21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467450

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍のもと、初めてユヴァル・ノア・ハラリを知った。様々な知識人が発言したが、人文分野では最も信頼できる人だと思った。それで初めて著書を紐解くべく予約して6カ月、今度はウクライナ問題が勃発した。本書はウクライナを「予言」はしていない。けれども、「予見」はしていた。とても示唆に富む話が多かった。

    21のissueのうち、「戦争」のみに絞って参考になった所をメモしたい。それだけでもかなりの量になると思う。

    ⚫︎過去数十年間は、人間の歴史上最も平和な時代だった。暴力行為は、初期の農耕社会では人間の死因の最大15%、20世紀には5%を占めていたのに対して、今日では1%に過ぎない。
    ←そうかもしれない、とは思っていたけど、そこまでだったんだ!
    ⚫︎1914年と2018年(←現在)では、世界大戦の危険性が高まっているという共通点がある。軍事費の増大、戦争挑発行為、危険な指導者。
    違いもある。1914年では、戦争で勝利を収めれば経済が繁栄し、政治権力を伸ばせると思っていた。現在では、その反対。 
    ⚫︎イスラエルが仇敵シリアの内戦に関与しなかったのは、ネタニヤフ首相の最大の政治的業績だろう。やろと思えば1週間以内にシリア首都ダマスカスを陥落させられただろうが、そこから得るものなどないと知っていたから。ガザを征服してハマス政権を倒すことは、なお易しいだろうが、ずっと思いとどまっている。
    ⚫︎21世紀に主要国が行った侵略で、唯一成功したのはロシアのクリミア征服(2014)だった。しかし、その後は良くなかった。ウクライナ東部で頑強な抵抗に遭う。総合的に言えば成功ではない。ロシアの威信は高まったが、同国に対する不信と敵意を募らせたし、経済的にも損失を招いている。ロシアのエリート層は、今のところ(2018年時点)、プーチンに冒険をエスカレートさせないように細心の注意を払ってきた。
    ←結局、プーチン独裁体制が完成してしまい、それが破裂したのか?
    ⚫︎ロシアは、80-90年代に西側諸国からの侵略(NATOの東ヨーロッパへの進出、セルビア、イラクに侵攻)から、自国の勢力圏を守るには、自らの軍事力に頼るしかないことをはっきり思い知らされた。最近のロシアの軍事的な動きは、その辺りに原因がある。
    ←だからNATOや米国も悪い「どっちもどっち」論があるが、間違っている。私はロシアに与しないが、ここでは展開しない。
    ⚫︎もちろん、ウクライナ、ジョージア、シリアでのロシアの軍事行動は、大胆な帝国主義的大攻勢の第一弾となる可能性はある。しかし、中国のような他の国が加わらなければ、新しい冷戦に持ち堪えられないし、本格的な世界大戦など戦えるはずがない。ロシアの人口は、1億5,000万人で、GDPは四兆ドルだ。人口とGDP両方で、アメリカ(3億2500万人、19兆ドル)やEU(5億人、21兆ドル)に遠く及ばない。アメリカとEUを合わせると、人口は5倍以上、GDPは10倍となる。さらに重大なのは、プーチンは共産主義に代わるイデオロギーも持ち合わせていない。
    ←これを見ても、長期的な展望で、ロシアが有利に戦争を終わらすことは無い。と私でさえ、思ってしまう。中国参戦すれば、また別の思考が必要ではあるが。
    ⚫︎21世紀の戦争で、勝利を収めるのがこれほど難しいのは何故か?
    ◯一つは、経済の性質の変化。
    経済的資産が物だった頃は、勝って奪えばよかった。今は、資産は小麦畑や油田さえでもなく、技術的な知識や組織の知識からなる。イスラミックスステートは、イラクの銀行から五億ドルを掠奪し、石油販売で五億ドル稼いだが、中国・米国にとって、その額は微々たるものでしか無い。GDP20兆ドルの中国は、わずか10億ドルのために戦争は始めない。勝利を収めた中国は何千億ドルもの価値があるシリコンヴァレーの富を略奪できるのか?絶対できない。
    ◯戦争に勝利をすれば、自分に有利になるように交易制度を改変して莫大な利益を得ることは、まだ可能だろう。しかし、軍事テクノロジーの変化で、圧倒的な勝利は難しくなった。負けた側が報復的な核兵器を使う可能性はある(北朝鮮)。更にはサイバーテロで、むかしのように損害が少なくて利益が大きい事業は想定できなくなった(だから、クリミア征服は恐ろしい例、例外であることを願おう)。現代の核兵器やテクノロジーの戦争は、損害が多くて利益が小さい。相手をまるまる破壊すれば、利益の上がる帝国は築けない。
    ⚫︎しかし、このことは、平和が訪れることを保証はしない。人間の愚かさは、決して過小評価するべきではない。
    ◯例えば、1930年代、日本の将軍や提督、経済学者、ジャーナリストたちは、朝鮮半島と満州と中国沿岸部の支配権を失えば、日本は経済が停滞する運命にあるということで意見が一致した。だが、彼らは全員間違っていた。実は名高い日本経済の奇跡は、大陸に持っていた領土をすべて失った後に、ようやく始まったのだ。
    ◯人間の愚かさは、歴史を動かすきわめて重要な要因なのだが、過小評価されがちだ。
    ◯人間の愚かさの治療薬となりうるものの一つは謙虚さだろう。我が国の権益を、人類全体の権益よりも優先されるべきだという思い、に対する謙虚さである。そのためには、どうしたらいいだろう?

    ←かつて考古学者の佐原真は、人類史を一年で換算すれば、戦争を始めたのは大晦日の午後の遅いくらいだと言った。戦争は人間が始めた。しかも、つい最近始めた。だから戦争は人間が無くすことができる。だから私は古代の歴史に関心がある。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      ユヴァル・ノア・ハラリでも、ネタやんを持ち上げるコトがあるんだ、、、
      kuma0504さん
      ユヴァル・ノア・ハラリでも、ネタやんを持ち上げるコトがあるんだ、、、
      2022/05/12
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      むしろネタニヤフに釘を刺しているんだろうな、と思いました。
      それよりも学んだのは、ガザとイスラエルは軍事的に拮抗しているのかなと...
      猫丸さん、
      むしろネタニヤフに釘を刺しているんだろうな、と思いました。
      それよりも学んだのは、ガザとイスラエルは軍事的に拮抗しているのかなと思っていたら、それ以外の理由によって、あの状態が続いているということでした。ちょっと私たちには想像しにくい緊張感ですよね。
      2022/05/12
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      > むしろネタニヤフに釘を刺しているんだろうな、
      ナルホド、、、そうですよね。

      > ガザとイスラエルは軍事的に
      んー...
      kuma0504さん
      > むしろネタニヤフに釘を刺しているんだろうな、
      ナルホド、、、そうですよね。

      > ガザとイスラエルは軍事的に
      んーイスラエルは、世界中に散らばっているユダヤ教徒の砦。周り全てを滅ぼしても同胞だけは助ける筈。そんな国ですから圧倒的に優位な気がします。
      拮抗しているのではなく、世界が認める大義名分を待っている、、、


      あーイスラエルのコトになると、猫の偏狭さが露呈する。。。
      2022/05/12
  •  単行本が出版された時に読んだのだが、途中で放り出したままになっていたのだが、サピエンス全史が文庫本化されたのを契機に、サピエンス全史、ホモデウス、21Lessonsと全て文庫で読み直しました。
    21Lessonsはあまりにも取り扱う分野が広くてどれだけ理解したのかわからないのですが、サピエンス全史から通読したのでやっと征服した感を得ることができました。この21Lessonsの中で最後のLessonは「瞑想」なのですが、ユヴァル・ノア・ハラリは2000年にヴィパッサナー瞑想のレッスンを受けて、それ以降まいにち2時間の瞑想と毎年1か月から2か月の瞑想修行を続けているそうです。この瞑想の実践が提供してくれる集中力と明晰さがなければ「サピエンス全史」も「ホモ・デウス」も書けなかっただろうと振り返っています。
    確かに情報をいくら与えられても、自分が考えていると思っていることの多くが虚構でありそれと現実を区別することがますます困難となっている現在、自分の集中力を研ぎ澄ます訓練なしには何事も明確な発言はできない。ハラリの主張はまさに明確であるのは、ユダヤ人だからではなく、瞑想の訓練をしているからなのだというのは驚きました。
     いずれにしてもバイオテクノロジーと情報テクノロジーが進歩するにつれ、私たちの周りに様々なアルゴリズムが私たちをじっと見ているようになり、アルゴリズムが私たち以上に私たちを知るようになるのは時間の問題だと言えます。そのアルゴリズムに支配されずに自分自身を知るためには、努力が必要だということがわかりました。

  • 読書会で読むことにした本でなければ、途中で挫折していたかも(笑)
    苦労しただけに読み終わった後のクリア感は半端ない。作者が結論を明確に(敢えて)しないので、それぞれの具体例が最終的にどこに帰結するのか忍耐力が必要。
    読み終わった後に「虚構」=物語の位置付けを咀嚼し直して、メタ認知。ようやく視界が広がってこの本の全体像を把握した。

    ホモ・サピエンスは物語(虚構)を作ることで力を得てきた。(これは「サピエンス全史で著者が解き明かしてきたことだ。いわゆる「認知革命」である)国家、宗教、イデオロギー、貨幣経済等を作ることで集団の力を発揮し、人々はその物語に陶酔すらした。大きい物語であればあるほど、それは力を持ち魅力的だ。
    ハラリはその物語=「虚構」を否定しているわけではない。「虚構」を神話ではなく、「虚構」として捉える視点を持つことの重要性を説く。しかし、それは、難しいことでもある。

    そのためには、時間と労力とお金をかけること。タダの情報より、お金を出して自分の欲しい情報を買うこと。(Yahooニュースより、新聞だ、と解釈した)私たちの情報はどんどん吸い上げられ、人間を凌駕するアルゴリズムが作り上げられる。アルゴリズムは進化するからだ。シンギュラリティは予想より早くもうまもなく到来するだろう。

    テクノロジーの奴隷になるな、とハラリは警告する。アルゴリズムのままに誘導され、ベイシックインカムを与えられ「快適」な生活を送るのも下層に位置付けされたホモサピエンスの最終的な一つの生き方かもしれない。しかし、それは「人間」を捨てることと同義でもある。
    「人間」とは何か。どれだけアルゴリズムが完璧な人間性に近づこうとも、人間とAIの違いは「意識」の有無だ。
    かつてデカルトが言った。「我思う故に我あり」さすがデカルト!


    私たちにはもう時間がない。ここでひと踏ん張りしなければならない。それが個人レベルであろうとも。
    ハラリはそういう読者を求めている。
    せめて読書会くらいで踏ん張ろうと思う。

  • アルゴリズムによって統制された 
    すばらしい新世界
    そこで僕らは幸せに暮らす
    自分自身についての現実を
    自分自身が何者なのかを
    自分自身の何を知るべきなのかを
    考える必要のない世界
    全てはアルゴリズムが決定する
    そんな未来はもう すぐそこなのかも



     

  • いくつかの主題ごとに作者が設定したテーマをもとに考えを述べていく本書。最初に書かれている通り、その後読者がどう考えるのか、を期待して描かれている。

    『サピエンス全史』では過去を、『ホモ・デウス』では未来を、本作では現在を描いている。
    テクノロジー面の難題。テクノロジーが発展することにより、労働がAIに取って代わられるようになる。これはグローバリゼーションに伴い国際的な問題になりかねない。また、テクノロジーの発展が種の選別に繋がるかも知れず、それのキーワードとなるのは情報である。

    労働に当てられていた時間を余暇などに当てられ、生活費などを気にしないで生きていける世の中になって欲しいと思ってしまう。が、実際には余暇を持てる人と労働者という形で越えることのできない壁ができてしまい、これが世代として脈々と連なってしまうのではないだろうか。

    政治面での難題
    世界はグローバルな実在的脅威を生み出すことによってテクノロジーが全てを変えてしまった。つまり、核戦争と気候変動と技術的破壊といった共通の脅威に対し協力して立ち向かわなければならないにもかかわらず、それが出来ていない。それは、危険が迫らない限り危機と思えない人間達だからである。という。今の現状として一つとして解決できそうな合意に達しているものがない以上、未来は暗いのかもしれない。移民の問題は、問題点が整理されて今まで他で見たり聞いていた議論が少しわかった気がした。

    希望と絶望
    テロを起こす人たちの意義を述べたのちに、それが起こる原因ともなった戦争や宗教について述べた章。最後の世俗主義については理解が深まった。世俗主義が覇権をとってほしいと思うが、一部の一神教の人たちには、一神教がゆえの寛容のなさがあるため、難しいことなのだろう。

    真実
    ホモ・サピエンスは虚構を作り出すことにより、他の動物たちよりも上位の存在になり得た。その過程で群れをなることとなり、その範囲内でのルールとして道徳などが生まれた。が、グローバルになりすぎた現代では、道徳の基準が昔のままで良いのだろうか。また、SFの示す世界観が今後の道標になるのであろうか。

    最後の方や未来への展望で『ホモ・デウス』のようなアルゴリズムに支配されている我々というようなかんじでリンクしているのも良かった。

  • 難しい‥。
    現代では戦争をしても核攻撃やでサイバー攻撃で得るものが無くなったというところには納得。
    果たしてロシアは‥。

  • サピエンス全史は過去 ホモゼウスが未来、今回は一番気になる現在のことを中心に書かれているのでかなり興味津々で購入したけど、パッと見て理解できないような難しい単語はなくわかりやすい言葉で書かれているピリッとスパイスの効いた毒を吐きながら現代の重要な21のテーマについて教えてくれる本

  • サピエンス全史、ホモデウスに続いて読了。21のテーマについての現状と展望について深く掘り下げる論考で、相変わらず圧倒的な知性、知識量、説得力。
    技術的破壊とバイオテクノロジーが(悪い意味で)世界を一変させる可能性が高いこと、分断状態の世界でグローバルな解決が期待できないこと、人類がこの先の何十年かで判断を間違うと本当に取り返しのつかないことになることに著者は警鐘を鳴らす。まぎれもない事実だが気が重くなる内容に読むペースも遅くなる…
    一部の国家の蛮行はまさに虚構の物語が生み出した悲劇だ。プーチンが語るその物語に突き動かされるロシア国民もいるし、その虚構を冷静に見ている国民もいる。人類は虚構の物語を創り出し共有し組織を統一することで万物の霊長となった。しかし、人生に意味はなく個人の自由意志と見えるものは体内のアルゴリズムが引き起こすただの反応でその人自身の内から出て来るものではなこと、したがって虚構の物語に人生を支配させず、自分の心を深く観察し理解することを著者は読者に促す。これは著者がヴィパッサナー瞑想を通して獲得した境地であり、故に著者の思想は身体的で説得力を持つ。前2書と比べても著者のパーソナリティーが伺える内容になっていてますますファンになった。新刊が待たれる。

  • この人が結局言いたいのは、現実に多く広がる虚構に騙されてはいけない。そのためには、まずは虚構を知ることであり、その上で自ら調べることである。
    この人が大切にしたいことを1つ述べるなら、真実と言う言葉が1番あうと思う。真実とは一体何なのか?自分の心の中に出てきた疑問と向き合い続け、読者に最良の教えを伝えようとする姿勢がこの人から伝わってくる。だからこそ、世界的ベストセラーになるんだと思う。この人の新刊がでたら、また読みたいと思う。

  • 圧倒的知識量。半年近くかけてジワジワと読了。
    前半はただただ知識に圧倒され、また現実の複雑さに直面するのが苦しくなり、しばらくの休憩を挟まざるを得ない部分もあった。
    ただ後半、特に最後の章においては、ハラリ自身のその苦悩や努力の裏側が垣間見え、一凡夫の自分でも、今日からできることをしなければ、と思わせてくれた一冊。(ハラリは現実主義な啓蒙家という印象を持った)
    そして何より、この極めて"的外れな情報で溢れかえる世界に"ある現代においては、自分が使う言葉は平易で明瞭であることを心がけよう、とイリイチのコンヴィヴィアリティのための道具を読んで以来の決心を、改めてすることになった一冊。

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著者プロフィール

歴史学者、哲学者。1976年イスラエル生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。現在、ヘブライ大学で歴史学を教授。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』。

「2020年 『「サピエンス全史」「ホモ・デウス」期間限定特装セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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