非色 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
4.36
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本棚登録 : 1487
感想 : 113
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309417813

感想・レビュー・書評

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  • 有吉佐和子文学忌 1931.1.20〜1984.8.30
    有吉忌 佐和子忌

    “色に非ず” 1964年発表の作品です。
    「戦争花嫁」と呼ばれた日本人女性の視点から、日本での差別、アメリカへ渡ってからの当時の人種差別と偏見を問いながら戸惑いながら、自分の生き方を探し求めていく骨太の小説です。

    敗戦後の日本、東京。家族を養う為米兵相手の店で多くの日本人女性が働いていました。主人公の笑子もそのひとりで、そこで積極的にアプローチしてきた米兵と結婚します。彼の肌の色は黒かったのですが、優しく当時としては、恵まれた生活でした。
    彼がアメリカに帰国して、娘と共に後を追ってニューヨークに渡ります。そこからハーレムでの極貧生活が始まります。
    それでも笑子は仕事を探して、生活を支え続けます。そこで知る肌の色だけでない差別。彼女は人種差別というより、階級差別として捉えていきます。日本の 生まれが違う、育ちが違うというところです。
    有吉さんの小説に描く女性は自分の意思をしっかりと持っていて、非色に出てくる女性たちも 差別に苦しみながらも生きていきます。当時、アメリカでの人種差別を臆する事なく小説にされた有吉さんも骨太です。

    • 土瓶さん
      ん~。
      これでちょうど一千レビューだったのかな。
      気づかずにスマンm(_ _)m
      ん~。
      これでちょうど一千レビューだったのかな。
      気づかずにスマンm(_ _)m
      2023/09/03
  • 読後、重たいと感じること、それが、今の自分なのか。差別や偏見は、何から生まれるのだろう。その人を思うことは、知ることであり、そもそも同じ人だという根底がある。

  • ロッキーさんの本棚から有吉佐和子を読みたくて。終戦直後の東京で出会った黒人の夫が住むニューヨークに幼子と移住した笑子。逞しそうでいて情けや弱さで揺らぐ彼女に惹かれた。人種差別の本質を問う傑作だと思う。斎藤美奈子解説。

    • 111108さん
      『挿絵の女』目当てで図書館で探しましたが無くて仕方なく代わりにこちらを‥と思ったら、こんなにすごい話になるとは。そして驚くほど読みやすかった...
      『挿絵の女』目当てで図書館で探しましたが無くて仕方なく代わりにこちらを‥と思ったら、こんなにすごい話になるとは。そして驚くほど読みやすかった!
      正義感強くバリバリ対抗する主人公の成功物語だったら嫌だなぁと思って読み始めましたが、気持ち揺れながらも生きていくために行動起こすところが何とも爽快で、「笑子、いいね!」と何度も言ってやりたくなりました笑
      それと差別とは?を実直に探ろうとする姿は、認め合うと言いながらその実何も理解しようとしない今の世の中に必要だなと、自戒も込めて思いました。
      有吉佐和子さんはまりそう!ありがとうございます♪
      2023/11/27
    • ロッキーさん
      『挿絵の女』も興味持ってくださり、ありがとうございます!『非色』にたどり着いたのは運命ですね!
      そう、有吉さんほんとに驚くほど読みやすいです...
      『挿絵の女』も興味持ってくださり、ありがとうございます!『非色』にたどり着いたのは運命ですね!
      そう、有吉さんほんとに驚くほど読みやすいですよね〜!
      気持ち揺れながらも生きていくために行動起こす笑子が好きになってしまうの、すっごく同感です。
      差別も、おっしゃる通り今の世の中でも実際は解消されていなくて、今でも考えさせられますよね…。
      いろいろ言いつつも、わたしも有吉さん全然コンプリートできてるわけじゃないので、一緒に有吉佐和子読書ライフ楽しんでいきましょう〜!
      2023/11/29
    • 111108さん
      ありがとうございます!
      またロッキーさんに教えてもらいながら、有吉佐和子さん開拓していきたいです〜
      よろしくお願いします♪
      ありがとうございます!
      またロッキーさんに教えてもらいながら、有吉佐和子さん開拓していきたいです〜
      よろしくお願いします♪
      2023/11/29
  • これは、1967年に刊行されてから新たに再文庫化となった…とあるが、今読んでも充分に沁み込んでくる内容であった。

    1945年の敗戦後、住まいや家族を奪われ、絶望的な食糧難のなかで、それでも生きていくためにどんなところであれ、働いて生き抜いていた。

    林笑子は、米軍相手のキャバレーで働きそこで知り合ったトーマスと結婚。
    いわゆる戦争花嫁と言われる1人である。
    夫の帰国で、一時は離婚を決意するものの一人娘の肌の色で母や妹だけに及ばず日本社会が排斥するのを感じて、夫の国へ行く。

    後半は、ニューヨークでの過酷な現実。
    住まいとなったのは、ハーレムの半地下安アパート。
    夫の給料は、安くて日々の生活もカツカツながら妊娠、そして自分も働くがまた妊娠。妊娠。
    次々に生まれる子どもは、大きな負担となるが日本と違ってアメリカは長い間、妊娠中絶は非合法。
    このような中でも笑子は日本に帰ることなく、逞しく子を生んでは仕事をして生きている。

    この中では、黒人のことを二グロと呼び差別しているように思えるが、実際子どもの頃に聞いたことのあることばであり、性を売ってたことをパンパンと呼んでいたことも思い出した。

    当時のことをそのままに書いてあるが、黒人差別がどんなものであるかも〈仕方がないのよ。色つきは教養がなくて、凶暴で、不正直でも、不潔で、手のつけられない人たちなんだから〉
    この言葉でよくわかるが、人種差別という重いテーマであるにも関わらずに親しみすら感じて、面白味すら感じ、愛着すらわいてくるのは凄い小説である。
    決して古く思わないのである。

  • 読書会 課題図書

    ずっと昔、読んで衝撃を受けたことを思いだした
    あの時よりも「非色」の意味が胸に迫る
    復刊されてよかった
    今も新しい

    ニグロに対する日本でのそしてアメリカでの差別
    しかもまだ下層とされる人々がうごめいている
    「戦争花嫁」と言われた女性を描くことによって
    まざまざと映し出す現実
    笑子の前に進む力に救いを求めて読み進める
    そして、ラストの決意

    文壇では「大衆的」だとあまり評価されなかった有吉佐和子 すごい作家だと改めて思う

    世界で日本で 私の中に
    この差別
    一体何ものなんだろう

    カバーのイラストの赤い心臓が胸をつく

    ≪ 色でない 差別の現実 それはなぜ ≫

  • 差別とは何かを掘り起こした一冊。

    ものすごく惹きこまれながらも絶えず鉛のようなものが心に沈殿していく時間だった。

    戦争花嫁として、アメリカの黒人兵と結婚した主人公の笑子。

    その笑子の目線から、差別なる土壌にスコップを立て少しずつ土を掘り起こし、差別の根なるものを探していくよう。

    人種のるつぼアメリカで目の当たりにした肌の色だけで括れない現実。

    弱さも強さもズルさも…笑子の感情のるつぼに共に揺さぶられ続けた。

    そして笑子が辿り着いた差別の根という答えにスッと背中に冷たい風が吹いた。

    心から思う。この本を手にして良かった。

  • 痺れた~!2021年の私の一番の作品となった。

    「人種差別」や「偏見」を軸に人間の本質を描く秀逸な作品。
    善悪を極力排して、ポリコレから縁遠い乾いた筆致で描く「人間像」に触れ有吉さんに脱帽。

    1967年初出のこの作品は有吉さんが64年当時留学先で見て感じた米国、さらには日本人の「異質」なものへの関わりの本質を価値評価抜きに鋭くえぐり出している。

    時は戦後の混乱期。進駐軍の米兵と日本人女性の間に数多くの子どもたちが生まれた。

    ある女性は子どもを携えて、帰国した米兵を追って渡米。またある女性は敵国の兵士との「あいの子(混血児の意)」と疎まれた赤子を海外に養子に出した。堕胎も特別ではなかった。

    引き取り手がなく、母親が育てることを望まなかったのは黒人との混血の男の子たち。親の愛も存在も知らずまとめて施設で育ったとつい先日ETV特集で観たばかり。大和市南林間にある「ボーイズ・タウン」の存在を知らなかった。

    本作は戦後の貧困のなかで物質的な豊かさに惹かれ、優しさを示してくれた黒人兵との生活を選び、赤子を抱いて渡米した女性笑子が主人公。

    渡米して知る黒人たちの貧民窟。公民権運動を経て貧しく学のない黒人たちが兵士に仲間入りすることを認められたという皮肉な流れ。兵士としては豊かな生活をできても、帰国した黒人の貧しさは変わらない。

    無学で無教養、豊かさから程遠い当時の黒人たちの生活のなかで日本人女性が貧困と人種や階層の違いという現実に次々直面していく。

    「差別はいけない。多様性を認めろ。」
    「正義」が今も声高に叫ばれる。
    もちろんその通りなのは重々承知。

    ジョージ・フロイドさんの事件が引き金になり黒人差別への反対運動が世界のうねりになったのは少し前。
    コロナ感染症でアンチアジアの暴力も勃発する昨今。

    有吉さんが描いた時代から60年近く経ても、変わらない現実。

    「ならぬものはならぬ」は大原則。

    だがなぜ人は人を見下すのか。差別するのか。
    黒人への差別。黒人以下と位置付けられるプエルトリカン、日本人にはわかりづらい「白人」のなかでのイタリアン、アイリッシュ、ジューイッシュの位置づけ。

    さらにはアフリカの上流階層の黒人が米国に奴隷として連れてこられた黒人を蔑視する現実に日本人妻が気づき、もはや差別の問題が「肌の色」ではないことに次第に開眼していく。人種問題と階級闘争。

    30年ほど前のルワンダ大虐殺も肌の色が同じだが、民族間の想像を越える争いだと記憶に新しい。

    表題の「非色」の奥深さ。
    そして昨年2020年の再文庫を決定した河出書房さんの心意気に感謝。

    当時の有吉さんの表現を変えず、さらには装丁には「色の魔術師」と評されるアンリ・マティスを選ぶ心憎さ。
    色と色。文芸と絵画で表現。

    見下された人は自分が侮蔑できる相手を探す。

    海外で何度か経験した「日本人」としての私への差別や偏見のシーンが幾度となく蘇った。
    それは西欧だけではなく、アジアでも同様だった。
    そして私の中にも同じような芽は無意識下でも確実にある。

    言語が指し示すものの前提条件を互いに確認せず、ふわふわとしたテキストメッセージが横行する「寛容な」日本。
    精神論を唱え情緒に重きを置き、「人間はみな同じ」と信じてやまない甘美な日本の今の社会観が怖いなあ。

    古臭さ無縁の一流に触れた僥倖の1冊でした。

  • 敗戦直後の日本、米兵トムと結婚し娘メアリー を産んだ笑子は、黒い我が子に向けられる冷ややかな視線に苦しみ、幸せな暮らしを夢見て夫の元へ渡米する。ところが、待っていたのは、もっと激しい人種差別と貧しいハーレムでの半地下生活だった。

    逆境の中、気丈で逞しく生きる笑子の姿が潔い。時々、逆上し、突飛ない行動に出るのも気持ちいい。
    船で乗り合わせ渡米した笑子と同じ境遇の竹子、志摩子、麗子。笑子を軸に4人の対比が描かれる。夫の人種によって住む場所が決められ、ハーレムよりもさらに下の過酷な暮らしがある。

    同じ黒人でも、アフリカの国から派遣された黒人は優秀で母国に戻れば要職が約束されており、ハーレムに住む黒人を蔑む。
    白人は白人でもプエルトリコ人やアイルランド人、ユダヤ人は、蔑視される。
    同じ肌の色でも、金持ちは貧乏人を蔑み、頭のいい者は悪い人間を馬鹿にし、家系の良い者は成り上がりを罵倒する。自分より何らかの形で下の者を設定し、自分は優れていると思いたい。
    人種差別は、色ではない。色に非らず。階級闘争である。

    本作は有吉佐和子氏が留学経験から1964年に33歳で書いた作品との事。差別を通して人間の嫌な部分を見事に暴き出している。
    その若さでここまでアメリカの暗部に迫るとは凄い。
    でも過去のアメリカの話ではなく、現代の日本でも通じ、そして、自分の心の中にもあるなぁ、と気づかされ、戒められた。

    娘メアリーの賢明さに希望を抱く。彼女を強くしているのは、学びである。色や階級で決まるのではなく、意志と努力で人生を切り開く事ができるそんな社会でありますようにと、願わずにはいられない。

  • 有吉佐和子さんの本は初めて読んだけど、テンポ感が良くて、リアルで面白かった。
    50年以上前の話で時代も感じるけど、人が人を差別してしまう意識は今でも変わっていない事は分かる。
    差別されているもの同士でもお互いを差別し、罵り合う。
    人種同士の差別もだけど、この時代は今よりももっと女性の地位も低い。女性蔑視も描かれている。
    誰と結婚したかで女性の立場が変わってくる。
    この時代の女性が置かれている状況を読むのは辛かったけど、主人公の逞しさで最後まで読めた。

  • すっかり忘れていた。

    ラストのエンパイア・ステイト・ビルに思いを馳せる場面も、ストーリーの詳細も。

    高校生のときは、主人公、笑子の逞しさ、強かさから「生命力」を分けてもらっていた。

    今の僕に、いちばん訴えかけてくるのは、

    「(肌の)色のためではない」

    という言葉。

    高校時代、繰り返し読んでも伝わってこなかった『非色』という題名の真意が、やっと胸にストンと落ちた気がする。

    「差別」は自分の置かれた環境や相手との関係性によって変化するし、労わりや優しさの言葉の裏側に隠れていることもある。

    他者を差別することで、自分の存在価値を見出していることもある。

    人種差別というのを小説の中心に据えながら、有吉佐和子さんが伝えたかったことは、その奥に内在している「意識」であるような気がしてならない。

    改めて、今の僕も、「この小説は本当に好きだなぁ」と実感するが、それは、

    笑子と言う1人の人間の内面の変化、家族や周りの人の言動・反応を通して、笑子自身の初めての気づかされたこと。

    その心理描写が実に率直で自然であり、僕自身にも当てはまる、と自覚できること。

    この小説を今、読み返すことが出来て、本当に良かったと思っている。

    • はまだかよこさん
      はじめまして
      りまのさんの本棚は素敵ですよね。
      お邪魔させていただいています。
      私にまでコメントありがとうございます。
      絵本、小説、...
      はじめまして
      りまのさんの本棚は素敵ですよね。
      お邪魔させていただいています。
      私にまでコメントありがとうございます。
      絵本、小説、エッセイと気の向くままの読書ですが大切な時間です。
      神戸に住む婆さんですがよろしくお願いいたします。
      2022/02/20
    • shukawabestさん
      shukawabestです。
      いいね、とコメントありがとうございます。
      りまのさんの感想を昨日ずっと読んでました。私が全く知らない、詩や絵本...
      shukawabestです。
      いいね、とコメントありがとうございます。
      りまのさんの感想を昨日ずっと読んでました。私が全く知らない、詩や絵本に対する思いがじわじわ伝わってきました。
      まどみちおさん、昨日までお名前しか存じ上げませんでした。
      私自身は詩や絵本、絵についてあまり積極的に触れてきたことがなかったので、今後少しずつ触れていければいいなと感じています。
      今回はありがとうございました。
      また、よろしくお願いいたします。
      2022/02/20
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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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