、横方向に移動しても気候帯は変わらないため、移動する意味はよくわかっていない。



    ②海洋生物が「泳ぐ」「潜る」ときに身体に起こっていること
    まずは泳ぐ速度について考えてみよう。
    魚は体温が高くほど速く泳ぎ、同様に身体が大きいほど速く泳ぐ。
    前者については、体温が高いほど筋肉の収縮速度が上がり、代謝速度(生物体が燃やすエネルギーの総量)が増えるからだ。エンジンを速く回しエネルギーを多く燃やせば移動速度は上がる。
    後者については、身体が大きくなればそれだけエンジンが大きくなる。このとき代謝速度も増えるが、代謝速度は体重の増加ほどには増えないため、結果的に体が大きいだけ速く泳ぐことができるのだ。
    従って、魚の中でも最も早く泳ぐのは、身体が大きく体温も高いマグロとサメである。
    とは言っても、マグロやサメでさえ平均速度は7~8キロしかない。よく「マグロは60キロで泳ぐ」と言われているが嘘である。バイオロギングが現れる前の遊泳スピードは、普通の環境下ではなく特殊な環境下で大雑把に測定されていたからだ。

    海の生物がそこまで遅いスピードで泳ぐのは、エネルギー消費を抑えつつ遠くまで泳げるベストの速度があるからだ。海の中は空気中に比べて抵抗が800倍も大きく、早く泳ぐためのコストが高くつく。だから時速8キロ以下という遅い速度で泳ぐのだ。

    しかし、潜った先で動物たちが何をしているのかと問われると、途端に答えに窮してしまう。これを打破するにはビデオカメラでのバイオロギングが必要だろう。

    次に潜る深さについて考えてみよう。
    アザラシは陸上での能力を犠牲にしてまで、深くて長い潜水を行っている。
    一般的に言って、身体が大きいほど酸素保有量が大きく、代謝速度(酸素消費速度)が早い。ただし、酸素保有量>代謝速度であるため、基本的には身体が大きくなるとそれだけ長く潜れるようになるのだ。
    潜水生物たちが人間よりもはるかに長い時間潜り続けられるのは、身体の中で肺、筋肉、血液を酸素ボンベとしてフル活用しているからだ。
    彼等は体内の酸素量を、人間ならとうに意識が落ちているレベルまで下げてもぴんぴんしている。加えて、遊泳速度を最適化し、体温を低下させ酸素の消費速度自体を落としている。

    アザラシの研究によって、彼らは自らの肥満度によって泳ぎ方を変えていることが分かった。それは脂肪による浮力の違いから来るものである。



    ③鳥が「飛ぶ」ときに身体に起こっていること
    鳥の飛び方には滑空飛行と羽ばたき飛行の二種類がある。
    滑空飛行の原理は飛行機と同じだ。前方から入って来た空気を後方に送り出す際に、少しだけ軌道を下に逸らすことで、下方に押し曲げた空気の反作用として翼は上向きの揚力を得られる。このとき、少ない空気を早く動かしても、たくさんの空気を遅く動かしても、得られる揚力は同じだが、後者のほうがエネルギーの消耗は少なくて済む。つまり、翼が小さいよりも大きい方が長く滑空できるのだ。しかし、滑空をし続けると速度はどんどん落ちていくため、鳥たちは気流を捉えながら上昇・下降を繰り返し、滞空時間を長くしている。

    一方、羽ばたき飛行の原理は複雑すぎて説明できない。翼の周りに前縁渦とよばれる特殊な渦が発生していることが分かっているが、全体として何が起こっているかは不明である。


    【感想】
    クジラは何故あんなにも長く潜れるのか、渡り鳥は何故あんなにも遠くまで飛ぶことができるのか、子どものことに誰もが思い浮かんだ疑問を、バイオロギングという手法を使った調査研究により解き明かすのが本書だ。

    フィールドワークによる生態調査から導かれたのは、動物は「物理学」で既定された行動パターンを取るという意外な事実であった。本書の中でたびたび登場する、「代謝速度は体重の増加ほどには増えない」という法則が動物の生態のカギを握る。
    身体の大きい動物はコストパフォーマンスが高い。しかし、小さい動物も小ささを活かした独自の行動を行う。例えばハチドリ。ハチドリは世界で一番小さい鳥であり体重も数グラム程度しかない。身体が小さいということは、体重比での代謝速度が大きいということであり、爆発的なエンジンを積んでいるということだ。それが高速はばたきとホバリングを可能にし、ハチドリは栄養価の高い花の蜜を餌にできる。
    生物は、知らず知らずのうちに自分の身を縛る物理法則を活用し、一番効率的な方法で餌を取ったり大移動をしたりしている。物理学を学んでいるわけではないのに、動物が自然と合理的な行動を取っているというのは大変興味深いと感じた。

  • バイオロギングという研究から分かったことをエッセイ風に書いてある本。「動物学を通した物理の本」だと思って買ったので、期待していたものとは違ったが、それでもおもしろい本だった。

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著者プロフィール

1978年生。国立極地研究所生物圏研究グループ准教授。極域に生きる大型捕食動物の生態を研究。東京大学総長賞、山崎賞、第68回毎日出版文化賞受賞。著書に『進化の法則は北極のサメが知っていた』。

「2020年 『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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