ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫 ホ 5-3)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464695

感想・レビュー・書評

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  • ホルヘ・ルイヒ・ボルヘスとアドルフォ・ビオイ=ハサーレスが、古今東西の書物からが収集した幻想的な物語。

    河出文庫さんが斉藤壮馬さん(※読書家で有名な声優)とコラボフェアをやっていた際に購入した1冊。タイトルにボルヘスの名が入っていますが、ボルヘスの作品集というわけではなく、彼が様々な物語から収集した掌編・あるいは断片を収めたアンソロジーのようなものです。

    有名な作品の欠片や、古今東西の神話や故事、伝説。出典ジャンルは様々で、実はしれっとボルヘスかハサーレスの自身の創作物も混じっているそう。
    日本人的に比較的なじみ深い収録物語で言うと、例えば荘子の『胡蝶の夢』。授業などで漢文で見たことがあり、なんなら漢文のままある程度読める人もいるだろうことを考えると、それを英訳してさらに日本語訳されたものをまた読んでいるのかと考えると、とても面倒で贅沢で面白いことをしている気分になります。

  • 71冊目『ボルヘス怪奇譚集』(J・L・ボルヘス/A・ビオイ=カサーレス 著、柳瀬尚紀 訳、2018年4月、河出書房新社)
    オリジナルは1967年刊行。「図書館に住まう書淫の怪物」ことボルヘスとその親友カサーレスが、古今東西あらゆる怪奇譚を蒐集し、それを編纂した一冊。それぞれの物語はかなり著者たちが手を加えており、中にはさも出典があるかのように装いながら彼らが変名で書いたものもある。数ページ程の短い物語ばかりだが、文章はかなり読みづらい。

    「物語の精髄は本書の小品のうちにある、とわれわれは自負する」

  • ボルヘスとビオイ=カサーレスが選りすぐった
    古今東西の奇妙な断章、92編。
    表題に「怪奇譚」とあるが、読んでみると怪奇色は薄い。
    むしろ小さく笑ってしまうシュールで滑稽な情景が並ぶ。
    次々にページを繰って短い物語に触れ続けると、
    まるで夢の入れ子に囚われたような感覚に陥る。

    以前どこかで読んだはずの断章もあるのだが、
    詳細を思い出せずモヤモヤしながら、
    敢えて確認せずに「心地いい居心地の悪さ」を愉しんで
    ムズムズするのも一興かと。

    英語版からの重訳で、日本語訳は柳瀬尚紀先生。

    ちなみに、解説によると、
    世界中から掻き集めたお話の中に、
    ちゃっかり偽書=ボルヘスの創作が紛れ込んでいるとか。

  • 20世紀ラテンアメリカの作家ボルヘス(1899-1986)が編んだ、古今東西の書物から引かれた幻想的な掌編のアンソロジー。

    「文学が与える数多い楽しみのひとつは、物語の楽しみである。・・・。物語の精髄は本書の小品のうちにある、とわれわれは自負する」



    解説によると、ボルヘスの編むアンソロジーに収められた小品の中には、その典拠の存在が確認できないものもあり、実はボルヘスが創作したものを紛れ込ませている可能性があるらしい。何とも愉快なことだと思う。別の作品の中でこんなことを言っている。

    「書物に署名するのはおかしなこと。剽窃の観念は存在しない。すなわち、あらゆる作品が非時間で無名の唯一の作者の作品であることが定められた」(『伝奇集』)



    夢/現、死/生、過去/現在/未来、原因/結果、裏/表・・・無限遠の始まりから無限遠の終わりへと走る両端なき直線が、くるっと捻じ曲げられて、ウロボロスの蛇よろしくその円環を閉じ、始まりも終わりもない無限循環がただそこにいつまでも残り続ける。掌編ゆえにその前後に感じられる余白は、却ってその物語が無限の円環の一部に過ぎないことを思わせて、自分が時間的にも空間的にもすーっと遠くに高まっていく感覚に襲われる。そのとき読み手である私は、卑近な不安や不機嫌をすべてどこかへ置き去りにして、透明になる。

    この奇妙な「高度の感覚」について、澁澤龍彦の次の文章を目にしたとき、なるほどと思った。

    「・・・、しかしボルヘスの死には奇妙な明るさがある。かつて稲垣足穂さんが亡くなったとき、すでに生きているうちから、とっくに永遠の世界に入ってしまった感のある稲垣さんが亡くなっても、それほど悲しみの気持ちは湧かないと書いたことがあるが、八十六歳のボルヘスの死に接しても、それと似たような気持ちを私はおぼえる」(「ボルヘス追悼」)

    柳瀬尚紀は訳者あとがきで本書を「《反復》のアンソロジー」と呼んでいる。

  • タイトルにボルヘスとついているけれど、ボルヘスの作品ではなくボルヘスとカサーレスが収集・編纂した各国の民話や伝説、有名な作家の小説やその断片等「短くて途方もない話」のアンソロジー。1作あたり短い物だと数行、長くても4~5頁なので、もうちょっとだけ、あと一つだけ、と思ってどんどん読んでしまって、あっという間に読み終えてしまった。

    怪奇というから幻想ホラー系かと思いきや、あくまで「怪しく」「奇妙な」話、おもに夢にまつわる話が多く、いかにもボルヘスの好きそうな不思議譚、もしくはさも本当のことのような虚構、ちょっとしたブラックユーモアやクスっと笑える話までさまざま。個人的には夢と現実が入り混じるような話、物語の登場人物と作家の区別がつかなくなるような系統の話が好き。

    出典ジャンルがさまざまで、たとえば荘子の胡蝶の夢とか、千夜一夜からの抜粋、カフカ始め有名作家の引用などは原典が確実だけれど、これってしれっとボルヘスの創作にもっともらしい作家名とタイトルつけてあってもわからないよな~なんて思いながら読んでいたら、解説でやっぱりその疑いのある作品も混ざっているらしきことが書いてあって、そういう架空の本の捏造悪戯心もいかにもボルヘスっぽい。

  • 甘く見ていた。すぐ読み終わるかと思いきや。
    ひとつひとつが短いのに、理解するのに立ち止まったりして、想像したよりも読み終わるのに時間がかかった。
    中国の話が好みのものが多かった。
    短いのに。短いからこそあれこれ考えながら読んでしまう本。

  • 「汽車」というストーリーがとても面白い。

    ボルヘスを読むと眠れなくなるというけど、わたしは眠りに落ちやすくなる。解かれるひつようのない神秘にそのまま身を任せて、気持ち良くなって。夢を見れる。

  • ・もやもやして不安になる、よくわからない物語の詰め合わせ。
    ・短い物語に唐突なオチがつくので何度も置いてきぼり感を味わう。一気に読むと頭変になりそう。
    ・難解だけど訳が平易なので読みやすい。
    ・はじめの「諸言」と最後の「訳者あとがき」と「解説」のすべてが素敵。この3つを含めて本として完成されてる。
    ・なんの学びにもならないし、共感もできないし、考察しても意味を理解できない物語だらけ。読みながら「なんだこれ...」って呆気にとられるだけの読書時間、最高に贅沢。

  • 荘子の胡蝶の夢から、中国の分魂の花嫁まで
    ボルヘスの集めた、古今東西、数多の怪奇譚

  • 古今東西の書から集められた92篇。『千夜一夜物語』、キケロ、古代インド説話、O・ヘンリーの遺作など、出典ジャンルは様々。しかしここに抜き出された断片は、わずか数行の物語でも、まぎれもなくボルヘス世界になっているのがすごい。ボルヘスの圧縮を極めたソリッドな物語には、何度読んでも”慣れる”感じがしなくて、毎回驚きを新しくする。エキゾチックな古代ものや、『シナの長城』での王か飛脚かの奇妙な二者択一から生まれたSF的情景などが面白い。「汽車」(サンチャゴ・ダボベ)のメビウスの輪のような雰囲気も良かった。ビオイ=カサーレス共編(1967)

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著者プロフィール

1899年ブエノスアイレスに生まれる。教養豊かな家庭に育ち、年少よりヨーロッパ諸国を移り住んだ。六歳の頃から早くも作家を志望し、驚くべき早熟ぶりを示す。アルゼンチンに帰国後、精力的な文学活動を開始。一九六一年国際出版社賞を受賞。その後、著作は全世界で翻訳されている。20世紀を代表する作家の一人。
驚異的な博識に裏打ちされた、迷宮・鏡・円環といったテーマをめぐって展開されるその幻想的な文学世界は、日本でも多くの愛読者を持ち、全作品のほとんどが翻訳出版されている。一九八六年スイスにて死去。
小説に『伝奇集』『ブロディーの報告書』『創造者』『汚辱の世界史』(以上岩波書店)『エル・アレフ』(平凡社)『砂の本』(集英社)、評論に『続審問』『七つの夜』(以上岩波書店)『エバリスト・カリエゴ』『論議』『ボルヘスのイギリス文学史』『ボルヘスの北アメリカ文学史』『ボルヘスの「神曲」講義』(以上国書刊行会)『永遠の歴史』(筑摩書房)、詩に『永遠の薔薇・鉄の貨幣』(国書刊行会)『ブエノスアイレスの熱狂』(水声社)、アンソロジーに『夢の本』(国書刊行会)『天国・地獄百科』(水声社)などがある。

「2021年 『記憶の図書館 ボルヘス対話集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品

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