- Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309463278
感想・レビュー・書評
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表題作含む11編を収録した短編集。
どの話も登場人物たちの「生」そのものが濃く描かれていた。それは戦場で敵と相対した時の行動として現れたり、はたまた好きな人や己の信念のための行動として現れたり。一言で言うなら、「ワイルド」!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもしろすぎて死んでしまいそう
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冒頭の「ヘイベイビー」、悶絶。
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運動した後のような心地よい疲れを感じる短篇集だった。ベトナム戦争を題材に取った最初の3話は、作者がベトナム戦争に従軍していなかったのが信じられないような臨場感。歯を食いしばっていたので顎がだるくなってしまった。後はとりあえず平時の話なので歯は食いしばらなくて済んだけれど、それでも言葉のこん棒でばしんばしん打撃を受けるような読み心地だった。
この本の登場人物もアンダーソンのグロテスクの系譜に連なる人たちと思う。人に指摘されたら、気を付けたら治せるような歪さではない。そして彼らは20世紀のアメリカ人だから、お金やら薬やらがたっぷりあるおかげで物事がいっそう過激になる。
アンダーソンと違うのは、本書の登場人物たちはおおむねどこかに脱出していかないところ。トム・ジョーンズも私たちも、人の在り方の根っこの部分は、場所を変えたらリセットできるようなものでないとわかってしまっているのだろう。
自分の中の過剰さは何かをしない方向に作用しがちなので、彼らの何かをぶちまける方に行く過剰さには目をみはってしまった。残るのは「好きに生きろ、そして死ね」というドライな生の肯定。よかった。 -
この短篇集に登場する主人公の一人ひとりが病んでいます――精神面あるいは肉体面、あるいは両面において。さまざまな病魔とたたかうかれらは、つねに戦闘状態です。その意味で、訳者が言うとおり、かれらにとっての人生の舞台は、拳闘士にとってのリングに譬えることができます(そして実際、作者自身がそうであったように、かれらには元ボクサーという経歴を持っていることが少なくないです)。
では読後感は気が滅入るかというと、必ずしもそうではないのが不思議です。悲惨としかいいようのない人生を描きつつも、一筋の光を描くのがとてもうまく、読み終えると独特な爽快感のようなものも味わえました。
訳文もすばらしく、この意味でも快作です。 -
ちょっと前まではこのようなマッチョな文章は苦手だったのだけれど、そのなかに流れるリリシズムを感じて好きになってきた。美しい短編集。
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昨年末に書評家・豊崎由美さんが主催してらした、「2009年よかった外国文学新刊・復刊投票(正式な名前じゃないけどこんな感じ:笑)」、堂々第1位だそうです。復刊をすごく喜んでらしたコメントが多くて、興味深々で。しかも、帯で使われた訳者・岸本佐知子さんのコメントが可笑しすぎます〜。
表題作「拳闘士―」を含むPart 1は、まさに手榴弾を投げられたようなインパクト。「衛生兵ーっ!」って感じだ(笑)。こういうタフでクールでドライにザラついた、しかも独特の浅さ(←批判ではありません、念のため)のある感触は、アメ文ならではのものだなーと思いながら読みました。「拳闘士―」の前半は、ハヤカワ系のジャンルを訳してらっしゃるかたのほうがすわりがいいかもしれませんが、気にならない範囲だと思いますし(エラそー:笑)、後半の哲学的な組み立ては、岸本さんならではのなめらかな細やかさが存分に発揮されているように思います。
Part 2はあのハードさがクセになりそう。でも、個人的にはPart2が好みです。都会のめんどくさくてヤバい感じと、一抹の投げやりぎみな軽やかさが、意外とハマるように思いました。岸本さんの「訳者あとがき」はいつも、硬質で哲学的な筆致と分析が結構好きです。この本に収録されている「単行本版あとがき」もお見事。これだけやられちゃ、下手な解説、つけらんねぇぞ!
それに、岸本さん以外のジョーンズ訳リストを見て、意外な名前に「ほほぅ」と思いました。そういえば「蚊」ともうひとつには、思いあたるふしが!私だけの思いこみかもしれませんけど、こういうの見ると嬉しくなってきます〜。本編ももちろん、思いがけないおまけが楽しめたこともあって、この☆の数(笑)。 -
短編集。ベトナム帰還兵が主人公の表題作を始めとして、全体的にマッチョかついかにもアメリカンな作風。雰囲気は暗い。トラウマや病気、貧困などで苦しい生活を強いられていても嘆くことなく、生にかじりつくように生きる人々の姿が描かれている。
表題作の他、ベトナム戦争を題材にした作品は物語としてまとまっており、スリリングで面白かった。他の短編はとりとめもない話が多く、実験作品っぽいものも混じっていたように思う。また、著者自身の生い立ちや経験(頭に怪我をした元ボクサー、てんかん持ち、父親の自殺、など)が繰り返し使われていて、どれも似たり寄ったりの話のような印象を受けてしまった。 -
トム・ジョーンズというイギリスのポップシンガーと同名のアメリカの作家がこんなに面白い小説を書く人だとは知らなかった。きびきびした文体で退屈なところがない。ぐっと胸に迫る表現や描写が盛りだくさんで小説を読んで知らない世界に導かれる快感を味わった。訳者の岸本佐知子氏の腕前がいいということもあるだろう。
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苦しかった。読んでいて苦しかった。
この短編集に登場する人たちは、肉体的に、あるいは
精神的に病んでいる人ばかり。
癲癇(てんかん)の発作に苛まれる元海兵隊員、ガンが
進行している老婦人、アル中の元ボクシング世界チャンプ、
自分の名前すら思い出せないコピーライター、など。
なぜこれほど病んだ人たちが出てくるのか。そのヒントは
著者の経歴にある。
この本の著者紹介をそのまま抜粋。
“アマチュア・ボクサーとして活躍した後、海兵隊に入隊。
持病の癲癇のためベトナム戦争に行かずに除隊後、
ワシントン大学を経て、アイオワ大学創作科を卒業。
その後コピーライター、用務員の職を経て作家になる。”
この短編集に収められた作品の大半は、著者自身の
体験や経験が色濃く反映されたものらしいということが
分かる。
中でも出色なのは、ベトナム戦争を舞台にした表題作と
その他の二篇から成るPart 1。
実際には行っていないはずなのに、むせかえるような
狂気に満ちた戦場を、本当にリアルに描き切っている。
読んでいて本当に苦しかった。でも、読んでよかった一冊。