閉店時間 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.91
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本棚登録 : 317
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309418926

感想・レビュー・書評

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  • 新宿の架空の百貨店を舞台にした1962年の小説。同じ高校を卒業し、「東京デパート」に就職してちょうど四年が経過した仲の良い三人の女性を、四季の遷り変わりとともに描く。580ページ超で、全23パート。基本的にパートごとに、三人のなかからスポットを当てる女性がひとり選ばれる。三人の簡単なプロフィールは以下のとおり。

    松野紀美子
    勤務場所:四階・呉服売り場
    三人のなかでは平均的な性格だが、勝ち気なところもある。最近は仕事よりも、プライベートでの盲人向けの朗読テープの奉仕作業に熱が入っている。四月から呉服売り場に大卒として入社してきた、同い年の男性・生方のやる気を疎ましく感じている。上長である森川課長のお気に入り。三人のなかでも、真の主人公格にあたる。

    藤田節子
    勤務場所:地階・食料品売り場
    地味で素朴なたちで、積極性には欠ける。小柄で、肥っていて、丸顔(ただし、肥っている点に関する描写は序盤のみで、後には美しいとされる箇所もあり、人物設定が途中で変わっている可能性もある)。デパートのなかではもっとも売り上げが少なく華がない反面、常に忙殺される職場である食料品売り場で無心に働きつづける日々を苦にしない。取引先の卸業者である竹井という男が気になっている。

    牧サユリ:送迎部
    かつてのデパートの花形であった、いわゆるエレベーターガール。身長を含めて容姿に恵まれ、サユリもそのことに自信をもっている。派手好きで仕事柄もあってか、化粧も濃い。容姿だけではなく考え方についても、節子とは生方に対する見立てが真逆になるように、対照的に描かれている、男たちからの誘いが途切れることがなく、デートも頻繁にこなす。本命の男性はいないのだが、彼女にアプローチする年上の男性を意識し始めている。

    三人の若い女性たちの仕事(というか主に職場)と恋を描いた小説といえば単純だが、事実その通りのストーリーである。帯には「元祖・お仕事小説」とあるが、仕事の内容に熱意をもつ人物は三人のうちひとり、それも終盤以降であって、本作にお仕事小説を冠するのは少し無理があるように思える。全体に、仕事よりはどちらかといえば恋愛に重きが置かれていて、いまよりもさらに社会での女性の活躍の機会が与えられていなかった当時の状況を反映している部分も大きいだろう。実際、男女間の扱いの違いに女性たちが悔しさをにじませる場面は数多く、この点は今読んだ方が当時よりも目につくところかもしれない。

    昭和という時代背景も描かれた、当時の右肩上がりの世相に加えて郷愁も感じることのできるような娯楽小説を気楽に楽しみたいという、読書前の期待は余さず叶えられた。全体にテンポが良く、とくに登場人物が出尽くして作風にも馴染んだ後半以降は勢いが出て、あっという間に読み終てしまった。名前が与えられているキャラクターは全体で10人前後しかいないため、登場人物を把握するための気構えは必要ない。

    高校卒業時には大差のなかった三人が、同じデパートながらも異なる職場と恋人の影響も受けて、それぞれの心が違う方向へと離れていく様に、心地よい寂しさを与えられる。一種の青春小説でもあるだろう。涼しげで余裕を漂わせる三人を描いた装幀に引かれて手に取ったが、作中の彼女たちの魅力は、等身大の人物として描かれていることにあった。

  • 1963年講談社から出版された作品を河出書房が今年再文庫化した。『非色』と共に、有吉さんの作品が長い年月を経て、新たな展開を見せてくれて嬉しい限り。

    新宿にある老舗デパートで働く20代の女性3人が主人公。

    女性が社会で「働く」ということが当たり前ではなかった1960年代、3人の女性が三人三様仕事に恋に挑む。
    敗戦モードから脱却をしながら、庶民に消費文化が開花し、豊かな生活を夢見て、世間が湧きたつ雰囲気がそこここに感じられる。

    有吉さんの博識が百貨店業界にも及んでいたのかと改めて驚いて頁を捲ったが、店員たちの専門用語が飛び交い、まるで自分もその中に居るような気分になる。
    「こう読まれたい」とか「これは誰かを傷つける表現だから遠慮しよう」という書き手の思惑や躊躇もなく、スパッとズバッと筆が走る。心地よい。

    日本が他者からの評価ばかりに軸足を置いて活力を失い長い時間。
    「イイ人」、「思いやりのある人」「正しいこと」ばかりが声高に叫ばれ求められるようになり、すっかり腰砕け。清廉潔白ばかり好まれる妙な風潮。

    物語は百貨店でのストライキから始まる。
    「顧客第一主義」の百貨店であっても、従業員は自分たちの労働環境や賃金のためにストライキを構えた時代があったのだ。
    バブル当時入社した私の会社でも国内線の社員は腕章をして乗務していたことを思い出した。今ではサービス業は顧客や社会のため臥薪嘗胆ばかりがよしとされる。

    本末転倒の組合活動に陥り、闘争ばかりの感覚は受け入れないけれども、労働に対する対価すら求めてはならないという今の日本の雰囲気には疑問。

    主人公の3人の方がずっと今の女性たちよりも主張している。どう思われるかなどという意識高い系でも、可愛くないと受け入れられないという計算でもなく。

    人を好きにもなるし、傍若無人の上司に頭にきて一言言ってやりたくもなる。同僚の女性社員とも上手くいったり、妬まれたりもする。悩み、落ち込みなのだが、とにかく潔い。過剰な自意識がちっとも描かれない。

    1962年に映画化もされていた様子。若尾文子、野添ひとみ、江波杏子が主演。
    古くても色褪せないクラッシックは愉しい。

  • 生まれた時代や性別、個人の性質それぞれの、強さと弱さの描き方!なんてバランス感覚

    色々ある、解決なんてないし前途多難!なんだけども、、タイトルといい、明日が始まる予感を含んだ終わり方最高

    「仕事を持つというのは、なんといいことだろうかと思う。目に見えるものを、強く見ようとする意欲が湧いてくるのだから」

    ずっと大事にしたい!

  • 花形企業の東京デパートに働く紀美子、節子、サユリ。同じ高校の同級生仲良し3人だが、配属された呉服売場、食料品売り場、エレベーター係という職場の違いも影響し、三者三様の仕事と恋の悩みがあった。仕事と恋愛を通して成長していく女性の姿を描く傑作長編。圧巻の面白さの元祖・お仕事小説、初文庫!



    いやぁ、面白かった。昭和30年代の戦争が終わって日本が盛り上がってきた頃のお話。高卒で働く紀美子、節子、サユリの3人のお仕事と恋と人間関係。もう最高に面白くて、読む手が止まらなかった。



    昭和30年代頃なんて、正直いつの話よってかんじだが、なんだか少しいい時代だったのかなと思った。百貨店には、今より早い閉店時間があって、みんな残業せずにそのまま帰宅。定休日は毎週月曜日。職場の保養所の海の家に職場の人たちと出かけてはしゃぐ。また、流行ってるからと職場の人たちとサイクリングにも出かける。なんだか昔の青春映画か何かを見てるようだった。こういうところから恋愛が始まって、結婚ということになるんだなと思った。


    だけど、今と違って、地階のお惣菜部にいる中山主任は、本当に許せなかった。今で言うパワハラ上司。しかも、卸の人に難癖つけて怒鳴って、応援で来てる卸の女の子にもパワハラするって許せない。お前のところのコンプライアンスどうなってるんだってなるし、今なら大問題で東京デパートの信用問題に発展するのでは?


    3人の恋模様も良かった。節子と竹井さんの最初のお食事デートは、もう本当に甘酸っぱくてにやにやしてしまった。アオハルだわーもう本当に2人がくっついて良かった。まぁ、竹井さんの家庭がかなり大変で、今では共働きなんて珍しくないけど、節子はもしかしたら結婚後も苦労するかもしれないが、2人なら乗り越えられそう。


    紀美子の恋も最終的には、生方さんの親密度が上がり、ボランティアでやってる朗読の効果もあって仕事にいい方に向いてよかった。紀美子と生方さんは、もう仲良く喧嘩しててってかんじのカップルだな。


    サユリは少し危なっかしいかんじが最初からしたな。まぁ、当時のエレベーターガールなんて女の子の夢の職業だったんだろうな。容姿にも自信があって、職場も容姿がいい子しかないし、みんな美意識が高い。男の子からも声が掛かることだって多いし。そこに魅力的な男の人が現れて、自分の名前を覚えてくれてて、好意も持たれてるんじゃ落ちるよねぇ。まだ22才ぐらいだし。サユリはどうなっていくんだろう。少し心配。



    昭和30年代なんて遠い昔だけど、お仕事小説としては本当に面白かったし、恋模様や人間関係なども本当に良かった。さすが、有吉佐和子だなと思ったな。



    2022.10.2 読了

  • それなりに昔の小説かと思いますが、ちょいちょい翳がありつつも基本的にはノリの良いエンターテイメント小説。期待以上の面白さで、ちょっとした極上感もあり。
    帯に嘘無し、ひとつも色褪せない、です。
    当時の世相とか色々感じられるし、もっと言えば主人公たちとの言うべき3名の誰が幸せになるのか、不幸になるのか、色々思わせぶりで、ほんと良質な作品です。

  • ネタバレ/下有劇情慎入

    三個在百貨公司工作的高中同學--紀美子在高級吳服賣場、さゆり是電梯小姐、節子在地下食品賣場。紀美子常常和賣場新來的生方誠吵架,因其認真研究商品又發表高見讓前輩的感到不快。節子和食品進貨業者大高屋的竹井互有好感,然而以百貨公司裡的階級來說業者完全是弱勢,還被地下階主任權勢霸凌。花蝴蝶般的さゆり則是很快就和宣傳部的設計師畠陷入熱戀。

    罷工、百貨公司員工生態(還是得曬太陽!),偷東西的客人(花子)、下班女性員工被迫檢查包包、大特賣、地下食物賣場的工作型態等等,都寫得蠻有趣的。紀美子的成長也是一個重要的主題,本來只覺得生方君生意氣,但後來漸漸自己也開始成長投入。而她社會奉仕錄文學錄音帶給盲人聽,一開始是岡本かの子(文章真華麗),後來朗讀源氏物語,急急忙忙去樓下買書先賒帳但偏偏被當天心情不好的警衛找碴,沒收據差點被當小偷這段讓我印象非常深刻;後來紀美子更在閱讀之中更進一步感受到應該要有古典的造詣,和生方去新宿御苑鑑賞菊花,也意識到要多接觸大自然美麗的色彩,才能讓自己工作上對和服的理解更加深入。而一直鼓勵友人感情就是衝就對了的さゆり,後來卻漸漸迷失,和畠的戀愛破局讓她最終走路紙醉金迷的世界。而堅實的節子之後則是要跟長男竹井辛苦好一陣子...同窗五年之後,生命完全走上不同的道路。

  • 決して体験することのないデパートでの恋愛物語。
    それぞれの姿がまあ面白かったです。

  • 呉服売り場の紀美子
    地下総菜売り場の節子
    エレベーターガールのサユリ
    3人の女性の仕事と恋愛事情を描いた1冊

    戦後高度成長時代のデパートって
    キラキラした場所だったのだろうなぁ

    古い昭和の映画を見ている気分になりました。

  • 有吉佐和子、やっぱり面白い。
    読み手に対する忖度なく、率直でキリッ!としてた文章。好き。

    60年前の作品。
    花形の職場だったころのデパートを舞台に、高校の同級生3人が、仕事と恋愛で個性が確立してくる姿を描いている。
    程度の差こそあれ、今も同じような感覚持ってる(場合がある)ような。

    東京タワー柄や、蝶々柄の着物、以前「美の巨人たち」で見たなーと思い出しながら読むのも楽しかった。

  • 1963年の小説か〜デパートの景気凄かったんだろうな〜

    デパート内の内線を使ってデートの約束を取る感じが、良いなって思った!キュンキュン
    今はスマホ持って当たり前の時代だし、私用で内線を利用してデートの約束なんてしたら怒られちゃうだろうし。

    ダメ男がちゃんとダメ男してて、昔からこういう人っているんだなぁと思った!

    デパートの中で流れる時間を年間通して感じられる小説でした!
    なんか新感覚!
    面白かったー!

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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