きっとあの人は眠っているんだよ: 穂村弘の読書日記 (河出文庫)
- 河出書房新社 (2021年5月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309418100
感想・レビュー・書評
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歌人穂村弘さんの読書日記。ことばを紡ぐ人はどんな本を読んでるの?というシンプルな興味から。ことばのプロの読書日記はすごい。どの本も読みたくなる。風邪で寝込んでるのに松本清張の悪人ばかり出てくるミステリが落ち着くってエピソードに笑ってしまう。題名も翻訳ミステリ小説の台詞から。歌集、詩集、句集もたくさんとりあげられていて楽しい。
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著者のエッセイや書評を読むと、本が付箋だらけになる。今回一番、ああそうだそうだよ、あの感覚は言葉にすればこういうことだったんだ!と思ったのは、次のくだり。
「『おれは鉄平』を読んでいると、座禅や瞑想をしている時よりも(したことないけど)自分の心が無になっているような気がする。純粋な面白さの中に〈私〉が溶けてしまった感覚である」
そう、夢中で本を読んでいるときって、「私」は「溶けて」しまっていて、四六時中自分にべったりと張り付いている自意識から解放されている。本を読まずにいられないのには、その快感を求めているという面が確かにある。
また、「命や神の問題は、本当は人間にとっての最大の関心事なのだ。でも、とても歯が立たない。だから大人になるにつれて、人は恋愛や仕事やスポーツや料理や旅や洋服に関心を移す」とあるが、ここまではまあ誰かが言っていそうなことではある。しかしその後の言葉「それらを鏡のように使って、命や神の姿をうっすらと映すのだ」には参った。人の営みの本質をこんな軽やかに言い表しているものって、他にもあるのだろうか。
自分はファンシーなものが苦手なのだが、言われてみれば、このように感じるからなのかもしれない。
「子供向けのイラストレーションやぬいぐるみなどの多くは、実物よりも可愛くデフォルメされる。可愛いデフォルメとは、つまり死の隠蔽ではないのか。生物は皆、次の瞬間にまったく無根拠な死に襲われる可能性がある。にも拘わらず、それがないことにされるようで落ち着かない」
著者は現実には著名な歌人で、著書もたくさんある。でもなぜか、「不器用で繊細」「孤独」の側の人のように感じさせるものがある。そこが不思議。以下はすべて抜き書き。
・実際には、お洒落でお金持ちの歌人だっているはずだが、そのような〈私〉が作中にそのまま現れることはまずない。順風満帆な人生の勝者は共感されにくいからだ。従って、短歌の本を読むことには、不器用で繊細な負け犬の呟きを楽しむ、という一面がある。
・「人魚」(染野太郎、角川書店)という歌集を読んだ。頁を開くと、孤独と焦燥と無力を感じさせる独白世界が広がっていた。でも、というか、だからこそ楽しめた。他人の孤独感を味わうと、心が安らぐのは何故だろう。
・「ふつう」との戦いは「悪」との戦いよりもずっと厳しい。「ふつう」との戦いにおいては、いつの間にか、こちらが「悪」にされてしまうからだ。
・そもそも「ふつう」からズレた世界像とは、何のために存在するのだろう。それは無数に分岐する未来の可能性に、我々が種として対応するための準備ではないか。「ふつう」でない世界像の持ち主は「宇宙人」というよりは「未来人」なのだ。一方、「ふつう」への同調圧力とは、均一化された現在への過剰適応であり、状況がいい時は効率的に作用する。しかし、状況が変化したり、限界に達したりした時、危険なことになる。現在の流れに固執して生き延びようとする「ふつう」は、まだ見ぬ未来の価値観を怖れ、生理的に強く反発する。そして、自分たちの未来の命綱を自らの手で切ろうとするのだ。
・(ヒグチユウコ「すきになったら」について)「この言葉からは、女の子がワニに食べられるイメージが浮かぶ。では、これは愛に対するアイロニーなのか。そうではないだろう。好きになる、ということの中に本質的に存在する怖さが、正確に表現されているのだ。
・(松本清張を風邪の時読んで)「性悪説で統一された世界に浸っていると心が落ち着く。登場人物たちが自らの欲望に従って動いているのを見るとほっとする。彼らの中に善悪が不安定に同居していたら、その生々しいランダム感に堪えられない。体調の悪い時に、そういうのは読みたくない。現実の感触を思い出すから。その意味では、松本清張の世界がリアルという意見には賛成できない。
・ジャンルを問わず、ひとつの枠組みを前提として受け入れた表現は、内容が優良であればあるほど既存の価値観を強化するだけで、なんというか、面白いけど退屈ということがあるんじゃないか。 -
これはかなりいいブックガイドブック。
いつもの短歌引用スタイルを読書日記にも。
ミステリを楽しんでいるのが嬉しい。
あらゆる本からポエジーを吸い上げて。
半分くらいは興味がある本、10分の1くらいは既読で、穂村弘の読みが読めるのも。
吉原幸子「初恋」の一部
ほほゑみだけは ゆるせなかった
おとなになるなんて つまらないこと -
穂村弘さんによる読書日記。タイトルがいいなと思ったら、『新車の中の女』という小説の台詞の一文だとのこと。この小説の概要を知ると、このタイトルがとても意味深に感じる。
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穂村さんと同じ本を読んでも違うことが思い浮かぶのだなと当たり前のことをとてもおもしろく感じながら読む。
そして本好きな人の話はおもしろい。
ちょうどこの本を読んでいるときに、大昔、イベントに来ていただいた時に作って、もらって下さった似顔絵の消しゴムハンコを今もたまに使ってくださっているらしいという話がもたらされる。懐かしく嬉しい。 -
NHKの『趣味どきっ!』という番組で『こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ』という特集が組まれたことがありました。その中の第二回に穂村さんが出演されていて、その内容がとても素敵だったので、ブックガイドというか、読書日記というか、ブックエッセイ出してらっしゃるなら、と手にしました。とても穏やかな語り口の中に、鋭いエッジと、ほどの良い抜け感があって、予測通り楽しい読書になりました。
うーん。一言でいうと、日曜の朝にモーニングコーヒー飲みに行くお供にしたいような、独特の空気感がある本でした。読書そのものの趣味としては、私個人とは重ならない、渋いチョイスのものや、不思議な、うーん。日常の裂け目、見えない裂け目から、非日常を万華鏡のように覗く意識を喚起するものがお好きなように感じました。普段でしたら「ちょっと読まないわ」か、「あら、これ好き」で読んでいくのでしょうに、この本は違いました。
そうですねえ。読まないかも知れない本のお話でも、ずーっと聞いていたいのです。心地良いのですよ。結構ドキッとする内容の本だったり、感想だったりしても、全然嫌な気持ちにならない。万華鏡の向こうの風景が、どんなにシュールでも鮮明でも、「ほら、見ろ」と押さえつけられる感じがないのです。それは、「日々の生活のどこかに、万華鏡の閃きがあったら、好きな時に覗くと良いよ」とそれこそ美味しい珈琲でも飲みながら言ってもらっているような。
ですからまさに、必要な時まで本は待ってくれていたり、出会わないでいたりするのでしょう。裂け目の向こうの住人たちは、向こう側から私を見ていて、くすくすと忍び笑いしてるかも知れません。
「まだ覗きに来ないのかな。読まないのかな?」
「きっとあの人は、動いているけど眠っているんだよ」
「そのうち来るかな、ふふふ」
そんなふうに。普段なら、ブックリスト作るのに一生懸命になりますが、再読して、またこの空気を味わいたいので、あえて書誌データは取りませんでした。あの本なんだっけ?って思ったら、もう一度読んだらいいのです。それにしても穂村さん、古書店巡りの達人ですね。お気に入りの気配がなんとなく予知できる妖精みたい。
良いお店たくさんご存知で、すごいです。一緒にブックハントのお散歩してみたい。古本屋さんの総合サイトは、私も同じところ使ってます。無論Amazonも(笑)でも、実店舗ブックハンターの嗅覚には敵わないかなあ。ここだけの話、PC開けると探してる本が見つかりそうな時は、ピリピリっと言うか、ドキドキっと言うか、独特の感覚があります。するとあっちこっち探し回って、たいてい激安になってるのがまとまって見つかります。皆様はいかがでしょう?
この予知?(苦笑)が、もっとお金持ちになりそうなことに繋がればいいのに、いまのところ、そんなことは起きなさそうです。本が見つかる方が嬉しいのですから、それも仕方ないかしら。ふふふ、ああ、楽しかった! -
読書日記って、言ってしまえばこのブクログそのものですよね。
著者と同じようなことを自分もやっているのだという勝手な幸福感。
レビューや感想もそれでいいのだというような記録も救われる。 -
読んでみたい本が増えた。
気になっていた本や作家さんが扱われているページはとりわけ興味深くて、自分以外の人がどういう風に感じて読んでいるのかを少しだけ掴むことが出来た。
私は、確かに強く感じることがあっても言葉には出来ないから、こうして言葉に変換している人に憧れるし、自分に近い感覚の文に出会うと代弁されているような気がしてコレコレ!っと納得する。
いいね と、フォローにお応え頂き、ありがとうございます!穂村弘さんは、私も、とても好きです。『これから泳ぎにいきませんか』と...
いいね と、フォローにお応え頂き、ありがとうございます!穂村弘さんは、私も、とても好きです。『これから泳ぎにいきませんか』という書評集も、面白かったです。
どうぞよろしくお願いいたします (*^^*)
『これから泳ぎに行きませんか』はチェックしてませんでした!お知ら...
『これから泳ぎに行きませんか』はチェックしてませんでした!お知らせありがとうございます♪
これからどうぞよろしくお願いします♪