- Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464626
感想・レビュー・書評
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1994年発表のウエルベック小説デビュー作がようやく文庫に!これまで読んだウエルベック作品の主人公も大概、非モテ、コミュ障、あるいは性欲過多、逆に淡泊すぎなど極端な人物が多かったけれど、これはなんだろうねえ、ちょっとずつ全部の要素を持ちつつ、トータルで「無気力」というのが特徴でしょうか。
主人公とは別に28才童貞でデブでブサイクという同僚ティスランくんが登場しますが、無気力で別れた女のことをぐずぐず未練に思ってる主人公と違い、ティスランくんは飽くなき狩りの場へ果敢に乗り込んでいく。しかし若くて可愛い子ばっかり狙ってる時点で、結局ブーメランなのだよなあ・・・。ただしイケメンに限るんでしょ、と言ってくる男に限って、女性の容姿にうるさい。女性側から言わせてもらえば、きみたち男性だって、女性を選ぶときに基本的にはより若くて美しいほうにいくでしょ?北川景子とゆりやんがいたら北川景子選ぶでしょ?そんな自分の選り好みを差し置いて、女は男を中身で選ぶべしとは片腹痛いわ。きみたちのほうで外見ではなく内面の美しい女性を選び、なおかつ自分の内面を磨く努力をすれば問題ないのだ。おのれの非モテを、容姿と、容姿で選ぶ女の所為にしてるうちはお前は絶対にモテない!と断言してあげたい。
・・・というティスランくんへの説教はさておき。つまり富(お金)における富裕層と貧困層との格差問題と同じく、恋愛(セックス)においても富裕層(勝ち組)と貧困層(負け組)の格差ひどいよね、という、その格差間の「闘争」が今作のお題であり、「闘争領域の拡大」という一見お固い感じのタイトルとは裏腹に、要はカノジョが欲しくてじたばたするモテない男子の話、当社比ではとても読み易くライトなウエルベック作品となっておりました。
主人公もティスランも収入面では問題ないので、性欲においてもお金で解決することは可能であるにも関わらず、童貞ティスランくんは「世の中にはタダで何回でもそれをできるうえに、愛までついてくる」ケースが多々あるのに、お金を払ってするのはいやだとのたまう。いや気持ちはわからんでもないが、恋愛相手を「タダで何回でもセックスさせてくれる上に愛までくれる」自分にとってだけ都合のよいアイテムのように考えてる時点でもうきみは根本から間違っているんだよ・・・。
ただまあ、恋愛にしろ貧富にしろ極端な二極化が進んでいることは現代日本でも感じます。昨今次々とよくもまあと呆れるほど毎日目にする不倫のニュースにしても、つまり一部の恋愛体質の人たちだけが結婚してまでも恋愛したくて相手をとっかえひっかえしているだけで、一方で、不倫以前に結婚どころか恋愛さえする気のない傍観独身者が多数存在する。その不平等を主人公やティスランのように悔しがる人もいるのだろうが、好きで傍観独身者側にいる私のような人間からしたら、惚れたはれたは、やりたいひとたちだけで勝手にやっていてくれ(こっちのことはそっとしておいてくれ)という感じ。
ゆえにそれを妬むあまりティスランくんにナイフを持たせて殺人教唆する主人公のクズっぷりには驚愕。無気力なら無気力らしく無害でいればよいのに。残念ながらこの主人公にあまり同情する気にはなれず、ただただ、生存競争に負けた敗者は淘汰されていくしかないのかという現実のみが悲しかった。 -
初ウエルベック。インセル鬱病エンジニアの主人公が同僚の非モテ醜男と旅に出る。小説の形態をとりながらその中身はエッセイのような、論文のような、アジテーションのような。厭世的ではあるが世界を観察する眼差しを捨てることは決してできない。そんな哀しさに満ちている。皮肉たっぷりの持ってまわった言い回しは痛快で面白いけど物語として面白いかと言われると…??
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1994年作と思えない程、ザ・現代2022年のリアルシット感あり
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本一冊でそれだけ考察出来たら良書なんじゃないの!
闘争に負け続けた男は拗らせ続けて悪循環にハマっていく
男の自分には経験があるので共感できま...本一冊でそれだけ考察出来たら良書なんじゃないの!
闘争に負け続けた男は拗らせ続けて悪循環にハマっていく
男の自分には経験があるので共感できましたよ
気持ちのいい内容でない事は間違いないですが2020/12/19 -
コメントありがとうございます。
私も拗らせた人間なので主人公の考えもよく分かるのですが、まさに自分の嫌いだったところを晒されたようで嫌悪感が...コメントありがとうございます。
私も拗らせた人間なので主人公の考えもよく分かるのですが、まさに自分の嫌いだったところを晒されたようで嫌悪感が爆発してしまいました。そういう子供っぽさ、蓋をしてきた醜さを鏡のように直視させられるという容赦ない残酷さ、おっしゃる通り良書なのかもしれません。2021/01/01
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初ウエルベックなので読み方が手探りだった。
主人公の「僕」と醜男ティスランが主流になり、恋愛という自由主義を求めて彼らの世界が「拡大」していく。
そう信じていたにも関わらず、その拡大の仕方が頑張れば頑張る程に良くない方向へと転落してしまう。
ウエルベックを読むにあたり、登場人物に同情(共感)する事によって読み手の世界も拡大していくとあとがきで分かった。
仕事、恋愛、性生活とテーマが3つあるけど、登場人物全てが日常に潜む人間ばかりでよりリアリティを帯びる。
主人公は観察者であり、観察する事により自分の内部で噛み砕いて分析をするけれど、取り込むことはせず、だけど敏感に感じやすい体質なのかマイナス面ではかなり感化されて苦しそうに感じた。
最初はうっすらとだけど進めていくと、その感情や分析が重く苦しいものに様変わりしてしまう。
哲学的描写なのでもっと色々考えたりしたいけど、あと何冊かウエルベックを読まないとそこら辺はなんとも言えない。
確かに面白かったけど、その先にまだまだ何か色んなものが隠されている感じがした。
時には含みを持っていた書き方だったりしたから、作品をもっと読んでそれが何かを加味していきたい一冊だった。 -
ウエルベックの処女作。冒頭のデブス二人がミニスカートは男の気を引きたくて履いているわけではないと高らかに宣言するのに対し「くだらない。粕の極み。フェミニスムの成れの果て」と主人公が毒づくのは苦笑してしまった。ウエルベックは相変わらず差別的だが、ある種の絶望した男性を描くのは本当に上手い。
自由主義が経済市場や恋愛市場に行き渡ること=すなわち闘争領域の拡大が本作のテーマである。Twitterでよく論じられるキモカネ論(キモくてカネのないおっさん)にも通じる内容で、それは主人公の観察対象であるティスランを見ているとよく分かる。彼は経済的には成功しているものの、性的行動は満たされていない。性的行動は一つの社会階級システムであると本書は語っているわけだが、生まれつき醜く容姿の悪い人間はそれを得ることができない。カネで代替することはできるものの、そこに愛はなく、狭い闘争領域の中に愛は存在しない。これは残酷な真実であり、どうしようもなさを感じてしまう。処女作ということもあって後の作品と比較するとやや淡々とした運びであり、救済も答えもないのだけれど、ウエルベックの暴きたい欺瞞がわりと露骨に出ている秀作である。 -
ウェルベック先生的要約は
「自由が進むと、経済的な落伍者が出るように性的落伍者がでるよ。」
「それってとっても苦しいことで、メンタルもやられちゃうよね。」
うん、つらい。