罪深き緑の夏 (河出文庫 は 24-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 354
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416274

作品紹介・あらすじ

“蔦屋敷"に住む兄妹には、誰も知らない秘密があった――12年前に出会った忘れえぬ少女と再会したとき、美しい惨劇の幕があがる。

感想・レビュー・書評

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  • 服部まゆみさんらしいゴシックミステリ
    モデルが澁澤龍彦らしい美貌と知性の画家と醜く卑下する異母弟
    倒錯する元華族の兄と妹もまた美貌
    熱海の古めかしい西洋館に住んでいる
    随所に絵画とジャズがちりばめられている
    絵の才能を信じられない異母弟が館の塔にフレスコ画をかく場面が秀逸だった

  • 世界観は独特でどっぷりハマれるので、
    とても良かったけど、結局なんだかよくわからなかった。
    主人公も兄の太郎も道化だったってことなのかな。

  • とにかく世界観が好みだった…耽美な世界。

    よくよく思い返すと、あれ?あの件は結局?
    と若干中途半端に終わっている事もあるが、
    そんな事はもうどうでも良いと
    思ってしまう読了感だった。

    夏の山奥の蔦屋敷。
    むせ返るような緑の匂いが漂ってきそうだった。

  • 『この闇と光』を読んでから久しい、服部まゆみさんの作品を読みました。やはり良いです。耽美的な、まさしく伝説的なゴシック・ミステリでしょう。私の貧弱な語彙力では、この小説の美しさを書き残すことは出来ません…。それでも頑張って、本作の魅力を書き留めておきましよう……。
    本作では、美を求める人物たちが多く登場します。主人公の淳を初め、彼の父、兄、友人の山野など、画家である彼らは、それぞれの美の世界を切り拓くいています。また、澁澤龍彦がモデルになっている、淳の言葉で言うなら「ルシファーのような」鷹原龍由こと鷹原翔は、文壇の世界で唯美的思想を貫く永遠のディレッタントとして登場しています。そこに、百合姫と呼ばれる百合や、由里香といったあえかな少女たちが加わり、熱海にある静謐で荘厳なゴシック城が、ますますこの世界観を暗くも美しく造形しています。さらに、物語を読み進めるにつれて明らかになっていく真実の数々は、舞台が現代とはいえ、ゴシックロマンを読んでいるかのような重厚な魅力をも与え、読後感もひとしお素晴らしいものです…!!
    とにかく、造形から内容まで私好みなのです。まゆみさんが銅版画家だということもあるのでしょうが、お互いの美を研ぎ澄ましていく感じもまさしく耽美的ですね。そもそもこの本自体が一種の絵画なのではないかと思うくらい、緻密で瀟洒で美麗で、そしてうっとりするほど残酷でもあるのです。

  • 雰囲気が最高
    ラストに向けてどんどん妖しくなっていく
    美しくて儚い世界……
    最後のほうで登場人物たちの本心をある程度知れた
    この状態でもう1回最初から読み直したい

    何もかもを種明かししてくれてる訳じゃないから想像の幅も広げ放題
    舞台設定から絶対好きなやつだって分かってたので期待通りです…!

  • 哀しいなあ。容姿や絵の才能、それらは勝っていても、愛に飢えてたんだなあ。
    絵の才能が父に認められるようになりつつある弟をみて、とてつもない焦燥にかられたんだろう。とても哀しい。

  • 「この闇と光」がめちゃくちゃ好みだったので買い集めてた本。ようやく読破。
    読み始めればあっという間。これも好きな世界観だった。
    決して大声で奨める類の本ではない。好きな人たちがこっそり読み継いで行けばいいような、独特の背徳と耽美の世界。

    「この闇と光」も手探りで物語の構造を探っていくような話だったけど、これもまた森を彷徨うように世界観に翻弄される。
    この世界が好みの方なら謎は予想できる範囲だが、そんなことよりこの幻想にいつまでも浸っていたくなる。懐かしい妖しさが好きだ。

  • 『この闇と光』『一八八八 切り裂きジャック』と角川が順調に復刻してくれてた服部まゆみ、しかしそこで止まってしまったのでもう出ないのかと思っていたら1988年のデビューから2作目がまさかの河出から復刊。このまま河出から他のもいろいろ復刊してくれると嬉しいな。

    とか言いつつ、実は本書自体は期待が大きすぎたので気持ちが空振り、出来としては正直イマイチだった印象。ミステリーではあるけれど、謎解きの部分はさほど重要視されておらず、明確な探偵役がいて最後に「あの件はああで、この件はこうで、」という「おさらい」をしてくれるタイプの作品ではなく、まあまあ、察してくださいね、で終わってしまうのでちょっとモヤモヤ。

    つまりトリックの類ではなく、動機、犯人の心理のほうが重要なわけだけれど、そもそもその犯人たち(連続しているように見える事件の犯人はそれぞれ別)の心理を描かれていないのでやはり読者はそれも「察する」しかない。こちらの想像力がためされているのかもしれないけど、正直それは「ずるい」と思ってしまった。まあこういうのは書き込みすぎればそれで犯人が事前にわかってしまうし匙加減が難しいのだろうとは思うけれど。

    事件の発端は12年前の夏。主人公である淳の母親は、有名画家・山崎四郎の愛人。熱海の別荘で療養中の正妻が危篤になり、淳と母はその別荘を訪れる。そこには5歳年上の正妻の息子、淳にとっては腹違いの兄にあたる太郎がいるが、当然太郎は淳に冷たい。太郎とその友人・山野は、別荘の近くにある通称「蔦屋敷」に住む美少女・百合に夢中で、会いに通っていたが、淳は一人で蔦屋敷をこっそり訪れ偶然百合と遭遇、不思議なひとときを共に過ごし彼もまた百合に夢中になるが、その日偶然にも百合の祖母が死去した現場に居合わせた上、淳は毒草にあたって入院してしまう。父の正妻も亡くなったので淳の母は正式な後妻に。

    12年後、画家としてすでに成功している兄の太郎と裏腹に、淳のほうはパッとしない。同じくパッとしない山野と、太郎のおこぼれで順次個展を開けることになるが、淳の展示搬入の夜に画廊が火事になり、淳の作品はすべて焼失、画廊のオーナーが亡くなってしまう。その傷も癒えないうちから太郎が婚約者である百合とドライブ中に事故、百合は下半身不随となり、さらに太郎のアトリエにあった作品の半数が何者かに硝酸で台無しにされ、その上同日、彼らの父の絵画教室の生徒である洋ちゃんという子供が行方不明に。どれひとつ解決しないまま次々起こる不幸、そんな中で淳は百合の兄である作家・鷹原翔の依頼で、彼の娘・由里香のために蔦屋敷の塔の部屋にフラスコ画と百合の肖像画を描くことになるが・・・。

    読みどころはあくまで耽美な世界観と美しい文章。しかし正直、無駄な登場人物と無駄なエピソードが多くて煩雑。外国人家庭教師とか後だしのキャラクターもあるし、いろいろと説明不足と感じた。そもそもの元凶は、愛人と子供作ってさらにその二人を正妻なきあとの家庭に当然のように迎え入れた父親だし、この父親の、そもそも正妻以前の恋人のエピソード、それを知る蔦屋敷の使用人との関係など、こちらは蛇足と感じた。後妻になった淳の母親も何を考えてるのかよくわからず、前妻の子である太郎のことを「私の子供なのに」等思わせぶりな発言があって、作中ではっきり「腹違いの兄弟」と言葉で書かれていなかったこともモヤモヤが残る。百合の呼ぶ「兄」と淳の呼ぶ「兄」が会話の中で混同するのも、紛らわしく、そもそも12年前の回想で百合の言う「お兄様」が誰の兄であるか、あえてミスリードさせるために翔をそこで登場させていないなどの計算も透けて見えてしまって。

    ゆえに鷹原翔の出現もやや唐突に感じたし、フランス文学の翻訳者で猥褻裁判、ジルドレイの本を書く耽美主義な彼(※モデルはやっぱり澁澤龍彦)の悪魔的な魅力が、太郎という中途半端な美形(しかも屈折している)の存在で、どちらも個性をつぶし合ってしまっている気がした。由里香が誰の娘であるかも、旅行中の出産エピソードだけで読者にはすぐにわかってしまう。太郎の引き立て役としか思えない山野は磊落を装っていてもメンタルよわよわだし、その彼女の元子はサバサバ系に見せかけて粘着でどちらも苦手。太郎がなぜそこまで蔦屋敷に執着したのかもわからない。淳の外見コンプレックスも自己申告だしなあ。

    というわけで、全体的に、もっとページ数が必要なのに削ぎ落とした結果なのか、しかし全部書かれてもそれはそれで冗長なような、個人的にはあまり満足がいく内容ではなかった。

  •  結局真相はどうだったのか、わかったようなわからないような。さらっと読むには読みにくい文章だったが、蔦屋敷の雰囲気やアトリエや塔の部屋の絵の具の匂いなどを感じ取れるような文体は嫌いではない。後半からのフレスコ画製作シーンからどんどんのめり込んでいける。ミステリー部分より、童話のような耽美な世界観を楽しむ作品かな。結局洋ちゃんはどうなった?

  • おもしろかったけど私の読解力のせいか、モヤモヤが残る読後感でした。鷹原氏の話した兄の死の真相は本当だったのか?主人公には兄が嫉妬するほどの絵の才能があったのか?う〜ん。モヤる。

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

服部まゆみの作品

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