- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309416328
感想・レビュー・書評
-
この本を読んでいろんなフレーズが頭に浮かんだ。ネットでの誹謗中傷、いじめ、ヘイトスピーチ、信仰宗教、集団自殺、格差社会、引きこもりなど。現代社会の問題を抽出して描き、途中まで面白く読んだが、最後の方であまりにうまいこと終わらせた感じが残念だった。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
寂れゆく商店街に生じた小さな波紋、その余波は町に思い掛けぬ好機を齎すが、町の自警団【未来系】は次第に暴走し始める―。序盤は町おこし小説さながらだが、中盤以降は町の権力者による選民思想が展開されていく。主人公・霧生やうらぶれた若者達は洗脳され、意義ある死に魅入られるが、隣人・湯北氏はそこに一石を投じる。目の前の苦しみから逃れる為の死よりも、長く険しい生を選ぶ勇気が蔓延する【呪い】に抗う力を産み出す。多数派に煽動されることなく、少数派の自分らしさを貫く心は未来を創る礎となる。著者の強いメッセージを感じる作品。
-
寂れゆく商店街に現れた若きリーダー図領。商店街を再建すべく、廃業店舗には若い働き手を斡旋、独自の融資制度など店舗側に立った様々な施策を実行。頭脳明晰、巧みな弁舌、スマートな容姿、カリスマ性をもって、たちまちにして人心を掌握、一躍商店街の実力者となる。
ある日図領が経営する飲食店に、一人の客が来店。不当な扱いを受けたとトラブルに。怒りは収まらずネットに投稿するや炎上。それは図領の店にとどまらず商店街にも波及。来街者は激減。図領の辣腕ぶりをよく思わないアンチ図領の幹部らは好機と見て反転攻勢に。窮地に陥った図領はトラブった客に対し、ネット上で極めて冷静かつ理性さを保った反論を展開。それが功を奏し「現代のサムライ」ともてはやされ、彼の回りに自然発生的に賛同者が集い始め、商店街のシンパとなり、商店街の治安を守ろうと自警団結成に至るまで発展。
この小説は、突然トラブルに見舞われた商店街。解決に向け奮闘する若きリーダー。彼の働きぶりを見てひとりふたりと賛同者が加わり、バラバラ状態だった商店街は次第に団結し、トラブルを解決へと導く。その結果、商店街は活気を取り戻し、かつての賑わいのある商店街に見事復活…という大団円を迎える。
そんな明朗かつ安穏とした話ではない。ノアールな世界を主戦場とする星野智幸がそもそもそんな安穏な小説を描くわけはなく、客とのトラブルに対峙するころから話は大きく転調する。
著者は「商店街」という小さなコミュニティを舞台に現代の日本が醸す「いびつな環境」-我こそが正義と自認する者によるヘイトスピーチ・ネットいじめ・リア充と格差・改革に付いて来れない人を容赦なく排斥-の象徴の場として捉え、中盤から話は一気に加速度を増し、過激化と混沌が交錯する。
商店街再建のリーダーが強権になり、ファシズムに昇華。話の視点は、リーダーを崇める非リア充の自警団と改革に逡巡し抗い懊悩するサンドイッチ店店主に移る。はたして図領は結局何をしたかったのか?その目的が不明確。またリーダーがファシズム化に導くほどの教祖には到底感じられず、ただただ消化不良に終わったのが残念の一言。長い間積読だったのが、文庫本化で再購入し一気読みしてしまったが、読後感としては、どっ散らかしたプロットを整理回収してほしかったな。
-
星野智幸『呪文』河出文庫。
この作家の作品を読むのは『夜は終わらない』に次いで2作目。やはりイマイチというか、モヤモヤした感じが残る読後感だった。
寂れいく松保商店街を舞台にした奇妙な後味の悪い物語。 -
人身御供のようにポツリポツリと店舗が消えてゆく。そんな寂れた商店街に活気を取り戻すために、さて何をしますか?
クレーマー退治から、集団自決へ。
というと、その飛躍に「は?」となるはず。
キッカケは、一軒の居酒屋に寄せられた、動画付きの激しいクレームだった。
情報は瞬く間に広がり、商店街は更に閑散とするのだが、そこで店主は毅然とした対応を取る。
経緯を説明した上で、店側にもダメなものはダメというポリシーがあって良いのではないかと説く。
店側の主張に世論は逆転し、商店街はかつて以上の賑わいを得る。
そして、店主を中心に商店街自衛団を結成。
店と客の選別が始まるのであった……。
とまあ、あらすじはこんな所で。
中盤からの、「未来系」暴走から話は崩れ始める。
一つのコミュニティが、「正しさ」を身に纏うと、アッサリと暴徒と化すのかな、と思った。
ネットにおける罵詈雑言の数々だって、憂さ晴らしと思っている人はまだ「マシ」かもね。
自分のコメントこそが正義で、その正義は何らかの形を持って体現されなければならない、と本気で思っている人はきっと沢山いる。
自決をして、周りに覚醒を。
私には、やっぱりこの流れが、日本にも実際にあったこの流れが、イマイチよく分からない。
けれど、死を賭して訴えることには、相応の重みがあることも、否めない。
誰も居なくなった商店街は、どこに向かうんだろう。